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抉り出した一手&矜持

今日は1話だけ更新に

その分過去話チマチマ修正するんで……けどそのせいで新たな誤字が出てしまう……

「この絶望的状況下で逆転? いやぁ配信者ってのはおかしな人なんだなぁ」


 そう嘲笑するかのように口角を緩ませた黒服騎士が剣を地に付き立てました。

 でまかせだと意味合いを釈されたようですが、そう勘違いされた方が有り難いです。


「まさかとは思うが、逆転ってのは視聴者が助けにくるだとか言わないよねぇ」


 はて、視聴者様に助力させる迷惑なんてかけたら配信者失格ですが。

 なのでここは胸を張って宣言しましょう。


「私を窮地から救ってくれる方は、こちらです」


 ドリルによって抉られた脚の断面に短剣を深く差し込み、捻られグチャグチャとなった肉の感触が伝わる手に力を込めて、まっすぐ引き裂きました。


『ぎゃあああああああ!』

『いっててててて!』

『自分の断面に刃物突き刺せるって正気か!?』

『観てるだけで痛くなってくる』

『RIO様そういう判断迷いなく下せる精神力は鋼だな』

『鬼メンタル。吸血鬼メンタル』


 こんな馬鹿げたこと、完治できるとしても現実世界では絶対に行いませんけどね。


「契りを交わしました。出番ですフライン。敵を討ち滅ぼしなさい」


【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】


 私から吹き出す紅き噴水にまみれて意気揚々と登場したフラインが、正面切って黒服騎士へと滑空しながら飛び込んで行きました。


 相手が図に乗り降参の勧告をしている間なら最低でも攻撃は受けないためHPの調整が容易い、ましてや騎士道精神ごっこにうつつを抜かしているなら尚更、今こそ能動的に自傷し、フラインを召喚出来るチャンスだったのです。


「ほお、これが噂に聞くネームドエネミーのフライングデーモンかぁ」


 一秒、二秒経過。

 地中に注意を傾けつつ回復のみに専念しましょう。

 フラインの交戦が吉と出るか凶と出るかは、脚が治るまで回復しながら祈るしかなさそうです。


「けれど分析するなら、その場しのぎというやつだねぇ。しかし勝利を諦めないハングリー精神は敵ながら天晴。ほいよっ!」


 三秒、四秒。

 速攻の斬撃により、幸先悪くフラインが大ダメージを食らってしまいました。

 ネームドエネミーだった頃より持ち前だった防御力が大幅に落ちていますね。それでも最低限戦えるなら贅沢は言いません。


【まだまだ来い! 天駆ける飛翔の悪魔将が、地の底へ送り届けてやろう!】


「こんなに粘るなんて君のペットは凄いねぇ。羨ましいねぇ」


 五秒、六秒。

 フラインはひたすら気弾を放って応戦していますが、漆黒の大剣の前にはまるで歯が立ちません。

 なすすべなく斬られ続け、HPの残量が危険域付近に達しました。


「おじさんの剣は魔滅の剣さ。一応プレイヤーではあるRIOはまだしも、エネミーなんかには遅れをとらないよぉ」


【オレはここまでか……いや、まだ生きている。生きてさえいれば戦えるっ!】


 七秒、八秒。

 いよいよセリフがピンチ時のような字面となりました。

 できれば十三〜四秒は持ちこたえて欲しかったのですが、こちらの想定していた以上に消耗が早く、もうHPが底をつきかけるまでに奪われてしまっています。


『人使いが荒いってもんじゃねえよ』

『あぁ……貴重なフラインが……』

『血の契りの初お披露目なのに全然ダメだったよ』

『このゲームシビアなんだなぁ』

『……ふぁ!? おいおいRIO様抜け目ねぇwww』


 一部の視聴者様に気づかれましたが、フラインが苦戦していたのは、私が《吸血》でHPを頂いていたのもありますがね。


「よく堪えました上出来です。後は私自ら決着をつけますので休んで下さい」


 脚は完治し、HPの補充は完了。

 虫の息であるフラインへ即座に退避命令を下し、宝石と化したタイミングと全く同時に至近距離をダッシュして黒服騎士の懐へ迫り、虚を突かれた表情を視認しつつ両腕を掴みます。


