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誰か&秘密

日刊3位に落ちましたがあの名作相手には勝てぬわ

 あまり血臭ばかり嗅いでいれば、いくら吸血鬼だとはいえ鼻や脳が麻痺して嗅覚が狂ってしまうので、すぐに《血臭探知》を中断させました。


 ここまで嗅覚に無理させて手間をかけなくても、あの酔っぱらいの眷属が順調に味方を増やしているのを臭いで確認出来たので、今回のところは必要性が薄いでしょう。


『また街が血の海に……』

『つーか冒険者誰も来ねぇw』

『アムルベールははじまりの街より断然広いし暗いから捜索されたとしても発見されにくいぞ』

『それに死角も多し』

『RIO様今日は放任主義だな』


 ……拙さや未熟さが露呈されていた昨日の頃とは異なり、今回のテーマにするまで水面下での行動を意識したいですからね。


 しかし冒険者の血臭を探知した結果、人数が二桁と比較的少なめでしたが、案外理に適っているように思えます。

 サービス開始から三年も経過すれば十や二十を超える数の街が点在するため、こんな第二の街如きに滞在するプレイヤーは殆どいないからでしょう。


 そんな考察をしていた時でした。


「……何者?」


「……」


 私の腰辺りを何者かからポンポンと叩かれました。

 反射的に振り向いた先には、能面のように無表情であり、私の腰辺りまでの背丈に、年端も行かないイギリス人形のような女の子が、A5サイズのまな板のような物体を握りながら忽然と佇んでいたのです。


「もう捜索の魔の手が迫っていましたか。いけませんね」


 血臭探知を解除する前、少なくとも十メートル以内に冒険者はいなかったはず、それでもこの板があなたの得物ならばと手刀での破壊を図ろうとしましたが、すぐに攻撃を取りやめる訳が――書かれていました。


「っ……」


(まって、わたしはりおさまのてきじゃない)


 その女の子が掲げている板をよく視認してみれば、なるほど、これはファンタジー世界にはミスマッチ感満載だとはいえ意思疎通用道具のホワイトボードでしたか。

 敵意を感じられない無垢な瞳を向けられているため、自覚しない内にこちらの戦意が鎮められてしまいます。


『冒険者ではなさそうだな』

『あれ俺引退する前の日にこの子と話した覚えが……』

『油断するな! RIO様って文字書いてる時点で身バレしてる!』

『人間は敵ぞ』


 そうでしたね、ここまで隠蔽しているRIOの名と正体を見抜いているならば、相手が幼かろうとも関係ないのです。

 容赦を棄てて攻撃を再開しようとしましたが、その瞬間ホワイトボードには別の文面が浮かんでいました。


(わたしのぷれいやーねーむは"パニラ"。わたしはりおさまとおなじざいにん。おなじだから、てきじゃない)


 ペンを使った形跡が無く、なのに文字の移り変わりが速い。

 そしてやけに柔らかな文字から伝わる度合いの高い信頼性により、無意識の内にこちらの攻撃する意思が削がれつつある。

 まるで私の獰猛な意思に反応して言霊でストップをかけるように。


 ――という高尚な表現をしましたが、この一言も発さない女の子に戦う意思は然程もなさそうなので、追っ手の冒険者である可能性は低下しましたね。


「さて、そちらが敵でないとしても、私はあなたに問答無用で危害を加える可能性がありました。そんな危険を冒してでも私に用があるのですか?」


『ちょ』

『あのRIO様から殺意が少し消えた』

『まさかコミュニケーションとるとは』

『まともに対話するなんてレアRIO様だ』


 これはこれで賭けです。

 刺客の疑いがある人物に手を出せないでいるのは不味いですが、不用意に先走るのもまた不味い。

 万が一の荒事の備えとなる短剣をインベントリから取り出しつつ、目的を探り出すのが最も得策でしょう。


「っ……」


(りおさまにあんないしたいところがあるから、きたの)


「案内ですか。ならば宿かギルドか、どこへ連れて行くかを先に答えて下さい」


(いけばわかる。いかないとわからない)


「むむ」


 油断大敵です。

 極力刺激させないよう……もう遅いかもしれませんが、視聴者様と相談しながらこのパニラと文字で名乗った女の子の取り扱いを決めたいですね。


『誰か素性調べた奴いる?』

『いや冒険者じゃないなら悪名高い犯罪者以外は調べようがないだろ』

『もしやRIO様専用のクエスト……ないか』

『いやまだ諦めちゃいかん』

『思い出した。懸賞金1万のあの子だ』

『↑ナイス!』


 早速コメントの中に有力そうな情報がありました。

 前提となる素性は一旦それに決めましょう。


「視聴者様、情報提供ありがとうございました。今から私はこの方を信用することにします」


 そうカメラに向け、これよりの方針を述べました。

 賞金225万の私と比較すれば小粒程度の額とはいえ、よもや賞金首を信用してしまうなんて平均的女子高生だとはいえお人好しが過ぎたでしょうか?


