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最終作戦始動

 もうこれでラストバトルにします

 目の前には高くそびえ立つ岩肌と、人一人分の幅の入口が開いた天然の洞窟。


 幽冥界の何の変哲もない場所ですが、ここの洞窟の奥の裏側は冒険者ギルド本部の一階に繋がっているようです。


 私を含めた六人からなる復讐の演者は欠員を出さずに時間通りに集結し、それぞれ顔を合わせて頷き終え。


(さあRIO様、配信をどうぞ)


 パニラさんの文字に促され、配信を開始いたしました。


 配信活動は魔王降臨イベントよりおおよそ一週間ぶりですけど、集まりの方はどうなるやら。



『通知が来たかと思えばRIO様じゃねぇか!』

『えっRIO様? なんでこのタイミングで?』

『むしろこのタイミングだと思いましたわ』

『RIO様ご無沙汰しております!』

『相変わらず立ってるだけでエッッッッッッッッ!』

『↑RIO様を性的な目で見ていいのはエリコだぁけ♡』

『RIO様信者達を呼べ! エリリオ専用掲示板にもこのことを今すぐに書き込め! 魔王RIO様の蹂躙開始だああっ!』


 まだ配信を開始したばかりだというのにもう気の早いコメントまで現れていました。これまで私のやったことは殆どがそれなので予測しやすかったのでしょうけど。


 しかし期待に胸躍らせる書き込みの数が鰻登りとなっていると、思わずこちらまで感情が引っ張られるように昂ぶるというもの。

 私も浮かれていないで挨拶しなくては。


「こちらこそご無沙汰しておりました。お気づきの方もちらほらいるでしょうが、今日これより冒険者ギルド本部を滅亡させる戦いを始めます」


「私もいるよ!」


 エリコも横からカメラに向かって顔を出しています。


『RIO様の花嫁さんだやったー!』

『無期限休止で心配だったけど元気で良かったで』 

『カムバックいつまでも待ってる』

『エリリオの他にも何人かいるな。しかもどいつもちょっと話題になったことのある人ばかり』

『嫌ならやめろじゃなく、嫌なら戦えを選んだ者達だ。面構えが違う』


 やはりご存知の人が多く映っているとなると歓声の書き込みばかりで埋めつくされるものですね。

 というよりパニラさん達も単なる1プレイヤーではなくしっかり知名度があっただなんて意外でした。


 しかし波がひいた後は別の波がやってくるように、気づけばコメントの流れは別の人物へと上書きされていました。


『げえっジョウナ!』

『どうしてラスボス候補がしれっと混ざってるねん』

『消えろサイコパス!』

『RIO様そいつ始末始末!』

『まさか共闘するというのか』

『絶対暴走して引っ掻き回してくるわ……』

『PK数最多記録更新なるか?(煽り)』


 それはまあ誰もが思う疑問点ですよね。


「どうもパーティにジョウナさんがいることに疑念を抱いている視聴者が多いようですけど、ジョウナさん本人から何か物申したいことはありますか?」


 一応まだ仲間の一人ではあるので、とりあえず聞いてみました。


「オッスオッス皆の衆! 地味で取り柄もないボクもこんなに愛されちゃ、感謝カンゲキクラスター爆撃雨嵐だねぇ! まあホントは雑魚のお守りなんてしたくなかったし、隙あればめんどくさがりたかったけど、こいつら意外にもここまでたどり着いちゃったからさぁ。こうなりゃ一蓮托生しかないよねぇアッハッハ」


 この相も変わらぬ軽薄な態度、今後起こる頭痛の原因にもなりそうです。本当に死力を尽くして戦う気はあるのですかね。


 まあそうだとしても今日が大一番の日なので、妙な動きをする余裕も無くなるでしょうけど。



「今回ジョウナさんは私達の協力者であり、事実として五日間の旅路を共にした仲でもあります。まあ傲慢な正義人よりは首輪がついた狂犬の方がマシだとは思うので」

「そうそう、マシだよマシ、ボクのことはただの仲間とも言わず、エリリオファミリーと暮らすちょっとおちゃめなクレイジーペット枠だと思ってかわいがってほしいナ〜」


 画面に向かって喜色満面の笑みで愛想振りまいて、無害アピールのつもりですか? つくづく小癪です。


「かわいくない駄犬は私の血液にしましょうか」

「ペットの虐待はやめようね、わんわんお」


 狂犬など所詮は狂犬。この生物は目的が達成した一秒後に斬りましょう、そうしましょう。ワンと吠える犬に対して拷問されている人間のような悲鳴を出させるのは造作もないことです。


