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ローレンス終焉の時 その2

『冒険者何人倒したか数えた奴おる?』

『ざっくりだがBランクが70、Aランクが30』

『三桁逝ったwww相手は無名だらけにしてもこれはすごい』

『そのくせまだ元気』

『血をチューチュー吸って最初より元気』

『精神的にも元気元気』

『吸われたい』

『連戦連勝』

『あの幸せ投げが未だ脳裏にこびりついてる』

『純粋なステータス比べじゃRIO様の勝ち確だしな』


 烏合の衆の顔ぶれしか揃ってない西区の冒険者を粗方片付けたので南区へ、移動にそれなりの時間を要しましたが、無事到着したので大通り沿いに北上します。


 しかし、区画があるのも頷けるほどにだだっ広いこの街。体感でアムルベールの四倍もの面積がありますね。

 平均的女子高生には目的を立てなければ、一巡りする前に飽きてしまうでしょう。


「っ。エネミーがどうしてここに」



―――――――――――――――


 エネミー名:フレイムマントヒヒLv43

 状態:正常


―――――――――――――――



 街中なのに、野猿の群れが火球を豆まきの気分で撒き散らしている光景を目にしました。

 業火の世界を展開しているローレンスに対し、火属性魔法を我武者羅に放って火災を助長しています。


「ふむ、この第三勢力は放置するほど街の被害が拡大しますね。丁度良いです、冒険者の負担を増やすため手を出さず迂回しましょう」


 踵を返し、一旦大通りを避けて、絶賛暴れている最中のフレイムマントヒヒらを刺激せずに別ルートから通り抜けました。


 ですが、街にエネミーが乱入してるということは、破壊されている外壁を警備する者まで鎮圧に回されている証拠と決定づけても良いのかもしれません。

 冒険者側もかなり押されているならば、ボスさんへの助けは無用と……慢心は厳禁です。


「おっとっと、手が滑ったァー」


 ほんの少しの間慢心していた最中、丸型のビンがこちらに向かって飛んできました。

 でしたがぶつかりはしません。咄嗟に肘鉄で割りましょう。


「む、この液」


 割り砕いた時、中から視認不可なまでに透明な液体が肘にかかってしまいました。


「薬品の匂いですね。痛っ!!」


 かけられた箇所に熱で炙られたような激痛が走り、反射的に声が漏れましたが……私に激痛?


「【Aランク634位・ポットポーション】。いまほんの一瞬苦痛に悶えたなぁ。RIOだろうとアンデッドの(しがらみ)には逆らえないと判ってよ、オレぁ嬉しいってもんだぜェ」


 粘っこい言い回しで喋る商人に近い格好の男性が、嬉々としながら液体入りのビンを両手に構えていました。


『RIO様「痛っ」て言ったぞ?』

『生命エネルギー食らっちまったか……』

『これは痛覚的には大ダメージ』


 HPも少しだけ減っていましたが……、人間用のHP回復アイテムを食らってしまったようです。

 アンデッドへの回復効果は反転してしまいますからね。


「へっへっへ、そして足元をよく見てみな《魔法・回復と癒しの薬池(ポンドポーション)》」


 この冒険者が手に持つビンを投げ割り魔法を展開した瞬間、透明色の液体がじわじわと広がります。

 液体を媒体にするあの魔法、また通り道を塞ぐ類の冒険者ですか。


「むっ……」


 それが私の靴に触れたと同時に、マグマを思わせるまでの耐え難い刺激が伝ったため、反射的に足を下げました。

 脚ごと千切れても靴までキッチリ再生するのです、もう体の一部と化しているのでしょう。


「もう近づけねぇだろ。なんてったって、痛覚が死んでいる体に神経が回復するんだからなァ?」


 水たまりに足を浸かっている冒険者の方は何の苦痛も無く、地の利を得たと得意げになっていました。

 痛覚を利用した戦術で追い詰めるなんてVRMMOプレイヤーの風上にも置けませんが、責めたところで痛覚設定に一切手を出さなかった私に非が向けられるだけなので、近づかずに倒してしまいましょう。


