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ローレンス終焉の時 その4

 途中からボスさん視点が入る

『よっわ』

『よっわ』

『出オチ』

『ざぁーこ♡』

『瞬殺中の瞬殺で終わった』

『RIO様に勝とうだなんて百年早いぜベイビー』

『ま、理想ばかり高くても強さが伴わなければこんなものです』

『弱すぎて総集編じゃカットされそう』


 おや……? 大見得を切っておきながら、これだけで終わりなのですか。

 そのはず、この人はランクもBな上に下位。茶を啜る老人達のような見かけに反した強者が点在するローレンスにはあまりにも不相応な戦闘力でした。


 ……いいえそんなことは無いと信じたいです。きっとログインした時に手を焼いた自爆冒険者みたいに、倒されてもなお私を苦しめさせる切り札でもあるはずでしょう。

 そうです。あなたの悪を憎む意志の力はこんなものではないはずです。


「デスペナが終了したばかりだっていうのに、俺一人じゃ無謀だったか……!」


 そう忌まわしげに最期のセリフを言い捨て、自ら教会へと送還されてしまいました。


 一方の眷属達は、冒険者の死肉にありつけたようでご機嫌でした。


「……解せません」


 もう一度剣を振ってみても、彼の存在はここからいなくなっていると痛感するだけでした。


「どうしてあなたのような腐らない人に限って、戦う力が弱いのですか」


 悔いが残らないよう本気で立ち向かった結果がこれです。悔いと虚しさに打ちのめされたとしか感想がありません。


「力を以て否定しなければ何の意味もないのですよ。同業の冒険者や視聴者様から噛ませ犬のレッテルを貼られるだけですから。卑怯な手段でもいいので一泡吹かせる技でも放ってみて下さい」


 何度斬っても何も応じたりはしません。

 彼との戦いは既に終わってしまったからです。


 ――かねてよりエリコにも劣らぬ一方(ひとかた)ならぬ冒険者と巡り合いたく、こうしてローレンスで会敵したのは一期一会と言っても過言では無かったでしょう。

 正義の信念に妥協せず、それだけに非常に勿体ない人物でした。


「ほんぎゃああああっ!!」


 ……今の悲鳴で我に返りました。

 この声、眷属達を率いているボスさんの声でしょう。


 《血臭探知》で確認しても、眷属達特有の臭いが大勢反応した他、頭一つ抜けて高レベルの者の臭いが真っ先に感じ取れました。


「ボスさんが襲われているようですね。命じます、共に加勢に向かって下さい」


「カシコマリマシタ」


 生きた住人NPCだとしても私の手駒である以上、情けを知らない冒険者を敵にしては長くは持たないどころか一秒以内に殺害されかねません。


 由々しき事態です。爪に変形させ、風や火の粉が舞う路地を駆けて行きました。



□□□



「ねーねー、クソザコのおにーさんたち、ほんっとうにキモいからみんな死んじゃっていいよ♡」


 メンバー全員でRIOの対策会議をしている最中にRIO本人が殴り込みに来たのは自分の正気度を疑ったな。


 なんてったって、年齢や姿を好きに変えられるとの情報はあったが、ませてオシャレしたような年頃の女の子でのご登場だったんだぜ。

 クソガキがほざきそうな事口走りながら機銃持ち出しては乱射したんだから、これ夢じゃなければヤクの症状だよなぁ? 現実をすぐ認めてなきゃ俺も撃ち殺されてアンデッドの仲間入りだったがよ。


「三つ目、このやり取りは配信形式で中継されているので、すぐに拠点を変更するのを推奨します。それではまた」


「えっ、えっ!? 拠点つったって他にどこにもねぇんだが!?」


 ドラグニルファミリー断絶だけは最優先で避けるべき事項なんで渋々従った後、レジスタンス活動を丸投げしてきた時はげんなりしたね。こんな段取り合わせず適当に進行するレジスタンス活動という名の大虐殺が歴史上あるのかよと。


 つまり、どんな成果を挙げるかなんざ期待されない鉄砲玉にされたようだ。

 俺の命なんて綿毛よりも軽く見られちまってんだなぁ、RIOからも冒険者からも。


「じ……じゃあお前ら、とりあえずこっちから脱出するぞ」


 ごちゃごちゃ言っててもしょうがねぇ。

 アンデッド化して苦しみと引き換えに悩みや恨みが無くなってそうな俺の部下達を引き連れ、メンバーしか知らない非常用出口から北区の酒場まで通り抜けて行ったんだ。


「あべしゃっ!!」


「ぎゃあああああ!!」


 まず、酒場の店主や来客がまとめてアンデッド化しちまった。

 知り合いが人でなくなってく光景にビビっちまって、俺は止めることが出来なかった。


「兄貴ィ! ウチらも仲間に入れてくだせぇ!」


 冒険者がやってきませんようにと祈ってたら、次は俺の元部下が全員酒場に駆け込んで来た。

 曰く「ドラグニルファミリーのボスがRIOを擁して冒険者に反旗を翻した」だの語弊しかない噂を聞きつけたんだとか。


 事業縮小のために泣く泣く解雇したあいつら戦闘員にゃ心残りしかなかったが、こうして俺が苦境に立たされた時に馳せ参じてくれる義理堅さは――今回だけはやめて欲しかった。


