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RIOとエリコ その6

 お前が滅ぼせ、鬼の子を

「あの人ピンピンしてる! まずいよお姉さん!」


「離れてて下さい、戦いづらくなります」


 出せる火力を出しきってなお耐えきるなんて、エリコの折れない強さは人間讃歌という意志の力を体現していますねこれは。


「やっぱりRIOは強さじゃ天下一だよ……本気出せ出せ言っといて出されたら結局これだもん」


 耐えたと言っても、死亡していないだけで瀕死の重症。

 現実なら骨が内臓に突き刺さってもおかしくないほどの体に伝わる衝撃を受けたはずです。


「でも打つ手がなくなったわけじゃない、《超回復(ギガヒール)》」


「HPを回復するつもりですか、粘らせません」


 こんなに弱りきっても、まだ諦めないつもりの模様です。

 エリコの不屈の心、まさに不死とでも言うべきでしょうか。


 ですが、高度な回復魔法ならば発動に時間はかかるはず。だとすればトドメを刺せる現実に変化はありません。

 息も絶え絶えなエリコならどこに命中しようとも倒せるはずです。


「RIOに、あげるっ!」


「うぐ、っっっっっ」


 流石は私を倒すための努力を惜しまなかったエリコ、まさか回復魔法を攻撃に転用するなんて。

 サウナの比ではない熱に体まで悲鳴をあげそうです。


 生命エネルギーを反転してしまったために、鈍重な魔装槌を持つ力が一瞬保てなくなって攻撃に失敗してしまいました。


「本気のみならず、根性まで限界近く引き出して何になるのですか」


「何になる? RIOもライフ少なくなってきてるよね、だったら根性出して踏ん張っていれば奇跡が起こるかもしれないし、最高の配信にもなるかもしれないんじゃないかな」


「あくまで勝算あっての根性ですか」


 確かに、私の残存HPでは、およそ日輪銃の弾丸二発が命中するだけで底をつく量しかありません。


 もっとも、エリコはダークボール1つで命尽きる残 量で、しかも回復魔法を自分にかけないでいるつもりなため、やられる前にやってしまうか攻撃を全部回避するような立ち回りで挑むのでしょう。



「勝利も敗北も近いし、私はまだやれる、死なない限りは諦めない!」


 一つ喋るだけでも激痛で動けなくなるはずなのに、口から血を垂らしながら膝をあげて剣を構えたのです。


『うわぁ! エリコは一応人間なのになんで血を出しながら動けるんだよ』

『エリコがしぶとい、なんちゅう防御力しとる』

『そりゃそうだ。だって三人分の思い(バフ)を宿しているんだぜ』

『思いの力か、少年漫画系の主人公適性が高い』

『そう考えたら、RIOの方がお気楽に勝負出来るな〜』


 全く恐れ入ります。

 正念場において意地を張るのがエリコの素晴らしいポイント、敵からすると驚異的なポイントでしかありません。


「あなたのそういうところが、私には苦痛なのです」


「ごめんね、でも力尽きるまで戦い抜く理由があるからさ…………っ!!」


「え、エリコ?」


 あなたが戦い抜くと言ったそばから、何の前触れなくか細い声を出し、剣を掲げる動きが止まりました。


 あまりにも妙で突然で、私もどうすればいいか攻撃してしまってもいいのかの判断力を失ったほどです。


「なに……あっああああああっ!!」


 時をおかずして、エリコに異変が起こりました。


 胸の辺りを手でおさえて、フロアに反響するほどの声量で悲鳴をあげたのです。


「うううっ……! ぎぃっ、いああああああ!」


 今になって傷が痛み出したにしては実に不可解なタイミング。

 喉が枯れそうなほど肺から声をひり出して、あれほど敵に目を背けなかったあなたが白目を剥いているので、なんでしょうか、起こっていること全てが謎めいていて整合性が取れません。



