昼の疾走&カチコミ
テーマは達成です。
ですが、ギルドそのものが敵として認定しているRIOを相手に、涙ながらに訴えかけるまで精神が陥落しているほど効果があったなんて心が浮き立ちそうでした。
結局、悪逆無道なギルドマスターであろうと、娘が娘でなくなってしまう瞬間は想像するだけで恐怖なのですね。
「今宵再び参上します。それまでが人生最後の猶予です」
地獄の沙汰も金次第、とは言い切れないようで結果的に言い切れてしまうのが現在の状況です。
もしも下階の冒険者達が駆けつけ、ここで日光を背にして交戦するのはとても不味いため、傘を持つ姿勢を維持したまま窓から飛び降りました。
『ガチで資金調達しやがった』
『手から汗が吹き出た』
『すげぇよ……』
『すっげえ……』
『脱帽』
『RIO様こそ真の悪役に相応しく思えてきた』
『600万なんて冒険者のクエストでもそうそう無いぞww』
『インチキレベルの金策よw』
『質問だが、ハイパーRIO様タイムの時視聴者に刺激だとか言ってたがあれマジでやるつもりだったん?』
落下しながらコメントを確認しましたが、最後の質問には答えておきましょう。
「さあどうでしょうか。ギルドマスターが必ず頷くと睨んだからこそ有る事無い事並べられましたが、詳しくはご想像にお任せします」
そう言葉を濁しながら着地し、冒険者ギルドを後にしました。
さて、ギルドに召集された冒険者達は、私が罪を擦り付けた【黒の蛇王】の捕縛クエストへと出発しているでしょう。
この街とは早ければ今夜でおさらばしますし、お互い潰し合っていて下さいね。
▲▲▲
今後の予定としては、深夜にログインして冒険者ギルドへフラインと共に殴り込みに行くつもりです。
「【Aランク序列3222位・ガンライズ】。お前、RIOだな」
一旦ログアウトしたかったのですが、不幸にも一波乱起きそうな言葉を耳にしてしまいました。
この冒険者は赤と青のオッドアイで、逆立った髪型が印象的な男性です。
「あら、私はただのしがない貴婦人ですよ。人違いではありませんか?」
「下手なとぼけ方すんな。《魔法・サーモグラフィーアイ》が異常に低い体温を検知した。こすズルく住民に紛れ込んで、オレの《眼》を誤魔化せると思うなよ」
「そんな魔法もあるのですね。勉強にさせて頂きます」
どうやら冒険者には、吸血鬼の目立たない特徴を見抜く知恵者さえ居る模様です。なのでもう戦いは避けられませんね。
……というより、封建制が滅びつつある時代に貴婦人の振りをするのは無理があったかもしれません。
まあ今のが稀なケースであり、今後も無理を通すつもりですが。
『げえっAランク』
『ここまで来ると強さの水準上がってくるな』
『しかも昼』
『うわぁまずいな』
『このまま戦えば最悪焼死するぞ』
『いや待て、タイマンなら切り抜けられるかも?』
私の不利となっている点は、日傘を差していて武器が使えない状態にあります。
当然日傘を差しているだけでは留まらず、影に身を覆わせなければならない。そのため、高威力の一撃を手に貰って体勢を崩されてしまえば日光の直撃は免れません。
「さあ最初から万事休すだなRIOさんよ。自由に戦えないとこ悪いが、楽してたんまり稼がせてもらうぜ」
「はい、あなたの仰る通りこのままかち合うのは苦ですね。なので逃走しましょう」
「へっ!?」
『へっ!?』
『へっ!?』
『へっ!?』
『RIO様、逃げた!』
『清々しいわw』
即座の判断で身を翻し、ガンライズと名乗った冒険者から少しでも離れるために、体勢を低くし疾走します。
不利な状況下において、逃げられる選択肢があれば迷わず選ぶ。私は不退転の決意を抱く漫画の主人公みたいな志なんて無いため、勝利の可能性が狭まっている戦闘はしたくないのです。
「オレの眼から逃げられると思うな! 今も発動中の《魔法・サーモグラフィーアイ》は物質を無視する透視能力付きだ。じわじわ追い詰めてやる」
能力をご丁寧に説明する声が響いてきました。Aランクともなると、能力に能力が付随される者もいるのですかね。
幸いにも私の方がAGIが高いため撒けていますが、もし彼の言葉がハッタリでなければ、いずれ追いつかれるか、そうでなくても仲間を呼ばれるかで益々不利になる一方です。
「……この辺りが丁度いい場所ですね」
周囲に追っ手以外の冒険者がいないことを嗅覚で確認しつつ、足を止めて振り返りました。
さて、手のつけられない事態に発展するより前に、角を曲がってきたところを迎え撃ちましょう。
「ついに諦めたようだな! さあ600万を……」
早速鼻先が見えました。
こちらは【黒隠の魔装槍】への変形が完了してるので、諦めるべきは彼の方でしょう。
