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イベント開始一日前&質問コーナー

 今日が、大陸の覇権をかけた特大イベントの準備期間最終日。


「装備はこれでヨシ!」


 日輪銃は乱暴な使い方したせいか故障して使えなくなっちゃったけど、お金に物を言わせて消費アイテムや装備品は新調出来た。

 いつものコスチュームのまま、武器はナイフに近い形状で小さく地味めに、その分盾は両手盾の分類に近い大きくて頑丈なものにした。


「一人で魔王と戦いに行くには体力の管理が鍵だからね。一人……」


 みんな私と関わりたくないみたいだからパーティメンバーは集められなかったけど、それも仕方ないや。



 ちなみに防衛側の作戦はこう。

 参加者を4隊に分け、王都の東西南北4つの門それぞれを背にして魔王軍を野戦で迎えうつ。

 その間に、冒険者のトップ5人のパーティが魔王の鎮座する場所へと潜入、撃破に成功したワールドニュースが流れるまでは敵を撃退しても防衛に専念するべし。


 私は防衛には加わらないで直接魔王を倒しに行くけれど、一撃で倒せるアイテムを持ってるからって気を抜いてた。

 冒険者ギルド内最大戦力のパーティと競わなきゃいけないってのは、どう考えてもキツいよぉ。


『奇襲戦か。しかもエリコはまさかの奇襲隊任命』

『天国か地獄か』

『やってくれたな冒険者ギルド』

『エリコの見せ場を作ってくれてよぉ』

『でも配信者だから忖度されてるようにも見える』

『エリコが一番乗りすれば救国の勇者だ! やったれ!』


「うへへ……武者震いするかも」


 勇者だとか大仰に讃えられるのは、ちょっといいかも……。


 でもこれは競争でもある。

 もしかしたら、冒険者最強パーティの他にも魔王の首を獲ろうとする人もいるかもしれない。

 だから遅れたりなんかしてられないね。



 さぁてと、最後に住民のみんなに挨拶に回りながら王都内のパトロールでもしよっかな。


 特にRIOとかがこっそり侵入してて住民がアンデッドにでもされたらたまったものじゃないからね。



「お前さ、自分の生活ばかりで俺達を尊重しないつもりなのか? あ?」


 え。

 威張っている冒険者らしき人が、男の人に土下座させているところを見ちゃった。


「違います違いますっ! 冒険者様を貶しているつもりではありません……!」


「違うってことはないだろう。この耳で聞いたぞ、冒険者が勝つと国王陛下が没して国が滅ぶからカナシーとか、今どき愛国者なのかよ馬鹿だろ」


 そう、わけわからない言い分でまくし立てている。


「誰のおかげでお前らが生きて暮らせるのかがわかるよな、それは俺達冒険者だ。言っとくがこれ正論ね、否定したら二度と正論が使えなくなるけどどうする?」


「ひああっ、ひいいっ!」


「ったく、マジで馬鹿だわ。そこまで震えられると俺が脅してるみたいじゃねぇか」


 馬鹿はそっちの方だと割り込みたいよ。

 これを脅しじゃないとしたら、何なのか分からないよ。


「勘違いされたらお前のせいだからな、正義が無い頭に叩き込んどけ」


 その人の頭を、開いた手で二度ほど叩いていた。


 どうしてそんな酷いことを白昼堂々と出来るの?

 私、ここから見ているんだよ?


 それなのに謝ったり止めようともしないなんてさ、自分のしていることが本気で正しいことと思い込んでるのかな。


 見てられないから、誰がなんと言おうと止めなきゃ。


「おいそこ! 何をしている!」


 そこへ、憲兵の人が駆けつけた。

 王都の治安を維持する警察官の前では、盗みや暴行もご法度だ。


 これで解決。

 そして安心……出来なかった。


「おっす憲兵さん、今日もお勤めご苦労でぇす、へっへっへ……」


 わざとらしい営業スマイルで、でも1000イーリス前後のお金を胸ポケットに差し込んでいた。


「そっちも徹夜の勤務でヘロヘロでしょうし、これで手をうちましょうや」


 賄賂だった。

 まさか憲兵さん相手にはした金で不問にしようとするなんて、同業者として信じられなかった。


 憲兵さんに、こんなこす狡い方法が通じるわけないのに。


「わ、分かった。許せ……私は何も見ていない……何も聞いていない……」


 えっ。


 憲兵さんが賄賂を返さずに引き下がっちゃった。


 でも、その憲兵さんの表情は苦虫を噛み潰したようで、不本意そうなのが伝わった。



 確かにそうだ。

 あの人はお金欲しさで見逃したんじゃなくて、「偉大なる冒険者様がわざわざ金を渡したんだ。それでも許さないならばお前の家族がどうなるか分かっているよな?」って暗黙のメッセージを突きつけられたから受け取るしかなかったんだ。


