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鏡の間&鏡とはそのものが恐怖

 この通路、両壁にどこまでも広がる鏡という構造のせいで、徐々に間隔が狭くなってゆくような圧迫感を覚えずにはいられません。


 奥の奥には扉がありますが、まるで距離感が掴めずあとどれほど遠いのかの判別がつけられずです。


『それにしても眩し』

『鏡がべらぼうに大きいせいで光が反射して眩し眩し』

『こればっかはエリリオの笑顔よりも眩しくて少しの間目逸らしてた』



 いくつかぶら下がっているシャンデリアの照明が眩しいのは確かですが、戦いに支障をきたすほどではないのでどうにかする必要は今のところはありませんね。


 それでも、鏡という日用品は所変われば不気味にもなりますね。

 魔王の城の一角であることも相まって、写っている自分の姿がまるで赤の他人のように感じます。


「やめてよね……ナルシストでもやらないような通路の造り……」


 隣にくっついているエリコの私を握る腕がだんだん強くなっているのが分かりやすく伝わります。


「建設者の趣味なのでしょうか」


「うー、そういうのよく分からないけど、なんか鏡に見つめられている気はするよね」


「見つめられているですか? リスナーから見られ慣れているあなたでも気になるほどですか」


「ううん、ちょっと違くて、なんかこの鏡自体に目玉がついているような感じかな……」


 そう鏡に写っている自分を胡乱げに見つめていました。


 鏡なんかに足を止めているなど本来ならば即座に注意するべきでしょうが、そうも言ってられなさそうです。


 私自身、生物か無機物か知れない者からの視線を感じ取っているのですから。


「得体の知れない恐怖……なのでしょうか」


 この気味の悪い通路に血臭はしないので比較的安全なのでしょうが、心理的には不安感を煽るので早めに踏破するに限ります。


 右を見ても左を見ても自分の姿があるだなんて、どうにも息が詰まる思いですから。


「っと、私ってばまた猫の耳が生えているだなど……」


 左を向いた時にそれに気づいたのですが、少し変ですね。


 少し前に見たコメントの方では猫種が三毛猫に近いらしかったのですが、どこからどう見ても黒猫の耳が生えていました。



「全く不吉です……おや」


 試しに耳の生えている辺りを触ってみたのですが、何故でしょうか。


 別に何の耳も生えていませんでした。


 鏡に目を戻せば、いつもの吸血鬼の私が写っているのみ。


 見間違い……でしたか。それとも、単純に猫耳に自覚したので消えただけなのでしょうか。



『ところで鏡にまつわるオカルトな話ってなんか多いよな』

『合わせ鏡が良くないとか?』

『鏡に向かってお前は誰だって呼び続けると精神がやられるとかな』

『わしがガキの頃なんて鏡置いてある部屋に真夜中だと近づけなかった(隙有自語)』

『普段からつまらんお前らのコメントの割には何故か怖くなってくるのでやめて』


 ここで時間をかけてもつまらないだけ、早足になりましょう。


「私、本当なら心霊スポットとか平気なんだけどなんか怖い……得体の知れない恐怖っていうのが特に鳥肌が立っちゃう」


 エリコも少し遅れて早足になったつもりのようですが、言葉通り縮こまってますね。


「はぁ、でしたら下を向いて歩けば良いでしょう。床はちゃんと床ですから」


「そうだね……うん! 床まで鏡だったらRIOのドレスの中が丸見えになっちゃうし! ぐへへへへぇ」


 どう話を繋げればそうなるのか、邪な想像を始めてしまっていました。


 とはいえ、これこそ普段のエリコというもの。恐怖感も和らいだでしょう。


 私だって、特に何も起きていないのに微かに恐怖しているなど、恐怖を与える側にとって赤恥です。



 なにはともあれ、思案していても通路を抜けられはしません。


 ですが、かなり歩いたはずですがいつになったら扉にたどり着けるのでしょうかね。


 視認したものより実際の距離が長く続いているのならまだしも、遠ざかっているのではあるまいし。




【うふふ……】



 む、この声。


「どうしたのRIO、急に笑うとか面白いことでもあったの?」


「え、私何も笑っていませんが……」


 おかしいも何も、この場にいる者からの狂ったような笑い声が耳に入りました。



 それは、私。

 エリコでさえ勘違いした反応をするほど私に似た声。



「エリコ、今から全速力で走ってここを突破します。鏡から目を合わせてはいけません」


 得体の知れない恐怖の正体が掴めてきました。

 

