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自作自演&悪からむしり取る悪役

とーとつに三人称視点

 ここはロストロストの森の奥地。木々にカモフラージュされるように造られている古ぼけた小屋。


 そこには誘拐犯と思わしき者の姿が外に二人、中にも二人。


 しかし使い込まれた鋼鉄製の装備を見る限り、全員がそれなりの手練だと思われよう。


「う、うーん。一ついいっすかリーダー」


 メンバーの一人が手を上げ、不摂生で気の短そうな男に訊く。


「ほう、どうした、また同じ質問なら許さないが?」


「あのギルドマスターの娘さん。本当に任務通り連れ拐って良かったんでやんすかねぇ」


 リーダーの男の気迫に萎縮しながらも、疑念の節を伝えた。


「同じ質問するなって言ったばかりだろうが鳥頭! つっても俺ですらこの依頼には納得いかねぇが、一度受注しちまった以上、無駄口叩かず任務のことだけ考えやがれ」


 そう殴られそうな勢いで怒鳴られたためにメンバーの男は戦慄いたが、すぐに言葉を紡ぐ。


「でもこりゃ稀な依頼ですって。だって依頼主が……」


「おやおや、喧嘩はそこまでにして頂けませんこと?」


「キャロラさん! い、いかがなされて!?」


 そこへ一人の少女が忽然と現れる。

 キャロラと呼ばれた亜麻色のツインテールの少女は、なごやかな微笑みで彼らを窘めた。


「いえいえ。そんなに畏まらなくても、わたくしの計画を手はず通りに遂行してくれる貴方達『黒の蛇王』を憎んだりしませんわ」


 黒の蛇王とは随分と大層な名だが、所謂汚れ仕事を稼業とする無法者一味であり、それぞれが冒険者ギルドより賞金数十万を懸けられている名の知れた悪党グループである。


 それなのに、このやり取りはまるで彼らと人質の立場が逆転しているかのようであった。


「も、もちろんでやんす。うちらもプライドのため、力の限りを尽くして使命を全うしますとも……」


「ですけどお父様が身代金を差し出すまでが任務だとはお忘れ無きよう。もちろん、身代金100万イーリスの7割を成功報酬としてそちらへ渡し、以後もお得意様となって依頼をかける約束は固く守りますので」