「まあこんな木偶でも弾除けには役に立つかもしれん。明日はよろしく頼むぜぇ、勝った時は俺への感謝も忘れるな」

「お願いです! それだけは、どうかそれだけは!」

「だから被害者ぶるな! 被害者は俺だ! 正義を害したのはてめぇだからな!」


 酷い、あんまりだ。


 一度死んだらそれっきりの住民の命より、冒険者のデスペナの方が重いだなんて、増長してる、堕落してる、狂ってる。

 私が魔王を倒す理由って、こんな人達がのさばる環境作りのためなの?


「なんで……なんでこんな人達でも正義を掲げられるのに、正義でいたかったRIOが悪に堕ちなきゃならないのかなぁ……」


 考えている内に怒りと悲しみが両方きて、この場から走って去っていた。


 私はRIOみたいに冒険者ギルドに歯向かえる勇気が無いし、魔王を倒すにも冒険者ギルドの力を借りなきゃいけない。そんな弱い自分に腹が立つ。


 自分だけの力じゃ何も変えられないこんな私より、エルマちゃんのために一人で戦い抜いたRIOの方がよっぽど偉いよね。


「……良くないっ!」


 くよくよするな、負の思考に流されるなプチ・エリコ!

 私が魔王を倒せなきゃ、冒険者ギルドが勝った時よりももっと酷いことが起きるでしょ。


 具体的には言いきれないけど、魔王の隣でRIOとか殺人鬼が治める世界って字面だけでヤバいよね。




 ……ということで、適度に周ったところで時間に空きが出来ちゃったから、たまに配信でやっているアレでも始めよっと。


「それじゃみなさん、プチ・エリコの質問コーナーでもいこっか〜」


『うおおおおおっ!』

『質問パート助かる』

『強引にねじ込んだな』

『よーし、アレがソレしてゴニョゴニョな質問してやろ〜』

『ぶっちゃけRIO様とのソリを聞きたい』

『金たんまり用意してたぜ』


 不定期開催のミニコーナー。要望があった時の他には、専ら撮影時間が空いた時にやっている。

 投げ銭金額が高い人の質問から優先だけど、この企画をするだけでとんでもなく収入が入る。

 秘密にしてることとか口を滑らせないように注意する必要があるけど、もうウハウハだね。


 ……うーんと、今回一番高い金額を送ったのは5万のこの人だね。

 さてさて質問内容を読み上げてみよう。


『RIOが浮気していたらどうする?』


「え゛っ!?」


 私の考えうる最悪に恐ろしい質問が届いていた。


 莉緒が浮気なんてしてるわけないよ! いくら何でも失礼だってば!


 でも自分の敷いたルールに違反しないためにも、こんな質問でも感謝と誠意をもって答えなきゃね。


 もしも、これはもしもだからちょっと想像するだけだけど、莉緒ほーむにサプライズで遊びに来てみたら、知らない人の影がありました。


 なんだろ、憎らしい気持ちになる。

 その時、私はどうするかな?



「もちろん、殺すよ」


『ヒェッ』

『ヒェッ』

『ヒェッ』

『だ、誰をだ?』


 誰をって、愚問だよ。



「莉緒の浮気相手に決まってるじゃん。私も誤解してたしみんな誤解してると思うけど莉緒ってああ見えて弱い人なんだよ? だから私とピッタリ寄り添わないと生きていけないんだ。しかも恋愛事情にも疎いくらい抜けてるところだってあるしさ、恋人の予行練習を始めた時から一日一回は『私を捨てないで下さい』って囁いてる超かわいい小動物になってるんだよ。どうかな、なんだか小猫みたいでしょ? なのにそんなことをつゆ知らずにすり寄ってくる泥棒ネコが私だけの莉緒に手を出した挙げ句に拘束しちゃうなんてさ、早く救出しないと莉緒が愛情不足で衰弱死しちゃうじゃん。私、莉緒が死んじゃったらたぶん生きていけない、一秒でも早く間に合うようにするためにはもう刺し殺すしかないんだよ。でもノープロブレム、禁固8年になったとしても、そこで私の体が穢されたとしても、暗くて冷たいお部屋の中でずーーっと莉緒だけを愛し続けるから。遠距離恋愛だね、うふふっ……」


