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幕間・円卓会議

 全税金を投入して建設されたと言われている冒険者ギルド本部。

 そこの199階には、極一部の人間にしか立ち入りを許されない部屋がある。


 RIOとエリコが魔王にしてやられたのと同時刻、この部屋には七人のプレイヤーが大きな丸テーブルの周りに着席していた。



「よし、集まれるやつは全員集まってるな」


 一番に入室していたSランク6位【寝られない元帥】が、この場にいる全員にそう呼びかける。



「これで全員ってわけ!? 椅子が三つも空いてるんですけど? 殺されたいのかしら!」


 口を尖らせ殺伐とした言葉で不満をぶちまけたのは、Sランク7位【水無月ルミナス】。


 月よりの使者ことかぐや姫を彷彿とさせる豪奢な着物を纏ったこの冒険者は、10位〜8位のメンバーが不在のまま会議が始まりそうなのが納得出来なかったようだが、彼らの安否を心配しているのではない。


 この場にいる序列最下位が自分になってしまうことへの抗議である。



「あいつらはもう知らねぇぜ。敗北者の汚名を払拭する気概が失せている軟弱、冒険者全体の価値を下げてるからな」


 全身を重厚な騎士鎧に包んだSランク5位【ジェネシス将軍】が、フルフェイスの兜を脱ぎながらそう辛辣に言った。


 また、いかなる状況においても鎧兜を脱がない彼が素顔を晒すのは、出席者を信用しているという彼なりの意味でもあった。



「そこまで言うほどのことかなぁ……」


 中性的な野球少年といった出で立ちであるSランク4位【盗塁之王スライキィング】は、茫洋とした雰囲気を醸し出しながらも、5位の冷酷とも言える態度に困惑気味であった。


 また彼も肌身離さず被っている野球帽を取って机に置いたが、何時も変わらず、なんとなくからの行動だ。



「ぐがー……ぐっごごごごご……」


 大口開けていびきをかいている大柄な男は、Sランク3位【怒気之王ドッキング】。

 沸点が異常に低いのにも関わらず“冒険者で最も怒らせてはいけない一人”と敬遠されている彼なので、眠っている方がむしろ会議が荒れなくて助かるとのこと。


 会議内容は後で別個に説明すればそれでいい。



「無駄話なら会議室の外でやって欲しいです。王都じゃ今も冒険者達が正義を賭して戦ってらっしゃることですし、ちゃっちゃと会議する方が先決じゃないですか?」


 明るい緑を基調としたドラムメジャーの衣装で臨む者は、Sランク2位【錻力之王ブリキング】。


 胡散臭いアルカイックスマイルを崩さずも、視野を広くした意見で会議開始を促した。



「……うむ、リッキーもそう言っていることだ、早速始めてくれ」


 その寡黙な性格、獅子のようなオールバックヘアの彼こそが、「努力は必ず報われる」を座右の銘とするSランク1位【真輝之王シンキング】その人である。


 このBWO世界において、彼以上の発言力を持つ冒険者は存在しないと言っていい。

 彼の口に出した言葉なら、この場にいる誰もが「正しい、正義である」と信用しその通りに動く。


 彼が歩く道に人がいたならば、例え下水処理中だろうと窒息してしまおうと通り過ぎるまで頭を地面につけて平伏しなければならない。


