参り出したボス&少女の視点から
急な三人称視点が入り出す
仮想世界での昼過ぎ時にログインしました。
七つの大罪のメンバーはいずこかへと去っていたので仮拠点に戻ってみましたが、血臭反応からの眷属達の散らばりようから推測するに、拡張作業はパーフェクトですね。
主君に忠実、思いの外雑食、不眠不休でも疲労を感じず作業も継続可能と三拍子揃った眷属達には豪勢に労いたくなってしまいます。
そしてボスさんは体育座りでうずくまっていました。
「もうやだ! こいつらと狭っ苦しいとこで延々暮らすとか訳分かんねぇ!」
「ふむ、訳分からないのですか」
「ぎゃああRIO様が来てるうう!! おっ、俺はRIO様の眷属と共に日夜過ごせて誠に恐縮の至り……」
「まあ、それは良かったですね」
口ではへつらっていましたが、顔はげっそりとしているのは隠せていませんでした。
碌な食べ物を与えていなかったのが原因ですかね。餓死でやむなく眷属化だなんて笑い話なので、吸血鬼には不必要な食料調達をも今後の見通しに含めましょうか。
「ここから街まで往復するのはいささか手間と時間がかかりますね。眷属の皆様、二時の方角へと掘り進めて下さい」
「承知ィ……!」
「肉モ土モウマイ……」
「アンデッドニナリタクナイヨォ……」
この洞穴の中で方向感覚を失わない眷属達はレベルが高いですね。
出入り口を増やすほど冒険者に見つかるリスクも倍以上になりますが、その頃には第四の街蹂躪に差し掛かっているはずなので無問題です。
場所を移したら配信を開始して、すぐに第四の街『リートビュート』へと赴きましょう。
もっとも、ローレンスが焼失するまでの惨事を巻き起こしたため、避難民の振りをしても街の冒険者達の警備をくぐり抜けるのは至難の業かもしれません。
ボスさんなんて、RIOのテロ行為の片棒を担いだ大罪人として指名手配されているはずなのでそのままでは同行不可です。
……考えながら動きましょう。
□□□
「や……来ないで……」
狼の魔物は、少女を追い詰めていた。
ある吸血鬼の手によりローレンスが陥落して一日以上経ち、それまでずっと街の外に居ながらも奇跡的にも生きているこの元ローレンスの住民。
波乱万丈な逃亡生活だったが、いよいよ凄惨な形で終わりになろうとしているのだ。
――元々は父も母もいる三人家族。少女は毎日スリや物乞いの行為に手を出しながら暮らし、両親は日雇労働をしつつ、金や尊厳と引き換えに冒険者に護ってくれるよう懇願すると、それぞれ違う稼ぎ方で生活を送っていた。
ローレンス全区が火の海と化した際、少女は家族全員で街からの避難に成功し、リートビュートを目的地にして旅立った。
だが、後々恩を着せられ搾取されると懸念した両親が、冒険者達の護衛を拒否してしまったのが、事の発端と言っても過言では無いだろう。
「パパぁ! ママぁああ!!」
今の命より明日からの生活を重んじた結果、すぐに裏目に出てしまい、道中で魔物の群れに襲撃を受け、両親は抵抗虚しく食われながら死亡したのだ。
残された少女は、父の最期に放った「パパからのお願いだ! 絶対に生き延びるんだ!」の一言に押されて魔物から逃げるように走り、リートビュートから逸れたルートに入ってもなお脇目も振らず足を動かし続け、そして気づいたら鬱蒼とした森へと迷い込んでしまい、道も分からず途方に暮れるしかなかったが。
「よォ、じょーちゃんも生き残りかい?」
「おい、この子すごい怯えてるぞ」
「どっへえ。きっと大変な目に遭ったんだろうなぁ」
「そーそー、だからオレっちが街まで案内してあげるから、大船に乗った気分でいいぞ」
四人組の冒険者一行に声をかけられた。
知らない冒険者に着いていくのは危ないと毎日のように注意されていたものの、生死を分かつこの状況では、怪訝な目は向けず彼らを救い主として頼る他無かった。
「じょーちゃんの両親、どんな仕事してるん?」
「家は金持ち? エンゲル係数どなってる?」
「あれ? ひょっとしてオレら凄い人と関わってんじゃね?」
着いていく間に、身分や家族構成、様々なことについて矢継ぎ早に質問されたが、全て答えてゆく少女。
「ううん、パパもママも魔物に襲われて……それにわたしは貧民で、お金なんて無いから……」
「あっそう」
すると、冒険者一行は急にローレンス西の山脈地帯へと進路を変え、ほどほど進むと。
「わりぃ、ちょいとションベンしてぇからそこで待っててくれ」
「オレも」
「おれっちも」
「あーしも」
と口裏合わせたかのように言われるや否や、冒険者一行は全員ヒソヒソ話ながらどこかへと去り、それっきり戻って来なかった。
一目瞭然、意図して置いてきぼりにしたのだ。
