ローレンス終焉の時 その7
戦いまくりだったしなぁ
『ローレンスお疲れ』
『めっさレベル上がったなぁ』
『滅亡した』
『コングラッチュレーション!』
『オワタ』
『ローレンスが焼け落ちる……』
『焼け落ちるとこまではRIO様の仕業じゃないのがいい味出してる』
『おいwww懸賞金1000万超えwww』
『よっし次は億超えだなww』
『称号がまた仰々しく……』
『最後までやり遂げるとは思わなかったぞ』
『有終の美を飾った場面を配信で観れたのは良いね』
『くっそww本当なら悲報なのにガッツポーズしてるよ俺ww』
コメントに見送られる中、壊れた外壁を通ってローレンスから無事に脱出出来ました。
火災は西区全土にも広まり、今も留まっている者は十中八九助からないでしょう。
水属性の魔法でもあればチャンスはありそうですが、これまで会敵した範囲ではポーションかお茶しか液体を使う冒険者がいなかったため、頼り無さそうです。
「以上をもちまして、配信を終了したいと思います。ご視聴ありがとうございました」
『乙』
『乙』
『また神回だった』
『おつ』
『ぐへへのへ〜』
『ちなみにログアウト場所はこっから西のとこがオススメだぞ』
視聴者様に別れの挨拶を伝え、眷属達の隠し場所を兼ねたログアウト地点の探索を始めます。
「全員集合です」
まずは眷属達を一箇所にまとめました。
「食ッタ、食ッタ」
「息子ニ会イタイ」
「イヤァ……死ニタク……」
眷属達の数は、総勢百以上と数えるのが億劫になるほどですね。
こんなにも数が揃えば、第四の街さえも彼らの軍勢を攻め込ませて戦争ごっこが出来そうです。
「さて、視聴者様からの情報を鵜呑みにするならば、ひたすら西へと進むべきなのですね。ボスさん、何かめぼしい情報はありますか」
「う、うーん。西つっても街や村はねぇですし、渋い魔物しかいない山脈ぐらいしかなぁ……」
「山脈ですか、向かってみましょう」
山中ならば、人目から離れて眷属達を隠せるてしょう。
山肌が木々で覆われて遠目からは視認不可能ですが、絶好の隠れ処となりうる洞穴や廃墟があれば理想ですね。
とはいえ、夜が更けてからかなりの時間が経ち、月も沈み出している頃です。
余韻に浸らせてくれませんね。フラインには動きが遅い眷属を持ち運ばせ、すぐさま自分が先導となりダッシュでの行軍を始めました。
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暗黒の世界となった山中、遠吠えだけがひたすら響き渡るのがジャングルのような密林の雰囲気を醸し出していますね。
「さあ、今一度集合です」
ほんの少し私の体に切り傷をつけるだけで、はぐれた眷属達がすぐさま血の臭いを辿り戻ってくるのは極めて重要なテクニックですね。
彼らも、主と同じく《血臭探知》を完備しているのでしょうか。
「置いてかないでくだせぇ〜!」
但しボスさんだけは生者であるため、私の姿が視認可能な範囲にいなければすぐ迷子になってしまいます。
夜の山道は方向感覚が狂いがちですからね。
「幽霊……?」
しかし、ここは《血臭探知》が全く反応しない霊体系のエネミーが多いホラースポットですね。この手の恐怖演出は、平均的女子高生には心臓に悪いかもしれません。
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エネミー名:ビーストゴーストLv46
状態:中立
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このエネミーは下半身がうねっている狼の見た目であり、死者同士である吸血鬼や眷属達にはこちらから手出ししない限りは無反応なのですが、フラインやボスさんのような生き物が近づくだけで一転して敵性エネミーとなる厄介者です。
「やっべえ! 察知されやした」
フラインは上空に逃がせば解決でも、ボスさんはそうとはいきませんでした。
「成仏しなさい」
元より戦闘は覚悟の上です。
これらは殴る蹴るといった物理技の効果は薄いですが、正体は立体映像とでも表したいのか、霊体のどこかに核のようなものが存在するため、そこを槍で穿ち抜けば簡単に即死し消滅するようです。
ですが、一体が敵性となると周辺のビーストゴーストまで一斉に敵となるのが一番厄介なポイントでしょう。
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エネミー名:ブルーウルフLv46
