同格ではなく……&RIO様ご乱心
戦国大名になっていて更新遅くなりましたすみません。
【ぐへへっ、ぐへへっ】
【うふふっ、うふふっ】
どうやら私の偽物も再起していたようです。
兎にも角にも、笑い声だけ似せていい気になっている偽物達を両方とも始末しなければ先に進めなさそうですね。
「こちらの方は引き受けます、なのでエリコはエリコ同士で任せますね」
「任されたよ! RIOには近づけさせやしない!」
心から頼もしい返事が届きました。
よってお互いに背中を預け、それぞれ自分の偽物との戦いに専念する作戦にしようと思います。
パートナーではなく自分自身を相手取るならば、殺めようとも罪悪感がまだ軽減されるでしょう。
それで、始末するとしても、コピーが反映しているのが見た目だけならばまた力押しでの攻略が出来たのですが。
「口での吸血にダークボール、それに吸血鬼の膂力や再生体質まで真似てますか」
「私っ、こんなに色んな技あったっけ!? 自分でも気づきにくいものだけどっ!」
それぞれのステータスや得意技までコピー対象者の特徴を余さず反映すると、文字にして表すだけでも厄介なエネミーです。
『エリリオ派閥の良いエサになりそうな敵だぁ』
『二重の意味でミラーマッチ』
『やっと深部だってのに、いや深部だからこそふるい落としにくる仕掛けだな』
『これ仮に大人数で行ってたら大惨事になってたんじゃマイカ?』
『恐らくは……ただ少人数でも同じ数の同格を相手にするのには変わりない以上は惨事直送』
これだけ見れば、相手の力量はこちらと同格と評するのが適切なのでしょうが。
「そんなに口でばかり吸血するとは、品がありませんね」
無防備に顔から近づいて来たところを肘による強打で口内を破壊し、大剣で追い打ちをかけました。
「なるほど、想像していたよりは楽に勝てそうです」
エネミーの特徴は大体分析しました。
このエネミーがコピー出来る範囲はステータスだけ、おつむの方はがむしゃらにコマンドを入力しているだけでしかない一世紀前の人工知能同然。
私は、ボタン連打で戦っているほど単純な戦法で勝ち上がってきたわけではありませんので。
「脚、また頂きます」
【うふっ】
偽物は倒れ伏したので、起き上がる前にこのまま剣で串刺しにして固定。
ですがまあ、見れば見るほど無様な私の姿ですね。
とても気に入りました。
「さてと、高笑いしか語彙が無い私に、お仕置きです」
まずは頭部に一蹴り、頭蓋骨が砕けた音と共に出血したのでそこに追撃の二蹴り目。
【うふふふ……】
「まだ笑っていられるのですか、黙って悪行を償いなさい」
自分と対峙するということは、自分を嬲り殺せるということ。
自分を殺したいと数え切れないほど嫌悪した経験のあるこの私には、惑わされるどころかお誂え向きのエネミーですね。
「さあ、さあ、さあっ!」
自分の姿だからと手加減なんてせず甚振るようにしました。
どうせ多少の傷なんて再生するのです。まだ殺しません。
もっと蹴り、もっと踏みつけて、髪を引きちぎって骨を内側から砕き、だんだんと醜くなってゆく私の姿は病みつきになりそうです。
「ふふっ、うふふふっ、無意味な人生を悔やみながら永眠したらどうですか?」
非現実的で叶えられないと思いこんでいた望みが少し叶えられました。
愚かで情けない自分を痛めつけていると、心の中で覆っている黒雲が晴れてゆくいい気分になります。
『ぎゃあじぶんごろし!』
『本物の方も笑ってやがる……』
『やっぱこれだねー』
『本物の堂に入った高笑いの方がよっぽどビビってしまう』
『今夜の夢は決まったわ』
このまま動かなくなるまで蹴り続けようとも考えました。
しかし、夢中になり過ぎるのは、裏を返せば油断の兆候でもあります。
特に今回は一人で戦っているわけではないのですからね。
「エリコ! このエネミーは思考までは真似られてません、つまり落ち着いて対処すれば同格ではなく同格以下です」
「それはそうかもしれないんだけっ……どっ!」
おや、あちらはまだ優勢になっていませんでしたか。
