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魔王 その2

 1582年戸沢家で天下統一たのしいです

 とてもではありませんが、手札が読めない相手と戦った経験は数あれど、相手自体が聖銀の針矢(セイクリッドダーツ)で倒せる情報以外に何も読めないなんて前代未聞です。


 まずは並のエネミーなのかレイドボスの類なのかを把握するため、後手に回ってでも様子を見るべきでしょうか。


【……人間にしては気骨のある佇まい、少しは気に入りそうだ】


 これは、私にも聞こえてますがエリコに向けられた言葉ですね。


 私達からは声が届く距離なのにこうも口を動かさずテレパシーで話すのは中々に内気な性格なのでしょうか。

 意外とそこに違和感の正体があったりするかもしれませんね。


「気に入るって何さ、そうやって強者ぶって優越感浸りたいだけの人なんて、私は気に入らない!」


 流石はエリコ、誰にも媚びない姿勢は魔王相手にも健在でしたか。


 この口撃はそれなりに効いたのではないでしょうか。


【ほう、ほほう、ふははははは、素敵な宣戦布告だ、今ので確証をもってそなたを気に入ったと言おう】


 ところが、逆に好感触を抱かれたのですかこれは。


【儂の仲間になるといい、そなたのような人間が優遇される理想郷を共に築こう】


 ……勧誘ですって。


 今ので、起承転結をなぞらない型破りなキャラクターなのは判った気がしました。


『しまった! こいつ初代ド○クエタイプの魔王だったか!』

『見かけよりは斬新な奴と手のひら返したかったが、見かけ通りのオーソドックスな魔王だなこりゃあ!』

『セカイノハンブン貰えるとしても乗るなー』

『バカバカしくて言うまでもないが、どうせあれは精神攻撃だ、真に受けるだけ罠だぞえ』



 魔王が人間好きという風変わりな趣味をお持ちなのは今や知らない人の方が少ないほどですが、それにしたって単刀直入が過ぎるのではと思うのは私だけではなかったようです。


「仲間……はい!? ふざけないで!」


 当たり前ですが、エリコは機嫌を逆なでされたようで一蹴。


 むしろこちらの戦意を高めさせてくれて、有り難いことです。


「理屈や理で人間を屈服させようとするなど、口だけは達者な方ですね」


 エリコに代わってそう皮肉を交えて反論してみましたが。


【黙れ、吸血鬼には一言も話していない】


 突然テレパシーから伝わる感情が怒気を孕めました。


【そこのサル、猿から進化した吸血猿……人間を餌にし、肉体を腐らせずに生きる不死者(アンデッド)、そなただけは虫酸が走る】


 まさか私を猿呼ばわりとは。

 初対面ながら、よほど私を忌み嫌ってますね。しかも生理的な意味で嫌っているのは見ないパターンです。


【滅せよ】


 その次に、天高く掲げられた両腕から周囲の空気を一変させたものは、熱でした。


 それだけではなく、魔王の手のひらに顕現していた溶岩の球に翼が型どられはどんどん大きくなっていました。


 もう経験則から何をしてくるかは明白です。


「エリコ! 戦いの火蓋は切られてます!」


「分かってる! あんなやつとのお喋りタイムは終わり!」


【《マグマバード》】


 やはり攻撃魔法でした。

 白に近いオレンジ色をした溶岩の鳥が、隼よりも速く滑空しては、喉が焼けるほどの熱を無尽蔵に振りまいて来ます。



「わわぁっ! これじゃ魔王に近づく前に焦げちゃう!」


 攻撃対象は私だけかと呑気していたら、勧誘していたエリコにも容赦なく降り注いでますね。


「今は対策を練りつつ逃げの一手です」


「そうするしかないよね、どう見ても」


 作戦を飲んでくれました。

 このマグマ豪雨の中、下手に防御をやめて手出ししようとすると間違いなくHPが大幅に削られてしまいますから。



【何歩走ろうが無駄だと悟れ、《マグマバード》から逃れられようとも、黒き死の運命からは逃れられないのだ】


「つまり気取らないで言えば黒き死(真っ黒焦げ)になれということですね、もちろん断固拒否します」


 走りながら縦へ横へと跳んで回って避け、時々武器を用いて防ぐことへ集中。


 あのマグマの色合いでは一回でも当たってしまえば服や肉が溶けながら蒸発しかねませんが、剣や盾なら溶かされないのが救いでしょうか。


 ですが、ただ回避するだけなのは次の手へ繋げることを考えない愚行です。

 エリコと耳打ち出来る距離以上には離れずに、二射、三射と次々に襲来する火の鳥の猛攻を凌ぎきりましょう。


「RIOっ危ない!」


「っ……あなたのおかげで救われました」


 エリコに近づき過ぎているので咄嗟に躱せる範囲が狭まりますが、こうして危なくなった際に咄嗟の判断で助け合えられ、共闘感も得られてとても一安心できます。



【何故だ人間(エリコ)、何故そこの吸血鬼(ケダモノ)を助けた? 吸血鬼は人間を吸い殺し糧にする地上で最も下賤な魔族であろう】


「なんだっていいでしょ! RIOを悪いように言わないでっ!」


【口惜しや……そやつの催眠で魂まで支配されているのだな。だが許せ、邪魔立てするならば同様に滅さなければならない】


 とんだ妄想でエリコにまで敵愾心を燃やし始めましたか。

 次に襲来した溶岩の鳥が、エリコ単体を狙ってきていたのが証拠です。


「あっつつつ! きいいぃ!」


「冷静にですエリコ、攻撃の苛烈さを増しているからこそ冷静」


 ダメージに対して威嚇行為で応え出したため、すぐにエリコの台衿を手で掴んで逃走再開です。



