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魔王降臨 その2

【少し興味が沸いた。ただし、千余年前と同じように儂の命を渡すにはまだ足りない】


 初手で放たれたのはご存知マグマバード。

 文字通り火力こそ随一ですが、偽物により体験済の私達の前では雀の羽ばたきよりも無害です。


「ふふん、前のと威力も全部変わってないなら躱せる、恐いところなんてないよ!」


 エリコは余裕の笑みで答えました。


 確かに見る限りは申し訳程度に追尾性が増した程度の変化なので同じ対処法で凌げでいますが、その過小評価は誤りではないでしょうか。


「自身と同等の魔法力を持つ肉人形を生み出せる、私にはそんな見識でした」


「そ、そうだねっ。そうそうっ、油断ダメゼッタイ……」


「ですがエリコの指摘もまた正しいです。既に見せている手の内を再び見せるだけならば、攻略してくれと言っているようなもの」


 一旦走るのを止め、エリコに顔を向けました。


「行きます、連携攻撃です」


「よーし、以心伝心!」


 連携の練習はしていなくても、私のエリコとなら阿吽の呼吸で決まるはずです。


 盾を構えて走り出したエリコに遅れないよう、私が早く距離を詰めましょう。


【マグマバードの射線上を走るか、愚か】


「それなら私は射線上の更に上を往きます」


 この距離で跳べば、あの魔法を斬り捨てつつ魔王に一太刀浴びせられるとイメージを立てました。


 飛ぶ火の鳥を斬り落としながら勢いを維持し、頭上に迫ります。



 しかしこの魔王、人間らしい姿をしていますが、人間相手の殺戮なら私の得意とするところです。


「王手、取りました」


【まさしく命取りだな】


 これは、固い守備ですね。

 双剣で挟み込んだのに手枷を巧みに使って防ぎ止めてきましたか。


 どうやらあの拘束具は見せかけではなく、強力な防具としての役割も兼ねているようでした。


 しかし、まだこちらの連携攻撃は続いています。


「勝てる! たああああっ!」


 エリコが魔王の脇腹に剣で薙ぐ姿勢に入りました。


 どちらかが動きを抑えている内にどちらかが斬り込めばダメージは稼げます。

 これならどうでしょうか。


【命取りだと言っている】


「そんなことまでする!? 見た目はかわいいのに!」


 今度は足枷に繋がる黒い鎖を利用してダメージをなくすだなんて、想定外の防御性能です。


 渋みが加わった戦術、おかげで拮抗されました。


聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)を失ったそなたらでは、万に一つとて勝利を可能性にできぬな】