「へ、へへぇ……」


 誘拐犯達は全員すごすごと引き下がり、見張りへと戻って行った。


 この誘拐事件、蓋を開けてみればキャロラが単独で主導となって引き起こしたマッチポンプである。


 俗世から奸雄の申し子と称されているキャロラは生来の悪知恵を用い、あまりにも薄っぺらい目的のために用意周到な根回しを行い、そして犯人達とグルになって実行したのだ。


「ごめんなさいねお父様。私、どうしてもお小遣いがたくさん欲しくて、だからこんなにいけない子になってしまいましたわ」


 親の心子知らず。実父に対し、鬱憤を込めて嘲るような笑みを零す。

 ギルドマスターの娘なだけあって、若年ながらも社会のはみ出し者と手を組むまでの行動力と親すら欺ける非情さ。

 悪女の素質が十二分にあるだろう。


「もうすぐ……もうすぐ沢山のお金が……フフフ」


 そのままキャロラは小屋の中一人で夢心地となりながら待ちぼうけていると、ガタッと何者かが降り立った物音を耳にした。


「あら? また何かごよ……」


「良かったです。警備はザルでした」


 瞬間、キャロラの首が横に飛ぶ。


 己の身に降りかかった災いを理解する間も与えられず、死の天罰が下ったのだ。


 最期に辛うじて視界に収めた光景は、自分と年齢が近い少女の姿をした魔の者のみであった。


「あのすばしっこいガキ! なんでここが……ちょええええっ!?」


「おいお前ら無事か!? キャロラは!」


「まずいっす、最悪なケースが起こりやした! キャロラさんだけ殺られちまってます!」


「んな馬鹿な!?」


 とても信じ難い出来事。

 少女は冒険者ギルドの使いだと予感してたが、人質を救うどころか逆に人質だけピンポイントで殺害するだなんて正気の沙汰ではない。


 この人の形をした化け物の意図が読めず、想像を絶する異常事態には気が動転して立ち竦むしかなかった。


「さて、出だしは上々です。もうここでの用は終えたので、交戦を避け、早急にローレンスへと走り抜けましょう」


 そうキャロラの亡骸とノコギリをインベントリにしまい、誘拐犯など眼中に無いような速度で、懸賞金400万――もうじき600万を越える吸血鬼は去って行った。



□□□



 冒険者ギルドの手前へと着きましたが、わざわざ正面から入るつもりはありません。裏手へと移動し、高身長の姿にしつつギルドマスターの自室へと直接侵入しましょう。


「平均的女子高生なのに空き巣みたいなことをするなんて……とっ」


 まずはしゃがみ、バネのような勢いをつけて跳躍し、二階の窓が視界に入れば手を伸ばして窓枠に掴んで、上手く壁を足場にします。


「むむむむ、せやっ」


 壁を蹴って体を逆上がりの要領で持ち上げながら窓ガラスを蹴破って侵入。完璧です。


『ダイナミック不法侵入』

『ジャンプ力ゥですかねぇ……』

『みえ……ぐへへへ』

『見つかっても知らんぞこれww』

『RIO様ちょっと焼けてね?』


 この曲芸的な行動は傘を差しながらでは難しく、体の所々が日光に当たって焦げかけましたが、突き刺さったガラス片もろともすぐ治るでしょう。


「お邪魔します」


「RIOだな……作法のなっとらん奴め……」


 薄暗い部屋でたった一人机に両肘を立てて沈黙の姿勢をとっているのが、背中しか見えませんがローレンス版ギルドマスターと断定して間違いないでしょう。


 この人は元々高貴な身分ではなく、それ故か身分や人格を問わない能力主義の採用体制を彼自身が敷いたために、ローレンスはギルドマスターだけにとって暮らしやすいであろうあの治安と化しているのです。


 あまり私が言えたことではないですが、強大な権威を振りかざし批難の声すら封じてしまう悪徳領主、忌み嫌われる悪の権化と評しても過言ではありません。


「はい。てっきり下階の冒険者達と現地へ出発してると思っていたのですが、意外ですね」


「お前も来訪者なら分かっているだろう、儂の大事な娘が連れ去られているのだ。無闇やたらと手を出せぬことぐらいはな」


「ふむ、目に入れても痛くないほどに子を愛する親心、共感はします」


 顔を振り向きもせず、殺意も無く、腰をあげずにもいるので、私もその意に応じて攻撃は仕掛けません。

 こうも無気力となっているのは、下手に騒動を起こして娘が命の危険に晒されるより、自分だけがRIOに殺される方が大事な愛娘にとってはマシだとでも思っているのでしょう。


 それに、今のところ私は彼の首が欲しいわけではありませんから。


「これより私が話すことを信じるかはそちらの自由です。まずこちらをご覧になって下さい」


 一向に振り向かないギルドマスターに告げ、インベントリから【キャロラの頭部】を取り出します。


「あなたの娘キャロラは既に死亡し、野に棄てられていました。つまり約束は反故にされたのです」


「……何だと!!」


 これには立ち上がり、ようやく私の手に持つキャロラの頭と目を合わせました。

 ショッキングな事実を突きつけて交渉へと導入させる。最も肝心な一歩目はクリアですね。


「もう報復のために直接攻め入っても問題無いと思われますが、話には続きがあります」


 次のステップです。

 帰り道の途中で予め切り分けていた部位全てをインベントリから取り出し、目を背けていようとも音で分かるようボトボトと床に落とします。


「今度は何をするつもりだ」


「最愛の娘の亡骸を抱きたいでしょう、葬儀を執り行い、街で最も整えられた墓の下に埋葬したいでしょう。なので取引です。これら六つの部位全てと引き換えにして、600万イーリスで手を打ちましょう」


