絶対防壁&対する侵攻ルート
負の感情に負けていましたが頭を冷やしました
なるべく頑張ります
パニラさんをこれ以上困らせるのは悪いですから、早速本題に入りましょうか。
(VIP級ばかりの錚々たる顔ぶれ。私の個人的なやり方に突き合わせて感謝しかない)
「私は自分の意思でパニラさんのやり方に協力すると決めました。感謝など時間の無駄ですね」
(だからこそRIO様は信頼出来る)
パニラさんは、ホッとしたような表情になりながらも。
(予め話した通り、私達はついに冒険者ギルド本部の場所をつきとめた。ここまで地味な情報収集が精々で何もできない日々が報われた)
「こちらこそ待ちわびていました。場所さえはっきりすれば、攻めに転じられますね」
(プチエリコの追放がきっかけで冒険者を抜けた人の中に、Sランク11位の冒険者まで含まれていたのがターニングポイントだった。序列がトップクラスなだけあって機密情報いっぱい握っていたからね)
「あっ! その人ってもしかして!」
先程エリコが話していたセラフィーというプレイヤーのことですね。
冒険者ギルド本部に乗り込むために一番欲しかった情報、意外な人物に伝わっていましたか。
「なるほど。お手柄ですね、エリコ」
「いやキミさっきまで嫉妬心むき出してなかったかい?」
「はぁ、今その話がパニラさんの話に関係ありますか?」
「理不尽じゃない?」
からかうだけが生き甲斐の人はどうにか沈黙させたので、話に戻りましょう。
(位置は地図に写してある)
するとパニラさんはウィンドウを操作しては、壁一面を覆うほどの巨大な厚紙、いえこれは地図ですね。
ワールドマップを紙一枚に描かれ、左下にはキロメートルの縮尺が添えられてました。
(今いる大陸がここだとして)
思いの外に小さい島を差し、上へ上へと指差し棒をスライドさせると。
(だいたい500キロ北にあるこの離れ小島、そこに建っている塔が冒険者ギルド本部)
その島は私達のいる大陸と比較しても面積が小さい、某夢の国のテーマパークよりも小さそうなほどでした。
「ほぉう、それ摩天楼の塔があるとこじゃん。こりゃまた懐かしいものが出てきたこって」
ジョウナさんが食い入るように反応を示しました。
「む、ご存知だったのですか」
「ボクが冒険者プレイしていた頃じゃ、エンドコンテンツの位置づけだったからねぇ」
なんだか意外にも詳しそうですね。
実際頼むまでもなく説明してくれました。
「ずばり専用のアイテムで転移して挑める勝ち抜きチャレンジモード。報酬はナシ、強いて言うなら制覇した証明になる称号だけ。内容は全100層のボスラッシュ……もとい速攻で全層攻略されたせいで急遽全200層にリニューアルしたはずさ」
「なるほど、実入りがまるで無いところですね」
「だからあえて挑戦するやつがよほどの物好きだけだったわけ。その転移アイテムも買い占めと転売が横行したから尚更、しかも全クリしたパーティが現れた途端に転移できなくなっちゃったからねぇ。最初から影が薄かったのに一瞬で空気化したのさ」
まとめると、完全攻略されて跡地となったそのダンジョンが、何らかの方法で冒険者ギルドに所有権が移って機能をまるごと流用したということですかね。
正義のために私欲を捨ててそうな教えを振りまいておいて、見返りしか頭にない冒険者らしいことではありますが。
「ボクは半分進んだ辺りで飽きちゃったけど! やっぱ強い奴が相手だとストレスがたまって嫌になっちゃうもんねぇ! アッハッハ」
うるさい人がうるさくなりましたね。
真面目に話していたのでこちらも真面目に聞いていたというのに、興味のない自分語りをされたところでうざったいだけです。
「ああなんですか、あなたもその物好きの一人じゃないですか」
「キミ思った以上に根に持つよね」
(だけど、まさかその摩天楼の塔が冒険者ギルド本部に使われていたとはね)
まさか、とは書いていますが、支配者の目線からすれば妥当だとは思いますね。
王国から遠く離れた陸の孤島という安全性に、交通のアクセスも転移任せ、さらに200層もあるならば有用な冒険者達の居住区に使い、帰属意識を植え付けるのにうってつけです。
これほどまでに、本拠地に適した場所は無いでしょう。
「報酬ナシとは言ったけど、あくまで100層しかなかった時の話だし、200層クリアのサイレント報酬でこの摩天楼の塔自体が貰える説もお暇な人達の間で出回ってたね」
(真相は解明されてはいないけど、どうでもいい。重要なのは、その冒険者ギルド本部に突入する方法)
話を戻しましたね。
その突入する方法など、話を聞いていれば考えるまでもなく思いつきそうですが。
「ということは海路しかない。どこか生きてる街でみんなが乗れる船をチャーターしてさ」
(無理)
「どえええっ!? なんで!」
