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試行&迷宮

 下校中に立ち寄った店内にも関わらず、恵理子にあられもない自分をさらけ出してしまったのは悔むばかりです。

 知人に目撃されたり弱みでも握られたならば、健全な平均的女子高生としての平穏な学校生活の難度が爆上がりでしょう。


 ですが、恵理子に甘え倒したおかげで疲労や倦怠感は梅雨明けのように消え去りました。

 恵理子の変態的行動は認めていないつもりでしたが、悲しいことに私も同じ穴のムジナということで共依存状態なのです。


「……そんな個人的な問題、仮想世界には持ち込む必要が無いのが救いですね。配信が不定になると言いつつ結局22時まで支度が長引いてしまいましたが、つべこべ言わず始めましょう」


 明日は休日、なので夜間の旅は恐らく今日限り。

 ベッドに横たわり、ヘッドギアを装着して仮想世界へと降り立ちました。



●●●



「視聴者の皆様、こんばんは」


『うぽつ』

『キターーー!』

『RIO様!』

『ぽつ』

『今日もふつくしい』


 皆様もう集まっていますね。

 冒険者やその他敵勢力は《血臭探知》で調べても反応無しだったので、労せず配信を開始出来ました。

 ちなみにMPはログアウト中に回復されるため、現在満タンまで溜まっています。


「今回のテーマは『試行』と、あえて漠然としたテーマでお送りします。手始めにダンジョンを攻略したいと思いますが、何か質問等があれば手の空いてる今の内にどうぞ」


『ダンジョンだと?』

『あれ、まともRIO様』

『残虐ファイトはしない感じか』

『おかしい、エリコみたいに普通の配信だ』

『おいお前ら、RIO様は平均的女子高生だぞ』


 むむむ、やはり失礼というか何というか、いえ、コメントとは本来こんなほのぼのとした雰囲気なのですよね。


「最終目的こそトップではありますが、私自身もプレイヤーである以上、エネミーと幾度となく戦う機会があるはずです。なのでこの新たな装備の紹介を兼ねて、手頃なエネミーの巣窟を踏破してみたいのです」


『紹介がてらダンジョン荒らす奴』

『あっそうだ、なんなんこのメカニカルな傘』

『俺BWOかなり詳しいと自負してるがぶっちゃけ知らん』

『また新要素か隠し要素拾ってきたなRIO様』

『ワクワクしてきた』


 ふむ、パニラさんみたいに闇の生産職に身を置くのは、全プレイヤーを通しても滅多に起こり得る事態では無いのですかね。

 その点については、エリコのリスナーさんから前代未聞と称されているらしい私と同類なのでしょうか。類は友を呼ぶと言われますし。


「さて、これより第三と第四の街の境界線上に存在するダンジョン【ホデッドの迷宮】へと赴きます。トラブルが起こりがちなプレイスタイルの私なので、ボスエネミーまで直通のルートを選びます」


『りょ』

『頑張れー』

『キャーRIO様ー!』

『よりによって初見の撃破報告少ないとこ選ぶとは』

『RIO様初見な上にソロなんかよww』

『肉体操作は使わないんだな』

『うーん。これはこれで』


 自由な探索も悪くないですが、同じ場所で宝箱探しやエネミー狩りにでも勤しんでいれば、そのうちお察しの方々が不意にやって来てしまいますから。

 迅速に踏破し、速やかに退散する。実践練習のつもりなのに死と隣り合わせとなるスリルがいくつも伴うのはこれいかに。

 まあ簡単とつまらないはイコールになりがちなので、それくらいは課しても良いでしょう。


 足早に丘陵地帯を抜け、宣言通りに入口へと到着し、数ある変形先の中で最も体に馴染んだ大剣を手に握りしめつつダンジョンへと侵入しました。



▼▼▼



 ここに出現するエネミーは私よりもレベルが下ではあり個の力量のみなら勝りますが、ダンジョンに挑む際に本来目安とされている四人パーティーの編成では無いため、想定以上に手間取るかもしれません。


「ふふ、ダンジョンとはとても素晴らしいですね。悩ましい日光についての対策を考えなくとも……むう」


 素晴らしいと言った矢先、嘔吐感をもたらされる臭いが漂うのは何故……。手を替え品を替えながらも、お約束みたいに酷似したパターンが続くのですか。


 悪臭の方向に振り向いてみれば、まだ上層階なのに、途轍もなく生理的嫌悪感を催すエネミーが現れてしまいました。



―――――――――――――――


 エネミー名:バーサク・リビングデッドLv35

 状態:狂乱


―――――――――――――――



 この人型の者が人でない動きをする点はこれまで嫌ほど見てきたので良しとします。


 しかし、これは私の眷属と違い、死後何ヶ月経過したのかも想像したくないまでに傷んだ腐乱死体となっており、その他こちらや同族のエネミーへ敵意を剥き出しにしては噛み砕きにかかる見境の無さと、戦闘力とは別ベクトルで嫌らしいエネミーです。

