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黒鉄の双璧&鬼門のBランク最上位

「おい黒服騎士、こいつに俺がいること教えたろ」


「いやぁ面目ない。俺って分け隔てなく優しいからさぁ」


「ケッ」


 若干仲違いを起こしながらも、地上に飛び出したアイアンドリルを宥める黒服騎士。

 そちらは鉄色のドリル以外は両目を空けた機械仕掛けの全身スーツに包んでいる武装ですね。


『気を抜くな。通名が至ってシンプルな冒険者は強キャラの法則がある』

『へえーだから変な通名ばかりだったのか』

『いや通名変更課金だ。こいつら課金者だぞ!』

『通名がなんであれ気を抜くな!』


 ……とりあえずは賭けに出ず、慎重に事を運ばせます。

 相手の攻撃の型を把握するまでは極力HPを多く保ちたいため、また慣れない自傷行為をした結果誤ってHPが想定以上に少なくなれば目も当てられなくなるため、かなりリスキーなフラインの召喚は選択肢から外しましょう。


 さて、至近距離にいる内に片側を仕留めたいですが。


「速い。もう逃げられましたか」


 短剣を袈裟に振ろうとしたのもつかの間、対象はダイビングの姿勢となって地中へと潜り込んでしまいました。

 ですが通り抜けていった跡となる長径1メートルほどの穴はしっかりと残されています。

 まだそう遠くへ離れていなければ、穴に魔法を撃ち込むだけで臀部にでも命中するはず。


「逃しません《闇の気弾(ダークボール)》」


「おおっとドリル殿ばかり注目するなぁ。おじさんだってそんじょそこらのBランクとは一味二味違うんだ」


「む、まさしく穴を埋めるようにカバーしてきますね」


 大剣の刃先が肉薄していたため、やむを得ず気弾を騎士の方へと方向転換して射出しました。

 目の前の一人に標的を絞るしかありませんね。


「……ここだけの話さぁ、RIOのチャンネルを認知してる冒険者って、君の生配信行為を黙認どころか容認してるらしいんだってさ」


 幅広の大剣を縦に持ち直して気弾の軌道を曲げながら、突然世間話のようなトーンで語りかけてきました。

 まるで気弾を捌くのは容易かったと言いたげな余裕。こちらは常に全力投球上等の平均的女子高生でしかないのに、とんだ凄腕と居合わせてしまいましたね。


「だって君が敗れるところの当事者になれる上に証拠は映像として残るからなぁ。だったらおじさんだっていっちょ栄誉狙ってやる気になっちゃうよ」


「下らないですね。私のことを脅威ではなく競争材料としか見ていないなんて。あなたを慕う住民達が幻滅しそうですが、勝てば官軍なのでこれ以上反論しません」


 こんな真相不確かな話を聞き流し、すぐに腰を落として両拳を引き、会心の連打を叩き込みます。

 容赦は捨てましょう。不真面目なこの人との空気張り詰めない戦闘は配信にもなりませんからね。


「……今のパンチはなかなかキレあったなあ。あと一年センス磨いていればおじさんボロクソだったよ」


『効いてねぇ』

『この強さならそりゃ配信容認側になるわ』

『まーたディアボロみたいに硬い奴やんけェ』

『防御タイプとの二回戦目始まった』

『まあRIO様実質武器なしだし』


 青アザ一つすらついてないなんて、どうして相性の悪い敵ばかり引き寄せてしまうのでしょうか。

 この黒服騎士という人は、鎧兜などで固めなくともその頑強な体こそが他者を護る盾としての秘訣とでも言いたげであっては短剣も通りづらい。

 ステータス評価は前衛に最適なDEF特化型で確定ですね。


「おっとっと?」


「それでもやってみる価値はあったようです」


 ダメージ少なくとも衝撃は伝わったようなので、相手が僅かに怯んでオーバーリアクション気味に後ずさった好機を逃さず、追撃の気弾を浴びさせたかったのですが。


「隙だらけだぜ! 《アイアンストライク》!」


「むむ、ここにきてまたドリルですか」


 意識が完全に黒服騎士に向かっていたのを待ってましたとばかりに、ドリルの金属音がすぐそこまで迫っていました。

 紙一重で横にずれて躱せましたが、あとワンテンポ遅れてたら直撃と同時に頭部右側面が肉塊になりかねない残酷な攻撃でしたね。

 なぜか口に出す必要のないスキル名を宣言してましたが、おそらく格好つけて気取っただけなので深くは考えないこと。


 騎士の方は巻き添えを恐れたのか後退して数メートル離れていたので、今のうちに煩わしいドリルを潰すため短剣を袈裟に振るいました。


「はっ」


『うわあRIO様かなり攻撃速度あるのに外してる』

『アイアンドリルとかいう奴土の海を泳いでるのかよ』

『ハイレベルもぐら叩き』

『もぐらどころかトビウオ』

『敵サイドがここまで強いとかあったか?』

『Cランクがいい加減なだけでBランクの序列は厳格だからな』


 短剣は虚しく空を切ったようですね。


「洗練されたヒットアンドアウェイ、当てるだけでも難儀です。では次に参りましょう」


 みすみす取り逃がすのはこれで二度目、出現してから即反撃でも遅すぎるほどスピードに差がありました。

 つまりアイアンドリルはAGIに秀でたステータス評価と推察されます。


 ですが今ので攻撃の予兆は覚えられましたよ。振動の幅からタイミングを逆算し、姿を見せる直前に短剣を振れば飛び出してきた頭を泣き別れにできるはずです。


「この広大な地中全部がドリル殿の独壇場だからねぇ。じゃあおじさんの番だ。乱目せよ《黒貴剣》」


「っとスキルですか」


 黒服騎士の方も、アイアンドリルと脅威度を比較しても優劣付け難いほどなのでした。