状態:正常
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それだけではありませんでした。
食欲を減衰させる色合いの狼も現れています。
「RIO様どうにかしてくだせぇ!」
ボスさんがどこからか仕入れていた高性能な銃で考え無しに発砲したために、今度は生きている獣達まで銃声で呼び起こしてしまったようです。
一体一体は取るに足りないエネミーでも、彼らは高AGIと俊敏な身のこなしを得手とするため、緩慢な眷属達では翻弄されるばかりです。
前向き思考になりましょう。
「切りがありませんね、私とフラインで獣達をまとめて片付けますので、そちらは手頃な隠れ処となりそうな場所を探して下さい」
「イエッサー」
この返事は何故に定着したのでしょうか。視聴者様にも定着してしまいそうですね。
それはそれでプラスになりそうです。配信者としては定着事項は多い方が良いのかもしれません。
「獣の戦い……ここで学習し、私の手札に取り入れてみましょう。フラインはサポートを担当して下さい」
【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】
魔装爪に変形させ、機械音でおびき寄せ、彼ら獣や幽霊相手にこちらも野性の獣になりきって乱闘を開始しました。
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乱闘は夜明けまで長引き、フラインは急所を裂かれて倒され、私もかなりの出血を余儀なくされましたが、そこは吸血鬼、敵の取りこぼしは無く勝利を収められました。
獣の戦闘スタイルは……今後役立つか定かではありませんね。私は吸血鬼であり、現実世界では人間なので。
「さて、ボスさんがいるのはここの洞穴ですかね」
《血臭探知》によると、崖下に多数の反応がありましたので。
「あっRIO様、とりあえずここに駆け込んだんすが、どうすかね」
出会った頃からかなり丸くなったボスさんが待っていましたが、どうやらここは洞穴の入口のようですね。
奥から眷属達のうめき声が聞こえているため、少なくともダンジョンではなさそうです。
「ふむ、外は朝日が昇っていましたし、全ての洞穴を吟味してる時間は無いので、仮拠点はここにしましょう」
「こんなとこにするんすか!? いだっ!」
ボスさんが素っ頓狂な声で飛び上がり、天井に頭をぶつけていました。
確かに眷属でぎゅうぎゅう詰めな狭さであり、ボスさんには精神的に酷でしょうが、案外眷属達とは意気投合して友達になるかもしれませんね。
「とりあえず眷属の皆様に命じます、この洞穴の壁を素手で掘り進め、崩落が起こらない程度に加減をし、ほどほどに拡張して下さい」
「ウガー、イエッサー」
「神様……RIO様……」
そう思い思いの返事をして、使命を果たすため、黙々と作業に取り掛かりました。
「す、すっげえなこのアンデッド共、俺じゃ碌に指示聞いてくんなかったのに……」
「そこが吸血鬼と人間の差です。私は暫くいなくなりますので、それまでこの洞穴で生活して頂くようお願いします」
「あっ!」
「もしも冒険者がやって来たら、眷属達を身代わりにしてでも逃走して下さい。それでは、またお会いしましょう」
また返事を聞く前にログアウトしようとしましたが、ボスさんをよく見てみると、抗議するわけではなく、何かを発見したかのような仕草をしていました。
「あいつだ! この銃はあの女から買ったんですぜ! でもなんでここまで来れたんだ?」
「む」
あの女とは、まるで人が近くに来たような言い方ですね。見られたならこの洞穴は隠れ処として使えなくなりますか。
なのでログアウトは中断し、すぐに振り向きました。
「あなたは、まさか」
(おひさ)
……なんという再開、初めて会った時と背格好の変わらないパニラさんが……ボード以外返り血を浴びた様子で佇んでいました。
返り血は滴となって地面に垂れている辺り、つい先程まで戦っていたのでしょう。
どうしてこの隠れ処を突き止められたのか、何故あんな連盟と関わっていたのか、聞きたい事は山程ありますが、最初に私の口に出たのはこの言葉でした。
「戦いが苦手なのに、よくエネミーだらけのこの場所をくぐり抜けられましたね」
質問というよりは疑問ですね。
その疑問を投げかけると、すぐにボードの文字が変わりました。
(私、戦いが苦手だけど……、とっても強いよ)
短い言葉には、いいえ短いからこそ確かな説得力を感じ取れました。
また体調ががが……