「でもたった一回で勝ち負けまで決めるのは早すぎる!」


 エリコがそう言うと剣に何らかの属性エネルギーを注いで腕力を強めていました。


「RIOと力を合わせれば……」


 その気概、私への信頼、競り勝つまで諦めない心、気持ちだけ受け取らさせて頂きます。

 褒められるのは精神論だけで戦術的にはアウトと突っぱねたくなるのがエリコの晒した失態。


「エリコあなた! 挑発に乗るだなんて死にたいのですか!」


「挑発っ……熱くなりすぎてたぁ」


【《マジェスティックカッター》】


 指を弾く予備動作は私には見えていました。

 エリコに向けて放たれるのも同様に。


 てしたが、エリコは盾で軽減する体勢を完全に解いてしまっています。


「ごめんなさいエリコ」


「ぷぎっ」


 やむを得ません。体当たりでエリコを突き飛ばしました。 


 ギリギリまで退避しなくて正解でした。

 胴体を横に切断されたのが私で済んだのは不幸中の幸いです。


 なのでブラッドアイスニードルを応用して半身が離れる前に縫合し、攻撃再開です。


「無駄」


【無明】


 またしても手枷で止めてきましたか。

 反射神経も驚異的で、どう攻撃しても必ず拘束具を盾にしてくるのが厄介です。


 ですが流石に二度目ならば。先程のミスは一撃の重みを優先したため、それ以上の防御力で止められただけです。


「押して駄目なら……」


 今度は剣を力で押しこまずに一度引き、むしろここからもっと剣速を上げて連撃を叩き込み、速度で翻弄するしかありません。


「無駄っ」


【無明だ】


 中々本体に当たりませんね。

 しかし相手の攻撃手段は魔法一択なため、反撃の予兆も読みやすく身を守ることを考えなくても不安がる要素はありません。


 もっと速く、攻めの姿勢を崩さず、とにかく多く当てることで防御の隙間を作り出しましょう。


 防御を打ち砕けないなら、防御の薄い部分へ掻い潜る。そのための双剣です。


【力任せに留まらない剣戟は見惚れるほど……だからこそ滅ぼさなければならない】


 隙が見えました。


 ほんの僅かしか生まれていない隙ですが十分過ぎます。


「今度こそは……」


 確実に届きます。

 受け流すように刃を滑らせ、人間の命を繋ぐ部分を断ち切りましょう。


 そう、斬るべきは首……いえ首といえば。


「首枷っ、不覚」


 そこも例外なく堅牢な防御力でした。


 人間との戦いに慣れすぎたあまり意識せず首を狙っていたなんて、まさか過信していたのはエリコだけでなく私もだということでしたか。


【《カルラウィンド》】


 魔王の突き上げられた左手から風の刃が迫り来ます。


 全部捌きたいところですが。


【《マグマバード》】


 風が吹き荒れている最中だというのに右手からも別の魔法が発動されました。


 一つずつなら可能でも二つ同時に捌くのはいくら何でも分の悪い賭けになります。


 なので大事を取って即刻退避です。


 そう思い立ちましたが……どういうわけか足が重くなっているような感覚がします。


「いつから、いつの間に」


 下がろうとしたタイミングで金属の音がしたかと思えば、私の片足に黒い鎖が絡みついていました。


「押して駄目なら引いても駄目ということですか」


 味な真似と、心の中で思っておきましょう。

 二つの攻撃魔法を一つに合わせた熱風は最早防げなければ躱せません。


「ごめん許して!」


 翻るスカートが目に入った時。


「エリコ……むっ」


 エリコの剣によって私の足が切断され、ダッシュの勢いを落とさないまま担ぎ上げられました。


 お陰様で窮地を脱せはしましたが。


「ぐぬぅっ、あついぃ! 回復魔法回復魔法!」


 これは無茶しすぎましたかね。


 背中から着火して跳ね回りながら私を抱え続けるなんて見るに堪えません。


 斬られた足も治ったのですぐに降りてエリコと体勢を立て直しました。


「あなたの前で恥ずかしいところを見せてしまいました」


「今更でしょ、りおねこちゃん。それよりも再トライ出来る?」


「言われなくとも、連携参ります」


 アイコンタクトをとり、エリコと横並びで駆け出しました。


 先程はぶっつけ本番だったために歯車がズレてしまいましたが、防御を連撃で突破可能だとは実証済み、絶対に上手くいきます。


【《マグマバード》】


 相手は魔法で迎撃ですか。


 ですがこの微妙な距離、間合いのやや外側とはいえ足を止めなければ一秒もかからず攻撃可能です。

 でしたら、とるべき行動は一択でしょう。


「構わず攻めます」


「一旦守るしかない……RIO!?」


「あっ、エリコっ!」


 いけません。

 エリコと私で咄嗟の判断が致命的に食い違ってしまいました。


「ディレクションガードっ!」


「くっ、躊躇してはいけなかったというのに……」


 エリコを気にして足を止めたために、オレンジに光る粒が斬り裂くより早く振りかかってきました。



 この攻撃魔法、想像以上の熱とダメージ量です。


 髪や瞼に次々と命中し、外見にも無視できないダメージが入ってきます。

 再生体質でなければ他人に見せられないほど勲章まみれの顔になっているところでした。



【どうした、拙い有り様で組めているのかが疑問に思えるな。付け焼き刃の連携で自ら転び合うとは、興味も失望に置き換わる】


「ぐうの音も出ない指摘ですね」


 負け惜しみは口にしない主義なので、認めるしかありませんでした。



 格上と渡り合うためにエリコと連携攻撃を仕掛けたいのに、どうしても息が合いません。


 原因はおおよそ解析出来てます。

 経験、戦法、種族、異なる部分を挙げればきりがない私とエリコですが、他己的という妙な部分だけは一致しているせいでお互いを気遣っては自分を気遣わない、相手のペースに合わせたいという心理が働いてしまっているためです。


 馬鹿らしい原因を言うならば、愛と絆の力さえあれば何だかんだ上手くいくと軽率思考をしていた私の思い上がりが歯車のズレの始まりです。



 ともかく、このままでは本当に自滅してしまいます。


 エリコと意思統一をはかるためには……難しいですね。エリコはエリコの自分意思がある以上、AI思考であるフラインやヴァンパのように絶対服従とまではいかないですし。


「魔王っ! 人間を試したいんでしょ!」


 突然エリコが魔王に物申しつけました。


【だからどうした、それがどうなる】


「一分だけ時間を頂戴! 一分も考える時間があれば、私達エリリオドリームカップルは魔王を圧倒するコンビネーションになれる……と思う! 人間の可能性っていうものに、期待してみない?」


 いやあなた、敵に対して作戦タイムの取り引きとは手の施しようがない非常識人ですね。

 エリリオドリームカップルとはどこのリスナーから命名されたのでしょうか。それよりも、そんな相手に利の無い取り引き通用すると思っているのですか。


 魔王は……二つの火の鳥を視界の外にまで飛翔させていました。


【一分後にはマグマバードが直撃しよう。一秒の誤差もなく落ちる、よって時を誤魔化そうとも無意味となる。分かったか人間、可能性の獣】


「よし分かったよ! じゃあRIO、耳かして」


「は、はい?」


 わざわざ敵に背を向けさせられ、手のひらを当てながら耳打ちが始まりました。


「今の私達じゃ、悔しいけど連携しようとすればするほど足を引っ張り合うだけ、ズルズル落ちる底なし沼、こんなんじゃ勝てるはずの相手にだって勝てなくなっちゃう」


「はい、エリコが隣ならと舞い上がっていた私が甘かったです」


「だからRIOを責めたいわけじゃないって! くよくよタイムは終了、あと40秒しかなくなってるよ」


 もうそんなに残り時間が過ぎていたなんて……自分を責めるよりもまずエリコの案を聞きましょう。


 わざわざ魔王と時間の猶予を取り引きした位ですから。


「私とエリコの歯車を噛み合わせる方法、思いついているのですね」


「うーんと、やっぱりRIOもそう思っちゃうよね……」


「おや、連携の話なんですよね?」


「私思ったんだ、連携しようとしてダメなら、いっそ連携を捨ててみたら結構いけちゃうのかもって」


「……え」


 エリコ、どうして、ついに私を見限ったのですか。


 真面目に取り組んでも不甲斐ない私なんて戦いに邪魔なだけなんですか、エリコ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 可能性の獣とかなんかユニガンに乗ってそうな呼ばれ方だな…
[良い点] 魔王相手にちょっと待ってを言えるエリコさん、流石っす [一言] そして待ってあげる魔王もかわいいかよ
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