 それほどの権力者なのだ。それほどまでに正義の化身であるのだ。

 だから数多の冒険者達は彼というシンボルに心酔し、神のように慕い手本としている。



 そして、1位の指示を受け会議開始の声をあげるのは、円卓会議の司会進行役、寝られない元帥の役目。



「そんじゃ、これから円卓会議を始める。つっても魔王降臨イベントについてしか話すことがないが、逆に言えばそれをじっくり話し込むんで、覚悟しとけー」


 飄々とした言い方であったが、この場の空気が一瞬にして戦闘時のように張り詰め出した。



「議題はまず魔王・ジャークマンタについてだ。魔王降臨イベントの腐れ外道のことだが、そいつの攻略手順について説明しよう」


「イベント……? あんた殺すわよ、どう考えてもRIOの対策が最優先でしょ!」


 疑問のあまり感情的になって席から立ち上がり、反対意見をあげるのは7位。


 トップ10の末席とはいえ、二名やられているとなっては他人事とは言っていられないため、吸血鬼の暴威に対抗する方面に舵を取りたかったのだが。



「うっせ、議題に関係の無いことはいくらルナミでもイエローカードすっぞ」


 元帥が冷たくあしらう。


「ったく、神聖な会議を滞らせるんじゃねぇぜ、7位」


「そうだよ、バカじゃないなら黙りなよ、7位」


「アタシを序列で呼ぶんじゃないわよ!! あー殺したくなる、だからこんな男共と会議なんかしたくなかったのよ」


 ぶつぶつと文句を垂れながらも再び席についた。

 悔しくとも座るしかなかった。


 本当ならばこの会議室内では出席者をプレイヤーネームで呼ぶのがルールなのだが、同時に「今ルールを変えたから」という後出しジャンケン的理屈も通用してしまうので、7位はこれ以上文句が言えなかった。


「話を戻すぞ」


 元帥が魔王攻略法の議題へと軌道修正をする。


「そいつの資料を漁っていた俺の仲間からだが、つい6時間前にとんでもない新情報が記された文献を発見した」


 その元帥の頬には、事の深刻さを物語る一筋の冷や汗が伝わっていた。


「とんでもなくとも死体にすればみんな同じじゃない? ぼくそういうストーリーとかキャラの背景あんま興味ない派なんだよね」


「ライデン、そこが問題なんだ」


 単純だが頼もしさのある解決法を挙げた4位をたしなめる。


 四天之王と呼ばれる歴戦の負け知らずといえど、今回ばかりはそうもいかなくなる情報があったからだ。



「その文献によるとだな、魔王ってのはどうやら“死ぬ間際に近くの人間の血液に取り付き、時間を掛けて体を侵食する能力を持っている”とのこと。要するに魔王の能力は無限の復活、事実上不死身の生命体だったのだ」


「「「なっ!?」」」


 その衝撃的な情報に、およそ半数が席から立ち上がるほどに驚愕している。



「事実上不死身って、は!? 公平もクソもあったもんじゃないじゃない! 殺すわよ!?」


 想像を越えた情報が話された7位は、敗北の宣告をされたと早合点している。


 自身の管轄する連盟【十二暦月】のメンバー総出で魔王を打ち破り正義の名を挙げる算段であったが、倒せないどころか倒してはいけないとも聞いて取れる能力であったために不公平感を言葉にしてぶつけるしかなかった。



