リッチ・ロード戦&変形に次ぐ変形
土で構成されただけの殺風景な空間が、今回のボスエネミーが待ち構える部屋ですか。面倒なギミックが無いからこそ気兼ねなく試行出来るというものです。
ボスエネミーの力量はネームドエネミーと比較しても大いに凌ぐ。故にレベル以上のステータスがあると仮定しましょう。
「失礼します」
一礼しながら入室した途端、鈍い音と共に扉が閉ざされたかと思いきや扉自体が消滅し、土壁となって周囲と同化しました。
決着まで退路が塞がれるだけでなく存在自体が無くなる。おかげで集中力が高まります。
さて、リッチ・ロードは自制心でもあるのかドクロの頭を私に向けつつ様子を伺っているだけなので、こちらが先行です。
最初の一手はもちろん杖で強化された魔法――ではありません。杖を私の腿につき刺します。
「フライン。これより連携しつつ近接戦を仕掛けるため、気弾は使用しないで下さい」
【ハハハハ! オレの最強の気弾に敵はない!】
全形態で最も攻撃力の低いこの杖。なのでHP調整が容易に行えるため、自傷の用途としては適していました。
『フラインェ……』
『セリフに哀れみを感じる』
『気弾使わせてあげて……』
私も同感です。
ですが連携を取るためには行動を制限させるのもやむを得ず。こちらも既に杖から【黒隠の魔装爪】への変形は終えていますので、飛翔しながら交戦を開始しているフラインへと走ります。
「とっ」
まずフラインを攻勢に出させるため、蹴り上げで腕の骨に攻撃して牽制。
「ふっ」
次にエネミーの背面へと回り込み、跳躍し横回転しながらの蹴りを浴びせ。
「せええええっ」
右腕で肘鉄、次に左手でアッパーカットを放つと同時に飛び上がり、その動作が終われば踵落としで攻撃しながら着地し、そこから再び最善の選択肢を思案しつつ駆ける。
吸血鬼ならこんな激しい運動を続けようとも、息切れ一つ起きません。
『なにこの人』
『プロだ』
『吸血鬼って獣だったのかな?』
『身体能力がチート』
『お前ら初か? そもそもこんなお方だぞ』
AGIが100以上も高まり、チーターのような身軽さを宿しているからこそ可能となる三次元的な戦闘。相手によっては更に《吸血》で追い打ちをかける荒業まで可能です。
欠点であるSTRの上昇率は素のステータスがカバーしてくれるため、とりわけ有用な形態でしょう。
「……フライン? どうしましたかフライン」
私が着地した時、相手が剣での薙ぎ払いを仕掛けたのですが、こちらがバク転で回避した直後、直撃を食らったフラインのHPゲージが何故か真っ黒と化し宝石となってしまいました。
『もうフライン死んだん!?』
『アカン』
『早くもソロ化』
『これ即死の状態異常入った挙動だぞ。アンデッドは一律即死無効なはずなのによ』
『格上なのに即死対策してなかった冒険者達が死屍累々になったの当時あったわ』
『【悲報】フライン、アンデッド化してなかった』
ノコギリの剣にそのような不条理仕様が働いているだなんて、というよりフラインがアンデッドではなかったのはむしろ日光に関連する意味で朗報ですが。
しかし唯一の戦力を失ったため、連携戦術は断念せざるを得ません。
一対一での近接格闘はリスクが跳ね上がるので、壁際まで距離をとり、遠距離戦に長ける【黒隠の魔装機銃】に変形させました。
「全弾食らいなさい」
間をおかず連射、敵が怯むまで引き金を引く指と姿勢はそのままの状態を保つ。
そう想定していたのですが、数秒撃ち続けてもなお怯む様子がなく、ダメージも全然稼げないままでした。
「なるほど、銃弾への恐怖心が残っていないエネミーでしたか」
やはり銃とは人間相手に限るようですね。
弾薬の無駄遣いは禁物なので、お次は中距離特化型の【黒隠の魔装槍】に変形させたかったのですが。
「むっ。もうこちらの隙を学習しましたか」
