新しい技の開拓&あの血臭
魔王陣営プレイヤー達が出払って警備が緩くなった時に突入したまでは良かったのですが、侵入口選びは失敗でした。
敵のボス格なら一番高い所でふんぞり返っているという先入観もあって最上階から突入したのですが、どうやら実際は真逆で城の下の方が気配が強かったのです。
お調子者と煙は高い所を好むのならば、魔王とやらは王を名乗っている割に謙虚そうな相手ですね。
『侵入方法を安価で決めたのは良くなかったか』
『お前らなぁ……』
『責任とって血を吸われてきます!』
『↑ご褒美定期』
『仕切り直すか』
『一旦ずらかって一階から入ろう』
多数決の判断によって魔王から遠ざかっていると知れば、今度は戻れと指示するなんて忙しい方々ですね。
「日の差す外に出るのはリスクです。このまま城内を駆け下った方がいくらか消耗が少ないかもしれません」
『だろうと思った』
『必要以上にバトルするRIO様はRIO様だったわ』
『彷徨いてるRIO様のおやつをちゅっちゅしながら下りる方が得策』
『……いやちょっと待てやおい、これは俺の常識がおかしいのか?』
『敵のいない屋外<敵のいる屋内』
『これが吸血鬼思考だぞ初見さん』
『合理的思考か魅せ思考の区別がつかん!』
外に敵はいないとは意味が分かりません。
日光こそが、私では勝つのが不可能である最大の敵なので。
日傘が遮光してくれるとしても、完全な守りではないので不測の事態一つで死ぬ懸念が付き纏ってしまいます。
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エネミー名:リビングアーマーLv80
状態:普通
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それに、城内が慌ただしくなったかと思っていれば、私の侵入を知ったエネミー軍団が通路の向こうから押し寄せてきたみたいです。
中身が見えない全身鎧の外見、それが槍を持って十体ほど。
良いでしょう。格下の警備兵などわざわざ覚悟するほどのことではありません。
「頑丈そうな鎧ですが、あなた方の防御力はいくつですか? 高いというならば、私と遊んで下さい」
魔王に挑む前にウォームアップをするための遊び相手が欲しかったところです。
そして、私には一つ試したいことがありました。
原理はシンプル、要求は人外。
まずは武器を大剣にして、腰を捻ります。
次の行動はエネミーを十分引き付けてから。
「理論上は可能なはずですが、とっ」
間合いの数歩手前まで迫ったと同時に、捻った体を一気に回転させながら跳ぶ。
最前列の二体を対象に回転の勢いを落とさず横斬り。
その次も滞空したまま一回転して横斬り。
更に体をもう一捻りして横斬り。
「上手くいきましたが、まだまだ」
最前列の二体が倒れても、決して止まらずに回転斬り。
このままエンドレスに回転し続けましょう。
『連撃連撃連撃連撃連撃!』
『トリプルアクセルも目じゃない回転! とと、止まらない!』
『なんでぐるんぐるんしたまま床に落ちないんだよこの御方ww』
『スキルじゃねえんだよな? こっわ』
『挙動がバグってやがる、存在もバグってたけど』
『常識的には不可能な吸血鬼専用技だなこりゃ』
『《武の極み・RIOコプター》と名付けよう』
即興で思いついて即興で実践したこの技。
攻撃と同時に剣で体を上へと持ち上げることで、命中し続けている限りコマのような空中回転攻撃を永続出来るのです。
跳び直す手間をかけず宙に舞い続けられるとは、見応えが溢れる技でしょうか。
実演している私の方は少し辛いのですが。
「すみません、酔いました」
『oh……』
『これが平均的な反応』
『おおよしよし、お背中さすってあげたい』
『いや目は回ってないのかよ』
欠点としては三半規管の状態を悪くするのと、空中浮遊目的なら翼を生やせば解決なので、結局魅せ技の域を出ないことに尽きるでしょう。
だとしても実用性も見い出せそうなため、改良の余地ありの評価にしたいと思います。
全員始末したため、カッコつかず空振りする寸前で着地を決められたので、先を急ぎたいところですが。
「……リサイクルの効く警備兵ですね」
リビングアーマーには厄介な特性がありました。
一回削りきって倒そうとも、鎧が所々損傷し弱体化しながらもHPを回復してまた立ち上がるという不死性。
完膚なきまでに鎧兜を砕かねば、いつまで経っても成仏させられなさそうでした。
血臭に反応しないのもあり、霊体系エネミーはどうにも苦手です。
「私は先を急いでいるので、壊しがいがあることしか取り柄の無い相手におちおち交戦していられません」
そうです、今回はスピードが肝心、魔王の元へたどり着くのが遅れるほど、どんどん状況が悪化してゆくので。
現在王都で勃発している攻防戦は、王国陣営が勝利すればそのままの勢いで魔王の城になだれ込んでしまい、魔王陣営が勝利すれば第一目的の魔王が城の外に転移されてしまうと、どう転んでも美味しくない展開が起こってしまいますから。
