ローレンス終焉の時 その8
修正されてない文章投稿しちってたみたいで慌てた……
む、今の一文、まるで戦闘開始の口上のようでしたが……。
(……どう? 強そうなオーラ出てた?)
「ええ、私が思わず構えてしまう位には」
(やったぜ、えへへ。強いって言っちゃったけど、RIO様には足元に及ばない)
別に他意はありませんでしたね。
一応《血臭探知》で確認しましたが、パニラさんの周囲には一人もいませんでした。
(実は連盟のみんながこの山にいるから、案内してもいい?)
「はい、こちらからもお願いします。ボスさんは待機して下さい」
「そ、そうすか」
次いつ会うかも不明な方々です。
今後を考えれば、真意や目的を問いただすのが得策でしょう。
何しろパニラさんが所属しているほどの連盟です。
(こっちこっち)
そう小さな後ろ姿に導かれ、道なき道やけもの道を突き進んで行きました。
▼▼▼
着いた場所は、山肌がむき出しの絶壁の下で、そこには木製の扉が描かれているポスター状の紙が貼られていました。
(入って)
「入るって、この絵の中にですか」
(そうだよ。ほら、開いた)
そう文字で返したパニラさんは、扉の絵のドアノブを回したかと思えば、直後に扉が開いて中の空間が現れました。
当然なのか、絶壁の内側を反映したかのように中は殺風景の土造りとなっており、燭台以外には明かりはありません。
「これは雨風日光まとめて凌げそうな便利グッズですね。この後一つご注文頂けませんか」
(ごめん。一つしか持ってない)
「そうでしたか、聞かなかったことにして下さい」
眷属達を日光の脅威から遠ざけるのも楽ではありませんね。
……屈んで中に入り、まず目にしたのは。
「戻ったかパニラ。君の勘の通り、RIOはこの山にいたのか?」
胡座をかいて地べたに座っているドゥルさんでした。
ちなみに私がつけた傷は完治しています。
(いたよ。バッチリ)
「そうか。RIO、外では日光が差さる中、ここまで足を運んでもらったのは有り難く思う」
そうわざわざ立ち上がって頭を下げていました。
礼儀正しく、ここまではパニラさんの上に立つような人の印象を受けましたが、私には納得していない点があります。
「それよりも、あの時は何故私の傘下にあるボスさんに精神力を抉るような術をかけたのですか? 協力をしたいとしても、その乱暴狼藉は看過出来るはずありませんが」
「ぬ……」
そう返す言葉もないように黙りこくって俯いていました。
この黙りよう、本意にあらずなのでしょうか、後ろめたい事情でもあるのかもしれませんね。
(でもRIO様だって、アムルベールじゃ最初私をデスする気満々だった)
パニラさんは前に出て、彼の弁護を始めました。
(ローレンスは大惨事、しかもRIO様にとって街中の人は全員敵、それだったらいっそハイリスクな強硬手段をしてでも、居場所を探るのは道理じゃなくはないよ)
「むむ、言ってくれますね」
(そもそも、そんな中でバッタリ会った人が「自分は味方だ」って叫んでも信じられる? ならそこのとこ端折って最初から敵同士みたいになってから本題に入る方が早いと思うよ)
「もういいパニラ、僕のために悪辣な役柄を演じるなんて見ていられない。後は自分が話す」
ドゥルさんは手でボードを制止し、はっきりとした顔つきとなって顔を上げました。
「かなり急いでいたんだ、私情なんだがな。RIOと共にギルドマスターを倒すのが我々七つの大罪の此度の目的なのだが、想定外にもRIO達の侵攻が早かったために、焦って君の怒りを買うような手を使ってしまったのだ」
……大体把握しました。
私自身も、初日で蹂躪を開始するなんて明らかに異常だとの自覚はありますから。
(このお兄さん、頭良さそうだけどせっかちで向こう見ずなのが玉にキズ)
「……ふむ、何かの強迫観念があったのですか」
「実はだ、メンバーの一人にローレンスのギルドマスターに復讐したい者がいたんだ。メーヤ、それにフロレンス嬢、もう出ても良いぞ」
手をパンパンと叩き、奥の通路から誰かを呼び出しました。
《血臭探知》によれば、一方のレベルは今ひとつ。
この山の魔物相手に力負けする程度なので、そっちは警戒しなくて良さそうです。
先に姿を現したもう一方の人物像からの反応は鬼気迫るほど強力でしたが。
「つまり、あなたが復讐を志していたのですか」
「いや、わらわはその復讐とは別ゆえ、気にせんで欲しいのじゃ。わらわはただのフロレンス伯爵令嬢の護衛でのう」
この方は金髪のツインテールで、口調に反して十代前後の相貌……、視聴者様から得た知識ではのじゃロリなのでしたっけ? の女の子でした。
消去法でメーヤさんでしょう、護衛役ならこの戦闘力の血臭反応も頷けますね。
一方のフロレンス伯爵令嬢さんとやらは間もなくすぐに現れました。