 こんな人の紹介のために僅かな時間を割かれましたが、本題に戻りましょう。


「それではパニラさん、作戦の概要を発表して下さい」


 どんな決戦にも勝つための作戦があります。

 パニラさんによるとこちらの生存者の数によって臨機応変に作戦を変えるとのことですが、今回は全員生存です。最良の作戦が練られたはずでしょうが。


(これよりRIO様のリスナー達の前で作戦を発表するけど、最初にことわっておく。RIO様、ここからは単騎で別行動をとって頂きたい)


「別行動?」


 ここに来て別行動とは、ただでさえ少数精鋭だというのにここから私だけだなんて。だとするとエリコは、エリコ何故。


『いきなり爆弾発言!』

『エリリオは!? エリリオラブラブバトルは!?』

『お前らとりあえず落ち着け!』

『そいつこそエリリオを引き裂こうとする元凶だったか』

『↑うわぁお前が最初に落ち着けぇ!』


「りおっ!!」


「エリコ落ち着いて下さい。まずはパニラさんの考えを聞くべきです」


「ボクは賛成。だってキミ、ぐへっ娘に先立たれたらヤケっぱちになった前科あるじゃん」


「あなたほどではないので無駄口叩かないで下さい」


 パニラさんはこの日のために壮大な作戦を温めていました。


 長くなるでしょうが、視聴者のためにも納得の時間が必要です。


(どこから説明しようかな……まずこちらの勝利条件は二つある。一つは冒険者ギルド本部を爆破解体すること、もう一つは本部最上階に引きこもっている冒険者ギルドの総帥・グランドマスターを眷属化させること。これら二つを同時にクリアしてやっと完全なる勝利になる)


 小難しそうな話ですが、どうやらただ蹂躙するだけでは勝利と呼べなさそうでした。


 しかもその二つ同時の達成ともなると、こちらは二手に分ける必要があります、飲み込めてきました。


「どちらかが欠けてもダメだ。前者が欠けた場合は別の人間がグランドマスターを襲名するまで。後者が欠けた場合はまた新たな拠り所を建設されるまで」


「それでも組織力は弱体化するじゃろうが、不完全な勝利は泥沼になるだけじゃな」


 でしょうね、納得しかありません。

 またギルド本部の場所を捜索するところからの振り出しになるのは目に見えています。


「その勝利条件の中でも眷属化が使えるのは私だけ、それで私が単騎で最上階に突入する運びとなったのですか」


(ご明察! フラインとヴァンパに掴まって飛び、目的地の座標に到達したら次元烈断石で空間を斬り裂く、本部への侵入方法はそれでいってね)


 パニラさんが幽冥界の入口を開ける時に使ったアイテムですね。


 すると早速パニラさんから尖った石を手渡されました。

 これが次元烈断石、使用可能回数は残り一回。一応パニラさんは二つ所持しているらしいので私に一個譲渡しても支障ありません。


「次に侵入するための座標に到着するまではどれほどかかりそうですか」


(けっこう時間がいる。現世と幽冥界の面積比は10:1でこっちが狭かったけど、逆に高低差は1:3くらいでこっちが広い。だから200階の地点まで飛ぶにはおよそ30分くらいかかりそうかな)


 パニラさんの推測によると、私の決戦の場までの移動時間は短くなさそうです。


 ですがこの待機時間は、ううむ。


(分かりにくかったね。この岩山の頂上からもう20分、空の雲に触ってからもう5分と考えて)