変形待機のため手を離した一瞬、リッチ・ロードはこれまでの守勢から一転、私を文字通りの意味で即死させるため豪快に両断しにかかりました。
やけに攻めてこないと薄々訝しんでいましたが、どうやら武器で防げなくなる変形中のタイミングを虎視眈々と狙っていた模様です。
「……留意点がまた一つ。ですか」
サイドステップで躱し、どうにか変形が完了したのでこちらも槍を構えて応戦です。
「槍を巧く扱えるか、難度の高い形態ですね」
リーチのある剣のように薙ぎ、また剣のようにして捌く。何だか変な表現でしたが、私には槍を槍として扱える経験が足りてないのです。
「攻撃力があっても、この場合ダメージには直結していませんか。ふむ」
槍の攻撃力は穂先にあり、柄で殴るとダメージが低下してしまうのが槍全体の特徴ですので、巧く刺し穿つ技術を持ち併せているかが鍵でしょう。
だから槍の片手持ちで要求されるステータスがDEXなのです。
『一応ここまではRIO様のペース』
『なんかハラハラする』
『どの武器もほぼマスターしてるのはすっげえけど、槍だけまだ慣れてない感じか』
『でもこれじゃ槍ってほぼ剣の劣化じゃねーの』
いいえ、この形態には更なる長所があります。
「そちらが五体満足で立てるのも、ここまでです」
それは投擲武器として最も秀でた性能。
私の全力投球を受け入れた槍はミサイルのように直線を駆け抜け、左脚の繋ぎ目となっている骨を粉微塵にまで破壊出来ました。
武器を投げてしまいましたが、結果的に狙い通りです。一つずつで良いので、四股を取り除いていきましょう。
「さて、憂いがあるなら双剣を無事回収出来るかどうかですが……」
槍が手から離れる直前、手数に優れた【黒隠の魔装双剣】へと変形を開始させたため、そろそろ待機時間が終了している頃合いでしょうね。
丸腰となってしまいましたが、前向きに考えれば魔装爪同様より小回りが利くようになります。
エネミーの股の僅かな隙間をスライディングでくぐり抜け、落ちてあった双剣を両手でそれぞれ拾えたら方向転換、クロスして構え、こちらの剣の射程範囲内までダッシュしました。
「せっ、そこです」
左で受け流してダメージを避け、右を攻撃へと役割を注ぎ込んで、冷静に着順に骨を解体します。
堅実なる戦闘こそ、双剣が得手とする分野なのですね。
『あ、ホネホネロードのHP半分切っとる』
『来た、発狂状態』
『こっから本番』
『危ない防御防御!』
『いや殺られる前に殺れ!』
どうやら順調だったのはここまでのようです。
リッチ・ロードの空洞の目の奥が怪しく光った途端、戦場の空気が重苦しく変わり、歪なノコギリが純粋たる剣となったかのような凄みが視界に映りました。
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エネミー名:スケルトン・ソルジャーLv40
状態:奮起
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更にもう一点、どこからともなく二体の増援が出現していたのです。
剣二本と剣三本。手数の差が逆転されてしまいました。
「ふむ、もう双剣を以てしても防げる保証は無さそうですか。ジリ貧になる前に、広範囲高攻撃力の形態に変え、一網打尽を狙うのがベストでしょう」
双剣を一つに合わせながら離し、【黒隠の魔装大剣】へと変形を開始させます。
三秒間の短くも長い待機時間、相手の波状攻撃を果たして耐え忍べるか。
一秒。
「腕が一本。たかがと付け加えましょう」
増援に気を取られている間に、いきなり左腕を切断されていたようです。
とはいえ私なら両手でなくても扱えるので些細な被害。
二秒、三……。
「っ。もう一本まで」
変形終了に合わせるため手を伸ばしたタイミングを読まれていたようで、リッチ・ロードから真一文字に斬られ、右腕が空を舞ってしまいました。
『RIO様の両腕が!』