助けたところで利益や恩賞は無く、そんな無一文な住民と一度でも関わったが最後、顔を覚えられ次回以降もしつこく助けを求められるため、置き去りにして魔物の餌になってもらえばマシと考えての放置である。
それなら、少女が死んだところで魔物の所為となり、冒険者のカルマ値は下がらない。むしろ、後で遺体を回収してギルドに届ければ、安否確認がとれてカルマ値が急上昇するメリットまである。
彼らとしては、実に利口な考えを閃いたのだろう。
「ここ、どこなの。冒険者さんはまだ帰ってこないの?」
得体のしれない恐怖感に狼狽えていたが、恐らく、この山には当分誰も来ない。
ただでさえ、冒険者ギルドからクエストに指定されることが滅多にない場所だ。それに、魔物が跋扈するこの場において、一介の少女に自力で山を降りろと言い放つ方が無慈悲だろう。
「わたし……もうだめなの……?」
いつしか、生きるか死ぬか以外何も考えられなくなり、そうしている内に一匹のブルーウルフに見つかってしまう。
亡き父からいざという時の護身として貰っていたアイテム『ミニミニバリケード』によりこの場は凌いだが、それも効力を失いつつあるため、長い旅の終わりまであと数分しかない。
「あ……あ……」
死の覚悟なんて出来るわけなかった。
だが、死の形は分かりやすく迫っている。
自分もブルーウルフも極度の空腹で飢えているのは同じだが、弱肉強食の世界の掟として、弱い少女は食い殺されなければならない。
「や……来ないで……」
涎の垂れる獣の牙を見るだけで、自分の末路が想像ついてしまう。
一人ぼっちで死ぬにしても、父と母みたいに痛みに狂い悶えながらは嫌だ。
受け入れられなかった。
諦められなかった。
だから、渾身の叫びが口に出た。
「誰か……助けて!!」
「《魔法・闇の気弾》」
人? の声。
同時に、少女の真横に黒く蠢く球が走る。
その魔法はブルーウルフの鼻先に命中し、今に自分を食い殺そうとしていた死神の狙いが逸れたのだ。
「せえいっ」
ブルーウルフはすぐさま自分に闇魔法をぶつけた者へと眼を向けたものの、その時には足蹴り一つで顔自体が潰れていた。
あまりにも無慈悲で、あまりにもあっけない。身の危険すら感じる圧倒的な強さは、まさか冒険者なのだろうか。
「……まだ終わりとはいかないですね」
透き通るような白髪の女性は、突如集結した狼の群れを前にしても日傘を差していた。
そして少女を蚊帳の外にした上で交戦開始となったが、戦いぶりはまるで普通ではなかった。
「一匹目、終わりです」
飛びかかった狼を躱しながら、胴体で急所となる部分目がけて踏みつぶす。
こんな細身のどこに尋常ならざる脚力があるのか、不可思議であった。
「ふむ、これといった特徴は無しですか」
次には、仕向けるかのように自分の体に噛みつかせ、至近距離となった敵の首を掴み、握力で握りつぶす。
「霊体となりなさい」
次々襲いかかる狼をいなし、蹴り、爪で抉られながら絞め殺す。
それを苦痛の声一つあげず、優雅にも日傘を閉じずに行ったのだ。
大半は倒れ、残った狼は踵を返して走り去り、追い払うことに成功した謎の女性は声をかける。
「あなた、名前は何といいますか?」
大丈夫だった? や、もう安心だよ、ではないのが不安を煽る。
しかも、回復魔法を使った形跡がないのに、いつの間にやらこの人の傷が塞がっていたのがなんとも不気味だ。
あの時冒険者に裏切られてから失意の淵にいたため、命拾いして忘れかけていた疑心暗鬼が再来していた。
「エルマ……わたし、エルマ」
それでも答えた。
この人が命を張って、魔物を撃退したのは事実だからだ。
希望を託せるに値するかは……値しなくとも、父の言葉を果たすため、生き延びられる可能性は無為にしたくなかった。
「ふむ、では親御さんはどこにいますか?」
冒険者の時と似たような質問だ。
もし正直に喋ってしまえば、この人からも置いていかれるかもしれない。
目を伏せ、嘘も言えずに無言となっていたが、その目じりには涙が溜まり、とめどなく流しているせいでバレバレである。
「言わずとも大体把握しました。一応……者様の意見を仰いでみましょうか」
女性は何故か何もない空間へと向いては何かに視点を泳がせ、暫くすると少女へと向き直って結論を言葉にした。
「良いでしょう。一緒にリートビュートの街まで行きましょう」
「街……一緒に?」
一体何を判断したのか、完全なる無の表情のまま少女を軽々と持ち上げては肩車にさせ、山の外へと歩き出したのだ。
その女性の肌は、まるで生きていないかのようにひんやり冷たかった。
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体調良くすることこそ大事
スマホ執筆だと訳わからん誤字が頻発してまう……




