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検問&アムルベール

(5/29)ちょい修正

 鬱蒼とした森林地帯を隔てた先にあったこの石づくりの外壁こそが、目的地であり虐殺の舞台となる第二の街アムルベールを外敵の侵入から護っているようです。


「今回のテーマは『水面下での侵攻』にしましたが、これはテーマを頓挫させるまでの難関ですね」


 その最大級の外敵である私は無念にも近寄ることすら叶わず、正門付近の茂みに気配を殺して潜み続けるしかありませんでした。


 やはりというべきか、外部からの侵入に目を光らせる検問の者達が一枚上手(うわて)でしたので。


「冒険者様、そこで止まって下さい。はじまりの街にて出現したRIOと名乗る吸血鬼が、このアムルベールへと進撃中との報があるため、お手数ですがこれにご協力して頂きたい」


 事務的な声で見知らぬ冒険者を引き止めた検問兵が、判子のような小型の道具を取り出し、冒険者の手の甲へと強く押し付けました。

 この対吸血鬼メタ仕様の道具があるため、私は一歩たりとも踏み出せなくなっているのです。


「こちらは魔物かを識別する魔道具となっております。RIOの人相については全駐屯兵が周知していますが、万一変装でもして現れた際のために、こうして冒険者様のご協力のもと確認を行っています」


