表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/201

剣技&異常

「私って、こうして余裕が表れた時に好奇心が出てしまうのが悪い癖ですね」


 大剣を振る直前、昨日聞いた武器を使うスキルの話をふと思い出したのです。


 あまりにも突飛な希望的観測ですが、他人が所有してるものであれ、スキルの動作を完全再現してしまえば私も実質的にスキルを使えるのではないかと思ったのです。


 スカスカの骸骨なんて練習台同然の相手ですし、物真似がてら実践してみましょう。


「参ります」


 雑念を極限まで捨てるため、模倣元となる冒険者の名や姿を思い出したりはせず、当時短剣で捌きながら身をもって体感した技だけをただ思い出す。

 両手持ちへと構え直し、足を止めて目を閉じ、剣戟の型を光の線として瞼の裏に浮かべ、迫り来るエネミーに対し隅々まで再現したつもりになって放ってみました。


「疑似黒貴剣」


 ……いけます。

 AGIが平常より少し下がっているのが気がかりでしたが、それでもなお事足りる範囲です。


「まだです」


 思考は止めず、手も休めません。


 あの冒険者の大剣から放たれたスキルの特徴を一重に表すなら、木の棒で遊んでいるかのような軽さです。

 こちらの大剣の重量は木の棒なんかへし折れるまでにかなりのもの。であれば軽さの再現はSTRで解決させるのみ……となれば良かったのですが。


「ふぅ、どうにか倒せてはいますね」


 おびただしい骸骨の群れは斬られる度に破損し、そのうち気化するように消滅しました。

 こんな試行、現実世界では不可能です。縛りの多い人間の体よりも、一定の無茶がまかり通る吸血鬼の方が私に合致していますね。


『RIO様新スキルまで!?』

『いやよく見ろ。スキル使ってないぞ』

『パクっとるww』

『またコピー技www』

『どこまでも化け物スペックだこと』


 視聴者様はそうコメントしていますが、残念ながら紛うことなき失敗作です。


 軽々しき剣筋と裂けてしまうほどの鋭さこそ《黒貴剣》の真髄でしたが、この模倣技を自己評価するなら、大剣の重量とSTRに任せてひたすら振り続けるだけの贋作でしたので。