「これ無理ゲーだぜボケが! いつもみたいに王国陣営の勝ち確だったはずだろ!」


 5位は怒り任せにテーブルを蹴りながら問い詰め出す。

 勧善懲悪の四字熟語を尊ぶように、BWOサービス開始以来、こうしたイベントは必ず冒険者が勝利するように出来ていたからだ。



「ねぇ元帥、あのまま先走って魔王倒してたらぼくどうなっていたのかな……」


 4位は震える腕を挙手して訊いてきた。


「お察しの通り、魔王を倒したところで勇者にも英雄にもなれん。カルマ値はマイナスカンストまで下落し、新らしい魔王になってしまうんだなぁこれが」


「……チートじゃん、ゴミじゃん。このクソイベ訴えるしか勝つ方法ないのかなぁ」


 なんとなくだが4位は王国陣営の強制敗北を悟り、ただ頭を抱えていた。


 完全な必敗ムード。

 折角の三周年最大の目玉だというのに、この理不尽さではイベントとも呼びたくなかった。



 さてこのBWO世界の設定では、遥か昔に魔王に戦いを挑み、勝利をおさめ封印した勇者はいずこかへと姿を去ったと伝承されている。


 魔王を破壊した存在として王家や民草に不安の種をまかないためとプレイヤー達は考察していたが、真相は当たらずとも遠からずであっただろう。


 能力を知らず魔王を葬ってしまった勇者は、正気を失い新たな魔王になってしまう前に遠き地で自ら封印を施したのが真相だ。



「ぐぐごっ……」


 そんな中でもまだ寝ていられる3位の胆力には元帥も内心脱帽したが、それでも冷静さを保っていた者もいる。


「あーらあら、みんなどうしてすぐ負けただなんて決めつけるんです? 一見無敵に見える能力には必ず穴があるものでしょう? ね、シン様」


 2位は表情を変えずに嘲け、1位に顔を向ける。



「形あるものはいつか滅びる、不死身の魔王とて例外ではないだろう」


 同調するように1位も肯定的な意見を出し、そのままの寡黙さで言葉を続ける。


「まさかとは思うが元帥、魔王の能力を破る努力せずに会議を開いたのではあるまいな」


 泣く子も黙る威圧感に満ちた視線を元帥に向けた。


 脅迫するような物言いではあるが、1位の胸中に負の感情は微塵も無い。


 どんな情報戦においても、戦う前から不眠不休で根回しを済ませる元帥への強固な信頼故だ。


「方法はある、だからこのアイテムが必須なんだ」


 すると、元帥はインベントリから玉手箱に似た小さい箱を取り出す。

 方法、と聞いた割にはスケールまで小さそうな箱のサイズだった。


「重大な欠陥を抱えているアイテムなんで三秒だけ箱を開けるぞ、しっかり目に焼き付けてくれ」


 そう念を押し、箱の中の空気をなるべく逃さないよう慎重に開く。


 その中には、光沢ある銀色の手投げ矢が二個並べられていた。


「これが魔王を倒すのに必須のアイテム?」


「使い方が分かりやすいデザインをしてますねぇ」


「私達のだれか二人だけが、魔王を確実に殺すこのアイテムを持てるってわけね」


 出席者それぞれが意見を交わし終えたところで、宣言通り三秒きっかりになったため急ぐようにして箱は閉じられた。



「アイテム名は【聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)】。どこだろうと針先を魔王に命中すればDNAの一片まで残さず消滅する。故に取り憑かれる危険も無いし、これ一発でイベントが俺達の勝利になるスグレモノだ」


「さっすがは元帥、持つべきものは友だぜ!」


 元帥と隣の席にいる5位は、喜びを顕にして元帥の肩をバシバシと叩く。


 本人は辟易しながら適当に離しつつ、アイテム欄を操作。


「一本は俺が預かるが、もう一本はシンに託す」


 譲渡の欄をタップすると、机越しに聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)が1位のアイテム欄に加わった。


「ああ、必ず成功させるため、努力しよう」


 そう決意を固めた双眸を宿し、強く頷いた。



 その様子に、出席者達は絶対の勝利を確信する。


 無駄口も否定意見も心の声も一切聞こえない。

 そんな美しさすら存在する静寂の時間こそが1位に対する絶対的な信頼の証。


 とはいえ、会議はまだ終わっていない以上はいずれ誰かが沈黙を破らなければならない。


 なので、元帥が真っ先に口を開き、止まった流れを再び動かす。


「次にパーティ編成を発表する。シン、リッキー、ドギ、ライデン、ジェームズの五人は魔王城突入組だ。時間よりもまず五人揃って辿り着く堅実さを第一に意識してくれ。俺は本部に残って遠くからお前らの活躍を見守っているからな」


