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正義も悪も過ぎ去った日

残り5話くらい

 冒険者ギルドが晴れて滅亡を迎えてから翌日。


 最終決戦を勝ち抜いた私達六人は、はじまりの街の前を待ち合わせ場所として一同に会しました。


「おはようみんな、久しぶりにぐっすり眠っちゃってた」


 そうパニラさんは瞼をこすりながらしみじみ呟きました。


 今日ここに集まった理由は、せめて最後に挨拶をしたいからだと。

 言葉も残さずふらっといなくなるほど、情を失ってはいないでしょうからね。


 隣のお二方も同様です。


「とうとう、復讐の戦争も仕舞いじゃ。わらわ達、ここまでやり遂げられたのじゃな……」


「しかも幸せなまま終われるとは、幸せだ。重ね重ね感謝する、貴女達は我々の恩人だ」


 神を崇めるように丁寧なお辞儀で伝えられました。


 こんな私でも感謝されることもあるとは、初期の頃は考えもつかなかった現実です。


 それに感謝ならこちらこそです。

 私の味方は初日から大勢おりましたが、初めて面と向かって話せる仲間と呼べる存在こそパニラさんでした。私の成功はその支援ありき、陰ながら貢献して下さったのは感謝してもしきれません。


「RIO様、RIO様を慕って着いていったおかげで、頭が痛くなってばかりの旅も楽しくなれた」


「最後くらい声まで様付けなどよして下さい。もう戦いは終わったのですから」


「でももうRIO様呼びしかしっくりこないんだよね。カリスマ性というか才能というか……」


「そうですか。呼びやすければそれでも構いません」


 キャラ作りなど意識したことはありませんでしたが、この私にもそう呼ばせてしまう才能があるのでしょう。忌避すべき才能でしたが、今だけは忌憚なく幸運であったとさえ感じます。


 パニラさん、あなたは本懐を果たせて幸せでしょうか。


「未練はありませんね」


「未練なんてない、思い出せないだけかもしれないけど。それで未練のない内にケジメを受け入れなくちゃならない、わたしに二言はないから」


「ええ、立派です。他の人々からのどんな意見や批判も、パニラさんに及びはしないでしょう」


「他人なんて正直気にしてないけれども、悪と悪が衝突した結果、負けた(冒険者連中)がこの世界から消えて、勝った(わたしたち)も自爆して消えた。そうしてそれ以外の人達が漁夫の利を貰う。この筋書きさえ残せれば、失ってばかりの復讐でもなくなるかな」


 なるほど、一応そこまでの自浄作用を見越した上で去るつもりでしたか。

 昨日から笑い合って勝利を噛み締めていましたが、この瞬間こそ完全な勝利と称えられましょう。


「地獄行きの一方通行まで道を踏み外した復讐だったけど、大団円って心地だよ。たとえあいつら冒険者以上の外道になったとしても、あいつら冒険者と同じ外道には絶対なりたくなかったから」


「パニラさんほどの人柄があの連中と同じになるとは万が一にも思えませんが……」


「わたしも最初は、冒険者ギルドのことをそう信じて投資を惜しまなかった。そしたらまさかが起こったんだからね」


 全くもって、よくも悪くも人は変わるものです。

 他人だけでなく自分がこの先どう変わるかも、自分自身にさえ予測のつかないほどに。


 特に楽な環境に慣れてしまった時ほど欲に溺れやすい。良薬も過ぎれば毒となります。

 正義というそれだけならば聞き心地のいい言葉でも、のめり込めば毒となり思考や人格さえ侵しかねない。

 あのギルドから、取り返せない授業料を払って教訓とさせて頂きました。


「そろそろ行くよ。名残惜しくならない内に、ドゥルさんもメーヤさんも今日までありがとね」


「ああ、パニラともお別れか……。では皆、達者で」


「大きくなっても、わらわ達のことを時々でいいから思い出してほしいのじゃ〜!」


 そう照れ隠しのようにドゥルさんが真っ先に消滅し、続いてメーヤさんが手を振りながら引退。


 この二方とは色々とあったり、なかったり、ともかく一抹の寂しさがありますね。


「うぅ……えぐっ! 楽しかったよ……元気でねっ!」


 エリコあなた、号泣しているのですか。これでもまだ一週間弱しか顔を合わせていなければ、好みの音楽などもまだ聞いていないというのに涙を流せるだなんて、そこがエリコの良いところなのですがね。