「おおおおわっつ!?」


 目には目を、連携相手にはこちらもフラインとの連携です。


 そのままの勢いで足払いをかけて、ものの見事に転んだ隙に、力ずくで地へと押し付け組み伏せました。

 DEFが高くダメージを与えられにくいのならば、徒労となる攻撃なんて戦略から外し、逮捕術で制圧することだけを思案したまでです。

 装備を加味した総合的な攻撃力は黒服騎士に軍配が上がりますが、素のSTRだけならこちらに分があったようですね。


「まだ足掻いて何のつもりだい、RIOさんやい」


 あくまで押さえつけているだけなのでHPは全く減らせませんが、私には別の目論みがあります。


「これであなたの動きは封じました。それはつまり、アイアンドリルの方も実質的に封じられているのと同義ですよね」


「あっ!?」


 図星のあまり、表情が驚きへと変わっていますね。


 彼らの謎のベールに包まれたコンビネーションの実態は、アイアンドリルのペースに合わせて黒服騎士が阿吽の呼吸でお膳立てしている私の予想とは真逆に、騎士の方が何らかの足音を地面に伝導させてドリルに攻撃させるよう促すと、騎士道精神が聞いて呆れるカラクリです。

 ドリルさんは超人じみた聴覚が備わっているのだと懸念していましたが、結局、地中からでは地上の状況を目視出来ていないのでしたね。

 思えば、誉れある序列1位が次席でしかない序列2位に主導権を渡さないのは然るべきだったのでしょうか。


 この推理だけでは正解かが不明である側面が拭えませんが、信憑性を裏付ける材料はまだあります。


「あなたの独特の合図は三回も確認したので、もう完全に再現出来るようになりましたよ」


「あ、合図だって!? いやぁおじさんとドリル殿のツーカーな仲にはそぉんな……」


 おちゃらけた態度で惚けているのも騎士道ですか?

