陽だまりの下
百合色強いので苦手な方はスルー推奨回
入学時から、並々ならぬ手腕で優等生の地位を獲得していた恵理子。
私のような平均的な者の立場から見ると、頼りがいがあって凛々しく捉え……。もっとお近づきになりたいとの気持ちを日に日に募らせていました。
一人で自主学習に励んでいる私に何気なく話しかけてくれただけで恍惚となりそうでした。
恵理子が私以外のクラスメートに愛想を振りまいているだけで、胸に針が突き刺さったような感覚がしました。
恵理子が痴漢被害に遭っていたのを目撃した時なんて、らしくない正義感が出てしまったほどです。
犯行動機がよくあるストレスだと予想し、強く脅せば仕返しは無いと踏んでいたからこそ勇気を出せたのですがね。
「――これから一緒に通学する仲ですし、下の名前で呼び合うなんてどうでしょうか?」
「ふえええ!? 下の名前ぇ!?」
「そんなに驚きますか……。私は今すぐにでも呼びたいとうずうずしていますよ、恵理子」
「もひょぉぉ……! 戸沢さんが……恵理子って……。うん! 分かったよ莉緒!」
それをきっかけにして一歩踏み出し、恵理子と友達として仲良くなれたのは人生最だ……とにかく喜びでした。
「恵理子……恵理子……あぁ……もっと私を名前で呼んで下さい」
それでも、寝ても覚めても恵理子の存在が思考を支配していたため、このままでは平均的な学校生活に支障をきたすと悟った私は、一旦この気持ちを"恋"と片付けることにより、つかの間の平常心を取り戻しました。
▶▶▶
五時過ぎ就寝は翌朝に堪えますね。
これも、まだ私がスケジュール外の生活に適応出来てない証拠でしょう。
「ふぁあ……今日は平日なのに、欠伸するほど眠いだなんて……」
昼食の後、払いきれなかった睡眠時間のツケが眠気となって押し寄せてきたので、今は恵理子の膝に頭を乗せてもらっています。
横に向ければ恵理子が、また横に向ければ屋上の景色が、絶景です。
……あ、恵理子ってばまた脂肪が付いてますね。口には出しませんが。
「ぐへへ〜、またBWOやり過ぎちゃったんだね〜」
「ええ、現実世界でも日が差し込んでいたのは衝撃でした」
「あるあるだよ、リスナーさんに言われるまで時間忘れてプレイしちゃうなんて私もあるから」
そう恵理子の声が降ってきました。
寝不足なせいで、却って会話が滞りなく弾むのはとても良い気分ですね。
特に、こうして恵理子に身を預けているような状態こそが心地いい気分です。
「ふふ……ふふふっ……」
「ああっ! 莉緒ってばすごいニンマリしてる。そんなに膝枕気持ちよかったの?」
「い! いえそんなことはないと……思います」
「ほら、恥ずかしがって嘘ついてる。私には分かるもん、このままずっとイチャイチャしていたいな〜って莉緒の心の声が聞こえてるから」
「む、むう……」
駄目ですね。
こうも恵理子の膝枕が心地良過ぎて、腿と腿の間に顔をうずめてもっと心地よくなりたくなる衝動に駆られてしまうとは。
しかも恵理子の視点からはだだ漏れとなっているみたいだなんて、とことんたるんでますね。
やっぱり寝不足とは、人が秘めている感情を無意識にさらけ出させる悪い概念で油断なりません。
――何せ、私は恵理子のことを、包容力や頼りがいのあるあなたが……ただの友達以上に愛おしく想っていますから。
「でも授業中うつらうつらしてて辛そうだったよね。だから昼休みの間、これ被ってお昼寝してていいよ、ぐへへへへ」
不審な笑いが降り注いで来た途端、私の顔には――恵理子のブレザーが覆っていました。
「はっ! いけませんよ恵理子、今日は寒いですし、あまり薄着になるのは……」
「私は強い子だからへっちゃらだよ。莉緒だって、私のブレザー全然取ろうとしてないし、実はこうやってお昼寝したかったんじゃないの?」
「うっ……」
恵理子には隅々までお見通しなのですか。
ほのかに温もりが残るブレザーの内側、それに加えて恵理子の恵理子たる扇情的な香りが狭い空間に広がり、上から下へと顔を動かせば柔らかな膝が待ち構えているため……我慢出来なくなりそうです。
