初ログイン&吸血
配信系のジャンルに触発されました
ロード時間でもあったのか、何分も続いた浮遊感が幕を閉じ、大地へ降り立った感覚が足に伝わります。
「うっ。まさか火災ですか? これは酷いですね」
しかしどうしてでしょう。近い場所からくる焦げ臭いニオイが鼻孔に悲鳴をあげさせています。
即座に腕で口元を塞いだ後、ふと目を開けてみれば黒煙が視界を覆い尽くしています。光の次は闇に包まれるのですか。
まさか初期地点が丁度火事現場の中心なのか、幸先悪いスタートで自分の今後やこのゲーム自体が思いやられます。
「ううむ、果たして何が起こっているのか。……いいえ、信じ難いことにこれらは私自身から発せられている現象みたいです」
煙の間に目を凝らして自分の手を見れば、痛みを感じていないのにも関わらず轟々と炎が燃え盛っていたので間違いないでしょう。
予習外の出来事が立て続けに起こったために混乱しましたが、謎が一つ解明したのは前進ですね。まだ私は混乱の最中ですが。
「煙を吸っても咳き込まないのはどうして……おや」
戸惑っている内に、視界左端にあるHPと書かれたバーが空になっていました。
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《RIOが死亡しました》
《レベルが1なのでデスペナルティはありません》
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ログのメッセージが届き、視界が暗転しリスポーン処置を受けてしまったようです。
もはや即返品レベルのクソゲーとしか感想がありませんが、右も左も分からない初心者だからと甘んじて受け入れ、もう少し続けてみましょう。
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「あっちゃー。お嬢さん無事ですかい?」
気さくそうな男性に声をかけられ目を覚ましました。場所はどこかの教会の内部ですね。
生命力を表すHPの数値が0になり死亡すると、基本的に数分の待ち時間の後に最寄りの教会へと送還されます。
頭が破壊されたり亡骸が完全に消滅したり等をして復活不能な状態に陥ると待機時間無しで送還されるので、今回の私の場合がそれだと推測できます。
発火は嘘のように消えていますね。
でも目前の彼が救助してくれた線は薄いでしょう。ちゃんと死亡しましたので。
「あなたが介抱を担当してくれたのなら感謝します。少々お待ち頂けますか」
「おう。いつでもいいぞ」
言動のみならず背格好や物腰も善人なようで良かったです。
さて、私が第一に行うべきは配信です。予め開設したアカウント「RIOのチャンネル」を参照させ、ライブ中継として繋げ撮影を開始します。
「はじめまして。RIOと申します」
浮遊する小型のカメラのような物体に顔を向け、目の前に人がいると想定して話しかけてみます。
『うぽつ』
『うぽつ!』
『プチ・エリコの紹介から来ました』
『新規さん? 珍しいね』
『あらかわいい』
『胸デッッッッッ!』
ぽつぽつとエリコのリスナー様からのコメントが現れましたね。
プチ・エリコとは絵理子が動画内で使用しているハンドルネームです。
コメントの一つに、私の身体的特徴について言及している不届き者がいますが、今一度自分の体を確認すると肌が色白となっている以外は現実世界と概ねそのままです。
視聴者様の見えない所では、犬歯が殺傷能力を持つまでに鋭利になっているのを舌で確認できました。
格好はレディースのノースリーブとさほど不自然ではなく、腰には脇差サイズの短剣が携帯されています。
『とりまステータスカモン』
『ステータスみせて』
そう視聴者の方に促されたため、こちらの世界での自分が何者なのか知るため、コメントに従いステータス欄を開きます。
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名前:RIO
種族:半吸血鬼
所属組織:無し
レベル:1
所持金:0イーリス
カルマ値:0
ステータス
HP:A(満タン)
MP:B(満タン)
STR:A
DEF:D
AGI:B
INT:B
DEX:A
LUK:E
スキル
《吸血》
魔法
体質
《アンデッド》
《光属性弱点極大》
装備
右手:初心者用の短剣
左手:無し
頭:無し
体上:初心者魔物族用の服上
体下:初心者魔物族用の服下
足:初心者魔物族用の靴
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『ちょ、職業欄が種族になっとるwww』
『半吸血鬼って追加要素か?』
『いやでもリリース初期に魔物プレイヤーはいたぞ』
