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正義と悪 その2

『5位来た、こいつだけはアカン』

『ついに恐れていたことが起こってしまった』

『ギャー! 将軍様ー! さっさと負けろー!』

『ダブスタクソ元帥は雑魚でいいが、ジェネシス将軍はトップ10内でもナンバーワンの実力者といっていいからな……』

『5位がここに来たってことは別チームは陽動上手くいってないのか?』

『なんで? なんでお前ら空気が暗くなっとるんや?』


 そうでした、この人はジョウナさんですらトップ四名よりも高く買い被るほどの冒険者です。


 借りを返すチャンスが向こうから舞い降りたといっても、一度は殺しきれずに終わった相手。


 しかも5位だけならまだしも、あの冒険者のせいで未だに即死のリスクも祓えていません。


「さてだ、流石のRIOもとうとう悪運尽きたところで、魔王ごっこから卒業して大人になろうか」


 なんでこう6位は優しげな言葉遣いになるのか、私の親にでもなったつもりですか。


 しかしこんな弾丸、元から回避に専念すれば確実に躱せることに変わりありません。


 とにかく走ってダーツを躱すのみです。

 5位は護りに専念しているのか登場してから微動だにしていないところまでは良いですが、足を止めた瞬間負けてしまう状況には変わりありません。


「逃げろ逃げろ! 正義の力にビビりまくれぇ! 俺に手も足も出ないお前にとっちゃ、ドブネズミみたいに逃げ回る姿は絵になるよなぁ!」


 周りを走りながら、折を見て接近。

 具体的には銃口がなるべく多く逸れていて5位の視界の外に走れたこのタイミング。


 でしたが5位、私があともう二歩のところまではまるで石像のように微動だにしていなかったのでしたが。


「フン」


「流石だジェームズ! お前こそ最強の冒険者の名に一番近い!」


 あと一歩のところに迫れた瞬間にいきなり盾に視界を覆われました。

 この5位、重装備でありながら後頭部にも目がついているかのような反応速度、それにあの防御力、どうなっているのですか。

 突破するどころか斬り刻んだり鉄くずに変えたりなど想像が浮かばなくなるほどです。


「ぎっ……まだです」


「勝ちぃ!」


 足を止めたら負け。深追いはせず一旦後退です。

 死なない限りはチャンスは潰えていません。


『駄目か!』

『火力以上に防御力もインフレしてやがる』

『今回もやばいのか? 魔王になってもあいつはやばいのか?』

『実際あいつはそれほどやばいぞ。昔ジョウナが離反して旧ギルド本部を襲撃した時なんか、ジェネシス将軍が一人で最終防衛ラインを護り通したんだからな』

『↑あれジョウナが攻め飽きて帰っただけだぞ? まああのまま戦い続けても先に冒険者の援軍が帰還するまでは粘っただろうよ』

『いや歴史は繰り返さない。今回の相手はそのジョウナを打ち負かした我らのRIO様だからな』


 視聴者様方の声援による後押しがあっても、困難なものは困難です。

 ここがトップランカーへの登竜門だとしたら、この門番は強すぎます。


 一旦離れて再度機会を窺いたいですが。


「正しさを受け入れられない悪いやつにはこうだ!」


 ただ離れようにも、私の足より速い弾丸が真横を走るため、今回は蛇行して躱せましたが逃げ方さえも一考しなければなりません。


 これこそ雲行きが怪しいというものです。


 最強の冒険者と最低の冒険者によるコラボレーションは、洪水のような勢いでストレスがたまりますね。


 しかも寝られない元帥は他の冒険者をこの場に召喚する能力でも持っているようです。

 もし巧く5位の壁をすり抜けたとしても、また他の冒険者を呼んで護らせるまでかもしれません。


 その果てに強力な冒険者が出揃ったときには、私一人で勝てるのか。


 エリコ達も今頃もしかしたら4位以上をまとめて相手している可能性も考えられます。そうでなくともあの戦力での消耗戦は敗色濃厚。


 早々に目的を果たしてエリコ達に加勢するためにも、私がたった二人相手に躓いてる場合ではありません。


 ですが、どうすればあの硬すぎる壁を取り除けるのですか。


「フン」


 また防ぎ止められました。

 完全に相手のペースに嵌められてしまってますこれは。