 そうして今目の前にいるのは、暫しその口を閉ざしていたパニラさん一人だけとなりました。


「……最後に、成仏もできずに彷徨っている亡霊みたいなわたし達に、最後まで付き合ってくれてどうもありがとう」


「吸血鬼に亡霊など訳なく扱えます。ですがもしもまた化けて戻ってきたのであれば、昔を語り合いましょうか」


「へへっ、そうだね、それくらいならわたし自身も許可できるかも。それじゃいつか、またね」


 叶わなくても叶ってもいい約束を交わし、私の人生に現れし親友パニラさんはログアウトを終えました。


 これが最後とも限りませんが、最後になっても悔いのないよう別れを目に焼き付けましょうか。


「さようなら、お元気で……」


 純粋に前を向いて見送れます。声無きの呪縛を憤怒に変えた勇者のエンディングを。

 もし復讐の鬼に堕ちていなければ、エリコのような正しき人と共に平和を守る英雄になれたかもしれなかったほどの人です。


 冒険者の増長で、悪側に転落せざるを得なかった事情のパニラさんならばせめてこれから更生の機会だって用意されていたかもしれません。しかしそれでも永住権を手放すに等しい選択をした。いやそもそも更生するということ自体が不可能を前提にしなければならなず、更生という考え自体も傲慢そのもの。

 パニラさんは毅然と理解していたから、償う、助け合う、役に立つ、という善の欲望さえ封じ、世界の歯車を乱さないよう消えた。その選択には私の心に感銘を受けざるを得ません。