 そう判子型の魔道具とやらをそっと離しました。

 冒険者の手の甲には何も痕は残っていません。


『警備が厳しい』

『詰んだ』

『はよ強硬手段するんだ』

『よい。虐殺したまえ』

『だからいくらRIO様でも単騎でアムルベールを正面から滅ぼすのは至難の業だわ』


 指をくわえて眺めているしか方法が無かったのは、もうこの段階で対応策が講じられてしまっていたからでもあるのです。


 迅速な行動を取らなければ配信から居場所を察知した冒険者が到来しかねない。しかし配信者の身として仮想世界の事情で配信を中断するのは我儘と変わりないので却下。

 最低でも、配信を観れないNPC住民の目は欺きたいので「RIOが攻めて来た」という凶報が伝播されるのは好ましくないため、目立つ動きは極力避けたいのです。


「ご協力感謝致します。どうぞお通り下さい」


 そして検問が終わり、冒険者は街中へと姿が消えていきました。

 深夜までお勤めご苦労さまですと労いたくなるまでの徹底した仕事ぶりですが、お陰様でこっちまで苦労しています。

 このまま突破困難な場合、一旦ログアウトして日を改めるか、アムルベールの守備力を認め通り過ぎる苦渋の決断も選択肢に含めるしかありませんね。


 もっとも、私の図式には含めませんが。


「……吸血鬼の侵入を阻むつもりなら、吸血鬼なりに工夫しましょう」


 なので即席の仕込みです。

 肉体操作で外見年齢を小さくし、短剣を自分の体へ乱雑に刺し続けます。


『RIO様のロリロリボディががが』

『リスカか? いや全身カットだこれ』

『フライン呼ぶわけじゃねえんだよな』

『駄目だ。俺にはRIO様が何考えてるか分からねぇ』


 死なない程度に、それでいてドレスの端々も千切れるまで念入りに傷をつけました。


 これだけで準備完了です。次の冒険者が検問所を通りかかった時に一つ大胆な賭けを行いましょう。



★★★



「そこで止まって下さい。現在RIOが……」


 来ました。長銃を腕に連結させた冒険者です。

 焦燥感が爆発しそうなほどの声でしっかり演じられるよう大きく息を吸いつつ駆け出しました。


「この人がRIOです! たった今襲われました!!」


「えっ!?」


「なんですって!?」


 負傷箇所を手で抑えつつ、重体を装ってそこにいる冒険者を指差しRIOの名を被らせます。


「違う違う違う! 俺は【Bランク序列502位・シードガトリング】って歴とした通名があるんだ!」


「冒険者を騙る詐術に惑わされないで下さい! 早く対処しなければあなた方まで吸血されてしまいます!」


「おいこら! なんかちっさくなってるがコイツこそRIO本人だろ! うあっ!?」


「RIOだ! RIOを取り押さえたぞ!!」


 ダメ押しの一声で検問兵全員をつき動かし、スケープゴートにしたシードガトリングさんの身柄を手を汚さず捕縛させました。

 賭けは成功です。被害者を装った少女の言葉に兵達は釣られ、いざこざを横目に本物のRIOは通り去る。

 この冒険者は身の潔白を証明できるはずなので身柄を案じる必要はないですが、それまでは気の毒ながら身代わりとなってもらいましょう。


『策士』

『この幼女ただの妖女だった』

『これはファインプレー』

『すまん、シードガトリングが可哀想に思えてきた』

『いや、RIO様の肩持つこと言うがカルマ値上げ怠ったから誤逮捕なったんだぞ』

『俺スレで聞いたからこいつ知ってるぞ。立て続けにデスペナ食らったせいでこの街が唯一の拠り所になったんだってよ』

『影薄い上に無名だしな、シードガトリングって』

『視聴者がシードガトリングに辛口すぎる』


 なるほど、もし彼が黒服騎士のように名高い冒険者だったら今頃賭けに失敗していたのですね。この軽率さは自戒しなければなりません。


 さて、そろそろ傷の方も治ってきました。今度は姿形を成人女性相応にまで引き上げてアムルベールへと潜伏しましょう。



★★★



 私への防備は検問に頼りきっているためか、拍子抜けにも巡回中の兵士の姿はあまりいませんでした。

 なのでこうして雑多な街並みの中で優雅に闊歩出来るだなんて、このBWO世界に限定すれば久しぶりともいえる解放感があります。


『夜光をバックに歩くRIO様よく映えてらっしゃる』

『たまらん』

『こんな色気ムンムンな人がいたらつい声かけてまう』

『あ、今冒険者とすれ違ったのにバレてない』


 この姿形では一定以上の美貌はあるのか、はたまた視聴者様からのお世辞なのか、貴重なコメントなのでここは好意として受けとりましょう。


「ふうっ。なんだか肩が軽いです。これが余裕というものなんですね」


 こうして心に余裕を維持したまま、そよそよと吹く夜風を肌で感じられるのは、なんだかそれだけで羽を伸ばせますし癖にもなってしまいますね。

 まあこれが一般的なVRMMOプレイヤーのあるべき姿なのかもしれませんが。


「空気も綺麗で……うっ、なんですかこの臭い」


「ヘヘヘェ、べっぴんさん。不用心にも一人でどうしたんですかい?」


 突然現れた酔っぱらいであろう男性が粘っこく絡んできました。

 この人の口内から発せられるアルコールの臭気指数は、口元をマスクで覆いながら防臭剤をばら撒きたくなるまでに強烈な数値ですが、ここは気を強く保って我慢し、なるべく恍惚とした表情と艶っぽい声色を演出して乗り切りましょう。


「ふふっ。あなたを見ているだけでなんだか胸が高鳴ってしまいます……私、我慢できません。こちらへいらして下さい」


『ッッッッ!?』

『よっしゃああああ!』

『RIO様ぁ(昇天)』

『これだけでもうご飯三杯食える』

『RIO様の色仕掛けだ! もう思い残すことぁねえ』

『今回も神回』


 私だって、やりたくてやっている訳ではありません。


「うっひゃあ本当ですかい!? ついていきますとも!」


 自分では大根な演技だったと危惧していましたが、酒乱により判断力が鈍っていたようで、ほっと胸を撫で下ろしました。



―――――――――――――――


 スキル:血臭探知

 説明:吸血鬼にとってエネルギーとなる血を嗅覚で探知するスキル。

 距離が近いほど、また血中濃度の高い生物ほどより正確に感知しやすくなる。

 当たり前だが、物質のみで構成された生命や、霊体など実体を持たない相手には効果が及ばない。


―――――――――――――――



 とりあえず未成年な私にアルコール臭は酷なので、この新スキルを上手く応用し、鼻腔に伝わる臭いを上書きします。

 この世界の私では嗅覚が吸血鬼依拠なためか、お酒よりも生き血の臭いの方が遥かにマシでした。

 ですけどこのスキル、この街に住まう人間の乾いた血や、ネズミや野良猫をはじめとしたどこか毒々しい感じの臭いといった、生物全ての僅かな臭いの違いすら嗅ぎ分けられるので、只今犬の気持ちが共感しかけています。


「おぇ? ねえちゃんのその牙……ひいっ!? ひいいっ!」


 そして悪意や欲求の強そうな彼をおもむろに人気(ひとけ)の無い裏路地へと誘いこんだ後、《吸血》アンド《眷属化》で忠実な下僕へと墜としました。


「命じます。日の出を迎えるまでに街の住民の血を啜り、一人でも多く眷属に墜としなさい」


「ハイ。ショウチシマシタ」


「なるべく声を出さず、冒険者の前では控えるよう善処して下さい」


 機械音声のようにカタコト口調となった酔っぱらいの眷属は、相変わらずの千鳥足で街の表へと生き血を求めて消えて行きました。

 バトラーヴァンパイアなどと戦闘向けの性能が手に入ったからと無策で意気込むより、こうして周到に内部から徐々に侵食すれば、もしも全面戦争を仕掛ける時に余計なリスクを回避しやすくなりますので。


 それに、私の記憶上で難敵の象徴となった黒服騎士を上回る冒険者だって、どこで何人控えているかも分かりません。


 ……一つ絶対に伝えなければならない懸念感がありました。


「視聴者の皆様、先程の人、多量のアルコールを呷っていた状態なのに吸血してしまいましたが、これって未成年者飲酒禁止法に触れないですよね……?」


『気にするとこそこかいw』

『現実の法律は守るRIO様』

『殺人はスルーするのかいな』

『↑人間の法は吸血鬼には適用されません』

『でえじょうぶだ。RIO様が吸ったのはあくまでも血液だ』

『強制ログアウト処置されてないなら大丈夫』


 よりどりみどりなコメントでしたが、AIがそう判定しているから良しなのだと強引に当てはめます。


 この肉体操作の体質、視聴者様と共にファッションショーの要領でどこまで汎用性があるか試してみましたが、年齢の変化は10〜20歳までの範囲が可能のみならず、髪の長さも自由、髪色でさえ奇抜なグラデーションがかった色にも細かく染め替えられるとコメントで判明しました。


 人前では決して行えませんが、変幻自在の体質を存分に利用し、こまめに外見を使い分けて隠密行動を続行していきましょう。

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