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交渉&変形

数値以外の部分で欠点がある。

「パニラさん、私のためだけにこのような武器を製造していたなんて……闇堕ち武器職人の鑑ですね」


(闇堕ちこそ最大の力。照れるぜ)


「口調が安定しないひょうきんな性格こそ、才の秘訣なのですかね」


 この人の底の知れなさには、正直に言って戦慄しそうです。

 傘という雨や雪から人を濡らさない役割のありふれた道具に、剣や銃など命を奪う機能を多数内蔵させるなんてある種の執念を感じ取りましたので。


 こんな道具がもし現実世界で傘立てにささって存在していたら、という妄想が一瞬頭をよぎったほどです。

 だからこそ、この多彩なる変形機構が違法たる所以なのでしょう。


(RIO様専用の秘密兵器のつもりとして作ったから。でもRIO様には武器を使う《スキル》が全く無いから、開き直っていっぱい機能増やした)


 そう伝えてきましたが、得物は短剣一徹でひた走るつもりであったのに、いきなり武器を臨機応変に切り替えながら戦えなんて言われても自信が縮小しそうです。

 それに武器系のスキル……、私の弱点がまた一つ浮き彫りとなってしまいましたね。


(お値段は無料でいい。その代わり、パニラちゃん印のこの新装備をちゃんと配信で使ってくれればいい)


「ふむ、そんな破格の条件で良いのですか」


(うーん、他には……あわよくばRIO様のスポンサーになりたいかな。なんちゃって)


「スポンサーとは、上手い契約を考えましたね」


 この人、さてはお近づきになりたいだけでなく掴んで離さないつもりですかね。

 腹の底がいまいち知れない間は、深くは馴れ合わない方が賢明なのかもしれません。


「取り返しのつく内に忠告しますが、悪役ロールプレイ中の私なんかと協定を結んでも大したメリットにはなりませんよ。それどころかRIOに加担した輩と糾弾され、復讐後に尚更真っ当に生きられなくなってしまわれます」


(別にいい。私の造った装備品で冒険者の独裁政治をめちゃくちゃにしてくれれば。私なんかもうどうなってもいい)


「む、強情ですね」


 ここまで引き下がらず私怨一貫でせがまれてはこちらが折れそうです。

 それに、この日傘に擬態した殺戮兵器をみすみす手放すのも惜しい。現在装備中の武器である初心者用の短剣はSTRの上昇値がたったの「1」しか無いと、改めて項目を見直したら判明しましたので。


 なのでここは無下にせず、やんわりと妥協案を提示しましょう。


「私は私でトップを目指す目的のみを尊重し、冒険者の独裁政治とやらを潰すのは二の次となりますが、それでも構わないならその傘を受け取ります。いいですね」


(分かった。まいどあり☆)


 どうやら交渉が成立したようです。

 私だって、パニラさんと視聴者様のどちらかを一方のみに肩入れ出来ませんので、自分意思に従ったまでです。

 優柔不断云々より、バランス良く両者を納得させる技量をどうにか携えるしかありませんね。



―――――――――――――――


 パニラから【黒隠の傘】を0イーリスで購入しました。


―――――――――――――――



 購入した物品は基本的にインベントリへ収納されるので、取り出して使ってみましょう。


 指定が無ければ自動的に利き手に現れるため、そのまま右手に転移したのを確認したら、まずは出っ張りとなっている部位、所謂下はじきを押して傘を開かせました。


「骨組みや持ち手まで傘そのもの。女性が持つにしては大きめですが、この重量、傘の形態のままでさえ攻撃力が備わっていそうですね。その上日傘としての性能も申し分なしです」


 そうパニラさんに視線を落として呟きました。

 低範囲ながら真夜中を生み出せる遮光性には、まさに吸血鬼の天敵となる日光を完全に遠ざけるまでの説得力が伝わります。


「っ」


(でしょでしょ。丈夫で長持ち、気持ちを込めて作ったから)


 パニラさんは鼻を鳴らして得意気です。

 込めた気持ちとは消費者へのまごころか、それとも冒険者に対する恨みか、いずれにせよ形に変えて使いこなせてみせましょう。


「では次のステップで形態変化を行いますが、まずは片手剣の形態にします。やり方はありますか?」


(剣の形をイメージしながら、「変われー」って思うだけで変形する)


 どうやらスキルと似たような稼働方法のようです。

 変形時に何かと消費するようですが、私のMPを電力のように注いで動かしている仕組みでしょうか。


 ともかく実践しなければ分かりません。

 まずは基盤となる剣のイメージを思念し、次にガチャガチャと金属音を立て始めた傘に注視してみます。


「確かに、これでは変形としか名状できませんね」


 骨組みの構造がパーツ一つごとにバラけ、これから剣の柄となる持ち手の部分に生地が巻かれつつあるため、手を離してしまいました。


 一秒……二秒……三秒。変形中無防備となってしまう時間は把握完了です。


 そして再び手に収まった途端ズッシリとした重みが腕に伝わり、先程まで日傘だったものが、私の背丈を優に超える刀身をもつ両刃の剣へと生まれ変わりました。


「……あの、片手剣にしては巨大ではないでしょうか」


(ミスってる。正確さよりも大きさを優先的に想像するのがコツ)