 まあ1万ぽっちしか懸けられて無いなんてほぼ危険因子じゃないと判定されてるようなものですしね。だから同じ賞金首として信用してもリスクは少なめだと思ったのです。


「ウッ、ウガアアア!」


 熟考していた時、眷属化されていた住民の一人が餌を求めてこちらへ襲撃しにかかりました。

 私の眷属のはずですが、まさか下剋上か反乱のイベントでも……、というより隣で小刻みに震えているパニラさんを捕食しようと狙っていますね。


「命じます。このパニラという少女に手を出すことは許しません」


「ヴ……」


 すぐに躾け、意外と融通の効いた眷属を退かせました。

 どうも指示の変更は視界外にいる者へは出来ないらしいのですが、また別の眷属が同行者に襲いかかったのなら随時命令しましょう。


 耳をすませばうめき声の数が着々と増えつつあるためこの様子だとアムルベールは順調に蝕まれつつあるようですが、これからパニラさんと施設であろう場所まで同行するのに大丈夫なのでしょうか。


(ありがとう。こっちこっち)


 視聴者様にも言い切ってしまいましたし、行くと決断してしまったなら背くわけには参りませんね。

 握られた手に導かれ、私の眷属であるアンデッド蔓延る街並みを足早に巡りつつ、その片手間に眷属達へ抵抗している冒険者を適当に始末しながら街外れの井戸まで連れて行かれました。


「もうこの街は長くは持たないようです……が、あなたの文字の通りに来ましたが、私に何をさせるんですか」


『まだ遅くない。殺れ!』

『アンブッシュ!』

『懸賞金! 懸賞金!』

『おまいら好戦的だなぁ』


 ……実は視聴者様の意見も一理あり、この場所、これみよがしに掘られてある井戸以外は特徴的な建物が見当たらず、むしろ物陰の多い路地なのでそこから辻斬りでもされかねない状況に当たります。

 ここは《血臭探知》を再発動させて敵性反応を嗅ぎ分けましょうか。


「っ……」


(ここ。このざっそうのやまに、かくれているればーをひくだけ)


 その直前、しゃがんでいたパニラさんは大きなカブでも引っこ抜くかのような動作を取って何かを動かし、ガクンと勢い余った拍子に微笑ましく尻もちをついた途端、何重もの重厚な扉が一斉に開いたような物音が響き渡りました。


「っ」


(おっけー)


 パニラさんはこちらへ振り向き、尻もちなんて知ったことではないと決め顔で親指を立てていました。

 なんとまあ愛らしい一面もあるのですね。もしプレイヤーでなければ安心のためにも非戦闘員の眷属にして飼いたい欲求に駆られそうです。


 そんな柄でもない煩悩をかき消し、物音が響いた方向へと目線を移します。


「……これは、隠し通路とでも言いたいのですか?」


 茶土以外何も無かった地面に地下へと通じるであろう階段が現れていたのです。

 不自然に設置されていた井戸は、この仕掛けがある目印なのかもしれません。


(うん。もうちょっとついてきて)


 案の定文字で応答してくれたパニラさんがそそくさと潜るようにして進んで行きました。


 ここまで来てしまったなら今更疑心暗鬼に苛まれても仕方ありませんね。もし罠だったなら自力で対処すると留意し、腹を括って着いて行きましょう。



▼▼▼▼



(りおさまにこのまちをしょうかいしたかったの)


 地上の街は増殖しつつある眷属達に目を瞑れば特段当たり障りのない景色でしたが、このジメジメした空間を"街"と呼べるのがまた不思議ですね。

 何故なら最早土をくり抜いて掘り進められただけの洞窟そのものですよ。

 透明な石柱が淡く光って照らしているおかげで暗視無しでも不自由無く歩けますが、こんな場所ではすぐそこに爬虫類やそれに準ずるエネミーでも潜んでいそうです。


 ちなみに、すれ違う人々はどこか思い悩んでいる様子のNPCが殆どを占めていました。


「これが街ならば便宜上ここもアムルベールに含めても良いのですか?」


(うん)


「ではこの街の入口は、先程通った所だけですか?」


(うん)


「ならば眷属達がここへ踏み入りはしなさそうですね。つまりこの場にいるアンデッドは私のみなのですか?」


(うん)


 質問攻めをしても文字が全く変わりませんでしたが、パニラさん自体はコクコクと頷いているので律儀に答えていると言って差し支え無いですね。

 この奇特な人をどう扱えば良いか大体読めてきました。


『アムルベールにこんな場所あったんだ』

『RIO様まだ警戒してるな』

『そりゃダンジョンみたいな所歩かされりゃあ』

『RIO様ちっちゃくなって』

『↑おいこら』


 ……一見おふざけ半分のようなコメントでしたが、このような狭いスペースでは小柄となった方が多少は動きやすくなりますね。 

 それにこの街には喧騒も活気もなく、そもそもパニラさんに正体を知られてしまったため、もう偽装を続ける必要性が失せているので姿を元に戻しましょう。


「っ……」


 上の空でホワイトボードから意識が逸れつつあった私を正すようにフレアスカートの裾を引っ張っていました。

 ログインしてから大分時刻も経ちましたが、時間だけで注意力が欠けてしまっているのは元も子もないですね。


 そう戒めつつ、ホワイトボードに目を向けてみます。


(これからひみつのはなしをする。りおさまがいやじゃなければでいいから、はいしんをきってほしい)


 ふむ、どうやら思っていた以上に重大な用件らしいです。

今日はもう1話更新できるんです

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