 悪と括るにはあまりにも同情を誘われるその姿がなくなってもまだ、エリコは万感の思いが込めて手を振り続けていました。


 かくいう私も、振る手を止めたらそれこそパニラさんのその聞けたばかりの声や温かさなどとも離れ離れになる気がして、止めどころを見つけられないまま……。


 ところで、気取って背を見せたままの人がいるのですが。


「別れの挨拶はいいのですか、ジョウナさん」


「べっつに? どうせ復讐満了になればすぐいがみ合う程度の薄っぺらい仲だったしさぁ」


 未だ素っ気なく、今日も今日とて口の減らない筋金入りの戦闘狂。

 またそうやって自分のキャラクターを守ろうとする。最後の招集にはこうして応じたのに、どうせ悪い気を起こさないなら素直にさようならの一言でも残せばいいのですが。


「なるほど、素直じゃない人なのですね」


 たった今、ジョウナさんがどういったオリジンなのかが納得出来たような気がしました。


「いやいや何がなるほどなんだい」

「元鞘に戻ると宣言したにも関わらず、こうして穏やかに話をしている時点で殺すも何もしないのでしょう」

「ほぉう、そういやそんなこと言ったっけねぇ。へぇ、期待してたんだぁ。そんな襲って下さいって眼差しされりゃ、ボクもその気になっちゃいそう」


 そう昨今しょっちゅう表してきたあの加虐的な笑みを浮かべて抜剣したこの人。もはや企みは明白、なのですかね。


「元鞘に収まる凶刃となるならば、せめて私が相手になりましょう」


「それじゃあ一発勝負だ! ボクが勝ったら、ぐへっ娘の熱いちゅっちゅを頂こうか」


「私のちゅっちゅって……RIO!! こいつに容赦しなくていいから!」


 ええ、いくら勝者の権利だとしても許されざるものがあります。エリコの操は何としてでも私が守り抜きましょう。


 お互い武器を構え、それからはじっと隙を窺う。

 ジョウナさんとはあらゆる面において私と対等。先に動けば隙となり敗北に直結する探り合い。


 ですが、微動だにしません。こちらが少し切っ先を揺らして誘っても反応が無いほどに。

 というよりジョウナさん、こちらを窺うにしては目線が私ではなく斜め上を向いていました。


 さては勝負する気など微塵もありませんね。偽の殺意まで醸し出してまで、人を脅かすにしては御器用なことです。


「なんちゃってねぇ!! やっぱボクも、この綺麗じゃなくても美しい大団円の一部に混ざってるもんだしさ、それを汚しにかかるほど自分も汚れちゃいないさ」


「そんなことだろうとは思いました。でなければ、私とエリコを逆上させるような賭け札を持ち出せないですよね」


「ハッハァ! 勝負しないとバラした直後から言ってくれるねぇ。そういうとこだゾ」


 ジョウナさん少し敵意を漏らしてるのですかね、すぐに引っ込みましたが。

 数多の人間を畏れさせた人物とは忘れていませんが、この人にならまるで実の叔母などみたいに直接的に言葉に棘を纏わせても迷惑がられないような距離感がありますので。


「まあボクも引退したくなってはいたのさ、本当さ。よくよく考えてみりゃ、雑魚の群れに勝ちまくりたいなら何もこの世界にこだわる理由無かったし、今度はカードやボードやレースゲームなり別のジャンルで遊び倒したい気分だしぃ」


 何を今更、としか言いようのない呆れた言い訳でした。快楽を動機にする遊び人の気質は、どこの世界だろうと改めるつもりはなさそうですか。

 その挙げられたジャンルでジョウナさんが無双状態になっている姿は、想像してみれば意外と様になってはいますが。


「それに今生の別れってわけじゃない。ほら、キミにあるだろう?」


「何をですか? オフ会などなら申し訳ありませんが一身上の都合により断りますけど」


「いやいや、キミには配信があるだろう。キミからすれば今生の別れでも、ボクからすればまた画面越しからキミを眺められるし、別れって感じしないんだよねぇ」


 なるほど、それもありましたか。

 しかしそうなると私だけからすれば今生の別れとなることに変わりありませんが。

 配信者とは、提供する側の人間というだけあって背負うものが多いのですね。


「あなたは危険人物です。ですが、それはこの世界だけの話。いち視聴者となってコメントを送ることに関しては一向に構いません」

「やれやれ、素直じゃないのはどっちなんだか」


 私も他人の事をとやかく言えませんでしたね。

 そんなところまで似たもの同士、私よりも子供じみていて大人でもある、全く掴みどころのない人です。


「ま、キミらにあまり口出しするつもりはないけど、カッコつきそうなこと言わせて貰うとすると……楽しかったよ、お二人さん。それじゃお幸せに〜」


 そうジョウナさんは別れとも思えないほど相変わらずの態度で、実際コメントで現れるかもしれませんがとにかくこの世界から自主退場を迎えました。


 ジョウナさん、近くにいるだけで気の休まらなかった人。されど一時は悪役ロールプレイの先駆者として越えるべき目標でもあった方です。その意味でも敬意を抱いてました。


 それもあってか不思議とわだかまりのような負の感情は残りません。

 おかげで寂しくない別れになりました。ですけど最後にもう一勝負くらい受けてもよかったかもと、心変わりしそうになってしまいました。


「みんなほんとにいなくなっちゃったね」


 私の前には昆虫達が輪唱する深夜の平原が広がるだけとなり、隣りに一人いるのみ。


「エリコ、そろそろ街の方へ挨拶に行きましょう」


「そうだね。これからのこと、伝えに行かなきゃ」


 二人だけになった余韻に浸りつつ、、はじまりの街まで歩いてゆきました。

 また今後の動向も話し合いました。今後どうするかはジョウナさん次第なところもありましたので、これでようやく肩を下ろして決断を固められたというもの。



 街の中に入る前に、一人の出迎えがありました。


「あなたたち……ついにやったのね」


 そう飛び上がって喜びたい気持ちを抑えているかのように迎えたこの人が、エリコの語っていた元Sランク11位のセラフィーさん。

 物腰柔らかそうでありながら私達よりも年上の風格も一目見るだけでよく分かります。


 かつて魔王に堕ちた私を救うためにエリコと共闘し、冒険者ギルドから脱退した後ははじまりの街の代表となって復興に尽力しており、魔物や悪人の被害に追われて逃げてきた難民を拒まない、人格者と評すべき人物です。


「街のみんなやプレイヤー達、もちろん預かっているエルマさんまであなたたちの勝利だけを願っていたのよ。冒険者ギルドの滅亡の件、私からも、生きとし生ける全てを代表してお礼申しあげるわ」