「あが……あが……」


「お前らこっから逃げるんだ! おい、なんで逃げねぇ!」


「ボス。人間じゃなくなったとしても、ウチらは永遠にドラグニルファミリーのメンバーです! ぐふっ!」


「シャラップ!! 嬉し涙じゃあねえが、こんなに涙が出たのは久しぶりだ……。すげぇへこむ」


 元部下達は、食われているのになお誰一人として立ち去る奴はいなかった。ひでぇ。

 確かに「死んでも着いて行きます!」と誓わせた覚えがあるが、言葉通り盲信的に死んでアンデッドとして着いてくとかもうアホじゃねえかと……。


 おかげで(?)月が昇った頃には総勢数百人ものアンデッドが手下になってレジスタンス活動が開始したが、こいつら全然俺の指示を聞いてくれねぇ。


「ウマイウマイ」


「わたし、ずっと前からあなたをお慕いしていたのに……、あんまりよ……」


「ウマイウマイ、ニンゲンウマイ」


「やめろおおおお! 頼むみんな! どっか遠くに逃げてくれえええ!!」


 やっぱ化け物は化け物にしか操れねぇんだなぁ。


 そんでもって、俺の意に反してアンデッド共は大暴走。

 街中のありとあらゆる一般人を襲っては食らい、また襲っては食らい、おっかない冒険者相手にも退かずにかかり、ついでになんか街全体まで燃え盛り始めて罪悪感がマッハで溜まってくばかりだ。


(それじゃ、RIO様のためにがんばってね☆)


 一方の俺は、板みたいな魔道具でコミュニケーションをとるRIOの腹心と思わしき女がライフル銃を売りつけてきたんで、ついヤケになりながら有り金はたいて買ったんだが、これがすげぇのなんの。


「誰が言い始めたか、『人類最強の攻撃手段は剣でも魔法でもなく兵器』って眉唾物があるが、必ずしも眉唾じゃあねえんだな」


 ライフルのトリガーを引く度に、恐怖の象徴の固定観念を植え付けられた冒険者が呆気なく死んでくんだぜ。トホホ。


「あぁ、なんかどうでもよくなってきた。俺もう首謀者にされて懸賞金何百万とか懸けられてるんだろうなぁ……」


 一人でも多くの住民を逃がしたんで街は殆ど冒険者しかいないが、ローレンスが俺のせいで見るも無残に焼失してくのは居た堪れない気分だ……。


「ボスゥ……RIO様ァ……」


「すまねぇ先代、ドラグニルファミリーは俺の代で化け物の巣窟になっちまった」


 どうしてこうなった、夢なら俺が正気の内に醒めてくれ。


 というかRIOがいつまで経っても来ないのはなんでだ、まさかあの反則級の体質があっても冒険者に敗けたのか? それは困る、RIOが勝てない相手に俺が勝てる訳がねぇ。


「うおおおおおっ!」


 すると、雄叫びをあげながらアンデッドの群れを突っ切って行く猪みたいな男が現れていた。


 俺の方に走ってくるのは……やばくねぇかこれ。


「おいてめぇ! 冒険者だよな? 冒険者なんだよな!?」


 通名を宣言しない以上は撃てねぇ。RIOへの反抗行為になるが、冒険者じゃない奴はあんまり殺めたくないんだよぉ……。


 呵責に苛まれて殺すかの判断を躊躇している間に、そいつは目の前まで接近しつつ胸ぐらを掴んで。


「RIOはどこにいる! 言え!!」


 そんな怒声を叫んでいた。

 完全に反応が遅れた、なんかの魔法のせいか銃を握る手に力が入らなくなってやがる。いよいよ終わりが近づいてるんだなぁこれ。


「知らねぇ、つうか俺も知りたいぐらいだ……」


 嘘こいて遠ざけたかったが、こいつがまた戻ってくる間にRIOと合流しなければマジのジ・エンドなんで、いっそこいつに融通が利く良識があることを期待するしかねぇ状況だった……。


「そうか、あまり手荒な真似はしたくなかったんだが、《魔法・恐慌呼び醒す映像(ホラーヴィジョン)》」


 まずい、こいつ幻覚系の魔法で拷問する気だ! マジで居場所なんて知らないのによ!

 くっそ目ん玉見ちまった! 脱出出来ねぇ!


 視界が一寸先も分からない真っ暗へと包まれて、そして再び開けた先には。


「ほんぎゃああああっ!!」


 RIOから罰ゲームと称され、生かされず殺されず、身動きがとれないまま指から順に体を切られてゆく俺自身が悲鳴をあげていた。



□□□

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 よく寝たんで体調は良い感じ。

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