 エネミーがエネミーを倒せばパワーアップ&レベルアップしてしまうので、敵の内輪揉めは一概にメリットとは言えないのもまた理不尽要素でしょう。


『ここでヒソヒソ豆知識、こいつは生前人間だった奴だとか』

『↑お? 知識自慢か?』

『いや、元人間なら血とかも普通に吸えるんじゃねえかと』


 なるほど、肉体や血管が残っているため《吸血》は可能のようですが、選り好みはさせて下さい。


「はあっ」


 倒すよりは遠ざけるために大剣を行使し、紙の防御力しかないリビングデッドを撃退しました。


 不潔極まりない屍肉の感触は、別の感触を記憶から呼び覚まして早いとこ忘れましょう。

 私にとって最も気分安らぐ匂いと感触は、もっとこう制服越しに伝わるほんのりした温もりがあってぷにぷにで……これも忘れましょう。


『ここまで殺戮に抵抗感顕してるRIO様初じゃね』

『でも誰だって抵抗あるだろ』

『なんかRIO様調子悪そう』

『眷属の成れの果てがこうなるって思っちまったのかな』

『見間違いかな。一瞬幸せそうな表情してた気が』

『よし。RIO様が汚物を嫌がってる場面で興奮する変態はいないな』


 私の配信って、一体どの辺りの層が中心となって視聴しているのでしょうか。


「……無限に湧き出てきますね。埒が明きません」


 この迷宮に出現するエネミーはアンデッド系中心であるとの情報は掴んでおり、率直に言ってどうせ眷属化した者とそっくりさんばかりだろうと慢心していた節がありましたが、そんな浅はかさを恨めしく思いつつあるばかりです。


 なので大剣の刃で手首に傷をつけ、助っ人を召喚します。270もある武器の攻撃力のせいで私のHPが7割も減ってしまったのはどうか見なかったことに。


「フライン、私は最奥を目指したいため、進路を阻む敵のみ討ち倒しなさい」


【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】


 病原菌まみれのような敵を前にしても意気揚々と参上するフラインは安心感を与えてくれますね。


 私の場合、アンデッド相手との不快感催す戦闘にはいずれ慣れるでしょうが、順応出来てない内はフラインに任せるのがベストです。


『フライン頼れる相棒』

『もうRIOちゃんねるではメインキャラの一角』

『その気になればフラインとのパーティープレイになるんだったな』

『RIO様痛覚無いから自傷でHP全損してても気づかなさそうで怖い』

『レベリング効率わっるw』


 しかし、フラインがエネミーにとどめを刺せば経験値やドロップが発生しなくなるのは痛いですね。

 そこのところは全プレイヤー共通の仕様ではなく、場数を踏んだテイマーやサモナータイプの冒険者にのみ権利があるのだとか。


「おや、新顔が現れましたね」



―――――――――――――――


 エネミー名:スケルトン・ソルジャーLv40

 状態:正常


―――――――――――――――



 途中途中発動している《血臭探知》から違和感ある反応を察知した矢先、黒ずんだ長剣のような武器を手にした動く白骨死体の群れがこちらを取り囲んでいました。

 有象無象のリビングデッド達と比較して、生前の違いが如実に現れたかのような統制の効いた包囲です。

 この密集具合では、視界外に十は下らない数が控えているかもしれません。


「ふむ、しかし数だけなら他愛なさそうです」


 こちらとしても、先程とは異なる点があります。

 それは、ある意味難敵だったリビングデッドとは異なり、骨だけとなった死体ならば素手で触ったとしても平気だという点です。


「フラインは後方を担当して下さい。私は前方に立ち塞がるエネミーを斬り伏せます」


【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】


 即座に指示。守りに回るよりも強引に突破するのが、包囲から切り抜けるための正解に近いでしょう。

 幸いにもここは次の分かれ道までが遠い直線の通路。指示通りスケルトンソルジャーへと向かったフラインを尻目に、こちらも大剣を構えて突撃します。


 ……とその前に、このエネミーは群れだとはいえレベルでは格下、つまり比較的安全に試行ができるチャンスなのです。

作者に某ウイルス感染の疑惑が出てる件

陽性でなければ更新を続けられる

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― 新着の感想 ―
[一言] まじかよ作者が陰性ですように(=人=)ナムナム 万一陽性でも不顕性もしくは後遺症無しですように(=人=)なむなむ
[良い点] ・改行のタイミングがよくて読みやすい。 ・キャラクターが印象的で覚えやすい。 ・ぜひ書籍化してほしい。 [一言] お大事になさって下さい
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