「えっと、大丈夫ですか、どこか苦しいところとかがあったのでしょうか?」


 呆気にとられて何かをする思考が働かなかったのですが、ひょっとしたら勝負を決めるチャンスなのでしょうか。


 いえ、こうした事態こそ慎重に動くべきでしょう。エリコのリスナー方から情報を聞き出してからでも遅くはないはずです。


「おや」


 コメントから探ろうと目をカメラに向けようとした瞬間、正体不明な身の危険を察して反射的に体が防御の体勢をとっていました。


「ウ……」


 エリコが銃を投げ捨てて、一瞬にして距離を詰めて袈裟斬りを放っていましたから。


「危ないところでした。むっ」


「ウウっ……」


 巧く武器で防げたかと思えば、またもや同じ攻撃。

 なので同じように防ぎつつ、エリコの変化をなるべく速く観察してみましたが、血まみれであった肉体の状態が元通りだったのです。


 見るからに傷や出血跡はごっそり消えていて、そこから推測するとHPも最大値まで回帰しているでしょう。


「エリコ、第二ラウンドを行える気力が……行えるために何らかの秘策を備えていたのでしょうか」


 そんな疑問を口にしてみましたが、エリコは聞き逃したのか答えが返ってきません。


「フーッ、フゥーッ!」


「鼻息荒く興奮している……エリコ、聞いてますか、エリコ?」


 会話に応じないどころか、人語を口にしない。


 腹を空かせた肉食獣のように、歯をむき出しにした表情。


 血臭はエリコと同一なのに、気配はエリコと別物になり変わっているような、人間ですらない者と対面しているような身の毛がよだつ悍ましさがしてきます。



「ウッガアアッ!」


 防御に回す意識が全くないまでに大きく振りかぶり、一気に剣が迫り来ました。


 とにもかくにも疑問は一旦捨て置いて受け止めましょう。


「きっ、えっ、あなたの膂力、バフを加味してもそこまで強力でしたっけ」


「アアアアアアアッ!」


 まるで気合を入れ直すような雄叫びをあげて、またもや両手で剣を握って上段から振り下ろしました。


「アアッ! ウアアアアッ!」


「ふむ、なんとまあ休ませてくれない連撃、捌くのはいささかホネです」


 剣で斬る、のではなく乱暴に叩きつけるようにして魔装槌の破壊でも試みているであろうエリコ。


 こちらがたまに反撃するフリをしても、盾で防ごうともせず攻撃をやめようとしない辺り、ヒステリーで自制が効かなくなっている精神状態を想起させます。


『エリコなにやってるん?』

『イヌミミも尻尾も逆立ってるし、なにかのバフの影響なのはほぼ確実なんだがなぁ』

『なんだこれ、目に理性らしいもんがねぇぞ』

『ワイエリコ信者、作戦に無い展開が始まってガチで困惑』

『困惑したいのはボクもだ』


 視聴者様も気づいてる通り、エリコの様子が明らかに変です。


 ネジが外れたかのように吠え続け、華麗だった様々な剣技は精度が下がる一方。


 ですが魔装槌にぶつけられた剣からは、先程までせめぎ合った時よりも腕力が劇的に増しつつあるのです。


 攻撃偏重の強化以外に別の魔法がエリコに異常を引き起こしていると決めておきましょうか。


「グオオオ……オオオオ!」


 いけませんね、一撃の威力が吸血鬼の攻撃力に追いつき出しました。


 堅実さを消した力押しには、早めに終止符を打たないと手に負えなくなりそうです。


「うむむ、私の得意な戦い方に合わせてくれるなんて、優しい一面があったのですね」


 単純な力と力のぶつかりあいこそ、人間を超えた力の持ち主である吸血鬼のやること。


 あなたのやることには似合わないのです。


 混乱していましたが、謎解きのピースが一つ手に入りました。あなたの攻め方は人間らしくなく、まるでバケモノである私と同じなのですよ。



「優等生とはこれほどまで分からない人でしたか。奥の手で参ります、これに負けたらタネと仕掛けを教えると約束して下さい」


 仕損じたツケを払うため、ブレイクスキル発動です。