 どうやら判定が厳しく、【黒隠の魔装大剣】に誤変形してしまったようです。剣の変形先は三種類あったためそれが起因したのでしょう。


 この際丁度良いので、手に馴染められるか虚空へ試し振りをしましたが、なるほど、STRがS評価ともなると片手だけでも難なく扱えるようです。

 ただし、両手でなくても扱えるだけで消費する装備枠が片手だけになるとはどこにも書いていないのが重要なポイントとなっているのだとか。


(一回覚えこんだら、次から間違えないで変形できる)


「分かりました。記憶力は有り余るまでに自信があるので、もうミスは繰り返しません」


 大剣はこれ以上調べたい要素が無いので、次は機銃の形態へ変更させます。

 特撮でありがちな連射式の銃を思念するだけですぐ大剣が反応し、また同じ音を立て、剣としての原型を留めないまでに崩れ、ブロック状の形となりそれぞれが結合しました。


 変形に必要な時間はこちらも約三秒、まるで破壊と創造が僅かな間で同時に行われているかのようでした。


「ふむ、今度こそ変形成功ですよね」


(完璧)


 さて、機関銃のような姿へと変えたこの剣は、次回以降変形する際に想起出来るようイメージとして塗り固めましょう。


 この【黒隠の魔装機銃】をまじまじ眺めてみると、吸血鬼の暮らす闇に溶け込む黒の銃身で、小さな箱がお誂え向きに付随されていました。


「全く不思議です。これまで影も形もなかった弾薬箱があれば、大剣の刃はどこかへと消えてしまっています。この不可解な構造も、パニラさんの技術力の賜物ですね」


(イェイ。でもその質問は企業秘密。だから違法なの)


「ううむ、購入した物が未だに謎だらけなのは不服ですが……、使用に支障がなければ追求しません」


 そう言い、土壁へと銃口を向けつつ引き金を引いて、20発連射してみました。

 本当は1発単位での調整も可能でしたが、理由あっての20発です。

 威力は土壁に穴が空いてめり込むほど。銃声は傘が変形する機械音よりも軽いのが、一転してシュールさを醸し出しているように思えなくも無いですね。


(弾数は無限じゃないよ。そんなに撃っていいの?)


「念のため不発弾のチェックも兼ねました。ですがその心配は不要でしたね」


(でも、次に弾薬を買う時は有料だからね)


「はい、承知しています」


 平均的女子高生のため機銃の知識は疎いですが、不発弾が混入するとしたらこの確率かもしれないと訝しんでいたからです。

 ですけど、今後パニラさんみたいな商売人が都合良く現れるとは限らない以上、不用意にこの形態を使うのは控えるべきでしょう。


 この後全ての形態変化を試してみましたが、総評としては、どれも非常に手に馴染み非常に強力と800点満点。変形時に発せられる音の都合で隠密行動には向いていないのが看過できない欠点ですが、それを補って余りあるまでに無二の性能です。

 器用万能な長所と一点のみの致命的な短所が同居しているとは、まるで吸血鬼のようですね。


 日光対策と武器としての用途を兼ねているこの傘型戦闘兵器は、これから冒険者ギルドへ襲撃する時に役立つでしょう。


「私にこの傘を渡す目的を果たしたのなら、パニラさんはこれからどうするのですか?」


(この街から出ていく。でも大体RIO様の近くにいるから、また会えると思う)


「おや、言われてみればパニラさんは地上へと出向いていましたね」


(うん。私、裏社会の地位があるから顔パスで出られる。1万イーリスしか懸かってないから滅多に追われないし)


「む、余計な推察をして損をしました」


 なんだかこの人、戦いのセンスと引き換えに処世術に長けたステータス評価が別欄であるような気がしてきました。



―――――――――――――――


 アイテム:鑑定石(初級)

 説明:自分のステータスが現在の状態で一回のみ開示される粗悪品。

 長時間の開示を求めるなら、より上級の鑑定石を手に入れるしかない。


―――――――――――――――



 そしてパニラさんからオマケとして鑑定石(初級)を一つ頂いたので、すぐに使用してステータスを確認してから地上へと赴きました。


 ……この鑑定石、自分だけの数字しか見られないのなら、他者と比較しての評価は下しようがないという重大な欠点がありました。つくづく私には有識者からのコメントが必要なのですね。


 それでは、配信を再開して冒険者ギルドに居る夜食をつまみに参りましょうか。

 後書きならステータス載せてもセーフ。


―――――――――――――――


 名前:RIO

 種族:バトラーヴァンパイア

 所属組織:無し


 レベル:40

 所持金:10100イーリス

 カルマ値:-4350


 ステータス評価(装備の上昇値は除く)


 HP:A+

 (333/333)

 MP:B

 (200/200)

 STR:S

 (440)

 DEF:D+

 (109)

 AGI:A

 (280)

 INT:B+

 (222)

 DEX:A

 (300)

 LUK:E

 (25)


 スキル

 《吸血》

 《眷属化》

 《ブラッドニードル》

 《血臭探知》


 魔法

 《闇の気弾》


 体質

 《アンデッド》

 《光属性弱点極大》

 《肉体自動再生》

 《HP自動回復》

 《暗視》

 《行動不能耐性+100》

 《肉体操作》


 称号

 【飛翔の悪魔将を越えた者】


 装備

 右手:黒隠の日傘(DEF+50)

 左手:無し

 頭:悪魔将のピアス(INT+60・DEX+50)

 体上:悪魔将のワンピース(DEF+40)

 体下:悪魔将のスカート(DEF+40)

 体下:悪魔将の靴(AGI+35)


―――――――――――――――


 ストックが消えつつある。

 何卒、ブックマークやポイント評価よろしくお願いします

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