蹂躪&襲来
このゲームの世界観?
どうせ全部壊すから知識に加える必要ありません
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スキル:眷属化
説明:スキル《吸血》を受けた相手に血を分け与えてアンデッド化させ、味方NPCとして蘇る。(プレイヤーには無効)
簡易的な指示にこそ従うが、理性はなくなり人魔無差別に捕食衝動の赴くままの行動原理に変貌する。
ただし、悪意や我が強い者は理性や自我が残る場合がある。
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スキルの詳細が開示されました。
ですが全容が複雑で文字だけでは分かりかねます。
とりあえず、眷属化を受けたお二人の様子を観察してみましょう。
「ググ……ギギ……」
「血……血をくれ……」
『こいつらゾンビ化してやがる……』
『あたしの推しのラスりんがあああ!』
『ぐっろ』
『ホラゲの実況動画だったかなこれ』
『悲劇的ビフォーアフター』
苦しそうにうめき声をあげながらも、魂が冥府を彷徨っていると思われていた二人は緩慢な動きで起き上がっていました。
私が切り離した首もつながっているので蘇生の確認はこれで完了。
目はイッてしまってましたが、私に対して襲い来る様子が無さそうなので、次は命令を与えてみます。
「あなた方の成すべき使命は一つ、人間の血肉を喰らい、私に捧げなさい」
「承知しました……RIO様ァ……」
「ウギギ……いっぱい血を啜ってやる……」
これは素晴らしい。忠実な下僕がいきなり二人も私のものになりましたね。
まるで一軍の将となった気分です。
彼らはおぼつかない足取りで教会を後にしましたので、私も後に続きます。
配下達への過保護なまでの監督も主君としての使命ですよね。
おっといけません。そういえば視聴者様に一つ伝え忘れている件がありました。
「視聴者の皆様、今回のテーマはずばり『最大効率のレベリング』です。先ずは装備品の換装よりも、はじまりの街を戦場にして迅速なレベルアップを目論みます」
『フィールドじゃなくて街中でレベリングするとかナチュラルに頭おかしい』
『楽しい楽しいレベリングタイム♪』
『おうちに帰りてぇよぉ……』
『↑電車賃ねぇんかい』
『コメントでたまに冷静な奴いるのなんなの』
『ラスりんおじさんファンのワイ、意気消沈』
バラエティに富んだコメントが返ってきました。
ですが難色を示す割合が多い賛否両論なのは仕方ありません。
ならば賛の割合を少し増やしましょうか。
「私はこのゲームでは三年近くも出遅れています。頂点を奪い去るという無謀な最終目標達成のためには、手段を選ばない冷徹さが必須との見解があるのです」
『そういうものか?』
『他にマシな方法はあるはず』
『まあ焦らずゆっくりいこうや』
どうやら決定事項を押し通すような口ぶりでは丸め込みにくいみたいですね。
言い方を変えます。
「皆様。モラルや人道を犠牲にする覚悟もなく、歳月の差を瞬く間に埋めてトップランカーへと追いつけるなんて妄想、甚だ甘過ぎると思いませんか?」
『う、うーん確かに?』
『謎の説得力』
『トップランカーはログイン時間が一日20時間超えてる廃人集団だしな』
『チートしなけりゃ何してもいいのがBWOの魅力だしいっそRIOの思うがままにやろうぜ』
おお、相手に問いかける言い方にすれば許容されやすいみたいですね。
ここは現実と繋がりのない仮想世界なのですから、凡庸でしかないリアルの私と異なるナンバーワンを是が非でも目指してみたいのです。
吸血鬼に任命された時はどうなるかと幸先不安でしたが、結果的には渡りに船だったと安堵しました。
では、賭けを続けましょう。
★★★
外は日が暮れていました。
見上げてみれば、都会では拝む機会が無い満天の星が美術的です。
このBWOの世界は、現実世界の時刻における21時〜3時、9時〜15時が夜という一日が二度訪れるルーティンになっています。
一般のプレイヤーにはなんてことのない普遍な情報。
しかし日光の下では生存が不可能な吸血鬼にとっては最重要クラスの情報であると強く念頭に置かなければなりません。
「ラスターさんが! ラスターさんがおかしく……ぐほっ!」
「誰か助けてくれーっ!」
夜間に出歩いている民間人を手当たりしだいに激烈に掴みかかっては、ご馳走にありつけた痩せ犬のように咀嚼しています。
自分で命令しておいて何ですが、想像しただけでも食欲が失せますねこれは。
私もどさくさに紛れて何人かの生き血を摂取しましたが、もうレベルが十分高くなったせいかちっともレベルが上がりません。
「周辺が暗がりで幸いでした。この光景を陽の中で眺めるのは精神的に堪えるかもしれません。命のやりとりとは過激ですからね」
まあ私は平均的女子高生なので、彼らが所詮仮想の命と考えるだけでこの世界の生死が至極どうでもよくなりますが。
どうせ死んでもデスペナルティが降りかかってリスポーンする私自身の命とて例外ではありませんよ。
『あの平和なはじまりの街がRIOの手で大惨事とわ』
『これ俺ら観てても大丈夫か?』
『配信観てる誰かがRIO撃破に向かってたり……』
『フラグやめい』
そういえばこの配信行為は常に自分の現在位置を明かすに等しいのが欠点ですね。
早かれ遅かれ追っ手が来ることは想定しましょう。
さてさて、街中はもう阿鼻叫喚の地獄絵図です。
しかもウイルスのような感染力まであるらしく、眷属となったお二人が喰い殺した人間がふらりと蘇ってはまた別の人間を襲い出すバ○オハザードが形成されています。
私の《眷属化》スキルと同じ作用なのでしょう。
眷属化した皆様は元一般住民であり、一方的な殺戮用の数合わせに等しい戦力なので、もし危険に晒されたなら私が身を挺して守るしかありませんが……。
「ううむ、彼らが期待以上の働きをするおかげでやる事が無くなりますね。私は弱い者いじめは好まないので優勢に便乗するのは気が引けますし」
『露骨な人間性アピール』
『この人頭じゃ倫理観ぶっとんだこと考えてたよな』
『少なくとも常人には真似できんぜよ』
『ここまでRIOの表情が何一つ変わっていないという一番の狂気よ』
むむむ、いくら匿名のコメントでも失礼です。
狂気なんか微塵もなく、自分なりに合理に基づいてるだけなので的外れな意見ですね。
そう言いたいですが、自己評価が苦手分野の私には参考になるかもしれません。
今後も末永く付き合っていく視聴者様なのですから敏感なほどにコメントを気にしましょう。
『RIOさん後ろ後ろ』
暇過ぎて背伸びをしていたその時、コメントの一つが何か私に指示を送っているように見えました。
背後に何者かが? 視聴者様の視点を信じて振り向いた時にはもう遅く、肉薄されていたようです。
「【冒険者Cランク序列996位・スラッシャー】お前を殺す!」
「どちら様で……あ」
レザーマントを羽織った男性が長剣を振りかぶって急襲したかと思えば、緊張の糸が切れていた私はたちまち左腕が斬り落とされてしまいました。
ところで、古今東西に例を見ない奇妙な名乗りでしたが、たまたまふざけていただけなのでしょうか。
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