「フウウウウウウッ!」


「はっ、はあっ!」


 なるほど、私の腕力を越え出した時こそ冷や汗かきましたが、冷静な思考を維持していればなんてことはありません。

 この大ぶりになりがちな魔装槌が一グラム以下のように軽々扱えるようになって、エリコの捨て身の猛攻を確実に捌けています。


 ですが、効果を楽しむだけに割いてる時間はありません。


「さて、これでどうですか」


 横に薙ぎ払う、ただそれだけ。


「ギャッ!」


 単純な攻撃でも衝撃波を生み、エリコを端の端まで飛ばしました。


 しかし、体は途轍もなく頑丈になっているようで、肉片などは飛び散らせず人の形を保っていましたが、これはもう直接叩き込むしか倒せないのでしょう。



「四秒前、二秒で接近して二秒で粉砕して……」


「うわあああああっ!! こわいにおいだああっ! こわいにおいがつかまえてくるぅ!!」


「エルマさん!?」


 時間配分を考えながら走ろうとした時。

 エルマさんの様子が急変していました。


 縮こまって錯乱し、言いようのない恐怖に支配された声色だったので、思わずエリコのことが頭から抜け落ち急停止してエルマさんの方向に向いたのですが。


「アアアアアアッ!」


「ぐ」


 エリコが飛び蹴りを放っていたことに気づかず、腹部に直撃を食らい、受け身をとる間もなく地面へと倒されてしまいました。


「油断してしまいましたか、代償も重い方です」


 時間を有効に使えず、よって左腕への力が入らなくなったため必然的に双剣へ変形出来なくなりましたが、今渦巻いている謎に比べれば些細な問題。


 倒れた体を何とか起こして、エリコに目を向けたのですが。


「ハアッ、ハアッ……」


 悪寒が走るとはこのことでした。



「ひいっ! ひいいっ!」


 エリコが前傾姿勢になってエルマさんの方に顔を向けていたのが、悪寒の正体。


「エリコ……私はここですよ? あなたの倒すべき敵はRIOだけなはずでしょう……?」


 嫌な想像が過ぎったせいで消え入りそうになった声で呼びかけても、エリコは振り返ろうとはしません。



「何故エルマさんに剣を向けているのですか。断罪するのは私だけって、エルマさんはあなたなりに幸せにさせるって言いましたよね……」


「このお姉さんなんなの……こ、こっち見ないで……!」


 エルマさんは腰が抜け、エリコから……殺されないように手足を動かして後退りしている状態でした。


「どうして、エルマさんが怯えているじゃないですか。あの、これがドッキリとかの配信企画だとしたら……やめて下さい……」


 この先の事を想像したくありません。


 冒険者に対して命乞いをしたことがなかった私でも、「やめて下さい」と真っ白になった頭からその言葉を出したのに。


「ガアアアアッ!」


 私の制止を聞かず、唸り声をあげてエルマさんへと走り出したのです。



「いっ! ひゃあああああああ助けてお姉さああん!」


 エリコ、冗談ですよね。

 あなたのやろうとしていることは、正義も信念も無い殺戮なのですよ。



「答えなさいエリコ! どうしてエルマさんを斬り殺そうとしたのですか!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 決意決めてもグダグダしとんな やはり天才には人の心(自分の)が理解できないのか…… [一言] リスナー諸君、思い出せ!この場には3人裏切りものが居ることを! 監視員は味方じゃねぇんよ…
2023/09/26 06:49 退会済み
管理
[一言] これは……吐き気を催すような邪悪の糸が……?
[一言] 第三者の意志が介入しないとはいってない バフかけてたメンツに序列上位から密命受けたやつでもいたかな? 正直決着までタイマンとかさせてくれるとは思えないんだよなぁ今までの感じから
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