「あ、RIO様と呼んだ方が……いいかしら……?」
清楚さと気弱さが相乗した面様で、私と同い年前後の女性がもじもじとした仕草をしています。
「ご自由にどうぞ。私は吸血鬼ですが、あなたをとって食おうだなんて微塵も思っていないので、固くならなくて結構です」
「うん……」
まだ怯え混じりの表情のまま、メーヤさんの背に体を引っ込めてしまいました。
まあ、目の前に懸賞金1000万超えの吸血鬼がいればそうそう緊張は解けませんよね。
「この御方がローレンス前領主を父に持つ、フロレンス・ハルシア伯爵令嬢……だった方だ。伯爵家は没落させられ、彼女は地位を失って野に下ってしまったのだが、我々は便宜上、彼女の前ではそう呼んでいる」
そうドゥルさんが説明しましたが、この人が七つの大罪のリーダー役なのでしょうか。
「当然、プレイヤーではないため眷属化が効いてしまう。だからRIOとの協力が結べるまでは、表に出したくなかったのだ」
「そのような事情があったのですか」
「フロレンス伯爵令嬢の復讐動機に同情していたのもあり、あの時、自分がドラグニルファミリーのボスにRIOの居場所を吐かせようとしてしまったのはお詫びする。一刻も早く、彼女をギルドマスターの元に安全に辿りつけるようにしたかったのだ」
「そうだったのですね。復讐相手を私が横取りしてしまったのは申し訳ありませんでした」
「ううん、いいわ……ギルドマスターが地獄に落ちたのなら……」
頭を出して返答しましたが、本懐を果たせなかったような空気感なのは一目瞭然です。
「でも……、お父様をあんな目に遭わせたあのギルドマスターが、最期にどんな顔して死んだのかは聞きたいかなぁ」
するとこれまでずっとビクついていたフロレンスさんが、お土産話を期待するかのような雰囲気となりました。
ですが、私は所詮赤の他人です。正直に伝えましょう。
「ギルドマスターは、あなたの血族については一言も口に出さず、笑いながら焼死しました」
「そう、そうよね……」
仇の最期が報われない結果で終わったのがよほど残念だったのか、しゅんとしていました。
「責めるなら責めて構いません」
「だからいいわよ、そこまで悔やむとこじゃないわ。それにね……」
そう呟いては一拍置いた時、緊張がほぐれた面構えと変わりました。
「いつか復讐は叶うわ。だって、わたしも地獄に落ちれば、ギルドマスターに会えるもの」
フロレンスさんには、悲しんだ様子が全くありませんでした。
「ギルドマスターに刃を刺して復讐を果たせられれば良し、為損なっても良しなのよ。わたしは何千年かかっても諦めない、今後は連盟『七つの大罪』の主導者として、みんなで数えきれないほど悪いことをして、あいつが待つ地獄に落ちる資格を手に出来るように精一杯努力するだけだわ」
ご褒美が後回しになっただけとばかりに、何の躊躇いもなく言い切ったのです。
そこには、人民から悪党と蔑まれようが厭わない復讐鬼としての覚悟が垣間見えたのは、誤認識ではないでしょう。
私でも息を呑むその悪役度。そう感心している間に、ドゥルさんが「改めて紹介しよう!」と割り込むように言いました。
「自分は元エルフのドゥル! 諜報活動や斥候を専門分野としている」
二刀流の短刀を、器用に指先でクルクルと回していました。
「わらわは元鬼人族のメーヤ。護衛や殿、護ることに関しては右に出る者はおらぬと自負しておるぞい」
インベントリから煌めく銀の大盾を取り出し、突き出すような構えを取りました。
(私は元ドワーフのパニラ、闇堕ち武器職人だぜ☆)
ええと、パニラさんは空気を読めるムードメーカーですね。
「これでメンバーは全員だ。七つの大罪と名付けていながら四人しかいなければ、人員では七人に拘ることだって無い。フロレンス伯爵令嬢の意向でそう名付けられたのだ」
「素敵でしょう? みんな違ってみんな罪を背負っているわたし達に相応しいと思わないかしら」
「ええ、賛同はします」
なるほど、みんな何かしらの罪を背負っているのですか。パニラさんの例のように、悪気は無いのにも関わらず一方的に悪人にされたパターンでしょうかね。
興味は持ちました。
「協力させてくれと無理強いはもうしない。だが、ここまで我々の話に付き合ってくれて、感謝の言葉もない」
(でもRIO様、夜分遅くからこんな長い時間引き止めてごめんね。もう五時過ぎてるのに)
「五時、冗談ですよね?」
(マジ)
「す、すまなかった! 積もる話があるが、学生なら一刻も早くログアウトした方が良い!」
……私、今日の通学で倒れたりしませんよね。
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寝まくれば体調良くなる気がする……