『コイツら骨なのに賢い』
『当たり前だ。サービス初期からかなり成長してるし今もRIO様と戦いながら学習もしてるぞ』
『ボスエネミー攻略専用スレの情報が信用出来ない理由』
『腕治るまでこのままなん!?』
学習速度のみならず、こちらが次に行うはずだった一手を破綻の危機に晒させるまでに戦闘者としての経験が並外れている。
これがボスエネミーなのですね。
「まあ、たかが腕を二本失っただけなので」
追い詰めたつもりでしょうが、武器を扱うための手段は残っていますよ。
「っうううううううう!」
変形が完了した大剣の柄を噛み付いて咥え、同時に捻じきれんばかりに首を回して増援二体共々撃破。
そのまま頭を傾けつつ振り上げて、リッチ・ロードの片腕を奪い取りました。
『ちょえええええええええ!?』
『ワァオオオオオン!?』
『まさかの発想』
『発想自体はディアボロ戦で出てたが……』
『斬新過ぎる逆転劇ハジマタ』
『俺この御方みたいになれないや(愕然)』
両手で持たなくても良いならば、口で持つのも有りと意味するのでしたね。面白いシステムです。
流石に咥えて扱うのは骨が折れますが、この際貪欲に食らいついていきましょう。
「ふっ! ふううううっ!」
首を酷使させて攻撃を弾き返し、全身ごと反り上げるように動かして骨の一つを飛ばす。
その度に歯はきしみ、顎が壊れそうなまでに凄まじい負荷が押し寄せますが、腕が元通りになるまでの辛抱です。
「ふぐ」
とはいえお互い四肢を半分失いながら依然として戦況が拮抗している以上、決定打を与えられるほどの剣速が欲しくなるものです。
よく見れば腕は治る寸前となっていますし、AGIが減少しない形態へと移行させましょう。
「ぱあっ」
咥えていた大剣を離した直後、またしても丸腰となったタイミングを狙って一刀両断しにかかってきました。
普通ならそう来ますよね。
変形終了まで碌な手段がとれない。その学習こそが命取りです。
「慣れたあまり先を読みましたね。私もその先を読みました」
瞬時に攻撃を防ぐために選んでいたのは【黒隠の魔装剣】。
総合的な性能こそ最低ですが、その分変形完了までの時間が一秒半と断トツで短く、『変形は三秒かかる』という法則を知った相手の意表を突くのに適した形態です。
無事に間に合い、意表を突いて防御し攻撃を逸らした後はするりと抜けて跳躍。
「……そこです」
腕の分を精算させる念を込め、真一文字に斬ります。
「ようやく、利き腕を刎ね飛ばせました」
殺意を抱き、握りしめたまま落ちる骨の腕。
ほぼ剣を使えなくなったリッチ・ロードの肩を起点に大きく跳躍し、空中で最後の変形を開始させました。
「この一撃でとどめです」
落下しながら両手で掴んだ【黒隠の魔装鎚】。
マイナス補正が高すぎて使うためには勇気が要る形態ですが、その真髄はフィニッシャーにあるのです。
「はあああああっ」
落下の勢いと掛け合わせ、頭蓋骨を一気に粉砕。
こんな自分でさえ食らいたくない攻撃をモロに直撃したリッチ・ロードは、HPが底をついて怪物としての形を維持できなくなり、積み上がった骨の山と化して散りました。
……視聴者様に魅せると自信満々になっていながらフラインが倒された時からアドリブでしたが、終わりよければ全てよしです。
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《ボスエネミー【リッチ・ロード】に勝利しました》
《レベルが48に上がりました》
《5000イーリスを手に入れました》
《報酬として【リッチの肉切りノコギリ】を手に入れました》
《【リッチ・ロード】の眷属化は不可能です》
《カルマ値が上がりました》
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陰性であった
ただもの凄く体調悪いだけでした