「分かりにくかったから悩んでいたのではなく……30分、私はともかくパニラさん側はこの30分の間は待ち続けなければならないということになりますが……」


(気持ちだけは今すぐにでも突入したいけど、2方面同時の突入にする方が指揮系統も混乱しやすくなって美味しいからね)


 確かに作戦通りにさえ進めば、あのギルドの杜撰な指揮系統では混乱間違い無しでしょう。


 ですがここはまだ幽冥界、待っている間に万が一にも想定外のトラブルに出くわしたのなら……やめましょうそんなリスクマネジメント。

 パニラさんも軸の内の一つです。信頼を持ちましょう。


(そうだ。RIO様にこれを)


 続いて手渡された飴玉サイズの黒い球体が六つ、正式名称は黒隠の煙幕弾なのですが


「これは? これも攻略に必須アイテムなのですか」


(そんな大事なもんじゃないけど、とりあえず困った時に使えばきっと役に立つ。地面なり何なりにぶつけるだけで使える)


「え、ええ。とりあえず受け取ります」


 効果のほどは追々確認するとして、パニラさんがそう言ってくれるほどならば、実際役に立つのでしょう。


「眷属化するにしても相手はグランドマスター、能力などに関して注意点などはありますか」


(グランドマスターは戦闘力が皆無なNPCではあるけど、あの冒険者の棟梁なだけあってシステムの根源にも関わる権限を握っている。だからグランドマスター自体を乗っ取っちゃえば、あとはRIO様のペースってわけよ)


「上手く成功すれば、敵の親玉がこちらの親玉に寝返ると、これには冒険者達も慌てふためくでしょうね。そこで質問ですけど具体的にどのように権限を変えてしまえばいいのですか?」


(グランドマスターに命じて全冒険者達のリスポーン地点を【幽閉界】へとチェンジする。それでおけ)


 おお……権限の操作とはそういうことですか。何でもアリなのですね。


 それと幽閉界、そういえば出発前に三界とやらについての説明を聞き流していましたが、ここ幽冥界の他にもそんな異世界がありましたね。


『なるほど幽閉界、そいつは名案中の名案だ』

『幽閉界といえばどこぞの五億年過ごすボタンを押した世界のようになーーーんにもないところ。草木も生き物も建物も、おまけに出入り口も無いから、読んで字の如く脱出不可能』

『何もないならば正義も生えない、正義がなければ冒険者らはアイデンティティも自壊する。そうすりゃどうなるか?』

『俺達やパニラさんに引退を迫らせたように、冒険者共は自ら苦渋の引退をする以外にやれることが無くなるのか!』

『その作戦、俺は大賛成だ!』

『まさに復讐としては完璧な意趣返っすねぇ〜! あとはプロット通りに実現するだけやん』


 よく分かりました。

 もしリスポーン地点が幽閉界になるよう弄った後は消化試合。

 私達は何度やられようともリスポーンするだけですが、冒険者らは一回でもやられてしまえば実質ゲームオーバー。この世界も二度と荒せなくなります。


 足掻けども足掻けども、幽閉されているため抜け出せない、まさに絶望ですね。

 圧倒的武力により否応無く与える絶望も悪くはないですが、救済があるようで見せかけだったとじわじわ気づかせる絶望の方が、総合的な精神ダメージが高いでしょう。



 ところで、ふと体の重さを感じたかと思えば、私の肩には馴れ馴れしく腕が乗せられました。


「キミぃ、分かってると思うけど間違ってもグランドマスターを消し炭にしないでよ〜?」


 誰しもが気を払う当然のことをわざわざ釘指されました。


 ことあるごとに優位に立ちたがる人、ただでさえ時間も押してそうだというのに相手にするだけ時間の無駄。


「次です。パニラさん側の作戦も説明を視聴者の皆様に向けてお願いします」


(私含めた他五人は地上から一階ロビーに突入する。でもそこでストップ、RIO様の作戦成功までエリコ氏とジョウナ氏が陽動しつつ、それ以外で私お手製の大型ダイナマイト百個を本部内に仕掛ける。RIO様がグランドマスターの権限を操って一階にワープした時が点火の合図にしとこう。ここまでが作戦の全体図。もし生き残りがいたとしても、拠り所を失った冒険者は残基無しの状態で世界各地にあぶれ出す)


