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ローレンス終焉の時 その3

 総合評価1万超えました。

 応援ありがとうございます。

『茶聖会まで来てやがったw』

『笑かしに来てるわ』

『なんのため来たんやねんww』

『つうか茶聖会ってなんやねん』

『でもメンツが全員集合したら笑えなくなるぞ』


 そういえば投げ飛ばした眷属から妙な匂いを感じ取りましたが、嗅いだ経験から解析した結果、抹茶の粉の匂いでしたね。


 この皺の化身のような外見である老人が茶葉で私の眷属を操っているのだとすれば、今頃ボスさんも眷属達の寝返りによって苦境に立たされているかもしれません。


「いくら老人相手でも、この戦場に立ち、私の眷属を支配し、あまつさえ通名を宣言したのなら容赦はしません。ただ嬲り殺すべき敵だと断定します」


 視聴者様にも分かりやすく伝わるよう死刑宣告を放ち、一秒でも早く首を掻っ切るため魔装爪形態となり猛ダッシュで接近します。


 ネクロマンチャーだのと視聴者様を冷やかしにきてるこの人は、私と対峙していながら地べたに正座したまま微動だにしていません。

 ですがこの冒険者さえ仕留められれば、眷属達も元の状態に戻るはずです。肉を切らせてでも命を断つしかありません。


「生憎ですが、恨むなら命乞い一つしない自分を恨んで下さい」


「ほほお、人に物を言う時は、自分に言うことと同じじゃと教えてやるぞえ?」


「フン、飛んで火に入る夏の虫じゃな。【Aランク序列91位・アー(チャ)ー】」


 っと、戦意旺盛な老人が一人、老獪なる老人の背後に身を隠していたようです。あの余裕ぶった態度はデコイでしたか。

 こちらの顔面を補足したクロスボウが放たれる寸前だったため、数十メートル離れながら身を捩って躱しました。


「ふぅうう……このVRMMOというのも、皆での茶会の次には楽しきじゃのう」


「なぁにを、孫の面倒みとる方がよっぽど有意義な時間じゃい」


「ファッファッ、どれも雅、それぞれ違って誇れる文化じゃよ」


 ううむ、どうして戦意を表さずニコニコと楽観的になれるのか、おかげで毒気が抜かれてしまいます。

 ……こちらが思索しても他所での戦況が悪化の一途を辿るだけなのですぐに攻め込みたいのですが、私を焦らせるための罠でも張り巡らせていると予感してなりません。


 こうも罠の予感が晴れないのは、先程のような前例が出来てしまったためです。心理誘導の要を押さえていますね。


「じゃが相手にとって不足なし。《魔法・茶弓の雨(チャローレイン)》」


 弓使いが天に向けて放つたった一本の矢。それが頂点に到達した時には、おびただしい数の矢と化けて広く展開されていました。

 遮蔽物は路上には無く、建物内には鹵獲された眷属がいるため凌ぐ術はありません。


「……矢を大量に降らせるその技。ですがこちらに矢が到達する前には掻い潜れるルートが完成できますね」


 空を仰いで確認すれば、矢の密度は言うほどではありません。これなら自分のスピードと計算を併せれば無傷攻略も難しくはないでしょう。

 大勢を低くし、呑気にお茶を啜っている老人の所まで最短ルートで駆け抜けます。


「……そろそろです」


 さあ、あと数歩で狩れるでしょう。


「ホーッホッホッホ、萎えた老体が湧き立つ若っかい娘っこがおるのーう。【Aランク序列93位・(チャ)魔道士】」


「まだ好々爺な冒険者が潜んでいましたか」


 敵戦力を低く見積もり、突出してしまったのが私の運の尽きでした。


 焦って一人を倒すあまり一人に倒されれば本末転倒です。魔法が飛んでくる前にまた下がるしかありません。


「ほれ、アー茶ー殿に手助けじゃぞい《魔法・お茶色の疑似光源(チャイニング)》」


 しかし放たれた魔法は意外でした。燃やしたり凍らせたりではなく、それ自体は目を奪われるほどの眩しい光で辺りを覆い尽くすだけでした。

 もっとも、それ自体が有害なのです。