 敵意を感じ取れない飄々とした目つきであるのに、踏み込みから放たれたその剣戟はまるで重量を感じさせないほどに軽々しく、そして触れれば裂けてしまうほどに鋭い。

 上体を反らしつつ躱し、受け流し全てに短剣の役割を注いで捌きます。


「RIOちゃんなかなか筋がいいねぇ、若いのに尊敬しちゃうよ」


 敵をも賞賛できる騎士道精神とは、こうして実際拝見してみると気分が悪くなるのですね。

 敵からのヘイトを請け負う盾役は、この人以上の適任はいないと断言できそうです。


「おじさん休日は欲しいけど、まだまだ休ませないよぉ!」


「熟達した腕前にその品質、まったくもって厄介です」


 相手が三度振る間にこちらは四度振るえる、剣速はこちらが僅差で勝ります。

 しかしただの初期装備と優れた鍛冶師に製造されたような武器とでは歴然たる質の差があるために、幾度となく皮膚を裂かれてしまいました。


『じれったいぜRIO様。早く攻め入るんだ!』

『いや迂闊に攻め込めない理由があるんだろ』

『お前もここに立ってみればどんだけ想像以上にまずい状況か分かるぞ』


 吸血鬼にとってこれしきの負傷は軽微。

 それでも足に振動として伝わる不可視の存在が攻勢を躊躇させる。

 どちらかに意識のメモリを偏らせるだけで、もう一方からのしかかるプレッシャーが肥大化してゆく。

 騎士とドリル、どちらか片方ずつ相手するならば対等近くに渡り合えたであろうものの、やれやれ、とてつもなく噛み合った連携がオマケされた一対二で勝利を手にするのはやはり分が悪かったみたいでしたか。


 それならば、いっそ勝利に拘るよりかは最後まで諦めない方を優先し、いろいろやってみましょう。

 運がよければ攻略の糸口が見つかるかもしれませんからね。


 それが気兼ねなく出来るのが、コンティニューできる仮想世界ですから。


「破れかぶれだろうと、実践しなければどこへも進めません」


 短剣を逆手に構え、もう片手に気弾を充填させて黒服騎士の懐へと駆け出します。

 この人の尋常ではないDEF以外はおおかた平均値前後。動作を凝視して軌道を見抜き、掻い潜って接近できた時に短剣と気弾と吸血の三連コンボでたたみ掛ければ可能性がありそうです。


「勇気あるんだねぇ。ではでは必殺、黒貴忠烈斬」


「おいそれと通らせてはくれませんか」


 突然不明なスキルが来ました。予見する限り逆袈裟斬りの挙動です。

 気弾を牽制に転用しつつ、宙返りの要領で跳躍して回避しましょう。


「あー、そこで跳んじゃったかぁ。失念してるなぁ」


「……ふむ」


 すると、まるでスキルなんて最初から無かったと言わんばかりに黒服騎士がバックステップをとった瞬間、突如真下から出現した鉄製の武器が私の左脚の根本に突き刺さっていました。

 スピードと奇襲性に物を言わせたアイアンドリルの十八番、空中では身をよじってでしか対処できません。


「うし! 《アイアンストライク》成功!」


 体が物理的に軽くなる。

 肉片が飛び散り、廻るドリルから弾かれた左脚が宙を舞う。


「あなた方の狙いはこれでしたか。良いでしょう脚の一本差し上げましょう」


 私が大地から離れ、振動からの予測が不能となったタイミングを捕捉されたようです。

 二兎を追い二兎を得る気概がなければ先々訪れるであろう死線をくぐれなくなるのに、ここで悪循環に陥りつつあるとはみっともないですね。


『踏んだり蹴ったり』

『あそこで跳んだのは悪手だったか』

『RIO様のおみあしが……』

『うわHPごっそりもってかれてる』

『もうドリルさんいなくなった!?』

『このコンビ個人だけでも実力的にはAランクの領域だしな(今更調べ終わった)』


 本当に、とんでもなく格上の相手に大立ち回りを演出しているものです。

 振り返ればまたしてもアイアンドリルの姿がこつ然と消え去り、私はというとなんとか残った片膝を折り曲げつつ着地できました。


「いやあ、RIOさん膝を突いちゃってピンチだねぇ。でもその蹴り技も気弾も、全部背筋が凍るほど恐ろしかったよ。だから敬意を表す」


 また騎士道精神とやらですか。いい加減しつこいです。


「膝を突くこととピンチであることに何の因果関係があるのですか」


「いや強がらなくて結構。君は憐れにも配信中な身だし、あまり無様な姿映されたくないだろ? だから騎士道精神に則って君の名誉を保った形で終わらせたくて、この提案受け入れてくれないかな」


 大剣の切っ先を向け、降参しろとの要求を突きつけてきたようです。

 誇り高き騎士道精神とは、敗者の最期を汚さずとでも言いたいのですか?


 失笑ですね。


「その矜持は誠に素晴らしいですが、ここから私が大逆転勝利をもぎ取ればあなたは果たして何と仰るのか、非常に非常に興味が尽きませんので意地でもお断りします」


『大逆転勝利だと!?』

『逆転できるのかこれ』

『いやお前らRIO様のお言葉を信じろ!』

『そうだぞ。RIO様は途中まで舐めプするのが趣味だからな!』

『いやなにそれ初耳』

『虚勢張ってないってのだけは伝わった』


 もう勝利への方程式は成りましたので、後は視聴者様へご覧に入れさせるだけとなりましょう。

やっとゴールデンウィークだ皆さん……

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[一言] RIO「勝利の方程式は決まった!」
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