 恐怖を与える側なのにプレッシャーをかける余裕もなく、速攻を意識したいのに逃げの一手を強要させられ。


「このっ!」


「フン」


 もはや私には、諦めきれないという気持ちだけが頼りの状況です。


 冒険者ギルド本部を陥落せしめない理由、それは本部自体の防衛に特化した機構ではなく、ジェネシス将軍こそが最大の秘訣なのでしたか。


「フン」


「またもや正義の冒険者が害悪プレイヤーにお灸を据えちまうなぁ! 俺は正義の神だ! 俺こそが現代のカンパンヒーローだ! 忌み嫌われ批難される吸血鬼は人気配信者になれずに涙の最終回を迎えるのだァ! アヒャヒャヒャヒャーー!!」


 あなたには凄いところなんか全くないのによくもまあ自分のことのように驕れますね。鉄壁の護りは5位によるものでダーツの飽和攻撃は量産した生産者の手柄でしょう。

 他人の褌で勝ち誇るとは、この人がどのような一生を歩んできたかが容易に想像ついてしまいますね。


 ですがそろそろです。


 寝られない元帥、あなたの聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)も消耗品である以上は底があるはず。

 事実として弾幕の密度も薄くなりつつあり、あなたは愚かにもそれに気づかないという勘の鈍りがあったようですね。


「ん、あれあれ、あっれ? なんで出なくなった? まさか撃ちすぎたか?」


 やはり例外なくありました。


 短期決戦を想定していたのに短くない時間を浪費しましたが、敵の攻勢が止むこの弾切れの瞬間こそ、反転攻勢の時。


 即死の憂いが無くなった今こそ、持てる力を攻撃に注ぐのみです。


「ったく手間かけさせてくれるな。それならそうとして、補充要員を招くとするか」


「何ですって!?」


 やっと底にたどり着いたと思えば二重底ですか。


 聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)を補充されたらそれこそ勝機がなくなります。


「はああああっ!」


 何が何でもここで仕留めなければ。

 聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)が無い間の今ここで、全神経で殺意を込めてもっと激しくたたみかけなくては。


「フン」


 破れません、蹴りまで防がれました。

 こちらは一刻一秒も争うというのにこの、5位が邪魔で6位に近づけません。


「早く! 早く倒れなさい!」


 絶対に今始末しなければ。

 また逃げながら接近の繰り返しなどするほど悠長に戦う時間など残されていません。


 勝利が遠のけばパニラさんの復讐の望みも絶たれます。

 いくら焦ってでもここだけは譲るわけには、無茶してでもここで始末しなければ。


「そこを退きなさい! はやくうっっ!」


「誰を呼ぼうかなぁと、ん? のぎゃあああああああああ!!」


 えっ。


 寝られない元帥への攻撃、首を横袈裟斬りが届くだなんて、妙です。

 だってこの攻撃、私の力が上回ったというよりかは敵の防御が疎かになって届いたような感覚でしたから。


『やったか?』

『やったか?』

『やってないフラグ立てといて本当にやってるとか……でも何だこの釈然としない感じ』

『RIO様がやったというより、ジェネシス将軍が油断したようなトドメの刺し方』

『まさか元帥のつまらん企みか?』

『保身だけで武装したあの元帥がわざわざ死ぬ企みとは?』


 自分で始末しておいて何ですが、あり得ない事態です。

 5位、一体どういうつもりなのですか。


「フン、ただのカスが」


 首と胴体が泣き別れとなった寝られない元帥の亡骸に、5位が悪態をついている場面を映してしまいました。


「ちょっとは漢を見せてくれると思ったがダッセェじゃねぇかよなぁ! 弾切れまで粘られてるようじゃ、おめぇに勝者の器はねぇんだぜ」


 そう寝られない元帥の頭部を苛立ちの勢いで蹴り飛ばしていました。


 この悪辣な口ぶり、やはりわざと庇いにこなかったわけですか。


 トップランカー同士ズブズブの仲どころか、護りたくなくなるほど寝られない元帥を嫌っていたとは。無敵の組織とは敵がいないという意味ではなく内部が敵になりがちなのですかね。