 その長い髪を地に着き砂が絡まっても脇目も振らずとばかりの礼の姿勢。

 しかし私には、その誠意を受け取る資格を有するにはあまりにも多くの人の運命を狂わせました。


「勝利はしました、されど悪の勝利です。この勝利は他人のためではなく自分のために勝手にやったこと。今や用も済んで邪魔者となった私達を持ち上げるのはここまでにして下さい」

「そんな、あなたは悪なんかじゃない! 邪魔者だなんてあり得ない! RIOさんもエリコさんも、正真正銘の正しさを示したのよ!」


 続く力強き否定。人の命を奪い弄んだ吸血鬼に対しての台詞とは思えませんね。


 その気持ちは、私も命運を賭して大敵を打ち破っただけあって殊更嬉しいです。ですけど気持ちだけです。


「エリコと話し合って決めました。正義で世は治まりません。また私のように役目を終えた人は後に続く者の邪魔になるだけ。なのでセラフィーさんのように二元論に拘らない人こそ安寧の維持に適任だと。丸投げのような形で申し訳ありませんが、どうかお願いできますか」


「勿論よ。たとえ明日に世界の終わりが発表されるとしても、あなた達の勝ち取った泰平は、このセラフィーが絶対に無駄にはさせない」


 見かけ通りに頼もしい限りです。セラフィーさんならばエリコの愛したこの世界を安心して任せられます。

 それでも治めてゆく上で、時には失敗だって何度もあるでしょう。


 ですが、少し間違っている方が心象として丁度良かったりします。

 あまり正しすぎてしまえば誰も否定できなくなってしまうので。親しまれたいならば程々が一番なのです。


 どのみち正解の無い問題の連続、そこに正義や悪などといった安易な正解など付随させず、試行錯誤を絶やさず治めるべきです。


「だけど、あなた達は頑張ったのよ。役目とか吸血鬼だとかなんの関係もない、私も含めて街のみんなはあなた達の凱旋を待ち望んでいるんだから。祝福される権利があるのに自分自身を邪魔者みたいに扱うなんて、こんなのまるで報われないじゃない。エリコさんもそれでいいの!」


「いいよ、私には街の人よりも放っとけない人がいるから。私ね、RIOの罪を一緒に背負いたいんだ」


 そう私の腕に組んでから答えました。


 私にはエリコが隣にいてくれます。一人きりでは耐えきれないことでも、エリコさえいれば分かち合い耐えながら歩めましょう。

 なので私もケジメをつけて辞められます。この非日常が欠けても、明日からの日常に憂いなどありはしません。


「そこまで言うなら、そうね、これならどうかしら。私に出来ることがあればなんだってする。どう説得しても気持ちが変わらないなら、せめて最後に楽しい思い出作りをしましょうよ」


 意外にも強く引き留めようとしてきますね。

 セラフィーさんにも貫き通したい正しさがあるのでしょうし、たとえ労いを受け取らないのが無礼だとしても、見返りという寄り道が加わっては決断も台無しです。


「お気持ちだけ頂戴します。しかし甘えは徹底的に取り除かなければ、あの連中の二の舞いでしょう。エリコも同意見で……」


「今、なんだってするって言ったよね?」


 いやエリコ、なぜ急に言質取るようなことしてるのですか。

 やめなさいその眼光、セラフィーさんに向かっていやらしいといいますか、一体何をしたいつもりなのですか。


「実はね、一回でもいいから結婚式したいって思ってたんだ」


「エリコ!?」


 心臓が飛び出るかと思いました。


 け、結婚だなんて重大な約束されれば誰だろうと仰天しますって。あなた記憶は確かですか、先程までの重い空気はどこへ行ったのですか。

 その「なんだってする」はつまるとこ社会人のマナーによる言葉遣いであり、いくら高校生だからって言葉通りに捉えて欲望全開の催しを頼むにも限度がありますって。


 突拍子もない提案をされては、セラフィーさんも迷惑がっているはずですよ。


「いいわねそれ! 結婚式なんて最高の思い出になるじゃない! どんな愛の形でも盛大に祝福する街なんて、興行にもなりそうだわ!」


「だって! ぐへへへへ。いぃっぱいイチャイチャラブラブ配信できるね、RIO!」


 エリコ、よくそんな要望を押し通せましたね。

 セラフィーさん、そこで受け入れるとは高度なひねくれ者ですね。


 いや、というより本当に結婚してしまうのですか。すぐに行おうにも手続きなどの事前の用意もありますし、そんな家族に相談もせず軽々しく決めてしまう事ではないはずです。経験が無いので具体的には分かりませんが絶対に後悔するトラブルが潜んでいます。