 それを無視し、私の足を前へと時計回りに曲げ、黒服騎士の頭部の真横へと備えます。


「でしたら、あなたのふりをしてここに合図となる音を送ってみればどうなるのでしょうか」


「なっ、なななっ!?」


 これで準備は整いました。この人の焦燥と怖気の走った表情がまた、根拠の確実性を増していますね。


『合図とかあったんだ』

『RIO様コピー能力まであんのかよw』

『そういう細かいところのプレイヤースキルまでぱねぇ』

『てかRIO様バレエやってたの? 関節柔らかっ』


 そこまで難しい合図ではないですよ。

 タタタン、としたリズムの音さえ出しつつ、距離を空けたような状況を偽り描けばそれで地中のモグラは地上へ向けて動き出しますから。


 ――タタタン。


「そんな嘘だよな? ドリル殿ぉ?」


 ほら、徐々に地鳴りが大きくなってきましたよ。


 さあ、骨肉をもねじ切るその残酷極まりない得物で、騎士道崩れを穿いて下さい。


「トドメだ《アイアンクラッシャー》! あれ?」


「止まるんだドリル殿! ドリ……クソ野郎ッッッッ!!」


 同士討ち(フレンドリーファイア)狙いはものの完璧に成功です。

 黒服騎士の頭部の半分は無惨にも抉られ、後にはキョトンとした瞳で停止したアイアンドリルが残るのみ。

 土が消滅するかのようにやすやすと掘れる得物なだけあって一方が即死したので、すかさずもう一方を《吸血》します。


「合図を聞き間違えちったはずは……ぎゃああっ!!」


 三度目の正直とはなりませんでしたが、容易に補足して眼球から血液を絞り尽くしました。

 人間、想像を絶する事態に直面した時、頭が真っ白になって動きが固まってしまいますからね。

 AGIはあっても、思考速度は停止しやすいようでした。


『勝っちった』

『吸血鬼らしくグロい戦いだった』

『締めまでえぐい』

『逆によく勝てた』

『やったあい!』

『なにこの怒濤の巻き返し……』

『おめでとう! おめでとう!』

『なんだかRIO様が敵を操ってるみたいでゾワっとした』

『平均的女子高生の閃きの勝利!』

『すげぇ……俺だったら中盤で投げてたわ』

『もうBランクも敵じゃないな』


 格上が相手でも問題無し。相手よりも力量が下回るならば、知や技など別の得意分野で勝負するまでです。


 勝利の余韻に浸るのも悪くないですが、その前にやるべき事が一つあるので、短剣を胸に突き刺してフラインを呼び寄せます。


『ちょ、なにしてんだRIO様』


【ハハハハ! オレの相手はどいつだ!】


 いいえ、もう相手がいないから召喚したのですよ。


「私の横暴な横槍のせいで思うように戦えなくなってしまったのは誠に申し訳ありませんでした。しかし、それでも見限らず真摯に命令をこなし、期待以上に役割をこなしてくれたのは言葉に尽くし難い功績です。本当にご苦労さまでした。次の召喚までお休み下さい」


【ハハハハ! オレの最強の気弾に敵はない!】


 この平均的女子高生が思いつく限りの労いの言葉を述べ、フラインの頭をさすりつつ宝石へと戻しました。


 今回のMVPこそフラインですからね。経緯を振り返れば、戦況が好転する吉兆が現れた時はフラインを召喚してからだったので、この者無くして勝利はあり得ませんでした。

 敗北を軽視しているこの私ですが、勝利に貢献してくれた(ただ)一人の仲間の活躍は栄光に思ってます。


『フラインかわええ』

『良い上司』

『撫でられたい』

『あれ、HP1割だけ削れば良かったのでは』

『うっかりHP半分も削っちゃったRIO様おっちょこちょい』

『↑逆。どんだけHPすり減らしてもフラインを呼びたかったんだと察した』

『なんという神解釈』

『吸血鬼の鑑や……』

『黒服騎士がまだ喋れている中でよくそんな献身的なことを』

『ゑ!?』


「俺は勝っていたのに……アイアンドリルの奴がドジ踏まなければ……」


 あの状態でまだ息が……そう思いきや、レベルが高いおかげで強制リスポーンまでの猶予があるため、意識だけが口に取り憑いてこの場に留まっているだけみたいです。


 ですが、まだ応答できるので話しかけてみましょう。


「此度の戦いは私の辛勝でしたが、また会遇する時があったら是非とも挑んで下さい。お待ちしております」


「この……」


 おや。

 ボソボソと何か呟いてますが、一体。


「この冒険者に殺られてなんぼの魔物もどきの癖しやがって! モブキャラ未満の卑しい売女めが!!」


「はい」


 聞くだけ無駄だったので、喉首に短剣を押し込んで教会送りにしました。


 やはり敗けると口汚く罵ってくると思いましたよ。

 この人が騎士道精神を矜持としてるのは、敵を褒められる技量があるのではなく、ただ己の優越感を高めつつ見下したい相手へだけに軽薄な言葉を並べていただけなのです。


 高潔な騎士道精神自体を蔑視してはいませんが、私が讃えるのは敵にあらず。私のために協力し尽力してくれた仲間と、知識や客観的評価を提供してくれる視聴者様だけですから。

 はぁ……早く理想像(エリコ)に匹敵する高潔な冒険者に出会いたいです。


 そして今後も仲間の足手まといにならないよう、黒服騎士を《吸血》して経験値にしました。


―――――――――――――――


《レベルが40(上限)に上がりました》

《カルマ値が下がりました》

《冒険者ギルドから懸けられた賞金が225万イーリスへと修正されました》

《冒険者ギルドから懸けられた経験値が2,352,445へと修正されました》

《レベルが規定値に達したため種族進化が開放されます》


―――――――――――――――

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[一言] なんでこういうなろう小説は敵役を無能ばかりにするのかねぇ…… 明らかにありえない程の馬鹿さ加減でしょ
[一言] どんどん強くなるRIO様半端ねぇっす! RIO様バンザイ!
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