「そこです」
「なっなっ!? お前の傘はああああああああ!!」
心臓狙いで刺突した直後、断末魔の叫びをあげながらガンライズさんはあっさり死亡しました。
彼の敗因は、逃げる私の体温のみを測り、傘の黒い生地にこもった熱の変化を見逃していたためでしょう。
そして私が迎撃の場に選んだここは建物の影となっている裏路地、傘の形を捨てようとも日に当たったりはしません。
『はやっ』
『やっぱり瞬殺』
『槍使いこなせとる』
『あっぶね』
『RIO様既にAランク越えか……』
『いや、あいつが能力全振りでステ低いだけだったかもしれんから浮かれんなよォ』
『心臓やられればそりゃすぐ死ぬが……』
『さっすが人間キラーRIO様。人の急所を分かってらっしゃる』
……そう褒めてますが、叫び声をあげさせたのはいけませんね。
さっさとこの冒険者の死体をノコギリで切り分けるつもりでしたが、これでは声を聞きつけた野次馬が現れてしまいます。
「ひ、人が倒れてる!」
ほら、もう来てしまいました。
「人間なんて私の前では早かれ遅かれ倒れます。見てしまったからには、あなたも倒さなければなりませんね」
「っあ……!?」
見る限り住民NPCなので、今度こそは叫ばれる前に喉を刺突し、その後は眷属へと変貌させました。
ついでです。いっそログアウトは後にずらし、決戦の時のためへの戦力を増強しましょうか。
「命じます、あなたが知っている範囲で、この街にいるであろう名のある反社会的組織の拠点へ案内して下さい」
「承知……組織ノ人間ノ血ィ……」
そう目が血走っている眷属に導かれ、この場を後にしました。
駄目元で呈したのですがまさか知っているとは。いつも思いますが何事も実践してみるものですね。
勿論、日光に照らされたりアンデッド化した形相を悟られないよう、狭くなりますが傘で覆い隠しました。
『今度はカチコミか?』
『また妙なとこターゲットにしたなww』
『これで街に活気が戻るな(皮肉)』
「さて視聴者の皆様、当初のテーマ達成の道順こそ悪名高い組織からお金を巻き上げるつもりでしたが、ギルドマスターから十分に獲得したため、他にやるべきことは力をもって手頃な組織を傘下に収めるだけです」
道案内の眷属が建物の扉を開き中へと入ったため、差す必要が無くなった傘を機銃へと変形させながら話を続けます。
「そこでアイデアを募集します。小手先でも構いませんので、相手を猛烈に驚かせ、思わず立ち尽くして隙だらけとさせられる妙案があればコメントして下さい」
視聴者様を労う意味でも、たまには私の一助となれる機会を与えてみましょう。
『俺らに振りやがったww』
『ワイもRIO様の軍師になれるのか』
『驚かすって言われてもなぁ』
突拍子もなく始まった企画のために、視聴者様は概ね困惑しているようです。
『マジレスするとRIOと名乗るだけでめっさ驚くぞ』
『あの色仕掛けで脅かせ』
『なあなあ、生意気RIOちゃんしてみない?』
『エリコの王子様かお姫様みたいな感じのキャラでいいよ〜。ぐへへへへへ』
『のじゃロリ希望』
『逆に考えていつも通りでやっても良いのでは?』
……ふむ。
まあ、青天の霹靂となるほど相手の意表を突けそうなものがあったので、この際もう募集は終了で良いでしょう。
「こちらの方の案を採用します。なので私がどう行動すれば良いかをコメントでお送りして下さい」
『りょ』
『まさかのそれ選ぶかwww』
『RIO様絶対後悔するぞww』
少女の姿になり、眷属が指さした鉄製の扉の前で《血臭探知》を発動し、中に八人、全員格下のレベルの人間だけがいるのを確認しました。
この数と質なら高確率で勝てますね。武器を背に隠し、扉を蹴破り、その勢いに乗って侵入します。
「……誰だっ!」
「クソッ敵襲か!」
「どこのファミリーの手下だ!」
「いや本当に誰だ!?」
場違いな少女の登場に、全員が分かりやすいまでに目をまん丸にして狼狽えていました。
さあ、寝耳に水な状況をより決定的にさせるため、視聴者様が用意してくれた台本を……むむむむむ。不本意ですが決心を固め、小馬鹿にするような表情で演じきります。
心の底から不本意なのですが……。
「ねーねー、クソザコのおにーさんたち、ほんっとうにキモいからみんな死んじゃっていいよ♡」
「んえ? のわああああああっ!!」
視聴者様のコメントを読み上げながら、機銃を構えて引き金を引きました。
『やった』
『やった』
『マジでやった』
『どうしてこうなった』
『RIO様……素敵です』
『目が死んでるww』
『久々に草生えたわ』
嗚呼、羞恥心とは何たるかがひたすら身にしみて判りますね……。
もっと体調良くしねえと




