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鍋パにしよう!

 突拍子もなくパニラさんから提案された鍋パがシームレスに開催されていました。


 この光景、季節感だけなら合致していますが、その他の評価を下せるほど私は鍋に精通していません。


(パニラゴハン! それじゃあ私もいただきます)


 丸テーブルの中央にある土鍋、その中には豆腐らしき白い塊と白菜らしき野菜と肉らしきものなど、世界観上見たままの具材とは断定しきれないものばかりです。


 ぐつぐつと泡立っている鍋の湯気で少し息苦しさを覚えながらも、中身の異様さを捨てきれないのでまだ少し様子を見るしかありません。


「うんうまいぞこれ、火加減の調節が上手くいってる証拠だ。特にこの熊肉、さっき狩ったばかりのエンシェントベアーもなかなか当たりの食材になるな」


「ほむほむ、獣っぽいくさみは鼻にこびりつくんじゃが……ポン酢につければ舌に合うようになるぞい」


 豚とも牛とも見慣れない肉があると思えば、まさか熊肉とは。

 たまに二人がエネミーの亡骸を回収していたのは気がかりでしたが、その時点で鍋パーティーの準備は始まってましたか。周到なのですね。


「アハハハ! ボクこういうパーティー祝い事なくても首つっこみたくなるくらい好きだわ〜。こりゃパーっとしゃぶり尽くすとしますかねぇ!」


 そういかにもこのような饗宴を好んでそうなジョウナさんの箸が選んだものは、何でしょう、肉っぽいですが肉ではなさそうな謎の物体。



「チビスケ質問、このゴロゴロした赤い物体はなぁに?」


(エンシェントベアーの心臓丸ごと煮こみ)


「心臓? アッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 まさかの闇鍋風味でしたか。

 そんな変化球がデッドボールになるようなおもてなしをされたのなら、骨が太々しいジョウナさんでも少し青ざめながら笑うしかないでしょう。


 と思いきや、ジョウナさんはまたいつものようにネジが狂ったのかエンシェントベアーの心臓を大口開いてひと齧りしていました。


「んごご、くっちゃくっちゃ、よく噛まないで飲み込めば全然食べられる食べられる! 人生的な経験値もおもっきし上がりそぅ!」


 うううむ、食欲も減衰する咀嚼音に加え、ゲテモノがゲテモノを食すというおぞましいとしか言い表せない光景がありました。地獄絵図とはここにあったのですか。


「うえぇ……どうしてそんなグロい物平気なの……。やっぱ頭のネジ外れてる人は味覚もこんがらがってるってわけ」


「こういう普通に生きてる内に味わえないような珍味を食べるのも、VRMMOの醍醐味じゃない? いやぁ、ぐへっ娘みたいな温室育ちにはみるくボーロしかお口に合わなかったっけかぁ」


「私のこと馬鹿にしてる!? 私にもなんかちょうだい!」


 エリコどうしました、ジョウナさんなんかに対抗心燃やしても為す術がありながら手玉に取られるだけです。


 パニラさんもゲテモノから探るように鍋をかき分けておりますし、実際ヒグマの心臓とは別の気味悪いソーセージみたいなゲテモノを掘り起こしました。


(へい、エンシェントベアー血の腸詰めおまち)


「ひょええええっ!?」


 パニラさんさては楽しんでます?

 エリコかジョウナさんか誰の味方なのですか。


「めっちゃプルプルしてるよ! これホントに食べていいものなの!?」


「おやおやや? 食べ物を粗末にするなんて躾がなってないでちゅねぇ〜。一応もし食べられないものなら一目瞭然にダメージ食らうし、グイッといっちゃってみなよ」


「やめてそんな情報、それ聞いたら絶対食べなきゃ自然の恵みに失礼になっちゃう……うん! 私は、いけるううっ!」


 あぁ、目を閉じて押し込めるようにゲテモノを口に運んだエリコの精悍な顔が、想像を絶する妙な食感で歪むところを目撃してしまいました。


 無理やり飲み込んだエリコは、人としての女性としての尊厳を失った類の涙を落としていました。


「ちょっとは美味しいよ、ほんとだよ。でももっとかわいいものが食べたかった……」


「いいねいいね、いい食べっぷりぃ、お見事! キミを温室育ちと囃し立てたことを撤回するよ!」


「うるさい」


 そうですね、こんなゲテモノ食いの人から景気よく花丸を押されたところで、何も名誉もつきません。



 ですけど、冷静に考えてこれが決戦前なのですか。

 訳の分からない食材まで紛れ込んだ鍋を囲み、この六人で食指を進める状況が。


「パニラさん、何故いきなりナベパというものがしたいと提案したのですか」


(折角だから、バトる以外に団らんとした思い出作りもしたかったので)


「は、はぁ……」


 息抜き以上の理由はないそうです。下手な戦いよりも血なまぐさい臭いの思い出にはなりそうですけど。


 一応この場にいる全員の雰囲気もぐつぐつ音を立てている鍋の熱気の如くとなっていますが、私はこのような集団での行事の楽しみ方というのがあまり……です。



(RIO様もなんかお召し上がりになります?)


