RIOの視点から&厳しい検問
『白髪』
『RIO様ぁ……ハァハァ』
『ふつくしい』
『白髪キャラフェチの自分にはたまらん』
『ファサァってなってるとこいいよね』
肉体操作で髪をアルビノカラーにすれば、元々であった黒髪と対照的な印象となり、素性を悟られにくくなるでしょう。
外見はあえて変更無しです。前髪をかきさげて目元まで覆いつつ、隙間から視界が利くようかき分けました。
テーマは『状況が許す限りの隠密行動』。そろそろテーマ決めが限界に近づいてきたような気がします。
「む。エネミーと人の反応」
《血臭探知》から異質な反応を検知しました。
「や……来ないで……」
その矢先、ひどく怯えた声色である少女の声を鼓膜に収めました。
こんな不毛な土地に来るとすれば冒険者、あるいは自殺願望でもある奇特な人でしょうか。
そして現在はもう一つ、ローレンスからの避難民が候補に挙がりますが、可能性が低いかもしれません。
ですが、レベルが一桁台と低く、こんな少女に自殺願望でもあれば達観し過ぎています。
よって、避難民の可能性が高くなりました。開始早々運が回ってきましたね。
「誰か……助けて!!」
「《魔法・闇の気弾》」
淡い桃色の髪の正体不明な女の子は今にも命を散らしそうだったため、まずは注意をこちらに引き付けるために走りつつ遠距離から魔法をぶつけました。
『助けた!?』
『牽制牽制』
『ダクボーダクボー』
『よし変形だぁ!』
次に武器の変形先は……っと、昼真っ盛りでしたね。
「せえいっ」
なので足蹴りで撃破しました。
小さい女の子の前だとしても、残酷な殺し方を辞さないのが私のやり方です。
「……まだ終わりとはいかないですね」
しかし、このブルーウルフが力尽きる寸前、遠吠えを放ってしまったがため、数匹の群れがこちらを取り囲んでいました。
まあ、昨日と異なりビーストゴーストが不在であるため、日傘をハンデにしても敗けることはありませんので。
「一匹目、終わりです」
女の子を警戒しつつ、先陣を切ったブルーウルフの心臓を踏みつぶします。
二匹、またもう一匹とこちらへ動き出したため、ここは探りを入れてみましょうか。
『あ、食われた』
『格下相手に何を……』
『近づいたらリ○厶天国みたいに反撃しろよww』
『ボーッとしたな』
いいえ、あえて腕に噛みつかせました。尻もちをついている女の子の出方を見て正体を推測するためです。
万が一冒険者だったら最悪なので。
思い返せば、こんな山中にたった一人でいるなんて普通ではありません。
パニラさんみたいに外見年齢から戦闘力を判別出来ないパターンもあり、また私が演出するピンチに対して武器を掲げたり魔法で援護する可能性を考慮して体を張りましたが、依然変わりなく面食らっているだけでした。
「ふむ、これといった特徴は無しですか」
HPも削られつつあるため、血臭の反応は信じられると判断し、すぐに狼達の首を握り潰して即死させました。
「霊体となりなさい」
何匹かとどめを刺してゆく内に、残ったブルーウルフは戦力差を察して逃走を図りましたが、目的は果たしたので追跡はしません。
『勝利』
『救出成功』
『RIO様さては正義感に目覚めた……んじゃないなこのカオだと』
『お、この木片、直前までミニミニバリケードで防いでたんだな』
……この女の子の周りに散らばっていたものは、強固な柵のようなアイテムの残骸でしたか。
気を取り直して、手始めに利用価値があるかを探ってみます。
「あなた、名前は何といいますか?」
主要NPCかどうかの確認です。
「エルマ……わたし、エルマ」
「ふむ、では親御さんはどこにいますか?」
次に家族構成についての質問をしました。
もしも、ギルドマスターの隠し子やそれに近い人間だとすれば、即刻《吸血》しますので。
しかし、口に出したくない事情でもあるのか、押し黙って涙をこぼれ落とすばかりでした。
これはもう何らかの事故で両親は存命していないのでしょうね。
「言わずとも大体把握しました。一応視聴者様の意見を仰いでみましょうか」
『血にしろ』
『あー泣かせたー』
『↑悪役な吸血鬼には褒め言葉』
『RIO様がどうしてこんなことしてるのかわかった。敵なのかそうじゃないのか悩んでるんだと思うよ〜』
『↑この視聴者はRIO様のなんなんだ定期』
『ほーん。この子何者なんか知ってる視聴者おる?』
『知らん』
『分からん』
『これまでの配信にも出てきてない』
流れる文字に両目を追わせ、素性を存じている有識者を探し続けます。
その間、嗅覚を第三の目とさせ血の臭いの変遷に努めさせました。
でしたが知っているとコメントした視聴者様は一人もいなかったため、待たせないためにも結論を出しましょう。
「良いでしょう。一緒にリートビュートの街まで行きましょう」