 二つ目の勝利条件、冒険者ギルド本部の爆破解体はパニラさんの手で行われるのですか。

 なかなか巧妙な決着方法です。復讐の戦いならばパニラさんの手で決着をつけるべきでしょうから。


 それに、前に話された奥の手、まさかそれでしたか。


「大型ダイナマイトでしたね、確かに建物を解体するには人材も必要とせず手っ取り早いでしょうが、よくそのような高威力の爆弾を調達できましたね」


(火力インフレはVRMMOの常だよ)


 得意げに言われました。


(それでも本部全部を解体させるまでは力不足だけどね。でも一階とその周辺さえ削り取れば、あとはジェンガのように倒壊して、本部は海の底になる)


「地図によると冒険者ギルド本部は孤島でしたね。その地形を利用するのですか」


(相手にとって有利な条件を逆利用する、力無き者の常套戦術だよ)


 なかなかのクレバーな戦術、私も賛成です。


 どんな歴戦の勇士だろうと、人間である以上は海に沈めば窒息死は免れません。


 爆破で解体出来る程度の建物、なんだか最初からそうしろ言われそうですが、いきなり点火してしまえば私やグランドマスターまで爆発四散してしまうので、おいそれとは実行出来ないということ。



 しかしパニラさん側の条件は悪いですね。ただでさえ補給無しのシャトルラン戦闘を強いられるというのに、もし一度でも倒されてしまえば戦線復帰には遠いリスポーン地点です。


 対して冒険者陣営は数千単位が所属しています。

 流石に一度にその人数を相手するはずはないでしょうが、冒険者連中は本部内にリスポーンするため再出撃も容易。


 エリコに呼応して数多くの良識ある冒険者は出奔しましたが、裏を返せば今も残っている冒険者は魂まで狂わされた筋金入り。


「こりゃ泥仕合は確定かな。たとえ何億回殺されたとしても、あいつら人海ゾンビアタックで対抗してくることうけあいだねぇ」


「私、ちゃんと最後まで戦えるかな……みんなの役に立てるかな……」


 だからこそですか。

 この作戦、私側の成功がどれだけ短時間で終わるかによって、パニラさん側の成否、ひいては復讐全体の成否がかかっていると。


 次に私に対する信頼。

 仮にジョウナさんなんかに万能たる権限を渡したところで、好き勝手に操作した挙げ句に混迷極まる事態へと発展しかねません。


 この決戦、たとえ五人やられても最後の一人がピリオドを打てばいいと甘く見積っていましたが、この私だけは敗北しても代わりがいないとは、いっそ笑えますね。

 蓋を開けたら私の責任は重大でした。


 だからこそ私の責任感くすぐってくれる名案件です。


「方や電撃戦、方や持久戦の二方面同時進行作戦。いいでしょう、身命を賭けることに異論ない作戦です」


(RIO様ならそう返事してくれると思っていた)


「あとジョウナさんに一つ」


 最後にどうしても釘を差したい人がそこにいますので。


「言っておきますが、間違ってもパニラさんをフレンドリーファイアしないで下さい」


「アハッ! 燃料投下ありがとぅ! ますますやる気になってくるねぇ」


 この人が憎まれ口さえ蜜の味とする性格で良かったような悪かったような。


 私が一時的にでもいなくなればそれはつまり狂犬の首輪を外すも同然になってしまいますが、もう折れました。ジョウナさんも主力として数えるしかありませんか。


「長かった、この一戦のためだけに時間をかけすぎた。自分としてもこれ以上の時間はかけたくない」

「じゃな。あやつらとの戦いは達成感というものが無いのじゃ……」


 そうドゥルさんとメーヤさんが呟きました。


「これ以上の犠牲も生みたくないよ」


 そうエリコが続いて自分なりの考えを呟いていました。


 他人を死なせたくないと思う気持ちは当たり前です。私だって同じです。あなたにだって犠牲になって欲しくありません。


「次もあるとは思わず、この一戦を最後にしましょう。さああなた達も現れる時です」


【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】

【私の魔力は、お前にとって大きな力となるだろう】


 フラインとヴァンパを召喚し、出発の準備はこれにて済ませました。


 そこでふとコメントの方に目を移してみたら、やはり視聴者の方々には少し変わったところでも一抹の不安もあるようです。


『でも皮肉だよな。3年前には害悪プレイヤーの跋扈を食い止めた冒険者ギルドだが、今や冒険者ギルドが跋扈するポジションになって、それを食い止めようとするポジションが害悪プレイヤーに近い御一行なんてさぁ』