エリコの方は盾で押し合っている状態のまま拮抗していました。
【ぐへへへへっ】
「けっこうジリ貧かも! ヘルプ!」
いえ、それどころか押されているようです。
偽物の方は派手な大技を連発しているのに対し、エリコは防御しているだけ。
どこで間違えましたか。
あのエリコが油断なんて不覚を取るはずもありませんし。
私の推測に致命的な穴が潜んでいたとか。
【うふふふふふふふふっ】
「っと、これは」
私の偽物が勢い良く飛び上がるように起き、再生した脚でドロップキックを放ってきました。
「あぶっ、何故、同格以下のエネミーなはず」
動作が見違えるほど急に速くなりました。
速過ぎて大剣の防御も危うく間に合わなくなる危機、それに威力も、ただの蹴りでしかないと思えば凄まじい衝撃で骨がひび割れそうでした。
まさかこの偽物、ブレイクスキルを発動したのですか。
「くっっ……推測の穴に気付けない油断……」
翼を生やして旋空し、止まらない回し蹴りが放たれてきました。
空気も揺れ動く驚愕の強化を果たした技は、大剣で防御するだけで精一杯。
『エリリオとニセエリリオには戦略的な違いがある、本物は温存しながら進まなきゃならないのに対して偽物は侵入者撃退のために温存する必要が無い』
『ブレイクスキルだって迷いなく連発するし、ラストエリクサー症候群も選択の妨げにならない』
『RIO様は同格以下と評価を下したが誤りだ。こいつらは同格以上!』
『つまり、ヤバいッ!』
『何ブルってんだお前ら? RIO様の戦績は百戦百勝、RIO様に勝てるのはRIO様だけだぜ』
『↑それが今まさに起こってるからヤバイんだろうが脳筋能天気バカ!』
全く、見た目以上の仕掛けですかね。
魔王との決戦のために余力を残さないといけないのに、それをおいそれとは許してくれない茨の道より険しい鏡の通路。
「認めましょう。同格以下ではなく、同格以上」
防御に100%の力を割いて、猛攻を凌ぎきるしかありません。
相手の勢いに釣られてブレイクスキルを発動してしまえば魔王の思うツボ。
九秒間だけ、全身全霊で耐えて相手が体勢を崩した時にようやく反撃としましょう。
「あうっ、くっ、耐えっ……エリコのためにもどうにか」
脳内のチャートは整っても、鏡の前の現実はままなりません。
九秒間の内、一秒毎に次の一秒の立ち回りを考えなければならず、体も思考も休まる暇が与えられず、上手く防御してもダメージが嵩んでしまいます。
特に、私自身の重量では強烈な攻撃一つで体勢を崩され宙に打ち上げられてしまいます。
攻撃を大剣で受けたら、小刻みの歩行法で後退して衝撃を逃がす。その繰り返しで、地面から足を極力離さないようにやりくりしなければ。
「RIOっ! そっちはどう、って何ゴトぉ!?」
いけません、これ以上後退すればエリコが巻き込まれてしまいます。
私まで遅れを取れば、エリコと共倒れの結末しか待っていません。
そんなの、お断りです。
「エリコは伏せて下さい! 発動します《ブレイクスキル》!」
「RIOのブレイクスキル……!」
発動させたからにはただでは済みません。
私の偽物を蹴り飛ばしてエリコのと衝突したら同時処刑のチャンス。
「せえええええっ!」
エリコの偽物もろとも、全身微塵切りの刑に処しました。
「危機一髪だったけど……RIO……その右目……」
私が片手で抑えている箇所を指して、エリコの強張る声が聞こえました。
手を離して右目を開放してみれば、視界が一面黒色であると、視力を代償にされたのが一目瞭然。
「エリコの命には代えられません。私にとって最愛の人であるエリコは、ここにいる一人だけですから」
「RIOっ……コロコロと猫ちゃんになったりイケメンになったりするのずるいよぉ」
ずるいだなんて、照れ隠しが見え見えの褒め言葉ですね。
【うふふ……】
【ぐへへ……】
最大HP以上に細切れにしたはずなのに、まだ生きていましたか。流石は不死性を持つエネミーで守りを固めた魔王城です。
ステータス丸々コピーという推測も、もしかすると間違いなのかもしれませんね。