 予想を超えた出来事に驚いていたら、5位は満足感を出さずに私の方へと振り向いていました。


「そんじゃRIO、もしかすりゃお急ぎの用事かい? だとしたら丁度良かったぜ、俺と1000ターンくらい付き合ってくれや」


 この人、初対面よりやけに粛々としていたのが不思議でしたが、いきなり口数が攻撃的に増してきましたね。


 ですがこの一連の出来事を整理してみれば、結果的に有利になったのは私の方です。


 冒険者が一人減り、私を葬れる最大の攻撃手段を持つ仲間を見殺しにしたということ。

 もうあんな動ける石像など無視してグランドマスターの部屋へ侵入してしまえばいいので、1ターンたりとも足止めに付き合う義理などありません。


 ええ、向こうのオウンゴールといったところでしょう。


「肩の荷が下りたとはまさにこのことです。この作戦、内部に敵を作りすぎた寝られない元帥の負け、そして公私を分別しきれなかったあなたの負けです」


 私の目的はこの人の始末よりもグランドマスターの鹵獲です。思いもよらない事態で作戦成功が確約されたのは僥倖といっていいでしょう。


「なるほどな、そう思ってんならそう思っていてくれ。だがもしマジでそう思ってんなら、おめぇアリジゴクの罠に両足突っ込んでるようなもんだぜ?」


「む」


 またしても相手の反応が気がかりになりました。

 向こうの敗因を指摘しても逆に問い返すとは。その強気な姿勢は重大な意味を含めているのですか。


 5位は堅牢な防御力だけが取り柄、逆に言えば5位のちょっとやそっとの攻撃など私の自動回復が相殺するため、そちらが勝つなど万に一つもないはずです。


 まさかとは思いますが、私を打ち負かすほど攻撃能力でも持ち合わせているのですか。

 いえいえそんな能力、あろうものならパワーバランス崩壊必至でしょう。


 ですがこれほどの自信、まさか実際にあるのですか。


 寝られない元帥が聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)を潜ませていたように、あなたの持ち物にも。


聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)があると」


「確かに俺は攻撃はへなちょこだし、カバーできるほどの技術も訓練してねぇが、1000ターンでも万ターンでもチャンスがあるんなら、一回くらいは偶然ぶっ刺せる展開があっても不思議じゃあねぇよなぁ」


 単純過ぎる答えでした。聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)が量産されているならば、この冒険者にも何本かインベントリに潜めていてもおかしくはありません。


 私を一撃で殺せるならば、もうこの人は無視出来ませんよ。


「これで分かったな、勝者とは寝られない元帥でもおめぇでもなく、この俺ただ一人だけで十分なんだぜぇ!」


 まだ勝利には険しい道のりでした。

 5位は誇ってもいいでしょう。一度でも刺さってしまえば完全敗北だということに変わりなかっただなんて。


 これは困りましたね。

 非常に困りました。

 困ってしまったのなら、もうここが使い時でいいですよね。


 ()()()がそう言ってくれた以上は、その言葉に従いましょうか。


「そういえばパニラさんから困った時に使えと渡されたものがありましてですね。しっかりご覧下さい」


「あん?」


 黒い玉を一つインベントリから取り出し、教わった使い方通りに地面に投げました。


 するとその玉からは黒煙が勢いよく噴射され、照明の光も遮る空間へと塗りつぶされていきました。


「ゲフッゲフッ! 煙幕か! 卑怯なヤローめ!」


 ふむ、効果のほどは理解しました。やはりパニラさんには私の得意な戦法のためにこの忍者グッズを調達したということですか。


 アイテム対決はこれで五分、あとは私と5位の化かし合いをどう制するかとなるでしょう。


 この部屋は、まるで真夜中のような漆黒の闇で包まれました。

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― 新着の感想 ―
[一言] こ、こんな……あっけなさすぎる………! いやぁ、リスポンして補充してるんだろうし、 まだまだ報いを受けてもらわんと! しっかし最終兵器コンビみたいに出てきておいてそれかいとw 問題は実際強…
[良い点] 雑魚はやっぱり雑魚死するんやな......w 多くのプレイヤーのヘイトを爆上げしまくった寝られない元帥はいつの日か刺されてお休み中将に二階級特退しそう。 にしてもまさか5位さんが戦いを求め…
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