『どれもピーキーな性能ですぐ消えたけどな。攻略サイトでも非推奨されてる』
『でもステータス評価全体的にたけぇ』
『魔法覚えとらんし肉体派なステやな』
キャラメイクの体をなし得なかったキャラメイクの時に疑問だった種族とは、視聴者様でさえほぼ不明点な模様です。
さて、BWOでは自分のステータスが漠然とした英字でしか分からないのが大きな特徴です。
その上、ステータスはどちらかといえば成長性を評価する意味合いが強いのです。
評価Cが可もなく不可もなく、Eは全レベルを通して極めて伸びづらい最低評価ですが、AともなるとBとは大いに水をあけるほど成長していきます。
詳しく知りたいなら、ギルド等の主要施設での鑑定や鑑定石のアイテムを使用してから調べるしかありません。
そして先程死亡したのはきっと光属性弱点極大による影響でしょう。
景色が暗転する直前に真っ赤な太陽が見えましたので、伝承の吸血鬼が苦手とする日光に焼かれたと考えるのが自然です。
高水準のステータスは心底魅力的でしたが、《光属性弱点極大》一つでまるっと帳消しになるほどのマイナスな体質ですね。
「それにしたって、日光に照らされるだけではい死亡だなんて、ピーキーにしても理不尽極まりないですよね」
『てことはさっき死んだのかよww』
『開死葬送』
『このゲーム理不尽な側面あるしこんくらい……ないな』
『清楚に見えてまさかドジっ子系だった件』
ふむ、コメントの扱いに慣れてきました。
焼かれても痛みを感じなかったのはおそらく《アンデッド》の影響であり、全身の痛覚が遮断され、回復アイテムの効果が真逆になる体質だと存じています。
アンデッド系エネミー全般がそうであり、私も火だるま状態に暫く気づかなかったほどに効果が明確です。
「そろそろいいですかいお嬢さん」
「ええ、お待たせしてしまいました」
しびれをきらした男性から話しかけられたので、耳を傾けます。
「すまねぇ。あんたのステータス欄を覗いちまったが、魔物族だったんだな」
「そのようです。人外の存在となってしまったのは確かです」
「魔物族は俺ら人類が絶滅させるべく敵対している連中だ。大勢の人間がそいつらに食われて命を落としてる、だからお嬢さんのような奴はあまり受け入れたくねぇんだ」
善良そうな男性の表情が憤りによって歪んでいます。
確かに人間社会を成り立たせる人材を失わせたのなら魔物族の存在は許されざるのでしょうが、それをまだ何もしていない私に矛先を向けられても困ります。
『おっさん激おこやんけ。レアじゃん』
『まあ異世界ファンタジーじゃ魔物は敵が基本だしな』
『魔物系のプレイヤーと区別するために「エネミー」呼び。みんなも間違えないようにな☆』
コメントから察するに、彼からはよほど気に入られていないのでしょう。
吸血鬼と何らかとのハーフのような種族ではありますが、どうやら魔物成分が濃いようなのでここまで嫌悪されているのでしょうね。
「しかしだ。それでもお嬢さんは来訪者の一人だ。迫害されながらの冒険になるのはすまんが、じっくり時間をかけて徳を積めば、そのうち毛嫌いする奴はいなくなるはずさ。俺は信じてるぜ」
『お、意外と寛容』
『解決法あるみたいだぞ。良かったなRIOさん』
コメントは一旦置いといて、来訪者とはすなわちプレイヤー全体の総称です。
魔物族のレッテルを払拭するまで善行を繰り返せば住民から受け入れられるらしいので、まさにこのゲームの自由度が伺えます。
「まずはどこか金を稼げるようにしねぇとやりづらい。そこんとこは冒険者ギルドがオススメだ」
「冒険者のギルドですか」
「ああ。魔物族なお嬢さんでも俺が口添えすりゃすんなり一員になれるはずだ」
「なかなか顔が広いのですね」
「まあな。ここはじまりの街では自慢じゃないが俺は説明過充分のラスりんおじさんって呼ばれてんだ。ついてきな」
そう促され、ラスりんおじさんとやらは背を向けて歩き出します。
ですがラッキーです。まさかこの場で試行できるチャンスが訪れるとは夢にも思いませんでした。
事前学習はそこそこ終えた私ですが、まだまだ未知なる事柄が沢山あるのです。
こうした未知の事柄は説明されるよりも実践して覚える方が性に合いますので、早速実戦すべくラスりんおじさんに駆け寄って跳躍します。
「親切にして頂き恐縮ですが、そんなことはどうでもいいのでせめて糧となって下さい」
「あ? お嬢さん今なんて……っぐあああっ!?」
恵理子の動画を脳裏に過らせ、強く念じるというスキルの発動方法を記憶から辿り、おじさんの頸動脈目掛けて爪を突き立て《吸血》を使用しました。
『え』
『え?』
『へ!?』
『やっちまったな』
『放送事故』
『ちょ』
『お前さん例のGルート目指すつもりか!』
『神回確定』
『盛 り 上 が っ て き ま し た』
基本主人公しか活躍してない