「どこまでも妨害してきますね。《魔法・闇の気弾(ダークボール)》」


 変形中の武器を置き、闇の球を両手から乱射します。


「ぐうっ、そっちも魔法か。だがしかぁし、オレがここでじっとしてるだけでも体力は回復し、吸血鬼に不利なフィールドがどんどん広まってゆくんだぜェ」


 直撃を受けながらもどんどんポーション入りのビンを割っていました。


 物理攻撃と比べて魔法は威力に欠けるようで、命中した側から足元のポーションを吸収して回復されてます。

 魔法だけでいたずらにMPを消費してしまえば元も子もないため、威力を底上げするため杖へと変形するべきでしょう。


「そこのお前! 手を貸してやるぞ!」


 むむ、彼の後ろから一人援軍がやってきましたか。更に状況が悪化しましたね。


 参戦した敵を警戒しつつ今か今かと変形を待っている時、ポットポーションさんは駆けつけた冒険者に対し、何故か勢いよく両手で押しました。


「離れやがれ!! こいつはオレだけで殺りたいんだ!」


「んなっ!?」


 粘っこさが消えた怒声を受けた冒険者は足を止めて面食らっています。


「いいか、金や経験値を独り占めしたいんじゃねえ。誰も倒せない回復役でも……アイテム係でもRIOには勝てるってここで証明しなきゃなんねぇんだ」


 ふむ、どうやら彼のポーションは普段パーティメンバーのために使用しているようで、今回のケースは初めてなのでしょう。


「あんだとテメェ! 生産職かぶれが、たたっ殺されたいのか!」


「これはRIO撃破の称号を得てオレの存在価値を示すための戦いだ! 邪魔だからどっか行けこの野郎!」


「あっそうかいどうぞご勝手に、だが今に分かるからな!」


 頑固にもお節介を受け付けず、援軍の冒険者は拗ねたように引き返しました。


 敵が一人減りそうな流れだったので静観していましたが、彼の剣幕、ランクだけは高いながらも撃滅能力が足りないといったようなコンプレックスを感じました。

 もしかしたら、「プレイヤーには痛覚を利用する攻撃方法は禁止」だの新たな法律が制定されれば、彼もパニラさんみたいに冒険者を辞めさせられ燻ってしまうのでしょうか。


 パニラさん……なるほど、突破口が見えました。


「丈夫で長持ち、その気持ちを信じさせてもらいますよ」


 杖を取り止め、傘に変形させます。

 完了したら傘を逆さまして水たまりに置き、生地の上に片足を乗せてもう片足で地面を蹴りました。


「おお、ノーダメージです。行儀悪い使い方をしてしまった件と合わせて、これは褒めちぎらなければなりませんね」


 ローラースケートの要領で、ダメージ床と同義のポーションの池を滑って突き進んで行きます。

 やはり手に持つ武器は体の一部とはなっていませんでしたね。腕が千切れても武器までは再生しなかったのが転じてここで活きたようです。


「……ちょえ!? こんなのアリかよ!」


 池の中心で慌てふためいている姿が視界に映りました。


 傘を持ちながら跳び、片手剣に変形させながら彼に飛び蹴りを放ちます。


「うげはっ!!」


 見事に命中し仰向けで倒れましたが、自分の勢いに呑まれず、細心の注意を払いポーションに触れないようにして体の上に乗りました。


 剣は相手の首元に突き立てて静止です。


「さてあなたに要求です。命だけは奪わないため、吸血鬼にも回復が可能なポーションをあるだけ差し出しなさい」


 そう威圧しましたが、流石に図々しいので首を振ったら相応の金額は払いましょうか。


「ちくしょ……。全部差し出すから、できることなら最後に一つ聞いていいか……?」


 向こうも要求ですか、それでもイーリスに比べれば些細なものです。


「簡潔にまとめるならば構いません」


「へへ、ありがとよ。オレは……オレ一人なんかじゃ、お前みたいな化け物にはどうやっても勝てねぇのか……?」


 ふむ、最後に不意打ちでもして足掻くかと思いきや、切実なまでの問いかけですね。

 吸血鬼回復用ポーションを渡されるまでは答えておきましょうか。


「そうですね。厳しい意見を申しますが、こうして決着がついた以上勝てないのは間違いありません。……なにかアドバイスをするならば、ポーションを投擲武器として運用できるための修練を積めば、万が一が訪れるかもしれませんね」