「むむむ、HPが。末恐ろしい茶道同好会ですね」


 闇ではなく光なために暗視が効かず、一面の光に隠された矢が立ち止まりどころのこちらを貫いてゆく。

 HPの減り具合からして、推定あと六発被ダメージを食らえばデスは確実でしょう。


「これは有り難い。《魔法・茶弓の雨(チャローレイン)》」


「アー茶ー殿、張り切っておるのう。化け物と聞いておったが、ワシらだけでも勝てそうじゃの」


 そうこうしている内に第二射が放たれていたようです。

 見えない以上は見てからの回避は不可能、それに仮にも光魔法なのか私の体からは焦がれる音が発せられています。


 これ以上後退してもポーションの池が阻んで通しません。こうなればスピードを捨ててでも変形しましょう。


「グガアアッ!」


 するとそこへ、操られた眷属が建物内から奇襲を仕掛け、また首筋に噛みつこうとする声が耳に入りました。

 各々がこちらへ付かず離れず、己の得意な特技でカバーし合いながら攻めるなんて、コンビネーションが芸術的に卓越していますね。


 まあ、操られていようとも眷属が現れたのは運が向いてます。


「グ」


「強制的に命じます、体朽ちるまで盾となりなさい」


 眷属の首を後ろから掴み、前へ掲げながら踏み込みました。

 傘への変形も終わりました。疑似日光のダメージは防げるでしょう。


「ぬうむ、こしゃくにも器用じゃのう」


 右手に眷属、左手に傘を維持しながら、全速力で駆け出します。

 矢は効果が及ばないですが、《血臭探知》なら老人達のおおよその位置は確認出来ます。


「なんじゃあの娘は! 味方をも犠牲にするつもりかの!」


「味方寄りの邪魔者と訂正願います」


 眷属の身を引き換えに矢を防ぎ止めつつ、魔法役の老人の真横へと接近しました。

 ですが、こんな容易く接近を許す辺り、彼らのパーティには本来壁役がいたのかもしれませんね。三人だけで命拾いしました。


「のぉお、こんな天使のような娘がワシの前にぃ! うわばば本望じゃあ……」


「天使とは節穴ですか? 消えてなくなって下さい」


 この助平な老人の脳天を掴み、首を360度ねじ回して倒しました。

 好きでもない人からいやらしい目線で見つめられるのは甚だ不快でしたが、プレイヤーなら死ねば平等に死体です。


「これはいかんな! もう手加減は無用じゃ!」


 仲間が力尽きて一人ようやく本気を出すようですが、遅いです。

 弓を引き絞っている間に肉の盾を魔法役の老人に持ち替え、片手剣に変形しながら直線上に走り。


「むおおおっ!?」


 あらぬ方向へ飛んで行った矢を意に介さず、シンプルに斬り捨てました。

 遠距離攻撃主軸の方なんて、接近されただけで動揺してしまいますので考えを捻らずとも葬れました。


「お二方が先に逝ってしまわれたか、ほれ出てきなされ」


 ようやくあと一人……ではありません。彼は眷属を操作してきます。

 残りの老人は慌てたり顔色を変えたりする様子はなく、建物内に控えさせていた私の眷属を使って襲わせてきました。


「全員命じます。どきなさい」


 何体来ようとも、彼らは元々私との戦闘能力に雲泥の差がある住民NPCです。

 腕でまとめて掬い、乱暴に路上へ投げ飛ばしながら老人の懐へと肉迫しました。


「ここが街の外ならば、戦死者を蘇らせ使役出来たのじゃが……」


 あなたを護る者はもういません。こちらの剣は最後の老人を完全に捉えました。


「はっ」


 一振りで斬り捨て、即死させます。


 最後に苦し紛れの抵抗でもするかも勘ぐっていましたが、驚くほどあっさりと倒せ、眷属達の動きも石になったかのように止まりました。

 どうしてまあ終始茶碗を両手で持ったまま正座していられたのか、尽きない疑問は強制送還処置のされてない老人の口から語られました。


「礼を言う。お主のおかげで明鏡止水の精神を貫き通したまま終われた」


 大げさに言い残し、意識が教会へと送られました。現実世界でも死亡した訳ではないとは思いますが。


『強敵だった』