 しかしこの魔法、対面した時の強そうではなかった直感の印象とは裏腹に、ちゃんとSランク上位レベルの威力は備えているではないですか。


 しかも撒き散らされた粘り気のある溶岩の粒がそこかしこに残るため、こちらの足場を徐々に潰してくる二段構えです。


 並々ならない格上ですね。

 それでも、よく見ながら躱し続けたおかげで魔法の特性から癖まで掴めてきました。


「まだ来ます、引き続き魔王から付かず離れず時計回りに走りましょう」


「うん! こっちもあの鳥の動きが見えるようになってきたから、もういけるよ!」


 結局、押し負けるよりも慣れる方が先でした。


 あのマグマバードという魔法、範囲が広く遠近両用で満遍ない性能なのは厄介ですが、猛毒や幻惑などの類ではないだけいくらでも突破しようがあります。


 そして、順応出来た今がその頃合いです。


 この魔法をどうくぐり抜けるかですが……閃きました。


「作戦を立てました、格上が相手ならばこちらの勝っている部分、数の利で攻めるのが定石、なので私とエリコで二手に分かれて挟み撃ちを仕掛けます」


「なるほどぉ、それいいかも! じゃあRIOは後ろから攻めるの?」


「後ろ……とは勘違いしてませんか?」


 ただ魔王の背後を取ったとしても、灼熱の雨が降り続いてる限りは長くせず蒸発死がオチ。


 前後ろなどという奥行きばかりある考えではなく、上や下と三次元的な考えをして頂きたいです。


「エリコが地上から、私が空中から攻めます。さてお先に」


「空中!? RIOの作戦ってなんかこう……独創的っ!」


 無理矢理感のある褒め方をされましたが、軽口を返すよりも先に熱い鳥を斬り伏せつつ天井まで高く跳びこえられました。



「……ここなら風上ですね」


 なるほど、空中戦に切り替えたのは当たりでした。

 上から眺めてみれば、鳥は使用者の体躯よりも高くは飛べないらしいですね。


 それに魔王の頭もよく見えます。


 天井を蹴ってこのまま急降下すれば、相手の頭上から股まで一息に斬り裂けるでしょう。


「隙だらけです」


【ふん、つまらない攻撃だな】


 む、巨大な手の平がこちらに向けられました。

 掴みかかるのではなくこれまでのように魔法を放つための予備動作です。


 どんな魔法が来ましょうか。

 氷か雷か光か、いかなるものであれ見えたのなら魔王ごと瞬時に捌くのみですが。


【埃は近寄ることも烏滸がましい。《カルラウィンド》】


「……よりにもよってですか」


 魔法を唱えられた瞬間、私を遥か遠くまで巻き上げるほどの強烈な風が吹き荒れました。


 これこそ、この状況において最も食らいたくなかった魔法です。

 不可視の類では、目や鼻で見ることが不可能なため、捌くことが出来ません。


「せええええっ、くっっ!」


 勘を頼りに四方八方に斬っても斬っても風が止まず、砂やマグマが凶器となって襲いかかり、頭上に迫るどころか風圧にやられて魔王との距離が遠のいてしまっています。


 威力もさることながら、魔法の扱いに造詣がありますね。


 この埋め難い差を埋めるには、私のどの部分を引き合いに出せば良いのか……。


「りおーーっ!」


 エリコがこちらに向かって駆けてきているのが目に入りました。


 落ちるしかない私をキャッチしたいあまり敵に背を向けて離れるなんて、その優しさが仇になってますって。


 これではエリコが背中から狙い撃ちされるだけでなく、空中であるため上手く体勢を整えられないでいる私まで危険。

 ここは我が身を削ってでもすぐ対処しなければなりません。



「これで……」


「ちょ、何してるのRIO!?」


 なので、自らの脇腹に双剣それぞれで薄く切り傷を生みました。



【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】

【私の魔力は、お前にとって大きな力となるだろう】


「今こそ出番です、組み体操のように受け止めて下さい」


 優位に立てた時まで温存したかったのですが、追加戦力を召喚出来ました。

 地面に墜落する前に彼らの膝の上に立って反撃の体勢を整えるために召喚しましたが、無事間に合いました。


 私が翼で飛べるのはせいぜい1〜2メートルが限度ですが、彼らは空を自由に飛べるのはご存知の通り、空中戦に対しては滅法強いはずです。



 しかし、フラインとヴァンパがツインで立ち向かったとしてもエリコ一人分の戦力にさえ及ばない以上、攻撃に参加させれば活躍は見込めません。



 なので、お二方に担当させる役割は、徹底した補助。


 一口に補助と言っても援護射撃やバフやら多岐にわたるため、具体性をもって命令を下さなければなりません。


「命じます、フラインとヴァンパはこれから私の足場になりなさい、魔王ではなく私にのみ目を向け、旋空しながら飛び移る私を受け止めるよう徹底して下さい」



 空をタダで手放すにはいささか勿体ないです。


 制空権、私の物に変えてあげましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とうとうリオが女王様に!!! これは視聴者大歓喜不可避
2023/09/27 06:10 退会済み
管理
[良い点] 黒き死と書いて真っ黒焦げと読んだところで笑った
[良い点] 踏み台のセリフ、めっちゃ女王様みたいな感じでRIO様感半端ねぇな!
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