ローレンス終焉の時 その1
今やローレンスは災害が押し寄せているような動乱が巻き起こっており、倒壊してゆく建物もそこかしこに点在しているまでの終末っぷりです。
こうでもしなくては、冒険者ギルドは短期間のペースで延々と再起しますからね。
ギルドだけならず周辺一帯を焦土にしてしまうのが、街の支配者である冒険者ギルドにとって大打撃となるはずです
「ボスさんは使命通り遂行していますね。ならばそれに応えるべく、私が成すべき使命こそ……陽動と露払いです」
『陽動!?』
『露払い!?』
『大将自ら露払いw』
『一番危険な役割を……』
『さすがは我らがRIO様』
そうです。こちらが数で圧倒しようとも冒険者だって相当な数が集結しているはずなので、西区から南区、そして北区へ直進ととにかく迂回するルートをとりながら一つ一つ強力な敵を順に潰しつつボスさんと合流するのが私の答えです。
なのでボスさんとは終始別行動となりましょう。
一足遅れて市街戦参戦です。
最初の一歩、契りのため自分の腕を噛み破りましょう。
「フライン、これより大仕事を始めます。私は地から、あなたは空から蹂躪しなさい」
【ハハハハ! オレの最強の気弾に敵はない!】
フラインは翼を広げて天高く飛び上がり、気弾の霰を降らせ始めました。これで冒険者軍は、気弾を恐れパーティの陣形を乱し散り散りになる者が現れるでしょう。
何せ下から上への攻撃は限界があれど、上から下へは飛距離が無限大ですからね。
対して私は大剣片手に大通りへ駆け出し、注目を一箇所に集めるよう目立つ場所で宣誓します。
「私こそがっ! ローレンスに死の災厄をもたらす吸血鬼のRIOです! 我こそはと勇み立つ冒険者の方々は、このRIOを手柄にし、未来永劫悪滅の正義を語り尽くしなさい!!」
視聴者様リクエスト企画を行ったおかげで邪魔なブレーキを捨て去れたため、声に関連する羞恥心はまっさらになっていました。
「――ざぁこ」
次です。
機銃に変形させ、天へ向かって射撃し、銃声でおびき寄せましょう。
ついでに《血臭探知》で確認すれば、西区にボスさんはおらず、冒険者の数は"犇めく"というほどでは無いですね。
「RIOはそこにいたか。【Aランク序列1047位・寒来】! 流派も鞘も……信念も無き紛い物の剣、恐るるに足らん!」
侍然とした冒険者が釣れました。
距離が遠い内は機銃をこの人に向けて連射――しても致命打にはならなかったので牽制です。
「前置きはそれだけですか。かかってきなさい」
氷をまとったような意匠が目を引く刀を正眼に構え、撃たれ続けながらも怯まず突進してきますが、スピードはあまりなさそうなため双剣に変形させて即キルと致しましょう。
「……む?」
「ぬうん!!」
振られる一瞬、彼の刀がほんの僅かに速くなったかのように捉えたために、大事をとって剣を二本ごと防御に使いました。
「すまんな、バフ助かった!」
「【Aランク序列2489位・ビルドギフト】。じゃんじゃん強化するから頑張って!」
快活そうな女性が彼の数メートル後ろに佇んでいましたが、なるほどバッファー役のようですね。
「一気に二人もAランクが、威嚇射撃の効果があったようで高揚してきました」
標的変更。走りながら魔装爪に変形し、先ずは後々面倒になるバッファーから蹴り潰しましょう。
「さて、記念すべき一人目で……」
「やらせない。【Aランク序列2058位・斬ッ刻子女】!」
突如割り込んで来た新たな冒険者の剣により、渾身の中段蹴りを防がれてしまいました。
深追いは禁物、すぐに後方へと退きたかったのですが。
「今だ! オレと合わせて斬れ!」
「はい! さむらいさん!」
バフの効果で見違えるほどスピードが強化された侍さんにより後方を塞がれ、二人が目配せしたと同時に剣が振り下ろされます。
ですが片方だけなら避けられますね。なので前へとステップを踏み。
「し、白刃取り!?」
剣を両手で挟みました。
「邦画のようにはいきませんでしたか」
手のひらの肉は切れ、HPも少なくない量は減りましたが、頭に到達する前に勢いを殺せれば十分です。
挟んでる剣を起点に横に飛びながら脚を回し。
「ひゃあぐ!?」
逆立ちになりながら彼女の首を太腿で締めあげます。
「ぐ……ぐるじ……!」
かなり苦しめられているようで、攻撃手段の剣を離してまで解こうと必死ですね。
「斬ッ刻! 間に合えっ!」
「違いますね、間に合うか合わないかを危惧すべきではありません」
一拍置いて空を切ったと把握した侍さんが駆けつけたので、顔を真っ赤にしている子女さんの拘束をそのままに両手を支点にした脚の投げ技で侍さんへとぶつけます。
「ぬおっ!?」
「きゃあああっ!」
躱しきれず二人仲良く重なって倒れ伏せられた所でこちらは足で着地。
相手の急所となる首の位置を確認しつつ跳躍し、断末魔の叫びもあげさせずに踏みつぶしました。
「や、やばいやばい! 他の冒険者と合流しぎっ!?」
踵を返したバッファーの冒険者を後ろから掴み、《吸血》で屠りつつHPを補充します。
「……Aランク三人討伐。私って、自分自身ですら把握しきれないほど成長していますね」
そう自分の実力を再確認してみました。
ついこの前なんてBランク二人組にすら苦戦を強いられていたのに、ステータスが激的に高くなるだけで世界が様変わりしたように思え、なんとも感慨深いです。
……休む暇はありません。
男性の方からは血を補充し、女性はノコギリで切断してインベントリに収納。次の冒険者に向かうため、飛び散る火の粉を振り払いながらひた走ります。
「【Bランク序列21位・メーデーサンデー】。あが……!」
間髪入れず片手剣に変形させ、もう片手にノコギリを携え、鋏のようにして首を刎ね飛ばします。
「【Bランク序列20位ダンジリヒン】。がっ……!」
こちらの冒険者も退場させます。Bランクなんてもう相手になりません。
「Aランクの2000位……えーと……ぎゃはあっ!」
この人はAランクと名乗りましたが、斬った手応えで識別するならBランク相当の実力でした。
まさかAランクだなどとデタラメを名乗っておけば私が慎重に行動してくれるとでも?