私でも海路は無難ながら名案だとは思いましたが、ここまで一蹴されるとエリコでも上ずった声で驚きはしますね。
(実際試した。そしたら本部が目と鼻の先になった時、見えない壁にぶつかって進行不能になって終わった)
壁、そんなシンプルなギミックに阻まれたいたのですか。
(壊そうにもどんな攻撃も爆薬も通用しなかった)
「あーね、ありゃ神話の巨竜の一撃や魔王の溶解液さえ通さなかったってほどの絶対防壁だし。これが冒険者ギルド本部が難攻不落を誇っていた理由ってとこさ」
そう言って、ジョウナさんは私の方へと振り向きました。
魔王の溶解液を放った元凶がここにいるのですから向きたくなるでしょう。
「杜撰なゲームだとこういう壁はバグですり抜けてる動画とかアップされるもんけど、生憎BWOはバグ報告が滅多にないストロングスタイルの地獄。そもそもMMOはバグの意図的な使用はバァーン! だからね?」
(私が想像するに、摩天楼の塔だったころに挑戦者が転移アイテム以外での侵入を防ぐためだとは思う。でもこんな仕様まで流用して迎え撃ってくるなら、残念だけど正攻法は諦めるしかない)
「それが冒険者ギルド本部がどれだけ横暴しても仕返しされない理由……だから冒険者ギルドに文句があっても泣き寝入りするしかなかったんだ……」
冒険者ギルドに所属していたエリコでさえも知らないほどの情報。これでは最早打つ手無しじゃないですか。
「くっ、場所が分かっただけでしたか……」
(いや、ちゃんとこの世界にあるって判明しただけでも防御は丸裸にしたようなもの。この地図を見て欲しい)
パニラさんは巨大な地図の端をつまみ、腕を高速でクロスさせて一瞬でひっくり返しました。
するとどうでしょうか。
「別の地図になってますね」
視界に映り込んだ先程とはとても似ても似つかない地図。
陸地の面積が大半を占め、海らしきものは溶岩のように真っ赤。それに縮尺も10倍まで広がっています。
(この地図は、BWOの世界観上こことは別の世界、通称【幽冥界】という)
「そっか幽冥界! そこさえ通っていけば!」
おや、エリコが冒険心に高揚したかのような反応です。
「幽冥界とやら、ご存知なのでしたか」
「私、幽冥界っていう裏側の世界には何回か派遣されたことあるんだ。いつも地質調査の名目だったんだけど」
……冒険者ギルド、この世界だけでは飽き足らず別の世界へも勢力圏を伸ばそうとしていましたか。
欲望に限りがない連中です。
エリコの解説は続きます。
「この現世と切り離されている三つのアナザーワールド、略して三界。幽冥界はそのうちの一つ。まだ人が住んでいるかさえも確定してない未開拓地で、この世界で放し飼いにするのも危険なくらい超凶暴なエネミーが棲息……というか隔離されてるところ」
「隔離ですか?」
「うん。あっちの世界、ここの世界だと近い年に絶滅させたはずのエネミーがわんさかいるみたいだから。だから表向きには絶滅したけど別の世界に封じ込めるしかなかった。私の考えだけどね」
なるほど、でしたら裏を返せば危険は無いも同然ですね。
最大勢力冒険者ギルドにとって最も隔離すべき存在であるジョウナさんやその他の人物がこの場に集っている時点で、肝心なところで設定が反映されてないようなものです。
「幽冥界ならボクも実装初日に遊びに行ったなぁ。ちなみに行ける手段が最初に確立されたのが夜のない世界の幽玄界、昼のない世界の幽冥界、そして何もない世界の幽閉界の三つさ」
「ちょっと殺人鬼! RIOに説明するのは私だよ!」
「うるさいなぁ。たかがこの程度のちょっかいなのにさぁ。RIOへの束縛強すぎてこわいわー」
「ムッキーッ! 好きな人への束縛はいくらでも強くったっていいんだもん! RIOもそう思ってたもん!」
やはりこうなりましたか。
適当なプレイヤー百人のうち九十九人が嫌いとアンケート結果が出そうなジョウナさんをこの作戦会議に持ち込んでも、話題が滞る原因になってしまいますよね。
いくら何でも殺傷沙汰にまでは発展しないと二人の理性を信じて、そっちの気が済むまでやらせましょう。
「パニラさん、続きをお願いします」
(了解した。その幽冥界と現世はどうやら表裏一体。座標が10:1で共有していると判明した)
「どうりで縮尺が変わるわけです。一歩進むだけで十歩分の距離を移動できるということですね」
(そういうこと。ただしエリコ氏が説明した通り危険なエネミーが棲息しているから、移動時間の短縮にはおいそれと使えないけどね)
普段使いが良さそうな世界、というわけにはいかなさそうですね。
ただまあ実質的に越えられない障害物を越えての移動が出来るというだけ非常に有用ですね。
(幽冥界の侵入口は陸地でなら好きなところにどこでも作れる。だからこの位置に到着して現世へ戻る出口を作れば、理論上は冒険者ギルド本部の中に直接侵入出来る!)