趨勢の決する目安は日没頃でしょうか。
吸血鬼なのに日没に気をつけなければならないとは、これは皮肉ポイントが入りましたね。
では、雑念も済んだところで素早く行きましょうか。
「また次のオリジナル技で突破します」
回る技の次は、周る技です。
攻撃と移動を兼ねた、歯ごたえある難易度の技。
「これも理論上は可能、一般的な人間には不可能なので、視聴者の皆様は試そうだなどと思わないように」
頭でのイメージは完了したので、すぐに始めましょう。
まずは跳んで右の壁へと。
次も跳んで天井。
また跳んで左の壁に向かい。
床へ跳んで斬りつつまた右の壁へ。
「ふふっ、こちらは魅せる以外にも実用性を見い出せそうです」
これを前進しつつ高速で繰り返し行っていけば、ただ正面を走るよりも三倍以上の効率で動けます。
何せ、壁や天井にはエネミーがいないのですから。
『また俺の正気を疑うような動きしてるよ……』
『立体な機動の装置でやるような動き』
『スタイリッシュな動きと言え』
『PSの権化ェ、ステータス値があっても素質が無きゃ出来んわい』
『ただの忍者で草』
『どうせ忍者なら魔王の部下ゴブリンに捕まって対○忍あるあるのシチュして欲しい(令和ボソボソ性癖話)』
この移動方法は、肌に刺す風を置いてきぼりにしているようで気持ちいいですね。
警備兵をぶっち切って、階段を見つけ次第下のフロアへと走りましょう。
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エネミー名:ケルベロスLv85
状態:普通
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一つの体に三つの頭が付いている異形の大型番犬とエンカウントしましたが、背中の見えている今が不意打ちのチャンスでした。
「おすわりです」
後ろをとって袈裟斬り。
ダメージでこちらを察知し、頭全てが振り向いたら正面きっての殴り合いの開始です。
「犬型エネミーの癖して鼻が効いていなかったのですか、私の接近も気づかずに……」
どうしたことか、自分で口に出してみて少しの違和感に気づきました。
この番犬のエネミーが侵入者の喉笛を噛みちぎるために解き放ったのなら、侵入者の接近を許すという不手際をするでしょうか。
ゲームなのでそういうものだと言い返されればそれまでですが、どうも不可解。
私の血臭探知の方が、より正確に位置取りを掴めているくらいでしたから。
「考えられる線としては……私以外の侵入者を追っていたとも……」
的中しているとしたら、魔王討伐競争が激化しそうですね。
首が五回まで斬られてもすかさず生えてくる特徴にちなんで、このケルベロスこと3/8マタノオロチ(視聴者命名)を蹴散らしつつ、意識を集中して血の臭いを追ってみます。
「むむ、引っかかったのはさっきの犬ばかりで、他はがらんどうの鎧しか彷徨いていないのですかね」
雑魚だらけで警備がおざなりと言わざるを得ません。
上層など、城の主にとって重要度の低いエリアなのでしょうね。
探知の範囲を広げてみましょう。
なるべくきめ細やかに、五感の内四つと敵への警戒の意識を引き換えにしてでも嗅覚に集中して、探知。
侵入者の足取りを追うケルベロスの動向からも推測し、ある一点を嗅ぎ分けられました。
「……嘘ですよね」
これも、どうしたことでしょう。
ここから突き当たりの角を曲がった先にある部屋の隅から、嗅ぎ覚えのある、忘れられない血臭をキャッチしたのです。
「……まだ、遭うべきではなかったはずなのに」
嗅がなかったことにして、入れ違いということにしたかったのに、気になってしまえばもう無理ですよ。
想いに駆られた私の足は、その反応の方へと走るのを自制出来ません。
反応の元に迎えに行くように走って、部屋の前で扉を破壊しようと体当たりしていたケルベロスを処理して、内側で作為的に積まれていたバリケードを剣で斬り倒し、入りました。
「っ……」
キッチンのような台所に、食材の入った箱の山がこぢんまりとしている場所。
物音や姿は隠していますが、嗅ぐだけでうっとりしそうな匂いは誤魔化せませんよ。
……いえ、まだ引き返せます。
ここで黙って立ち去れば、お互い何も無かったことになるはずです。
しかし、もうここまで追ってきてしまったのですから、血臭だけでなくあなたの姿を一目見たいという思いもあり……。
「そこにいるのでしょう! エリコ!」
嗚呼、呼んでしまいました。
だってエリコですよ。
逸る気持ちが行動に出てしまうのは、どうしようもないとしか言えません。
「ふぇ!? RIOなの……?」
血臭が同じ他人であれという卑怯な希望も、あえなく玉砕。
机の下に身を屈めて潜んでいたエリコが、私の声に驚いて立ち上がっていました。
どうせ遭うなら、もっと平和的に遭遇したかったものです。
ただでさえあなたとは別陣営同士なのに、これではまるで私がエリコを排除しに来たような状況ではないですか。