 このままでは賛成多数により悪い冗談でなくなりかねません。拒否権を行使するにはまだ間に合います。


「断らさせて下さい。私も結婚願望は人並みにはありますけど、こういうのはもっと踏むべき段階があるといいますか……とにかく私達にはまだ早いですって!」

「えっ……りお、私と結婚式したくないの?」


 うっ、そう落ち込まれると裏切ったみたいで罪悪感に攻められてしまいます。


 あなたとの結婚、万が一にも他の人に奪われるくらいなら一刻も早く既成事実の口づけをしたい位です。

 ただそれはあなたからの恋愛感情を疑うに等しい思考。なので期が熟すまではじっくり歳を重ねながら待ちます。

 万が一などとは万が一にもないと信じなければ、あなたに相応しい人になれませんから。


「りおがそこまで結婚式したくなかったなんてショックかも。でももう私の気持ちは結婚式になっちゃってるし……じゃあセラフィーさんと結婚式しちゃおっと」


「はあああぁ!?」


 何ですって、いくら私が却下したからといって、何故セラフィーさんが選ばれるのですか。私は、一人置いてきぼりにされた私は代わりに何をしろと、結婚に並ぶほどの代わりになることはあるのですか。


 というより冷静になってみれば私とセラフィーさんは初対面だと思い出しました。誰なんですかその女は! エリコとそんなに親密な関係になるほど共闘したのですか!


「セラフィーさんも女の子なら結婚式に憧れてるよね? だからいいでしょ、お揃いのウエディングドレスで写真撮ってぇ、肩と肩をくっつきながらバージンロード歩こうね!」

「ちょっとエリコさん、RIOさんが見えてないのかしら。もうその辺にしておいた方が……」


 どうして、嫌、どうしてですか。私が悪いのですか。ええっ、生真面目で嫉妬深くて暴力へのハードルが低くてどうしようもない私とは想い人になれても、その先の領域までは付き合いきれないと。


 あのエリコが、私ではない人と指輪を交換して永遠の愛を誓っている場面が見えやすい最前列で座って眺めていろと、それとも私なんかは友人代表に格下げされて敗北宣言同等のスピーチをしろと。

 これではまるで二人の結婚式ではなく私個人への葬式じゃないですか。結婚は人生の墓場という言葉の意味ってまさか、私のことでは。


 ああっ、こんなにも近いのにエリコが取られる、想像だけでも嫌です、心が壊れそうです。誰か助けて下さい、ですが私はエリコの助けしか信じられないのにエリコが私から抜け駆けしたのだから、助けは来ない、耐えられません。この黒々とした感情と刺々とした暴走を抑えられません。


「あなたがそんないい加減な人だとは思いもしませんでした! 私は妥協の相手など考えずエリコとだけ白無垢を着て結ばれたいと思っているのに、私のことはその程度だったのですか! さっき私の罪を一緒に背負うと言った癖に! 私の前でそう言った癖に! 夢のような素敵な行事だけ私以外の人とするだなんて卑怯です! この尻軽!! もう知りません! そんなに私がいらなくなったなら、私は……この場で命を絶ってもどうでもいいのですね!!」


「やったぁ! じゃあ一緒に結婚式してくれれば許してくれるんだね!」


 剣で首を掻き切ろうとした私の手を止めながら思い直してくれました。


 嗚呼よかった、いつものエリコが帰ってきました。まさか私を試していたのですか? やはりあなたには敵いませんね。その爛漫な笑顔が私だけに向けていると分かれば、自傷だらけになった私の精神が浄化されゆくばかりです。


「はい、エリコと結婚したいです……結婚しましょう……? あなたを振るような真似は二度としません。一生大事にしますからっ」

「エリコさんも中々のやり手ね……というよりRIOさん、結婚じゃなくて結婚式だって気づいているのかしら」


 私が正常な状態に戻った時、どうやら結婚式が挙げられると決まったみたいでした。


 はぁ、私も幸せなまま終われるつもりだったのに、まさかとびきり幸せなイベントが差し込まれるだなんて、終わり良くとも油断は禁物でしたか。

次回、結婚式編開始

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