『ヒェッ』

『エリコがRIO笑いしとるww』

『↑RIO笑いってなんだよ』

『ヒェッ』

『目のハイライト消えとーる』

『急にヤンデレ属性出すなや……』

『この偏愛主義……』


 あれれ、どうしてリスナーさんがこんなに怯えてるのかな。

 でも莉緒は私を裏切るようなことは絶対にしないから、この話は私の中には無いも同然、現実になることも絶対に無いね。だから今回の質問は忘れてもいいことだよ。



▼▼▼



「っくしゅ。失礼しました」


 何故か鼻が痒くなって、くしゃみが飛び出しそうなところを上手く抑えこんだのですが、誰か私の噂でもしているのでしょうか。


 違うかもしれません。

 たとえるなら、愛憎渦巻くような強烈な寒気も感じたので、感覚が鈍るほどの風邪気味だということにしましょう。

 なので、プチ・エリコに倣ったオマケ企画、質問コーナーの続きに参りましょう。


「それではコメントを拝見します。公序良俗に違反するものやプライバシーに関わるご質問は遠慮させて頂きますので、そこは申し訳ありませんがご承知おき下さい」


 そう言ったものの、くしゃみについての質問だらけなのですがそれは除いて、特に興味をひかれる文面を書き綴った視聴者様はどなたかいるのでしょうか……。



『エリコが浮気していたらどうされますか?』


「浮気……はい?」


 恵理子が浮気、ありません。


 だって恵理子のような裏切られるまで裏切らない人物が自ら浮気という裏切り行為を起こしますか? しかも私のことを捨てないでとあれほど約束しているのですから。


 いえ、しかし万分の一にも、そのようなIFがあったとすればどうなるのでしょう。


 恵理子の地肌の匂いに知らない人の匂いが混じっていたら。

 訝しんで後をつけてみると、恵理子の隣に私の知らない人と仲睦まじく密着している光景を目撃してしまったら……。


 どうして、ただの想像なのに心の中が悲しみで溢れてくるのですか。

 答えは一つ、恵理子が私を好きではなくなったから。


 ならば口に出す答えもまた一つですね。



「殺します」


『ヒェッ』

『ヒェッ』

『ヒェッ』

『デジャヴッ!』

『ち、ちなみにどなたを○すので?』


 どなたが対象って、口に出さないと分からないような質問なのですか。



「無論、恵理子ですが? 人との繋がりが肝の配信者プチ・エリコは大目に見るとして、私の愛している恵理子が他の人に目を向けてコソコソと触れ合うなんて言語道断です。私と恋人になるとチャットで答えてくれたではないですか、つまり私だけを愛してくれるという意味ですよね。嗚呼、あの日の気温に天気に、初恋が叶った喜びの感情は未来永劫忘れもしません、気づいている人もいるでしょうが高校卒業後の結婚も真面目に考えているのですよ、その頃には法律も追いつくはずですからね。なのに見計らったように浮気、嫌です、そこにいくばくかのためらいがあったところで一度私に飽きてしまった恵理子なんかこの世で最もいりません。いずれ心が私の元へと帰ってきたとしても、体につけられた刻印は元通りにならないのできっとそこからまた浮気相手の温もりを思い出してしまうでしょう。勿論その後は恵理子の血も肉も私の体の中に収めて、一つになってから首を吊るして心中するので大丈夫です。現世から離れ、地獄での刑期が349京年続いたとしても必ずや釈放まで耐え忍んで迎えに行きますから……恵理子恵理子……」


『ヒェッ』

『ヒェッ』

『ヒェーッヒェッヒェッヒェッヒェッ(笑うしかない)』

『決意ガンギマった目で答えるな!』

『エリコ見てるか、浮気はいかんぞよ』

『RIO様って無敵なんだなぁ(思考放棄)』

『平均的メンヘラ女子の気質あるよ』

『やっぱデジャヴじゃねぇッ!』


 おやこれは、話し過ぎただけなのにどうして驚かれているのでしょうか。

 まあ清廉潔白な恵理子ならそんな真似は絶対にしないとは断言出来ますが。


 よって今言ったことに今打ち明けた思想は、全て無かったこととなるでしょう。明日の備えもあるので、配信もここまでにします。



 それに私は今、待ち合わせている方が来るのを待っていたのでした。

 質問コーナーは無かったことになりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんの少し重い愛情も両思いだとほっこりします。
[良い点] 本人達が同じ所に居ないのに激重てぇてぇに晒されるッ! 激重恋愛感情はいいぞ。
[一言] お、おらのログにはなにもねぇだ……(gkbr)
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