「街……一緒に?」
腰が抜けている状態から一向に立ち上がろうとしなかったため、片手で持ち上げて首周りにまたがらせました。
――この女の子、所謂ローレンス在住だったモブ住民NPCでしょう。
特別な地位の無い、打算的な意味でのみ使える人間です。
特に、こうした社会的地位の無いみなしごは今の私にとっては有用。
第四の街、リートビュートは大勢の避難民を収納しているとの視聴者様情報ですが、私個人で向かっても日傘だけでRIOの疑いがかかるため、人間の同行者が必要だったのです。
周知されている点の「RIOは日中は日傘を差している」という事実に、「RIOが住民NPCを引き連れているはずがない」という盲点で相殺すれば、後は私の立ち回り次第で何とでもなりましょう。
確実に成功するとは言えない、ですが極論上では確実に成功する作戦なんて存在しません。
確率がグッと上がるなら喜んで選択するまでです。
「お姉さん……誰なの……」
肩車により、傘を帽子のように被ってるような状態のエルマさんが話しかけてきました。
「さて、誰でしょうかね」
たとえ子供相手だとしても、正体はひた隠しにするつもりです。
ですが、客観視からの私がどんなイメージなのかは知っておくべきでしょう。
「もし私が、ローレンスを壊滅させた吸血鬼RIOだとしたら、あなたはどうしますか?」
「ええええっ!? おっ、お姉さんが……あの……!」
「いえ、私は群れと馴れ合わないただの一匹狼です。街までしっかり掴まってて下さいね」
とりあえずは冗談だったことにし、エネミーだらけの場所から去るため、目的地へと走りました。
▼▼▼
「お姉さんは、優しい人なの?」
「難しい質問ですが、優しい……かもしれません。自分には厳しいですがね」
相槌をうちながら、道中、この子の寂しさ紛れとなるための会話をします。
我が子を宿したことのないこの平均的女子高生に子守りの才はあまりありませんが、慣れていきましょう。
――基本的にエルマさんは大人しかったため、労せずリートビュートの目の前へとたどり着けました。
「止まれ、門に触れるな。冒険者様かどうかを確認したい」
やはり厳めしい検問が待ち構えていました。
避難民だとはいえ、日数が経過していれば取り調べ用の検問も配置されますかね。
「どうか通らせて下さい。ローレンスの事件から今日に至るまで、死と隣り合わせの極限状態で逃げ延びてきました。この子は私の妹です」
「わ、わたし妹じゃ……」
「っと、お口チャックですよ」
私の頭頂部に顎を乗せるエルマさんの口をつまみました。
『まぁた嘘八百』
『息をするように嘘をつく』
『死と隣り合わせなのは検問の人だぞ』
『RIO様は基本飲まず食わずでもいいだろ』
『姉妹設定ならせめて髪色似せろww』
嘘まみれな発言をしたせいで却って歯止めがかからなくなりそうですが、これはこれで悪くない気分でしょう。
「しかしだ、リートビュートでは現在大勢の避難民で溢れ返っている。すまぬが村行きの馬車まで待たれるよう……」
頑固ですね。
そんな妥協案認められないので、穏便な方法で人間という門を緩めましょう。
「……なんだねその手は」
彼の手を握り、ステータス欄からある物を取り出して手の中に出現させます。
「お気持ち程度ですが、ざっと100イーリスです。通らせてくれますよね」
袖の下作戦です。
はした金で解決出来るなら御の字でしょう。
「これはかたじけない。この先リートビュート南区の治安は不安定だ。くれぐれも用心するのだぞ」
思わぬ臨時収入により口元を綻ばせた検問の方は、手のひら返したような態度で門を人一人分の幅だけ開け放ちました。
RIOどうこうより、人を見定める検問がこんな職務怠慢な有り様ではどうなのかと問い詰めたくなりそうですが、好意的な解釈をするなら、街を支配する冒険者ギルドへの間接的な抵抗ですかね。
彼の祖国も、きっと属国のような状態なのでしょう。冒険者からの彼自身の扱いさえも。
「お姉さん……なんかすごい……」
「こうした交渉は、剛胆さも問われますからね」
そう振る舞えば、検問の人も警戒しているであろう吸血鬼RIOの意識から逸らさせることが出来ます。
「参りましょう。テーマもありますし、下見も兼ねて、街がどんな無法地帯となっているかを覗いてみましょう」
「なに、テーマって?」
「なんでもありません」
そう伝え、エルマさんを一旦下ろして休ませました。
今回も簡単に侵入出来たのは喜ばしいですね。100イーリス程度で入れると分かったのも収穫です。
それに、エルマさんを用済みにするにはまだ早いので、もう少し私が人間に溶け込むために利用させてもらいましょう。
街の有様はローレンスよりはマシだと思いたいですが、果たして。
街に入るだけでも一大イベント




