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終わりの始まり

一位の特徴

とにかく謝らない

 1位はこの闘いに負ければ後がない。

 だが愚直に侵入者を排除し「正義は勝つ」などとしたところで、先がなくなる一方だろう。


 己との対立が極まった寝られない元帥が王を越える神の如き影響力を手中にしてしまえば、その権力基盤を固めるため四天之王は見せしめとして立場を追われるのは明らか。

 栄光と未来を脅かす真の敵とは、パニラ達侵入者ではなく6位とグランドマスターなのだ。


 とはいえこうした権力闘争への備えとして、前々から5位を二重スパイに仕立て上げ寝られない元帥の派閥に溶け込ませてはある。

 5位の持つ、害する力の弱さと護する守りの強さはどうやらあちら側には都合が良いらしく、あっけないほど簡単に信用を得られていた。


 そのため政権転覆には、5位による内部からの手引きがカギ。

 5位が最上階でどうにかして向こうの手に余るトラブルを発生させ、慌てるあまり四天之王のいずれかを本部最上階へ招かせた瞬間こそ蜂起の合図。その後の運びは打ち合わせ通り。正義の君主制から努力の共和制へと色を変えたも同然である。



 尤も、そんな一位の理想が実ったところで、現状よりも遥かに多くの人民による阿鼻叫喚が途絶えない恐怖政治が敷かれるとは、容易に想像がつくだろう。


 どう努力しても報われない人間や努力そのものが不可能な人間への補償や救済策はどうなるのか? 否、そもそもそんな実在しない人物に配慮する必要性が皆無。


 努力は必ず報われるという基準が生まれてしまえば、ヒエラルキーは二種類のみ。

 一方は飽くなき努力を追い求め続ける正しき人間。

 もう一方は努力が報われなかったのではなく、一切の努力をせずに言い訳して生きようとする怠惰の証。それはつまり他者の努力を騙してでも奪って愉しむような大罪人も同然。理非問わず正当性のもとに迫害、処刑されるべき極悪人だ。


 よって、努力が報われなかったという言葉とは、嘘つきの使う罪逃れである。

 何故ならば、努力は必ず報われるのだから。



●●●




 結論から言いましょう。私達は序列一位に勝ちました。


 それもそのはずでしょう。一人が三人に勝てるわけありません。


 流石に一位なだけあって本体の防御力も並外れていましたが、私に続いてブレイクマジックを発動したエリコとジョウナさんも加わり、三人がかりで挟み撃ちをしかけたらあまりにも味気なくとどめを刺せてしまいました。


 二人とも、私が任せて下さいと言った側から切り札を使ってでも加勢するだなんて、聞き分けのなってない良い人ですね。


「体が動かん……まさかそんな。元帥さえ始末せずに、こんな馬鹿げた終わりがあろうものか……」


 虚ろな目で天井を仰ぐ一位。

 これまで勝ち続けてきた人間も最後に敗者に転落してしまえば、持ち味の威厳や気迫など効果をなさなくなってしまうのですね。

 諸行無常ではありますが、自分はそうならなかったという安堵感が先にくるのでやっぱりどうだっていいことでした。


「あなたが強要する努力とやらで高めた実力は、三人分の努力には及ばなかったまでです」


「黙れと言っているだろう虫ケラが! こんな結果、断じて認めん! この俺が人生何のために、冬に備える蟻のように粛々と努力を積み重ねたと思っている! 目先の感情でしか動けんウジ虫共に負ける道理があってたまるか!」


 完全敗北してもまだ怒鳴りつけてくるのですか。諦めないと懲りない、認めないはどこも一致しないというのに。

 わざわざ最期の僅かな時間を使ってまで晩節を汚そうとするなど、どんなコンプレックス抱えて生きていたのかお里が知れますね。


 それにいくら凄まれようとも、その体たらくでは負け犬の遠吠えにしかなりません。


「いいか、貴様らキリギリス共は人殺しと知れ。そのふざけた危険思想こそが、努力が報われるはずだった全人類をなぶり殺したのだ!」


「しきりに努力努力と高説してますけど、努力だけで何でも必ず報われるほど世の中甘いと思っているのですか?」


 神からの寵愛を賜ったというほど人並みを凌駕した才能を駆使しても、後悔ばかりの人生だったというのに。主語ばかり大仰なこの人は自分の理想だと描く世界を自分以外の他人も皆望んでいるのだとか、正しいと思い込んでいるからこそ反対意見は取り付く島もなく私刑にするだのと、おや、羅列してみれば腐るほど聞き飽きたような独善思考ばかり。