 なのですぐに指示したのですが。



【うふふ、うふふふ】


 次に聞こえた私の笑い声と同時に響いたのは、金属同士が衝突した音でした。


「何事!」


 明らかにエリコと何者かが交戦を開始しています。


 すぐ剣を構えて振り向いてみると……これは、私の目か認識能力でもおかしくなったのでしょうか。


『うわああっ! エリコが○されてしまう!』

『あれ、いや、ありゃRIO様?』

『二人? 分身?』

『おちけつ、我らがRIO様は最初から一人、鏡に写ってるRIO様を除けばだが』



 私と同様の背格好をした……ではなく、私そのものがエリコを狙って大剣で斬りかかっているのでしたから。


「なにこれっ! 鏡からRIOが出てきて……そのRIOが急に襲ってきてえっ……!」


 エリコは間一髪盾で防いでいましたが、あまりの出来事に混乱しているエリコでは対処が遅れてしまいます。


「エリコから離れなさい!」


 すぐに私が下手人の背中に一太刀浴びせ、エリコが力負けする前に救出しました。



―――――――――――――――


 エネミー名:鏡の幻魔Lv??


 状態:コピー(RIO)


―――――――――――――――



【ふふっ、ふふっ、うふふふっ】


 マークがこちらへと逸れ、そのご尊顔を拝むことが出来ましたが、下手な心霊現象よりもよほど怪奇でした。


「これは驚きました、想像を大きく裏切るルックスですね」


 装備や後ろ姿こそ私そのものでしたが、こちらに向いてきた顔には目も眉も鼻もなく、真っ赤な口だけが三日月状に歪んで嗤っていました。



 しかし、外見がどうあれ私であれ、エリコに危害を加えたのなら始末すべき敵。


「下劣!」


 剣を滑らせて受け流し、相手がもたついている間に胴体を両断して上半身を鏡の壁に吹き飛ばしました。


 まんまと惑わされそうな仕掛けでしたが、無事に凌げたみたいですかね。

 それよりも心配なのは、自分や自分自身よりもエリコの方です。


「大丈夫でしたか!」


「心の方は大丈夫じゃない……RIOが私を殺しに来たのって、心が耐えられなさそうだよ……」


 恐怖やトラウマとは千差万別、複雑に枝分かれしているもの。


 あまりにも唐突で、体験したことがなく、現在は私と本当の仲間になっているためにそれはもう怖かったのでしょう。


「しっかりして下さい、あなたの愛している私はここにいる一人だけです」


「うんっ……」


 前から抱きしめて慰めました。



【うっふふふ……】


 私の偽物は余裕そうに嗤っていながらも、仰向けに倒れながら下半身の再生のために藻掻いている様子。


 そして、偽物の背にある鏡には誰も写ってはいませんでした。



 反対の鏡には私とエリコが通常通り写っているので、どうやら右壁の鏡は本物、紛らわしくも左の方だけがトラップのようですね。


 ……いえ、待って下さい、二度確認しましたが左の鏡にはエリコの姿も写っていません。


『おや、また鏡からぬるっと出てきたぞ』

『シムラ・エリコ後ろ後ろ!』

『予想はしてたけどもぉ! 予想よりホラーしてる!』

『お前らの予感的中してるじゃねえか!』


 長考するまでもなく分かるはずでした。


 鏡の中の私が実体を持っているということは、鏡の中のエリコも鏡の外に現れてもおかしくはないはず。



「RIO、嘘だよね……私、振り向くのが怖いんだけど……」


 どうやらエリコ本人は足音で察知出来ていたようです。

 エリコの背後に、何者かが一人立っていました。



―――――――――――――――


 エネミー名:鏡の幻魔Lv??


 状態:コピー(プチ・エリコ)


―――――――――――――――



 あの背格好、記憶によく染み付いた血臭、鏡写しらしく剣と盾は左右逆の手に装備していますが、まさか。


【ぐへへ、ぐへへへ】


「ふむ、案の定エリコのもいますね」


「ちょっとは驚いてよ!」


 そんな驚くように言われましても、驚愕というよりテンプレートを裏切らずになぞるような安心感があったので。


 口以外のっぺらぼうである他は変態的な笑い方まで丸写しのエリコだったので、つい淡泊な反応をしていました。



 冷静な思考状態に戻れたので、無駄な特徴まで出来の良い偽物など全員まるごと叩き潰しましょう。

 二人の愛が試される……といいなぁ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本物じゃないからと遠慮なくぶっ飛ばすRIO様が...... 寧ろコピーして愚弄したとして塵になりそう
[一言] うん。床は鏡じゃないで同じこと考えたw そんな!笑い方まで同じ……いやそれでええんか鏡の幻魔w
[良い点] コピ・エリコのぐへぐへ笑いにめっちゃ笑ったw これステータスとかもコピーしてたらマジで厄介だな
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