暴言&邪なるおじさん
まだ表紙入りできている……ありがとうございます……
ゲーム内では夜の帳が下りる頃合の21時にログインしました。
ですがおちおち配信の準備をしている場合ではないのは、この冒険者達を一瞥するだけで明白です。
「RIOだ! やっぱりRIOがここにログインしているぞ!」
「っしゃあ生RIOだ!」
「早くぶっ倒して名をあげろ!」
目を開ければ、待ち伏せしていた数人の冒険者に全面包囲されてしまいました。
それもこれも、就寝時刻に焦るあまり他の場所への移動もせず配信を切り上げた私のミスなので、今後は配信終了後に適当な場所でログアウトしましょうか。
「……もう終わりですか」
彼らの戦闘力を一言で表せば、弱すぎです。
スキルやフラインを使わずとも、体に染み込ませた格闘術だけで冒険者集団はすぐ壊滅したので。
通名宣言すら行っていない辺り数秒の手間を惜しんだのか、まさかとは思いますが不意をつけば労せずして倒せると侮っていたのでしょうか。
甚だ心外ですが、そんなことよりも視聴者様を待たせないため配信を開始しましょう。
無性に嫌な予感がしますが。
「こんばんは。RIOです」
『すまねぇRIO様このザマだ』
『きた』
『○ね!』
『去ね!』
『消えろ!』
『思い知れ! このド畜生がッ!』
『ゲスめ!』
『くたばれ!』
『緊張してないな』
『イェーイRIO様! 俺のコメント見えてるゥ?』
「はいはい皆さんたいへん賑やかであそばせですね」
まあ、想像していたよりは遥かに荒れていないですね。
ですがこの私が配信する目的は他己評価が欲しいからであり、彼らのように誹謗中傷どころかが馬鹿の一つ覚えに等しい定型文のようなコメントには無価値だと断言できます。
私には配信の収益化なんて考えておらず、動物の鳴き声が解釈できるほどメルヘンチックな思想に生きていない平均的女子高生なので、不快なものははっきり不快だと言い、こちらからフィルタリング機能を用いてコメントを整理しましょう。
『うぽつ』
『わこつ』
『散々だったなRIO様』
『とりま一安心』
『転がってる冒険者はまさかやったのか……』
「申し訳ありません皆様。お騒がせしました」
カメラに向きを合わせ、文字だけでも寛大なのだと伝わってくる視聴者様へと頭を下げました。
道を自分から踏み外してアウトロー系配信者となりましたがどうってことありません。
それに、心の底から嫌ならば辞めればいいだけですから。
現在の空は吸血鬼に適した快晴の夜で、満月が悠々と昇りはじめていますね。
こちらの総合的な戦力を見直すと、宝石として胸に潜んでいるフライン一体と視聴者の皆様による知識のみとなります。
一通りの流れを終えたので出発したいですが、背後を振り向いてみればそうもいかないようです。
「あやぁ、よく知らんが冒険者の人たちみんな死んじゃってるねぇ」
喪服のように真っ黒な外套に、胡散臭くも渋い面持ちなおじ様がぶてぶてしく現れていました。
鈍重そうな大剣を肩に担いでいますが、敵か味方か判別つけられませんので言葉を濁して隙を伺いましょう。
「経緯までは配信していませんが、彼らは既に息絶えています」
「ほへぇー、お嬢ちゃん配信者なんだぁ。ということはおじさんも映ってるの? ピース」
『なんだこのおじさん』
『実はRIO様の知り合いの方?』
『確定してないがどうせ冒険者』
『今通名調べてる』
『じゃあなんでコメントしてるんだ』
気配を極限まで消してあるカメラに向けて指でブイの字をつくるほど謎におっとりした人ですが、それはさておきこの陽気さがことさら不気味ですね。
そもそもこの場に来たのなら目的があるはず、ここは危険を冒してでも率直に話してみますか。
「まるで無意味に煽っているようですが、私の事はご存知のはずですよね」
「ああすまん、最初から知ってるよ? 君、あの話題になってる配信者のRIOだろ」
「そうですね」
有無を言わさず、片手を支点にした後ろ回し蹴りを放ってこの人の顔面のパーツを福笑いにして飛ばしましょう。
『知ってた』
『そうですね(ズドン)』
『またまたはっや』
『仮にも配信者なのに攻撃的すぎる』
『殺る気ゲージ高いわRIO様』
百パーセント刺客だと断定したので先に仕掛けたまでです。
個人的な見解として、馴れ馴れしい態度とは嫌悪感の裏返しですからね。
「んー、そんな激しいアプローチされるとおじさん可哀想だよぉ」
ところが、なにかと掴みどころがないこの人はこちらの読みを見切っていたようで、攻撃前の時点で片手を盾代わりにして防いでいました。
初手は失敗でしたが、服の下は屈強な体つきだと攻撃時の感覚で判明したので合格点にしておきましょう。
ううむ……何だか自分に甘いですね。