「そっか、あんましアドバイスになんねぇな……」


 口ではそう呟いた彼ですが、その面様はどことなく満足感に包まれているかのようでした。



―――――――――――――――


 冒険者・ポットポーションから《ダメージポーション上級》5つが譲渡されます。


―――――――――――――――



 たった5つだけなんて、彼の懐事情が察せられます。

 それに、剣を喉に押し込めたくなるほど聞きたいことがあります。


「回復ではなくダメージポーションとは、要求事項を違えているのですか?」


「うわわわ勘違いしないでくれ! アンデッドにはポーションのダメージ効果が回復になるんだよ! 配信者ならコメント見りゃ分かるだろ!」


『ダメージポーションは本当なら使い捨ての投擲アイテムなんだぞ』

『RIO様売買できないししない気だからアイテムの知識に疎いのかww』

『ポーション5個とも上級。これ一回でHP満タンになる高級品だぞ』

『良い物強奪したな』


 なるほど、私が無知なせいで彼には悪いことをしてしまいましたね。


 まあそれはそれとします。


「ぬわぎゃああああああ!!」


 ノコギリで彼の両腕を切断し、半身がポーション漬けによりHPが回復した頃合いを見計らって両脚もアイテム化させます。


「こちらも配信者の身として命だけは奪わない約束は堅く守ります。四肢が治り次第、どこへでも逃げ去って下さい」


 助命の約束を破れば、次以降の相手が命尽きるまで抵抗してしまうようになりますからね。


「あひっ!! 死ぬううう!」


「死にません。あなたが死を遠のけるために撒いたのですから、今だけの苦痛で済むと我慢して下さい」


 ノコギリをしまいながら誤解されないよう言い、彼の体をカヌーのように、また変形させた傘を閉じた状態でオール代わりにして、ポーションの池を漕いで滑らせて行きました。


『残忍』

『タダで見逃すはずはなかった』

『一時でもRIO様に逆らうとこうなります』

『イイハナシダッタノニナー』

『もう傘使いの職業これからのMMOに導入しようぜ』

『↑賛成』


 そして陸地に跳び、突破不能と諦めかけていたダメージ床に、収益を挙げながら何とか乗り越えました。


「ですがダメージポーションですか、どう有効活用するか、悩みの種になりそうですね」


「ガアアアッ!!」


 ふと前に向き直したら、恵まれた恵体が特徴的な眷属の方が、冬眠明けの熊みたいにこちらへと四足歩行で走って来ました。


 つまりボスさんが目と鼻の先まで近づいているのでしょう。心なしかまだ北区には全然早いような気がしますが、向こうも悠々と動いていますからね。


「命じます、これよりボスさんの場所へ誘導を……」


「ガフッ!」


 何の冗談か、私の首筋に噛み付いていました。

 それだけならペットみたいな愛嬌があるものの、そのまま私の肉を噛み千切り、抉り、顔を上向きにさせながら咀嚼しています。


「そこまでにしなさい、私の命令が聞けないのですか」


「ゲヒッ! ゲヒッ!」


 ただでさえ応答せず再び噛みつこうとしたため、やむなくこの眷属を掴み、建物内へと投げつけました。


 主君の命令を無視するまでに本能が食欲に支配されていたのか、良からぬ想像ですがボスさんが何か命令したのか……いいえ、私が姿を現した時には指揮権が戻るよう指示したはずです。


 全て読めました。


「何らかの術を施されたのでしょう。主にそちらのご老体の方なんかが術士ですよね」


「茶聖会序列4……じゃなかったわい、【Aランク序列87位・ネクロマン(チャ)ー】。いかにも」


 ドンピシャですか、しかも層が厚いAランクの中でもSランク昇格圏内となる100位以上とは、非常に危ういですね。

 体調は治す、治して執筆

 ↓にある「☆☆☆☆☆」からのポイント評価をよろしくおねがいします

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ~わ、~ぢゃ→~は、~じゃ
2021/07/09 05:03 退会済み
管理
[一言] 茶聖会って何!?ww
[一言] このゲーム 濃い名前多いなー まあそこが面白くもあるけどでも濃いなー(2回言うこれ大事
感想一覧
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