 ああそういうことですか。

 クーデターを起こしたいほど寝られない元帥を嫌悪していながら、正義を努力に置換した以外は全く同じ道に突き進んでいるなんて、トップランカーとはお笑いセンスもトップクラスに輝いていて思わず拍手を浴びせてしまいました。


「この俺を極限まで怒らせたな! もう一度やらせろ……次こそはあのクズと同じ地獄にぶち込んでくれる! この極悪人共!! 努力を放棄し、俺の正しき使命を妨げる異教徒共は、一匹残さず滅ぼし……」


「王様ごっこをしたいなら公園の砂場でどうぞ。そして二度と戻って来ないで下さい」


「ぐぶぁっ!!」


 エゴイストの怨嗟など耳に通す価値が無かったため、真輝之王・シンキングを踏み潰して幽閉界へと出禁にしました。


 所詮トッププレイヤーなんて、負け組界の勝ち組に過ぎないだけでしたか。このような人に何人勝とうが箔もつきませんね。


 といった感じで、私の意趣返しは完了しました。


「パニラさん、皆さん。危ないところでしたね。そちらのダイナマイトは仕掛け終わりましたか」


(こっちは全部完了してる。グラマスを見るだけでおおよそ朗報なんだろうけどRIO様の方は?)


「私も、グランドマスターの権限は掌握し、冒険者達は幽閉界でのリスポーンを覆しようのない事実にしました。もう冒険者はこの世界で蘇ることもありません」


 その報告で、パニラさんの表情が柔らかくなりました。


「ということは……」


(私達の勝利ってことだよ! 万歳! RIO様もありがとうございます! あとはこの大型ダイナマイトを起爆させるだけで、全てが終わるっ!)


 ええそうです。これでとうとう殴られっぱなしの日々も、仮想世界の中の成仏できない人生は終わり。

 パニラさんの緻密な作戦は、心折れ去っていったプレイヤー達の無念を倍返しするための戦いは、この瞬間ついに実を結んだのです。

 今からでも喜ぶべきでしょう。二人とも喜びがオーバーフローを起こして脱力しているほどですけど。どうせ今日で見納めともなるこの本部、少しの間なら余韻にも浸っても取り返しのつく範囲内でしょう。


 同時進行として重要な方面の攻略に携えた私まで鼻が高い気持ちになります。きっとエリコも志を同じくした仲として喜ぶはずですけど、そういえばまだ私のもとへ駆けつけようともしてませんね。


 なので本人に目を向けてみれば、どうしてかじっと蹲るようにしているではありませんか。


「エリコ、どこか怪我したのですか」


「ごめん、右足が代償みたい。お願いRIO、肩貸して」


 なるほど、私に加勢した際にいつもながら無茶な全力を出していましたからね。


「ええ、もちろんですエリコ。さあ」


 そう様々な部位が動けなくなっているエリコの手足を私の体にしがみつかせ、背負いました。


「ふえっ!? 肩貸すだけで大丈夫だよ!? RIOだって疲れてるはずなのに、こんなおんぶなんてぇ……」


「こう寄りかかる姿勢でいる方が楽になれますよね。それにあなたの疲れが癒せる場所も、ここくらいでしょう」


「スパダりおぉ……どこで勉強したの、それとも天然? もっと好きになっちゃう……」


 ああ、エリコの乱れている吐息が当たってます。汗交じりですがあなたのソメイヨシノの匂いを嗅ぐだけで私も疲れがほぐされてゆきます。こうやって触れ合うだけで、やっとあなたと生きたまま合流出来たのだと実感します。

 この姿勢ではあなたの表情が見られないので想像力を働かせるしかありませんが、横に抱くと今度はあなたの鼻血が当たりかねないジレンマ。それに私の顔もあまり他人に見せられなくなっているでしょうから。

 エリコの方も後ろから私の肌や髪を吸って甘えているようですが、えぇ、いつまで吸えているのですか、あなたよく息を吐かなくても窒息しないですね。しかも舌の先で私の肌を舐めていませんかね、なんなのですかこの変態、気づかれないとでも思っているのでしょうか、もう下ろして差し上げましょうか。