『お茶(万能)』

『お茶(洗脳)』

『お茶(濃厚)』

『お茶(飲めなきゃ死ぬ)』

『やけに詳しい視聴者おるなぁ』


 打ち負かした敵へも礼を言えるのは茶道よりもスポーツマンシップに近いですが、いまいち引っかかりが残る言葉ですね。


「……やるせなくなります」


 あなたのその誇りを一旦封印するだけで、二人のお仲間や何人もの民間人を救えたはずなのに。

 まあ彼らもゲームはゲームだと割り切ってる類のプレイヤーなのでしょうね。


「ウガウガ、ゴ無礼ツカマツリマシタ」


 元に戻った眷属達が駆け寄り、護衛役を命じながら老人達から《吸血》しました。

 数日程度なら賞味期限切れも大丈夫な平均的女子高生の私なので、老人の血を頂くのはさほども抵抗ありません。


―――――――――――――――



《レベルが59に上がりました》

《カルマ値が下がりました》

《冒険者ギルドから懸けられた賞金が895万イーリスへと修正されました》

《冒険者ギルドから懸けられた経験値が7,866,445へと修正されました》



―――――――――――――――



 そろそろ60代ですね、年齢ではなくレベルがですけれども。


「テキ……テキ……!」


 すると、眷属達が突然吠えたり睨んだりと威嚇し始めました。


「一足遅かったか!」


 視線の先には、少年の相貌をした冒険者が駆け付けていました。

 見てくれは老人会の仲間ではなさそうです。


「獲物がまた一人ですね。あなたの望みは何ですか」


「決まっているだろう! お前みたいな悪事を働く奴には、誰かが必ず正義の鉄槌を下さなければならないからだ!」


 なるほど、正論ですね。

 この興味惹かれる生真面目さ、もう少し訊きたくなりました。


「これまで私が会敵した冒険者は、皆が皆、金や名声等自己利益のために刃を向けて来ましたが、あなたの正義の鉄槌とは何で造られていますか」


「話を逸らすな吸血鬼! お前がどれだけの人間の命を奪い、アンデッドにして弄ぶなんて、ここが仮想世界だとしても許される所業じゃない、たとえ千人が認めたとしても、俺だけは断固として認めるものか!」


「ふむ、核心を突く言い分ですね。仮想世界だとはいえ利益で色褪せたりはしない純真たる義心、そのためだけに私を討伐しに来たということですか」


「当たり前だ! 俺は、人の心を持たないお前を絶対に許さない。倒してこの惨劇の配信を止める……。敗けて死ぬならせめて道連れにしてから死んでやるよ!!」


 おお、これは非常に素晴らしいですね。彼のような愚直な正義漢をどれだけ待ちわびていたか。

 弱き者のため、悪名を負っても我が身を顧みず邪悪を討ち滅ぼす精神こそ、私が率直に讃えられる"正義"の有り方の一つなのです。


「良いでしょう。あなたとは二度と戦えなくなっても悔いがないよう、私の持てる本気を全て捧げて挑みましょう。悪役ロールプレイとしての矜持をかけて、いざ尋常に参ります」


 有言実行とするため大剣にチェンジ。

 どんな冒険者と交えても一切感じなかった興奮と高揚感に口元が吊り上がってしまいましたが、この一戦で初敗北を喫しようが何一つ構いません。


 さあ、私を倒し、腐敗した組織にも純真たる正義がいるのだと配信映像に示してみて下さい。


「こっちも本気で行くぞ! 俺の通名は【Bランク序列684位・四丁目の乾燥肌】! ぐっはあああああああああああ!!」


 袈裟斬りを食らったこの冒険者は、ほんの一瞬にしてHPが全損していました。

 土日は体調を治せる貴重な二日間……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後ww てっきりSランクの正義野郎だと思ったのにww
2023/09/24 22:36 退会済み
管理
[一言] 結局力のない正義は無意味なんだなぁ・・・
[一言] 乾燥肌ぁ…ウケる。出落ち感凄い。
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