一面を恵理子に包まれたせいで、正常な思考が出来なくなり、絶え間なく鼓動が高鳴り、私という存在が溶かされている感じがして……。
「はわぁ、恵理子のいい匂いです。ずっとこのままで過ごしたいですよ……」
いけませんね……。
ここ最近、正確にはBWOを始めた日から恋慕の情がとてつもない勢いで強まっているように思えます。
思春期特有の好きと憧れが混同している現象ならば良かったことか。あの時考えなしに恋と決めつけてからは、禁欲の修行でもしてるかのような日々と変わったのです。
「莉緒がそう言ってくれるなら、いつだって一肌脱いじゃうよ! なでなでなで」
「ひゃう! そんな甘やかさないで下さいよ……恵理子ぉ……」
「ぐへへぇ〜。こんな猫ちゃんみたいな可愛い反応しちゃうと、もっと撫でたくなっちゃうよぉ〜。なでなでな〜で、なでなでな〜で」
「だ、駄目ですって……」
ブレザー越しからでもくっきりと分かる恵理子の手、幸せが過ぎます。
想い人に撫でられ、包まれる以上に幸せな時はありませんね……。
ですが、これだけでは到底満足出来ません。
大人がお酒の勢いで迫るように、眠気に任せれば言ってみることが可能でしょうか。
「あの、恵理子、私のこと……どれくらい好きでしょうか?」
うう、撫でられる手を握りながら本当に言ってしまいました……。
恥ずかしさで顔から火が噴出しそうです。
「……もっちろん大大大好きだよ〜! 莉緒は天使、私の嫁! どんなリスナーさんにも渡さないからっ!!」
「あ、ありがとうございます! そこまで断言してくれるなんて、光栄です!」
「うん! 莉緒になら言い放題できるよ! だって友達だもん」
「えっ。ええ、その言葉を聞けて安心しました」
友達ですか……そうですよね。
生徒会に人気配信者とマルチに活動する完璧超人、それが恵理子という人物なので、普段の奇行や言動とは裏腹に、線引きはしっかりしているのでしょう。
恵理子も私のことを一番だと思っている、ただし私と恵理子の一番の意味は違う、おかしい方は私なのです。
「……ねえ莉緒、BWO楽しめてる?」
極度の熟考で眠れていない私を気遣ってか、恵理子が唐突に話題提起をしました。
「はい。面白いこともありますし、嫌なことだってありますが、楽しく配信者してますよ」
こういう話題でなら、素直になって答えられますね。
所々平均から飛び抜け、所々平均よりも下回る。そんな平均的女子高生としては歪な自分でも、視聴者様からは一種のネタとして笑い、咎める者はいません。
だから配信者RIOは、自由気楽にトップを目指してプレイ出来るのです。
「嫌なことあるの!? 嫌だったら私に言ってよ!」
「いいえ、それを含めてやって良かったと思っているのです。私でも、ゲームに一喜一憂するのだと」
「そっかあ。うんうん、学校じゃ見せない本当の莉緒が見れるのは何より嬉しいし、私も幸せだよ」
本当の莉緒がみてみたい、その約束まだ覚えていたのですね。
どこにも本当なんてない、何もかも喪わせているのに……。
「ありがとうございます。恵理子の幸せが私の幸せです」
違います、これも本当ではありません。
私が真に幸せとなれるのは、恵理子に想いを伝え、添い続けられるようになる未来です。
しかし、包み隠している恋慕の情を打ち明けてしまえば、今のような最良の関係が解消されてしまうと考えるだけで……何より二度と後に戻れない現実世界なので、伝えられるわけありません。
でも、願わくば十年や二十年先になっても構わないので、いつか恵理子と結ばれる日が来れば……。
「もうこんな時間!? もうすぐ授業始まっちゃうよ!」
「のんびりしていれば間に合いません。早く教室に戻りましょう」
そう急し、マナー違反にも二人で廊下を走って行きました。
授業が始まります。
平均的女子高生として、それ以上でも以下でもなく、安穏と過ごすのみです。
その毎日に重荷や苦労は無く、もし困った事があれば恵理子や他の人に遠慮なく相談して解決へと運ぶだけです。
――私は、他人から頼られるような責任感のある立場よりも、頼りがいのある誰かと一緒にいる方が性に合っていますから。
ホンマ読んで頂きありがとうございます……あばばばば……