『歴史は繰り返すまでよ。支配者を倒してもまた別の支配者が現れたまでよ』

『失礼な想像しちまったが、もし勝利して一時的に平和になったとしても、次に増長してラスボス化するのはパニラさんなのでは?』 

『↑ほんと失礼なやつだなお前!』

『勝って兜の緒を締める人物なのは分かってる。でもあのギルドの腐敗をリアルタイムで眺めてきたもんでして……』


 過去にトラウマを刻まれた人達からすれば、冒険者がいなくなったところで何の解決にもならないのではと思ってしまうでしょう。


 だとしても私からは歴史は二度と繰り返さないと断言できます。


 パニラさんはそれを身をもって証明するために、この戦いを最後に引退するとケジメをつけていましたから。


 ですが今話したところで作戦に関係ないことなので、私の胸の内に秘めておきましょう。


「RIOっ!」


 胸にしまっていると、エリコが私のもとへと駆け寄ってきました。


「こんな形で最終決戦になっちゃったけど、私達絶対に上手くやるから! RIOが安心してこっちに合流出来るように頑張るから!」


 そう私の手を固く握って決意を示してくれました。


 今から別行動となるのでしたね。


 そうなるとこの手の温もりも、あなたのその声も、暫し見納めとなると少しばかり名残惜しいものが感じられてしまいますがそれも一時的な問題。


「では私も、そちらの成果はエリコの口から直接聞きにいきましょう」


「ぐへへっ」


 ふふっエリコ、これでお互い死ぬに死ねなくなりましたね。


 別に勝利さえすれば生き残ることに拘る必要ありませんが、生き残って勝つに越したことはありません。その方が喜びも分かち合えるので。


(引退していったみんなの憎しみも復讐心に転換できたおかげで、私は今日まで引退せずにいられた。RIO様やプチ・エリコ氏もこの私の途方もない復讐計画を手伝ってくれたのは重ね重ね感謝ばっかりしている)


「そんなしみったれたことよりももっと楽しいこと、勝つことを第一に考えようよぉ! それで気持ちよく勝ったら突き返してみないかい? 正義は勝つだの勝った方が正義だの、そんな理屈は時代遅れってさぁ〜」


 なるほど、不覚にも高揚しそうな締め台詞、採用に値します。

 ですがジョウナさんにはまだ甘さもあります、勝ってそこから更に冒険者の作り出したものを徹底的に否定しなくては足りませんね。


 冒険者のみならず、この電脳世界では腐るほど聞いていそうな正義という単語まで抹消してしまいましょう。


 これでもういいでしょう。


 戦いの火蓋を切るのはもちろんこの方。


(これから始めるのはその百倍返しの敗者復活戦。みんな、伝説になる覚悟はいいね、作戦開始!!)


 今まさに、パニラさんが拳を突き上げて号令をかけました。


(RIO様お頼みします!)


「そちらもどうかご武運を!」


 フラインとヴァンパの脚に捕まり、目的地である空の彼方を目指して飛び立ちました。


 下を見れば、私の見送りのために律儀に手を振っている五人の姿、こうしてみるとどことなく呑気な気がしますが、おかげで心配だとか緊張感もほぐされます。


 エリコにジョウナさんにパニラさんら七つの大罪の三人、正義や悪の二元論に拘らないような人達だけでこの歴史的な戦いを迎えられたのは、つくづく運命の巡り合わせですかね。