「配信を観たのなら私の最終目標はお見知りおきのはず。早く通名を宣言すればよろしいのでは」
「ありゃりゃ、おじさんが冒険者だってのもバレちゃってたかぁ」
ハッハッハとのっそりした笑い声をあげる、やる事が不可解なこの冒険者。
もし冒険者でなく、本当に私と親睦を深めたい方だったならば誠心誠意謝罪すればいいのです。
こちらのペースがかき乱されない間が追撃のチャンスでしたが、それを見越してか漆黒の大剣が肩から離れていました。
「お嬢ちゃんがビビって漏らしちゃったりしたら悪いから言いたくなかったけどなぁ。そっちがせがんでるしなぁ。【Bランク序列1位・黒服騎士】」
「Bランク、おお、しかも最上位だったのですか」
これは思わぬ大魚が釣れましたね。
ただし今の渾身の蹴りで負傷しないほどの大魚なため、調理する獲物として捉えるよりかは、見くびらず強敵として見做した方が適解でしょう。
『このおっさんBランクのトップやんけ』
『またまたキツイ展開』
『キワモノに目つけられたなぁ』
『いやRIO様タイマン特化型だしワンチャン』
こんな展開、私としてはまだまだ満ち足りてませんが。
「516位のロジカルマジック殿、334位の武者奮い殿、292位の八重歯ザクロ殿……Bランクの面々がRIOを狩るため何時間もあそこの一本杉で待ってたのに、瞬殺なんて儚い儚い」
「そうだったのですね。あなたも助太刀していれば彼らを救えたのでは」
「おじさんは騎士道精神が信条だから、数の暴力振るわず正々堂々としてるんだよぉ。あはは」
過半数の人はこの段階で頭にきているであろう挑発的な態度ですね。
この黒服騎士からは、既に倒された冒険者以外に有益な情報が掴めなさそうなので臨戦態勢に入ります。
「じゃ、通名宣言をサボった奴らなんか忘れて、おじさんも極悪吸血鬼ちゃんと腕を競い合いますかな」
「遠慮せず来なさい。私を拒みたければ言葉ではなく力を以て否定しなさい」
私に通名なんてありませんから、それらしい口上で宣戦布告をしました。
しかし、相手は大剣を構えていながら足を動かさずにいるため、先制点を奪える好機です。
まずは装備により新規に得た魔法を放ちましょう。
使用方法はスキルとほぼ同じ。強く念じる、または口頭で唱えるかですが、直接唱えた方が圧倒的に速いのでそちらを選びます。
「《魔法・闇の気弾》」
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魔法:闇の気弾(消費MP10)
説明:手のひらに実体化した魔力を集約させ、直線上に高速で放つ闇属性魔法。INTの値に比例して威力が変動する
DEXが高いほど間断なき連射が可能となり、一定値以上なら両手からそれぞれ発射できる
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魔法は経験を積めば積むほど無意識的に発動出来るように成長するので、後々の事を視野に入れて今回は可能な限り魔法を主軸にしましょう。
『まんま漫画のエネルギー弾』
『ディアボ……フラインの技使ってらっしゃる』
『この様子じゃ器用値は一定値以上あるな』
両手に目線を下げれば、なるほど、私は二つ同時に気弾を扱えるようです。
ちなみに魔法は意思一つでキャンセルできるので、短剣を持てるように右手だけ魔法を取り消します。
魔力がこもり、おどろおどろしい色で蠢き浮かぶ球を射出しようとした直前、黒服騎士が「ちょっと待った」と声で制止してきました。
「そうそう。おじさんは不意討ちだなんて騎士道精神に反する卑怯なことはしないが、彼はどうなんだろうねぇ」
「彼?」
まさか敵はもう一人いるとでも。
気弾を中断させながら前後左右上方と一瞥しましたが、遠巻きにいるノンアクティブのエネミー以外は人っ子一人として姿が見つからず。
ですが、この人が騎士道精神を尊重していることを鵜呑みにするならば、かく乱目当てであれ騙し討ち同然の嘘は吐かないはず。
「……なるほど"下"でしたか」
たった今、足に振れが伝わりましたからね。
「【Bランク序列2位・アイアンドリル】!」
亀裂が走り隆起した地面から、甲高く唸る機械音と共に、廻る円錐螺旋状の武器が草原の土を突き破りながら出現したのです。
「チッ。躱されたか!」
「おー。おじさんも一目置くドリル殿の急襲を躱せるなんて、敵ながらやるなぁ」
再び天の邪鬼を発揮し下に注視していたおかげでギリギリ回避出来ました。
さて、これからBランクの最上位二名を同時に相手取るとなるとほんの少し面倒ですが、配信としては面白くなってくる展開でしょう。
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