「ろ、600万イーリス!?」


 こちらが提示した額に目を見開いています。


「私だって譲歩に譲歩を重ねているのです。命までは戻りませんが、このRIOを相手にして金銭で解決できるなんて、まさしく好条件ですよね」


 そう言ってみましたが、元々100万イーリスだった身柄ですから流石に吹っかけ過ぎてしまいましたかね。


 だとしても、ちゃんと払ってくれれば過程は重要ではありません。


「足元見おって! 貴様の企みには乗らん! 儂とて、娘の魂は天へと昇り、ここにあるのは魂の器となった肉体だけとは割り切れるのだ。帰れ!」


 やはりなのか、癇癪を起こしては鬼気迫る表情で頑なに断っていました。

 相手側から支払う意思がなければ譲渡されないため、そのままこの人を腹いせ同然に為留めてはテーマが破綻してしまいます。


 なので、人の死をもて遊ぶ悪役らしい台詞回しで揺さぶってみましょう。


「頷かないならば仕方ありません。この亡骸は邪魔な荷物となるだけですし、キャロラ氏をここで眷属化させるのが一番ですかね」


 キャロラの亡骸をほどほどに元通りにつけ合わせ、眷属化させるポーズだけとってみます。


「き、貴様ッ! 儂のキャロラからその穢れた手を離せ!」


 なんだかギルドマスターは怒り心頭のようで、顔面蒼白となっています。

 ……あ、よく見たら亡骸の腕を逆にくっつけていましたか。まあその方が狂気性のアピールになるでしょう。


「ふむ、この脆弱さは駒としては役に立ちませんが、少なくとも使い捨ての盾にはなるでしょうね」


 そう亡骸を弄りつつ、呟きながら手を口元におき、クスクスと嘲笑うような仕草を演じてみます。


 死後を題とした取り引きが通じないならば、未だ断ち切れていない情を利用するまでです。


「そうやって惑わす魂胆だな。儂がそんな小手先で乗ると思ったのなら大間違いだ! ハッ!」


 何か鼻で笑ってますが、相手のペースに乗せられないようにするため無視です。


「むむむ、まあ貴方の娘なら盾となれるほど真人間ではなさそうですね。ああ、いい事を思いつきました。ここで親子の殺し合いを行わせるなんて面白くなりませんか?」


 ひんやりしたキャロラの亡骸に指をツンツンとさし、しなやかな腕にも指を滑らせ、死してなお柔らかさのある頬を自分の孫のように愛撫してみます。


「ヒイッ!? こここ、こんの外道めが……」


「愛情を注いで育てたであろう娘に食われてしまい、成すすべもなく死を迎える親。または親の手により、泣き叫びながら眷属としての生を終える娘。ふふふ、なんだかゾクゾクしますね。視聴者様にも最高の刺激になりそうです」


 これより始まる悪夢の構図について、私から口で一から説明しました。


 はい、これで決まりです。精神的に抉られ続けているギルドマスターの心はもう参っているでしょう。


「止めろ、もう止めてくれ……すぐに600万イーリスを差し出す。だから頼む、世界で唯一人のキャロラを……返してくれ……」


 ついにギルドマスターは絶望に耐えられず膝から脱力し、そのうち床に額を付け、私が提示した条件を涙ながらに呑んだようです。


「おや、()()()くれだなんて言ってもいいのですか?」


「まっ、まだ何かさせるのか!?」


「いえすみません。意地悪するつもりはなく、個人的に思うところがあっただけなので気にせずに……。私も鬼ではないので、無論、払った後はそのままの状態で差し渡します」


「く……キャロラ……」


 悔しさか安堵からかボソリと娘の名を呟きながら、山積みの紙幣を私の前に出現させました。



―――――――――――――――



《ローレンスの街ギルドマスターに【キャロラの右腕部】【キャロラの左腕部】【キャロラの右脚部】【キャロラの左脚部】【キャロラの胴部】【キャロラの頭部】を譲渡し、600万イーリスを手に入れました》

《クエスト大失敗につき、カルマ値が大幅に下がりました》

《冒険者ギルドから懸けられた賞金が602万イーリスへと修正されました》

《冒険者ギルドから懸けられた経験値が5,109,445へと修正されました》



―――――――――――――――



 参考にはならなさそうですが、忌み嫌われ批難される悪役とはこうであり、金とはこうやってむしり取るのです。

土日で体調回復させるしかないっすね……

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいですよ、もっとこうゆうのください
[一言] そして冒涜されたキャロラの各部位が眷属としてかつての親に牙を剥く なんと甘美な咀嚼音 悲鳴が奏でる 甘い囁き さぁ行くのですキャロラ 貴女のお仲間を増やすのです
[一言] 吸血鬼は立派な鬼なんだよなぁ・・・
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