 ですけど、唐突にこれは何なのでしょうか。

 ここにきて不穏の二文字が脳裏に浮かぶだなんて。


 安心しようにもしきれない、この世界でのトラウマが掘り起こされつつされるようなこの不安感は。

 折角一息つけたと思えたのに、何故このタイミングで……。


 思い返してみれば私ってばいつもそうでした。

 安心しきった時にこそ思わぬ惨劇の牙が私の守りたい人を奇襲する。そういう星の下に生まれていると信じてもいいほどです。


 魔王降臨イベントでも、私の死角からエリコの命が奪われ、その上すぐに気付けなかったという屈辱を映してしまいました。


 今回もこの嫌な予感は当たるのですか。そもそも当たるとしたらどのようにして一体誰が下手人になるのか。


「まさかっ!」


 そのような人、これまでずっと私達と共にいたじゃないですか。

 仲間として馴染みすぎて忘れかけていましたが、このタイミングを虎視眈々と狙っていてもおかしくはありません。


 全ての準備を終えた今、協力する必要がなくなったジョウナさんは昨日の宣言通り元鞘に戻るとしたら。


「うわぁん、ボクも代償で右耳聞こえなくなっちゃった〜。RIOちゃま肩貸してぇ〜」


 当の本人は馴れ馴れしい雰囲気で私に絡もうとしていました。意味のわからない軽口をされれば気が抜けます。


 ですけど目つきも柔らかく、武器も見当たらないと、これまでのジョウナさんからしたら考えられないほど穏和な雰囲気。それはそれで気に食わないですね。


「はぁ、それくらい唾つけて治せばいいじゃないですか」


「うっわ、いつにもましてキレッキレ。お母さんこんな娘に育てた覚えありませんって言われそう」


 何か言ってますが退散させました。嫌な予感がどうだというより、ただ単に鬱陶しかったので。


 それにこの人といえば、もし裏切ろうものなら闇討ちみたいな卑怯な真似はせず、堂々と正面から襲撃するような性格でしたね。


 それを決行できてしまうまでの実力があり、実力不足ならそもそも悪い気を起こさない慎重さもある……これでは私、まるでこんな人について詳しいみたいじゃないですか。段々と不愉快になってきました。


「エリコは渡しません」

「RIOは渡さないよ」

「二人揃って何急にトゲトゲするんだい?」


 妙なちょっかいかけられて嬉しいわけがないので、エリコと共に釘を刺しました。


 魔が差さないなら放置で結構、最後は景気よく楽しく終わりたいです。


(仕上げをおさらいすると、ここにいると当然爆破に巻き込まれちゃうから、一斉点火はグランドマスターを使って本部の外に避難してから始める)


 パニラさんが半笑いで説明してくれました。

 冒険者への攻撃というより、私達への配慮ということですね。浮かれていながらも慢心していないとよく伝わります。


(私はどうせ最後だからどうでもいいけれども、あまりデスペナ負いたくもない人もいるだろうし。それにどうせなら、この本部が海の底に沈むところを見送りたいよね)


「でしょうね。それなら反対派でも賛成するでしょう」


「いやボク反対してないんだけどなー」


 あなた以外に誰が反対するのですか。

 反対しないならしないでジョウナさんだけ本部内に置き去りにしてもいいんですが。やはりこんな人でも……ではなくこんな人だからこそ目の届くところに居る方がいいでしょう。


 なにはともあれ参りましょう。

 冒険者ギルドの滅亡する瞬間を、臥薪嘗胆の日々で溜めに溜め込んだ鬱憤を大爆発させるところを。


 とは言うものの念には念を入れ、この本部の外に潜んでいないか血の臭いをチェックしてみましょうか。ここまでずっと敗者一歩手前の状況でしたし、勝利者の余裕を表してもいいでしょう。


 12時の方向に人間の反応が一、二、三、沢山。


「は、は!? ……何ですって!?」


「どうかしたのRIO!」


 背のエリコが驚きのあまり落ちそうになりました。


「どうしたも何も大変です! この外に大勢の冒険者が犇めいてます!」


「ええっ!? 外に! ほんとに!?」


 言葉通りの事態でした。


 孤島となっている本部、その一箇所に集められた冒険者群。かといって包囲するような動きがないところが不気味。

 しかも5位や6位の下衆まで探知しました。幽閉界に送らずパニラさんに幕引きを譲ったのは失策でしたか。


 確かにショートワープ以外の方法でも本部内外を移動出来てもおかしくないでしょう。今、最後の冒険者が二階か三階から外に飛び降りてる動きがありました。地震や災害への対策のつもりなのか、そういう緊急の事態への備えまで万全だっただなんて。