●●●



 この高所ゆえの突風に一人で当たっていると、肌寒さも感じる涼しさに頭が冷えますね。


 皆で臨む決戦なのだからこれまで以上に騒がしくなるかと思えば、ここまでは風の環境音以外に何一つ聞こえないため、集中力も鋭く研ぎ澄まされやすくなる一人の環境。


 一人とは、まるで最初の荒れていた頃に戻ったような、どこか懐かしい気分です。


『生放送前の待ち時間みたいな気分はたまらんねえ』

『天にものぼるような気分〜』

『RIO様は実際、天に近づいています』

『よっしゃ! 居間のテレビどうにか占拠して大画面で見られるぞ!』

『俺の友達の友達の友達も夜勤早退して配信観るために帰っているぜ』

『いいぞいいぞ、信者達はだいぶ集ってきたな』


 いいえ、最初の頃から私は一人ではありませんでしたね。いつだって視聴者様方が着いてきてくれています。


 それどころか同時接続数は記憶の中では過去最高、まだまだ留まるところを知らない勢いで上昇中です。


 この私の姿、一体何人の方が見ているのでしょう。


 いえ、どうせならかつてのように正義から対極に位置する悪らしく振る舞い、そして冒険者らの無様な最後の姿をどう映せるかこそ心配しましょう。



 さて、たった今30分経ちました。


「パニラさんの情報が正確であればここが最上階に通ずる座標ですか」


 この位置からならば一気に最上階に突入出来るはずです。


 戦いの緊張は依然として皆無、元より私が勝つことは決定事項であり、パニラさん側がスタミナ切れとなるより先に勝てるかが悩みどころなだけ。


 冒険者ギルドに私が勝つという大任からの緊張も、完全に払拭する方法だって備えています。


「この電脳世界を開拓した先人達、理不尽に虐げられたプレイヤーの皆様、積もり積もった無念をこんな新参者の私が代行して晴らすこと、どうか許して下さい」


 BWOの悪しき歴史に終止符を打つ宣誓、大勢のプレイヤーの意思を背負うための表明をカメラに向けて。


 きっと視聴者の皆様も自分の手で復讐したかった方も多いでしょう。だからこそ私がこれから始めることの大義や責任はこの目に収まらないほど大きいと、私一人の戦いではないとしっかり理解した上で勝たなければなりません。


 さあ今こそ、フラインとヴァンパの背に足をそれぞれ乗せ、次元烈断石を手に取りましょう。


「魔王が参ります、人間共」


 次元を引き裂き、目の前に別の景観が開かれたと同時に、歪んだ正義の坩堝となった伏魔殿へと大剣を構えながら飛び込みました。



「……さてと」



 少なくとも平たい床があったのが一番に安心感を覚えたところです。


 次にこの大理石らしきものでドーム状に敷き詰めた殺風景な大広間、そこにいる人間は一人。


「ほぉ、()()の敵がここに来るかと予想して暇をつぶしていたが、予想的中、()()だったってな」


 私から離れた壁際にいるこの小汚い男性、少なくとも初めましてとなるプレイヤーです。


 ですが声を聞いただけで沸き上がったこの胸糞悪さ、男女違うだけでジョウナさんとは別ベクトルのねちっこさは只者ではありません。


『寝られない元帥いいいい! てめぇこのクズ野郎アホ○ね!』

『一人目から出やがった! キングオブゲス冒険者!』

『皮肉にも自由度の高さを最も体現している男』

『誰もお前を愛さない』

『吐き気を催す邪悪』

『吐き気を催す邪悪も吐き気を催す邪悪』

『もう誰か吐いたか? 画面越しからでもゲロくせぇ臭いがプンプンする』

『キャー!(悲鳴)げんすいー!(非難)あっち向いてー!(拒絶)』


 配信史上類を見ないほどの憎しみの念が青天井となってゆくコメントによると、彼こそがSランク6位の寝られない元帥本人。


 なんという幸運でしょう。

 一度この目で見たかった冒険者と初戦から立ち会えるだなんて、これはもう景気づけの血祭りをあげられそうですね。

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[良い点] とんでもねぇ待ってたんだ ついに始まっちまうなラストバトル 一生寝てろ元帥
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