この偽物は正確にはエネミーではなく、あくまでも鏡に映っている自分を攻撃しているだけとかいう屁理屈同然の理屈故に倒せないとしたら、これでは夢にまで見た自分殺しも途中で飽きてしまいそうです。
「いつまでたっても倒せない……だったら、本体から狙うのがお決まりだよね!」
おや、エリコが妙に自信あり気なテンションであらぬ方向へ盾を構えましたが。
振り向いて確認してみれば、偽物の出てきた鏡の方向に体を向けています。
もしや、この鏡に攻撃するのだとしたら……。
「“待て”です! そんな単純な攻略方法が通るのならば私が初手でやってい……」
「《シールドバッシュ》!」
鏡が本体の推測は的中してますが、短慮に走り過ぎましたね。
よりにもよって衝撃が鏡全体に伝導しそうな技を選択していました。
しかも私は、結局制止することが出来ないという痴態。「やってみれば、もしかしたら」という淡い期待がブレーキになっていたのも失敗です。
隅から隅までヒビ割れた鏡は、その大きさを失いさしずめ雹のように地面に降り注いでいました。
鏡のあった範囲は、赤茶けた土壁が露出しただけ。
「ちゃんといけたよね、RIO? いけてなさそうな目してるけど……」
「あなたが何をしてしまったのかは私ではなく前を見て下さい」
「あっこれいけてなかったパターン」
今戦っていた偽物の姿は消えました。
ですが、それと引き換えにこの世のものとは思えない光景が。
【うふふふふ】
【ぐへへへへ】
【うふふふふ】
【ぐへへへへ】
【うふふふふ】
【ぐへへへへ】
破片一つ一つから人間や吸血鬼の手が伸び、鏡の湖群から十を越える偽物が這い上がってしまいました。
戦況の悪化。
それぞれほぼ同じタイミングで仲良さそうに笑うせいでエコーがかかったかのように耳が錯覚してひたすら不気味、全身の毛が逆立ちます。
「ううむ……ただでさえ一体相手するだけでも手こずるというのに、魔女の釜の底の沙汰ですね」
エリコの発想も百パーセント間違いではないのが、フォローの言葉が思い悩んでしまう要因。
壁とは砕けば通れますが、材質はそこに落ちたままなのが自明の理。
鏡もただ割るのではなく、鏡の破片一つに至るまで溶かすなり消し炭にするなりしなければ、私達を映し続けるだけです。
次の発想、偽物達が這い出たばかりで一斉に襲いかかって来ていない内に、突破口を思い浮かべなければ長くは持ちません。
「増殖してしまったからには仕方ありません。エリコ、動転する気持ちは分かりますが」
「ぐへへ〜なにここ天国? 私のRIOがあんなにいっぱいいる〜」
……えっ。
「棚ボタだよ〜! はぁ推し推し推しぃ」
エリコ、私が心配しているというのに、どうして、あのRIOに目移りしているのですか。
なのにこちらには一切目もくれずに、そこに現れている十体ほどの偽物に尻尾を振っているだなんて、私の考え方がおかしいのですか。
私は、数だけのあんな偽物よりもエリコ一人を一筋に想っているのに。
あなたは、私でさえあるのなら節操無くなるのですか。
「あの、エリコ、戦いはこれからが正念場なので……」
「一人ずつ順番にハグして〜、やわらかなとこワシワシしまくったら一人くらいお持ち帰りしたいなぁぐへへへへぇ」
私が絡むと情欲が抑えられなくなるのは知っています。
あなたが私をペットのように愛でたい趣味をお持ちなのもよく知っています。
それでも、私はここにいますよ。
あっちばかり向いているだなんて、背中を預けるほど信頼し合っている仲間に背中から刺されても文句は言えないですからね。
『オイオイオイ』
『しぬわコイツ』
『おやおや、こっちの方面でも状況が悪化してるような?』
『ついに自分自身にも嫉妬するRIO様』
『愛が重すぎて圧死スルヨー』
『おいエリコ気づけ! もう笑い話じゃ済まなくなってる!』
『だめだ絶対気づかねぇぞこのMHPwww』
「……嫉妬心を燃やしてくれてありがとうございます。私の敵は私達です、エリコを誑かす悪い私は消さなければなりません」
「ぐへ……りおさまお怒りでございますか……」