「くっ、相変わらず往生際が悪い奴らじゃ。これでは爆破に巻きこめん、終わりが遠のいてしまうぞい!」


(これはちょっとやばいね。ちょっとだけどやばい。本拠を失った冒険者はいくら生き残ろうと散り散りにならざるを得ないけど、如何せんくたばり損ないが多すぎる)


「負けが確定したなら早く消えればいいものを、まだこちらの手を煩わせるのですか。まだ戦い終わらせないつもりなのですか!」


 いやそれだけではありません。小賢しい彼らのことです、ただ死を避けるだけでなく、策の一つや二つ拵えている可能性もあります。考えを捻らずとも、まんまと追ってきた私達を待ち構えるために戦力を集結しているというのもあるでしょう。


「早まって虎穴に入り込むわけにもいかぬ。かといって彼奴らに時間を与えたくもないのじゃが……こんな時まで不快感を味わわせてくる連中なのじゃなぁ!」


「じゃ、じゃあさ、一人ずつここの取り囲める位置に招いて一斉攻撃するのはどう?」


「ボクらだってヘロヘロだよ。もし一人ずつブレイクマジックのやっつけ突撃でもされりゃまず持たない」


「難しい選択ですね。爆破を先送りにすれば目に見えない部分でこちらが不利になりかねませんし」


 冒険者共、最後の最後で厄介な種を撒いてくれましたね。


 いくら話し合っても結論を出しにくい状況です。決断力を出せる立場ならまた違いましたが、パニラさんから決定権を奪うわけにはならないのもありますけど。


(行こう)


 そう決断していたパニラさん。

 いえ突拍子もなく何を決断してるのですか。


「怖いもの見たさのような理由じゃありませんよね、こんなもの絶対に罠でしょう。わざわざ確定された勝利を投げ捨てる必要などありませんって」


(いや、わたしのダイナマイトは遠隔からでもわたしの意思一つで起爆出来る。たとえこのあと冒険者に瞬殺されたとしても同じ、問題はない)


 ダイナマイトの仕掛けについて、この状況を覆す上で重要な情報、なのですか。

 言われてみれば作戦の途中でパニラさんが敗退する可能性もあったのでしたから、逆に遠隔から起爆できなければ作戦の前提が別物になっていたでしょう。


(ダイナマイトを設置した以上、どのみち勝ち確、これだけは信じて良い)


 私に顔を近づけ、そう言葉なく答えてくれました。

 そこまで確信をもってくれたのなら、私も心配ばかりしていられませんね。


「パニラさんの意見を支持しましょう。ですけど一応の保険として暫しここに留まる見張り役もあって損はないですよね」

「ん? ボクぅ?」


 目線を向けるだけでも返事してくれましたね。私達全員で出払えば、ガラ空きになったこのフロアを誰に荒らされるか分かったものではありません。

 なのでジョウナさんこそが、適度に応戦できる適任者だと思ったまでです。

 そう考えを練っていたら、背中から私の耳元に呼吸が当たりました。


「ちょっとRIO、本気? だってあの殺人鬼に背中を任せるなんて、熱でもあるの?」


 エリコから私の額に手を置かれ、なんだかハッと正気に戻ったような感覚がしました。

 何故私はジョウナさんを信頼してるかのような作戦を立てていたのか。それを無意識の内に口に出していたのか。


 ……そうなのですよね。


「ジョウナさんになら安心して後ろを任せられます。魔が差すタイミングなどいくらでもあったはずなのに、ここまで忠実に戦ってくれているのです。この期に及んでまだいがみ合うほど大人げないプライドなどありませんから」

「RIOがそういうなら、わかった。私も我慢する。冒険者を負かせられるなら、勝利は殺人鬼に持っていかれてもいい」

「あーハイハイ、お利口さんのRIOはともかくぐへっ娘が嫌味ったらしいからさっさと行った行った!」


 そうぶっきらぼうに促してきましたが、何か言い残したかのようにいきなり人差し指を立てたこの人。


「ただし1分だけだ。ボクが待っていられる時間、キミらが雑魚共の策略を暴けるまでの時間、ボクの勝手な条件だけど、2つひっくるめて1分だけがリミットということでオッケー?」

「いいでしょう。一秒も顔を合わせたくない連中相手なので長過ぎるほどです。ジョウナさんも、もしこのフロアに敵が侵入しようものならば、無闇に応戦せずすぐさまこちらにワープして下さい」