本当に文句のつけどころがない首尾です。
おまけに見る限り陸路のみでの移動が可能となってます。冒険者ギルド本部の近場まで船で移動するとしても、船上では船自体への攻撃により海原に放り投げられるリスクがあるため尚更。
エネミーを倒しながら足で進む。とても単純で確実性がある方法でしょう。
強いて懸念すべき点があるとするなら。
「ですが、もしその本部の座標の寸前にも同じ位置に見えない壁があった場合が問題ですね」
(そこは未確認。未だにその手の報告が挙がらないから分からない。幽冥界における冒険者ギルド本部に入れる座標の近くには、見えない壁を張らなきゃいけないほどの重要施設は無い)
「その辺りはこれから検証というわけですね」
とりあえず意見に対して納得はしました。
私達には時間にも余裕がありますし、駄目だったら駄目だったでまた別の作戦を立てるまでです。
現状は幽冥界の地図を信じるしかありませんか。
(みんなにもあげるね。ちな作戦は道中で繰り返し話すから)
パニラさんから幽冥界の地図のコピーを受け取りながら目的地へのルートを考えていたもつかの間、このアジトの出入り口が開かれる音が響きました。
(よっ。そっちの方は順調?)
「斥候のドゥルは一足先に向かっておるぞい。今すぐに出立した方がよさそうじゃのう」
(だね)
パニラさんの仲間であるメーヤさんでしたね。
ここにはいませんが、あと一人いた男性の方が斥候の役割ですか。こちらの総合的な戦力も意外とバランスが取れているかもしれません。
(さあ機は熟した、これから幽冥界を経由して冒険者ギルド本部に殴り込む。新生七つの大罪として生まれ変わった私達みんなの力で、くそギルドの思い上がった鼻っ柱にゲンコツを叩き込みまくってやる!)
「おうともなのじゃ!」
パニラさんは表明し、握り拳に気合いを込めて勇ましく振り抜きました。
2発、3発、意外と俊敏な動きは熱苦しいほど復讐の熱意を感じるほど。
ええ、“悪”の名で繋がったこのメンバーで打倒正義のために進むのみです。私達には省みるものなど……いえ待って下さい。
パニラさん達のパーティには確かもう一人いたはず。
「つかぬことを聞きますが……あの令嬢さん、いましたよね。連れて行くのですか」
遠回しにも直接的にもせず、ですがはぐらかさずに。
少なくとも血の臭いを追ってもここにいる人以外の反応が無し。
まさかという可能性が浮上してきました。
「りお……」
「エリコ、私は大丈夫です。覚悟して訊きましたから」
おそらく高位のNPCであるフロレンス令嬢さん。
正直一度会ったきりなので思い入れなど無に等しく、本人も地獄に落ちたがっていると仰っていたとはいえ、パニラさん達にとっては仲間の一人。
ですがもしあの時の私のせいで溶かされていたとしても、気負いすぎたりはしないと。下を向かない覚悟です。
(あの娘ははじまりの街の新街長に預けてきた。向こう側も猫の手も借りたいくらい人手不足だったし、ただ飯食いにはならない程に迷惑にはならないと思う)
「無事でしたか。覚悟が無駄になってしまいましたね」
(RIO様の足を引っ張りたくはない。ついていける人だけこの決戦について行かせるつもりだから)
勝つために私情を切り捨てるとは、覚悟が据わっていますね。
いくら性根が腐ったギルドとはいえ、気持ちだけで勝てるわけありません。
私もトップ5を憤りのままに始末しようとして、痛いほど思い知らされましたから。
「ボクもそれが賢明だと思う。あのギルドには甘さが無い。正しさの棍棒を振り回す蛮族相手にゃ、気づいたら死んでましたってことになりかねないさ」
「それ以前に、あなたの攻撃に巻き込まれて命を落としかねないですがね」
「ハッハ! ボクも甘さを捨てたタチだからねぇ。雑魚の命なんて平等に勝っていい雑魚、質じゃなくて数で置き換えてるよ」
このバーサーカー、そろそろ塩対応に耐性がついてきましたか。恐ろしいまでの成長性です。
私の場合なんて、私やエリコにちょっかいかけて仲を引き裂こうとし、あまつさえ酸欠になるほど笑われた件は数ヶ月根に持つでしょうから。
「そうだ!」
おやエリコ、そのピンと閃いた様子では、何か良い案を思いつきましたね。
「幽冥界に出発する前にやっておきたいことがあるんだけど……」
「やっておきたいこととは?」
「うん、戦わせたくない人をはじまりの街に預けていけるならさ……」
戦わせたくない人、なるほど。