 こんな技と呼べない代物、最早普通に攻撃してるのと同義なので没でしょう。


「まあ、これもまた経験です」


 失敗は成功の元とも言います。現実世界よりも仮想世界の才能が勝るのだと改めて判明したのは一応収穫です。

 それに視聴者様にまじまじ見物されても恥じる要素はありません。配信者にとって魅力的な一面にもなる良いネタとなるでしょう。


「っと、あのスケルトン・ソルジャー、予想外の攻撃手段を使うとは、気が抜けませんね」


 剣技のスキルがないため淡々と薙ぎ払っている内に、陰で私の射程範囲から逃れた一体の骸骨がこちらの一瞬の硬直を狙って剣を投擲してきました。


 ですが緩やかな放物線上の軌道とひと目で把握したので、頬を掠っただけで済んだのは危ないところでした。


「……おや。ダメージ以外にも何か妙ですね」


 しかし、同時に傷口から流れ出すものに対して違和感を覚えつつありました。


「剣にそこまでの殺傷能力が……いいえあり得ません。ならば一体」


 負傷箇所を手で擦ってみれば、すぐ塞がるはずの傷なのに出血が収まる気配がなく、流れ出る血が胸元にまで到達しつつありました。


『ちょ』

『あーね』

『RIO様毒状態なってるぞ!』

『あのスケルトン剣に毒塗っているタイプの奴か』

『いやこいつの場合微弱な毒のはずだろ』

『アンデッドとは』

『そうだRIO様ラックが最低クラスの評価だったな』

『HPゲージが毒に冒されてる……』


 コメントに従ってHPゲージを確認してみれば、目に優しい黄緑色から警戒色のような紫色となっていました。


 そしてもう一つ、状態異常欄に【毒】との文字が浮かび上がっています。

 はい。これで状況を呑み込められなければ鈍いと言わざるを得ないでしょう。


 毒に蝕まれ継続的にダメージを受けているために再生が機能していないのです。


「……今はエネミーの対処が先ですね」



―――――――――――――――


 スキル:ブラッドニードル


 説明:全ての傷口から漏れ出る血を無数の針へと固形化させ、相手へと射出する中級吸血鬼の妙技。

 細かな傷からでは微々たる本数となるが、死に追いやられるまでに負傷した際の威力は絶大。

 ただし、発動中は肉体の再生が止まる。


―――――――――――――――



 この状況を一旦前向きに捉え、塞がらない傷から紅い針の嵐を骸骨へとお見舞いして撃破します。


 その後善戦していて助太刀の必要が無さそうなフラインの後ろ姿を視認しつつ、すぐさまエネミーの気配が少ない場所へと移動しました。


「LUKの関係上状態異常の耐性が低いとは承知していましたが、まさか不死の体なのに毒が通ってしまうのですか」


 ホデッド迷宮では毒の状態異常は無いと置き換えて良いだのと、攻略サイトの情報を鵜呑みにした私が平均的女子高生でした。

 信憑性が無かった情報なんて破棄しましょう。


 種類によっては多くの生物が為す術もなく死滅されるという毒の忌々しき概念。

 無論ながら私には解毒手段を持ち合わせてなく、ここに来て企画終了かと死を迎え入れる準備をしていましたが。


『おいお前らよく見てみろ。HPゲージ減ってねぇwww』

『アンデッド>毒』

『実質無効化』

『RIO様を殺すにはもっと強い毒がなきゃいかんのか』


 そこは不死性に長けた吸血鬼、持ち前の体質が毒のダメージを相殺していたようなので安堵しました。

 価値観が現実世界基準となっている部分が所々根付いてる自分にとって、『毒』の一文字はそれだけで動転するに値したので、また次回以降留意する箇所が増えましたね。


 そして毒状態は時間経過に伴い自然治癒され、頬の傷は何事もなくスッキリ消え去りました。


「後は置き去りにしてしまったフラインが気がかりですが……おや、どうやら一掃出来たようですね」


 すると、エネミーを片付けた当のフラインが私の元へと低空飛行して戻ってきました。


【五月蝿いぞ! オレの体力はあと半分はある。貴様も戦え!】


 定型文だとはいえ怒鳴られてしまったのはゲームだからと割り切りましょう。


 フラインは所々に生傷を負っている状態のため、いくら元ネームドエネミーといえども複数のエネミー相手では圧勝とはならないようです。

 私の場合は傷ついても当然のように治るのですっかり失念していましたが、フラインのHP管理は怠らないよう努力しましょう。


『あっここは』

『もうボス戦前だ』

『ここまで大剣のゴリ押しのみという』

『ボスエネミーは油断ならん相手ぞ』

『レベル自体は敵だったフラインより低いがな』

『まずかったら試行よりも確実に勝つ方を選ぶんだぞー』


 視聴者様のお気遣い痛み入りますが、依然として方針に変更はありません。


「ふむ、つまりボスエネミーの部屋の前に到着しましたか」


 偶然か必然か、私の目の前には巨大な両開きの扉が鎮座しており、扉越しに血臭を探知してもあの骸骨集団と似た反応が微かにありました。

 骨だけのため血液は一切流れて無いはずですが、それぞれの得物に染み付いている黒ずんだ血に反応してるのでしょう。


 ちなみに仲間エネミーであるフラインは召喚は可能でも入室は出来ないとのことであるため、一旦宝石にしてから扉を開け放ちます。



―――――――――――――――


 エネミー名:リッチ・ロードLv47

 状態:正常


―――――――――――――――



 やはりボスエネミーが居ますね。全長数メートルもの巨躯に、ノコギリのような刀を得物とし、不格好にも王冠やマントだけを纏った肉片一つない骸骨の怪物です。

 この巨躯では生前もエネミーだと思われるため、対人間を想定した戦いは念頭から外すべきでしょう。


「何も気負う必要はありません。これは試行なのですから」


 さて、テーマとなった試行が真に始まるのはこれから。ただでさえ勝算不確かなボスですが、目標は「【黒影の傘】全ての戦闘用の形態を一度ずつ使用する」を課して臨んでみましょう。

 なお、最初に指定する形態は【黒隠の魔装杖】となります。


 ここまで温存したMPを開放させ、千変万化の戦闘を視聴者様へと魅せましょうか。

体調は少しだけ回復

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ギルマスらは普通に会話?とかできるのになぜフラインは定型分なんだ。。
[一言] このまま全快するよう祈ってる(=人=)ナムナム
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