『鎧袖一触』
『いけるいける』
『押せ押せムード』
『冒険者はRIO様とエンカウントしただけで死亡フラグだよなぁ……』
『この安心感よ』
「大盛況ですが、まだ肩慣らしにしかなりませんね。このRIOを泣き叫ばせる剛の者はいつお出まししてくれるのですか」
この後も速攻につぐ速攻戦術を用い、時たまフラインの援護射撃もあって実力で劣る冒険者を一文字でキルしていますが、こんな弱小冒険者相手だとしても眷属達は苦戦しかねないのは癪な事実です。
それぞれの実力に歴然とした隔たりがあるため、この地獄にもある種の食物連鎖が描かれていますね。
まあ、兎にも角にも勢いに乗って、一人でも多くの冒険者を始末し、吸血し、インベントリ送りにしましょう。
「【Aランク序列513位・フィーボルト】! ここから先は通さねぇぞ。《魔法・雷壁》」
おや、Aランクでも1000位以内の冒険者が現れましたね。
目の前には、進路全てをカバーする巨大な光の壁が立ち塞がっています。
しかも膨大なMPを誇示するかのように雷のオーラが常に迸り、推測するに指一本でも触れてしまえば高圧電流による感電死は免れません。
更には壁がゆっくりと迫り来ていると、護るどころかどこまでも私の行く道を遮ることに特化した能力です。
「反撃も併用した壁役ですか。これを触れずに攻撃出来る手段があれば、存外壁の破壊が叶うかもしれません」
なので後退しながら槍に変形。完了したなら腕を大きく引いて、持てる限りの投力を相乗させて投擲しましょう。
狙いとなるのは壁はもちろん、その先にいる者も例外なく破壊対象です。
「ごほおっ!」
グッド。壁は発動者の死亡と共に、ポリゴンとなって消滅しました。
Aランクの上位相手でも工夫次第では簡単に方を付けられますね。
一息つかず、槍を拾い上げながらもまだまだ走ります。
「【Aランク序列1457位・スピンスピアー】。穿つ」
寡黙さ際立つ冒険者が、槍を風車のようにぐるぐる回しながら果敢に迫ってきました。
まるで銃弾すら弾き返せるような回転速度、ヤワな武器では弾かれてしまいそうなため、肉迫される前に魔装槌に変形しました。
「やああっ」
重さの単位はキロどころかトンまで届くだろうこの槌で薙ぎ払うだけで、下手な防御技は弾ききれず吹き飛ばされるのみでしょう。
特に、彼の軽量性重視の細槍なら効果覿面なはずです。
「ふ、軌道が丸見えだな。覚悟」
それなのに風を薙いだだけで終わりでしたか。
「やってくれましたね」
やはりこんな鈍器は大振りとなってしまうため、しゃがんで躱された挙げ句に脇腹から肩口にかけて槍で貫かれていました。
「いや確かに、この通り確かに心の臓まで貫いたというのに……不死身か……!」
この冒険者今「不死身か」って……、己の槍捌きに過信して情報収集をしていませんね。
「心臓一突きは対人戦闘には最善手ですが、それ以外は自分から逃げられなくなるだけの愚策です。貫通力よりも攻撃力をつけて出直して下さい」
「つっ……くそったれ!」
こちらのHPはまだまだ残っているため、槍を引き抜かれる前に魔装槌で頭部を四散させました。
すかさず《吸血》。痛覚が無いと気づかぬ内にどれだけのHPが削られているかも分からないため、いついかなる時もこまめな血液補給を心がけたいです。
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《レベルが56に上がりました》
《カルマ値が下がりました》
《冒険者ギルドから懸けられた賞金が825万イーリスへと修正されました》
《冒険者ギルドから懸けられた経験値が7,166,445へと修正されました》
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自分には立ちくらみやらで悪くなってく体調を治すしかやれねぇ