 召使いみたいにへりくだっているパニラさんから訊かれましたが、私には理由があって箸をつけていません。


「吸血鬼に人間の食べ物は口に合わない。ご存知ないなら申し訳ありませんが、私に鍋パーティーは相性が合わないようでして」


 かつてエルマさんと一緒に食べたパンの時も、まるで埃を飲み込まされたような味わいが苦い思い出になりましたから。


 それが強さへの呪い、吸血鬼の存在自体に対する罰です。


(いや、魔王の血を吸ってから今や体質は魔王に近いはず。そのアンデットの制約も無くなっている可能性はあるよ)


「さいですか」


 その推測は無いわけではなさそうですけど、どうあれ挑戦してみる良い機会と捉えるべきでしょうか。


 逡巡していると、私のお椀にもよく識別できない熊肉や白菜などが菜箸で運ばれていました。


 人力ロシアンルーレットにしては、見た目だけなら二人の摘まれたモノよりマシという印象ですが。


「美味そうな部位じゃのう! わらわもRIO様と同じものを頂くとするかの!」


「大丈夫だ、パニラはRIO様を仲間外れになるような企画は作らない奴だ」


「キミもガブっと食え食え! ノリ無視して遠慮するとか陰キャかい?」


 どうやら食べなければいけないという空気です。


 匂いは……最低でも毒物のような類ではないことは動かないでしょうが、ネギのような野菜に逃げたい気持ちを抑え、エンシェントベアーのどこかの部位の肉を箸でつまみました。


 いただきます。


「いったぁ! RIOちゃまのちっちゃ口がハムハムと! ハムスターみたいにふっくらさせて! イッヒヒヒ録画録画ァ!」


「ねぇ殺人鬼、RIOが『実況しないで下さい』って言いたそうだよ」


「さすがはRIOの正妻、言葉なんか無くても心で通じ合うもんだねぇ」


 私が物理的に言えないことをエリコが代弁してくれていました。


 しかしなんですかこれは、肉が口内に収まりきらず出汁が溢れそうです、食べにくさを見越さず大きめに齧ったのは失敗でしたか。

 ただ食べるだけなのにエネミーと戦うよりも体力を使いそうな熊肉です。


「んぐ……美味しい、ですって」


 ですが、おかげでめでたく味覚が正常に機能していたと判明しました。


 そうと決まれば食欲も促進されるもの。


 柔らかくなってゆく食感に肉の旨味もさることながら、出汁からもとても脂の旨味が出ており、飲み込むほどに塊がお腹にたまる感覚はさすが熊肉、野生で生きていたような気分まで味わえます。

 世界も世界なので実際にお腹にたまっているわけではありませんけど。


(やっぱ見た感じに気にしなければ食べられたでしょ)


「はい、これは美味しいですね、冷めないうちにもう一つ頂きたいほどです」


(ボーノですか?)


「もちろんボーノです」


(ヒンナは?)


「ヒンナヒンナです。どこの言葉ですか」


(じもとー)


 覚えていたら今度調べましょう。


 この後も皆さんで鍋の具材を片っ端からつまみ取り、ここでしか味わえなさそうな珍味を目一杯堪能し、食材に対しては神をとり扱うように感謝もしつつ鍋パーティーを進行していきました。


 しかも、表情は誰もが笑顔で統一されています。

 まさに食卓の魔力、もとい魅力ですかね。



「ふぅ、どうせなら家から何本か酒も持ち寄りたかったところなのじゃ」


「未成年もいるんだ、自重しろメーヤ」


「おおすまん……プチエリコがおったというのに悪いところを見せてしまったのじゃ」


「未成年者は私もいるのですが、いや、ええっ? まさか私そこまで老けて見られていたのですか?」


「シニア扱いにガチ動揺するRIOおばあちゃんヤッバ! こりゃボクの思い出にセーブしよセーブ」


「はい!?!? りおは今をときめくピチピチキャピキャピの女子高生なんだから! 実は一緒に遊びに行ってるときたまにりおが年上に勘違いされてるけど……」


(そうなんだ。RIO様、嫁にいいとこ見せようと無理にかっこつけないではしゃいでもいいのよ)


「性分なので」


 食指が進めば、話も弾むとはこのことでしたか。他愛もない話でここまで盛り上がるなど、ここは居心地いいところです。


 提案された当初はこんな時に鍋パーティーに興じている場合なのかと正直疑念がありましたが、こうして談笑しながら羽根を伸ばして楽しめられました。




 こうして満足感に反比例して食材も残り少なくなってきた頃には、だいぶ落ち着きを取り戻してきたのですが。


「いよいよ明日が決戦ですか、パニラさんとの長旅は始めてでしたが、一人でいるよりも充実した日々を過ごせました」


(ここまでの雌伏の時間に比べれば短いもんだよ。明日の決戦で、あいつらのせいで引退に追いやられた人達も、私の仲良かったフレンドさん方も、みんなの仇を討てる)


「そのために私が味方したのです。鍋パーティーという貴重な体験も盛り上がりましたし、ここまで支援して頂いた恩義は冒険者達の破滅をもってお返ししましょう」


 パニラさんは私の配信チャンネルにとって影の功労者、影どころか提供した武器が目立ちすぎていて私の存在感を食うほどでした。

 魔王降臨イベントのパニラさんの動向でも、もし必殺のアイテムを購入していなければこの世界は冒険者ギルド本部だけを無傷で残して壊滅していたのかもしれません。



 あえて復讐以外にも達成したいことがあるとするならば。


「それと、パニラさんの声も無事取り戻せるのなら、後腐れも無くなりますね」


(声?)


 ところが、当のパニラさんからは怪訝な表情で返ってきました。


 どこか良くない機微に触れたのでしょうか。パニラさんだって声が封じられた生活、不便で取り戻したいはずでしょうが。


(いや、声なら戻そうと思えばいつでも取り戻せるけど)


「むっ?」


 戻そうと思えば戻せるって、いきなりそんな衝撃的なことを言われても混乱しますが。

 設定上えりこよりりおさまが誕生日早いため、実際りお様の方が年上の時期がある模様

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― 新着の感想 ―
[良い点] これから地獄のラッシュが始まる事を考えればこの面白闇鍋パは最後の村だな...... フルダイブのVR出たら珍味とか食べてみたいよなぁそれは解る。 どうやって取り戻すんだ声!?
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