「よっし決まりだねぇ! でも合流するより先に爆ったりしてもボク悲しくなっちゃうヨ。ボクだって血の通う人間だしさ」

「爆破はやめろ、とは言わないのですね」


 まあ私が決めたことですので信頼を試すのはここまでにしましょう。ジョウナさんが能動的にワープの指示を下す用のグランドマスターを渡しました。


 味方に回しても厄介だと思ってはいましたが、真に信頼できる仲間になれば誰よりも頼もしさがありましたか。これで憂いなく赴けるというもの。


(どんな計略が待ち受けようが暴いて、残り物を一気呵成に始末する。さあRIO様ご指示を)

「ではグランドマスターに命じます。私達四人をこのギルド本部の外へワープ、以降はジョウナさんの指示に従って下さい」

「ショウチシマシタ」


 改めて参りましょう、私達は既に勝っています。

 勝利をより完全に近づけ、パニラさん達がより安心して辞められるようにするための本当の最後の戦いを、今こそ。



●●●




「おいRIO達が来ちまってるぞ! まだ待機しなきゃなんねぇのかよ!」

「オレも知るか! そもそも元帥さんがここに集まれってアナウンスしたんだぞ」

「しかも誰も手を出すなって指示まで追加したもんだからよぉ……」

「1位の計画を全員で密告したまでは良かったが、なんでこんな罰ゲームみたいな状況にならなきゃならねぇんだ! まさか俺達、ここでただやられろってわけじゃないだろうな!」

「元帥さんやるんですか! やるんですよね!? そろそろ答えて下さいよ!」


 いざ実際に見てみると想像以上に肩がぶつかるほど密集している冒険者達です。

 ただ開幕から襲ってくることはなく、むしろ冒険者達は意図が伝わっていないように混乱しているという様子。


 何か壮大な計画を立てていたから集まったのではないのですか。ますますきな臭いですよこれは。


 そして最前列の中央にいるのはあの寝られない元帥。


「あなたは、殺す……!」


 目にしてしまった、もう止まりません。武器を構えようとした瞬間殺す、最早一歩でも動けば殺したいと殺意が噴出しましたが、その6位がとった行動は。



「大変申し訳ございませんでした!!」


「えっ……?」


 この人は、どうしていきなり頭を下げたのですか。


 わざわざ手持ちの戦力をかき集め、一生相容れない敵を前にして最初にすることがそれって。


 これが最低最悪の人間のすることですか。それに他の冒険者はこれを周知されていたのですか。


「聞いてくれ! 俺達は武装放棄する! この通りだ! 謗りを受けるべきはこの俺なんだぜ!」


 そう寝られない元帥の隣で、堂々と正座する5位。

 纏う鎧や兜が光粒と化し、その語調に似合わない小柄な童顔が現れ、しかしすぐに直角90度に頭を下げて隠されました。


 ですから5位も何をしでかすつもりなのですか。私の背の後ろにいるエリコも、しがみつく力を強くしています。


「なんでさ。追い詰められてから謝るなんて、絶対に裏があるに決まってるよ」


「じゃな……じゃなじゃないのじゃ現実として受け入れられるわけなかろう! 今度こそ本当に何のつもりなのじゃ!」


 こちら側が混乱しそうですよこれは。何なら打ち合わせ不足なのか後ろにいる冒険者達が互いに目を見合せて一番戸惑っているほどです。


 寝られない元帥、気でも狂ったのですか。

 いえ元々そんな生物でしたので訂正して言うならば、正気なのですか。


(ぼく)はあなた方に降伏するためにここへ集結しました! ここにいる全ての冒険者が同じ気持ちです。あなた方をこれ以上侮辱したり危害を加えるなどは決していたしません! 今後はあなた方に従いますとも! ですからなにとぞ、後生です……」


 すると寝られない元帥は両手を地に乗せ。


「どうかこれ以上の争いは終わりにして下さい!!」


 土下座。


 まるで予め練習していたかのように芸術的で過剰さがないほど整った土下座。


 目茶苦茶でしょうこんなもの。何せ六位は謝ったら即死する病に感染してそうなほど高慢な冒険者です。

 どうせ待ち伏せで一斉攻撃を仕掛けてくる、さもなくば罵声を浴びせるなど幾重にも心構えはしていたのですが、よもや目の前で命乞いをするだなんて!

許すな定期

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[一言] ほぁ…… 敗戦を受け入れられないやつからFFされそうだな
[一言] だが断る(無慈悲 勝者には勝者の責任があるように敗者には敗者の負う責務がある故に
[一言] この期に及んで…ほわぁ。 敗軍の将はせめて腹を切らんか。それが誉れじゃ。 それができない時点でコイツラは茶番なんよな。
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