「御意だぜ」

「完璧な布陣だね」

「……」

「全員が本部から出ても、グランドマスターが五月蝿くなりますしね」

「俺はただ、報いる努力をするだけだ」


 万全を期して出し惜しみしない采配を聞き、一様に納得する冒険者達。


 そのはずだったが。


「えっ、じゃああたしは……?」


 忘れられたかと7位は不安げに声を出す。


「すまん忘れてた、ルナミは王都に攻めてくる魔王陣営のカス共からの防衛にあたってくれ」


「あんたちょっと待って」


「よしいいな、これで会議は終りょ……」


「ちょっと待ちなさいってば!!」


 すると一気に不満が爆発し、握り拳で机を叩いて立ち上がる。


 傍から見たその突拍子もない奇行、その大声という名の雑音はあまりにもよく響き、退室しようと席を立とうとしていた冒険者達は白い目を向ける。


「どうした生理か? 急に殺気立ってよ」


「デリカシーないわね、マジで殺すわよ! ……そんなことは後回しで、なんであたしが雑用係と一緒になんなきゃなんないのよ!」


 まるで胸ぐらをつかんでかかるほどの堪忍袋の緒のブチ切れっぷりだ。


「決定事項なんだから覆すな、バランスを考えろ、ぞろぞろ大勢で行っても戦いづらくなるだけだ」


「あーっそ、分かったことにするわ。じゃあ聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)の一本をあたしに頂戴。そうすればあんたの決定事項に従ってあげる」


「は? 嫌だが」


「殺す! 本部に引き籠もってるあんたが持ってたってしょうがないでしょ! 使うとしたらあたし、もし魔王が王都にワープでもしてきたらどうすんのよ!」


「ねえ7位、一応聞くけどシンが仕損じると思ってるの?」


「つっ!? 度が過ぎてたわ……」


 なんとなくにしては疑り深い指摘により、ヒートアップしていたものが途端に冷める。


 元帥はやれやれと頭をかきながら論戦を一転攻勢に転じた。


「いいか、聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)は元々一本ありゃ十分だったんだ。『ミスっても次がある』っていう慢心に繋がるから二本目を叩き壊して最初っから無かったことにしたいんだぞ俺は、どうだ分かりやすかったろ茄子」


 そう言われるとナスビのように見えてくるような結いた髪型を指しながら正論を吐く。


「あたしを茄子って言ったわね!! はい絶許、刺し殺す! ぶっ殺す!」


 元帥の態度に怒りが頂点に達し駄々っ子のように騒ぎ立てる。


 だが、これは元帥とルナミだけの言い争いで済む段階を超えていた。



「7位様、そのぉ、とても言いにくいのですが……『殺す』っていう口癖、前々からほんの少し気になって仕方ないんですが……くくくっ……面白すぎて気になる……」


「そうだぜ、『殺す』の言葉の価値をお前一人が下げている、大安売りなのはお前のわがままボディだけにしとけや」


「動物園に送り返すよゴミナス。美少女動物園じゃなくてゴリラと同じ檻に」


「ぷっ……」


 ここぞとばかりに全員がルナミをしきりに煽る行動をとる。


 ずっと夢の中だったはずの3位なんか、薄目を開けて嘲笑を堪えられないでいる。


 最早誰と戦っているかも全く知れない状況だが、冒険者にとって勝つのは褒められるべき事ではなく当然の事。


 なのでどう勝つか、どう利益を得るかが求められているため、自分らの権威保持のため比較的新参の水無月ルミナス排除の動きが強まっているのもまた必然であった。


「ほい、会議終わってるがレッドカードな」


「げんすい……っ! 次会った時は舌先から輪切りにして殺すから覚えてなさい! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 魔法の詠唱よりも早口で呪詛の単語を吐きながら、ルナミは強制転移される。


 だがその後は王都には向かわず、197階にある自室で不貞腐れているだけであった。

 ルナミの胸中には、「イベントなんてバックレてやる」との確固たる決別の意で満たされていた。



 こうして収集がつき、イベントへ向けて出発するトップ5を見送った元帥だが、一人になった途端に疲れたように再び席にもたれた。



「プチ・エリコ、あいつな……」


 あのプレイヤーの名を呟く。

 元帥にとっては、大変貴重な聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)の一本を渡したという重要人物の認識だ。


「そろそろ魔王の策の一つは潰してくれているよな?」


 元帥の頭には、他のトップ10の面々が考えつかないような様々な思考が巡らされていた。

 言い忘れてましたが、今回の章ではこれまでで一番デカいシリアス展開がございます。

 ご注意下さいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不公平とかなんとか、こいつらブーメラン投げるの大好きだなぁ。
[良い点] ここからリオ様がどんな感じで冒険者たちを蹂躙するか楽しみだな〜
[良い点] あぁついに始まるのかっ......! 怖いよぉ......
感想一覧
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