「別段怒ってはいませんが? ほら私を見て下さい、うふふふふふっ、こうして笑えるほど怒っていません」
「それ普通に怒ってるのよりもすごく恐いって言うの!」
怒ってはいないのに諦めたような表情をするなんて……嗚呼、なんて素敵なのでしょう。
顔が無い偽物よりも、こうして私に対して百面相するエリコだけが私の愛する全てです。
「ならば尚更恐くなるかもしれないので覚悟して下さい。ではまず、あなたの両目は何も視えなくします」
「いやああぁ! ご主人様お許しをぉ!」
どこをどう勘違いしたのか、両目を手で塞いだエリコの横を疾走し、偽物集団の中央へと躍り出ます。
【うふふふふ】
【ぐへへへへ】
【うふふふふ】
【ぐへへへへ】
【うふふふふ】
【ぐへへへへ】
すると偽物達は私を目掛けて一目散に攻撃するでしょうが、私はただ偽物集団の間と間を蛇のようにすり抜けて移動し続けるだけで、相手は攻撃動作に旧式アルゴリズムが追いつかず、そのうち目で追えなくなり、ただでさえ密集しているのがすぐ裏目に出てフレンドリーファイアが頻発するようになります。
何十何百と雁首揃えようとも、足並み揃わなければ思い通りに踊らされるだけですからね。
「それでは皆様、ごきげんよう」
足の引っ張り合いが始まり追走どころではなくなった所で仕上げです。
左右の鏡の壁を蹴って上昇し、天井付近にまで到達したら、遠距離攻撃のための魔法を連射。
「《闇の気弾》」
狙うべきは、天井にいくつかぶら下がっている大型照明器具。
そのつなぎ目をそれぞれ全て撃ち抜き、落下させました。
【うふ】
【ぐへ】
見下ろしてみると、なんともまあ珍妙な絵面です。
バックステップで躱す偽物、逃げ遅れて下敷きになる偽物、剣で破壊して事なきを得ようとする偽物と様々でしたが注視する部分はそれとは別。
「真っ暗ぁ……! ま、まずいよ、今ニセRIOに襲われたりしたら……」
エリコのこの反応からすると、成功でしょう。
宣言通り、エリコの目には何も視えていないはずです。もう偽物なんかに目を奪われません。
「それはありえませんね。私の作戦勝ちです」
「RIO、死ねって言いたいなら死ぬし焼き土下座でも何でもしてお詫びするから、相手がRIOだとしても二度と目移りしないからさ……」
「ですから、落ち着いて耳をすましてみて下さい」
「きゃっ。はうぅ……ほんとに落ち着いちゃうよぅ……」
後ろから抱きしめたら、すぐ鼓動を高めて喋らなくなるエリコ。
きっと私の感触しか感じていませんね、私にも心地良いひと時です。おかげで私の独占欲も満たされるというもの。
私の場合は暗視があるため、この通路から取り除かれた危険が見聞き出来ています。
足音も、呼吸も、大勢いた偽物集団の姿も、全部が無くなっていました。
この通路がやけに眩しかったのが気がかりでしたが、どうやら仕掛けに関わっていたようでしたね。
「何も聞こえない……いない? もしかすると勝っちゃった? ふぇ、シャンデリアアタックしただけなのに?」
「厳密には“光源”を破壊しました。そうすると鏡には闇しか映らなくなりますね。なので」
「そっか! 鏡は光を反射して映る! 義務教育で勉強する知識だったね」
「あなた、学年一位を取ったこともある成績なのにやっと思いつけたのですか」
「ぐへへ……」
どこに後ろめたい気持ちがあるのか、何故だか偽エリコよりも余裕が無さそうな笑い声で誤魔化されました。
まあ、頭も回らなくなるほど苦戦したり私にべた惚れしていたりと忙しかったですからね。
許すことも大切です。あなたが私だけを愛しているのは私が一番分かりきっていますから。
真っ暗で静寂で、様々な物体の破片が散らかった通路をエリコの手を繋いで一緒に突破しました。
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通路を抜けた頃には、強烈な魔の気配がすぐそこにいるかのようでした。
来たるべき決戦の時は、そろそろでしょう。
エリコと共にここまで来れた運命に感謝しつつ、歩みを進めました。
誤字報告毎度助かってます!