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恵理子と莉緒、離れずとも通じ合わず

 The適当章タイ

 一限目から莉緒と一言も話をしていない。

 というより、莉緒が口をきいてくれない。


 授業が終われば早足でどこかに行っちゃって、メッセージアプリで配信の事やぐへへな文も送ってみたけど既読無視をされる。


 お昼を誘おうとしても私から避けるようにいなくなるから、ここが教室なのに莉緒がいてもいなくても気まずい空気感。


 でも理由は考えるまでもない。確実にBWO関係だろうからね。


「えりり、今日やけにぐへぐへ鳴かないけどどったん?」


「別に何でもないよ。昨日配信やりすぎて寝不足気味でさー」


「ちゃんと寝ときなさいって、寝不足もダイエットの敵だゾ?」


「気をつけま〜す」


 他の友達とのお昼ごはんは美味しいなあ。でも莉緒が一緒じゃないと美味しさがすぐに褪せてくる。


 もしかして莉緒、今日一日顔も会わせてくれないのかな。



 そうずっと悩んで放課後になったら、莉緒が校門の前でぽつんと待っている姿が見えた。


 声をかけようと駆け出したら、莉緒が私に気付いてこっちを向いた。


「恵理子に大事な話があります」


「大事な話……?」


 今日じゃ朝の「おはようございます」以外で初めて聞いた言葉だからビックリした。

 オレンジ色の夕日が芸術的なコントラストになって、シワ一つ無い清楚な制服姿はいつもなら「ぐへへ〜」って抱きつきたくなるけれども、無意識に自重される。


 いつにも増して凛然とした佇まいには圧倒されるばかりだよぉ。


「私は本日の配信で第六の街を通ります。もしそうなれば、道中で待ち構えるあなたと一戦交える可能性だってあるでしょう」


「うん、可能性は絶対にあるよ。昨日、止めてこいって指示が下られたから」


「でしたら話は早いです」


 何かの確信を得たような感じの莉緒。話の本筋へと入るみたい。


「恵理子、悪いことは言いません。もしあなたに私と戦える覚悟が無ければ、今夜はログインしない事です」


 そう私の双眸を見据えながら言っていた。


「……そんなこと言わないで、覚悟はとっくに出来てるよ」


 莉緒の言葉は悪魔の囁き、はね退ける覚悟を伝えた。

 戦う覚悟も、勝つ覚悟だってあるとも。リスナーさんたちにも話はつけてるし、どっちが勝ったとしても批判はされないはず。


「私ね、莉緒がゲーム配信を始めた時、嬉しかった反面いつか戦わなきゃならないのが不安だった。だけど、いつかが実際来てみたら『止めなきゃ』って気持ちになったんだ。だからもう、運命に嘆いたりはしない!」


 うん、面と向かって宣戦布告するとスッキリしてきたね。これで良かったんだ。


 抑止力になっていた殺人鬼に勝利して、冒険者ギルド最大の脅威がRIOになった以上、リアルじゃ友達だからって私が特別扱いされる理由が通用しなくなる。RIO討伐に総力をあげるなら、私も駒として動員される。

 そんな時、覚悟に迷いがあった私の背中を、悪意でも無理矢理にでも押してくれる人がいて本当に良かったと思うよ。

 冒険者ギルドの何万人の仲間達や、守るべき住民達の声。私を信頼してくれるか弱い人達をRIO一人に蹂躪させやしない。


 ヴィランは憎むべき!


「そうでしたか。では話はこれまで、後ほどあちらの世界で相まみえましょう」


 もう会話が終わらせられた。莉緒は帰り道へと振り向く。


 どういうこと、最後の打ち合わせとかするんじゃなかったの?


「待って!」


 去ってゆく莉緒の歩き方が、まるで私から逃げているようにしか見えなかったから、思わず呼び止めていた。


「莉緒の方は、覚悟出来てるの?」


 今度は私の方から聞く番だよ。

 私ばっかり聞かれるだけ聞かれてなんだか不公平な気がするし。


 何より、莉緒が心配……。莉緒ってあんなに強い人だっけ? って違和感があったから。


「愚問ですが? 私が覚悟出来ていなければあなたに問いかけてなんかいません。そんな当然の事も分からなくなっていたなんて、優等生の衰えを目の当たりにしたようでがっかりです」


 莉緒にしては攻撃的な言いよう。

 やっぱり、こんなの絶対おかしいとしか思えない。


「そこまで言わなくったっていいじゃん、だってゲームの中のことだよ? 白黒つければおしまいなんだから、いつもみたいに仲良くしようよ!」


「ゲームであっても一人ではない。私達は、大勢の視聴者からの期待に応える責任を背負う配信者です。あなたと話す事なんて何一つありません」


「何一つあるからっ! 莉緒ってさ、配信者とかなんとか、立場を気にしすぎなんだってば!」


「立場とするなら、冒険者側の立場であるあなたは邪魔者の一人なのですからそこをどいて下さい。それでもここに引き止めるつもりならば……」


 そう莉緒の人差し指の先が、私の眉間に当てられて。


「この場で殺してしまうかも」


「え……」


 迫力が怖い……殴られるかと思ってつい目を瞑っていた。


 相対する人間を恐怖でまともに動けなくさせるプレイヤースキル。リスナーさんの誰かがRIOの悪役ロールプレイが成功した秘訣を言っていたけど、その一端を間近で見させられると納得しちゃうなぁ。


 今見た莉緒の凄みは、まるで吸血鬼さながらのモンスターを連想させたから。



 目を開けた頃には、莉緒はいなくなっていた。


「うぅ……莉緒ぉ……心まで真っ黒に染まっちゃったのかな……」


 追いかけたくても恐怖で足を動かせなかったから、暫く狼狽するしかなかった。


 だんだんおかしくなっているような、私の知らない莉緒になってるようで、変化というより変貌だよ……。


 私の知ってる莉緒ってのは、何かをする時いつも丁寧で、他愛もない話をにこやかな表情で聞いてくれて、でも心にぽっかりと穴が空いてるような……雨に濡れている捨て猫っぽい弱々しさが見え隠れしてる感じだった。

 莉緒自身は変貌ぶりを分かっているのかな、でも莉緒なら分かっているのかもしれない。



「ううん、どうってことない。私は……私の志は、莉緒からも信頼されているってことだよね!」


 あれは莉緒がストイックだからこそ、信頼の裏返しでコロコロする(認識自己改ざん済)って言ったのかもね。突き立てられた指先からは、ちゃんと重たい愛情を感じ取れたからさ。


 よし、ますますやる気になったよ!


 あの露悪的な振る舞いが私のためだったとしたら、余計なお世話って言い返してやる。

 今日のため、来る日も来る日も気合全開でダイエットを頑張って、莉緒と一緒の体重になれたのを思い出せ。

 家に帰ったら妹の良子に断髪式を執り行ってもらって、連日連夜研究して書いてきた打倒RIOの作戦用紙を読み返すんだ。


 必ず倒す、何度だって倒す、RIOが得意げに掲げる弱肉強食の掟で倒す、一回倒したら監獄島に行ってリスキルを繰り返して、返り咲けるチャンスを根から潰す。

 途中からあまり良くない方法に転向するとは思うけど、私一人が闇に落ちるだけで平和を取り戻せるなら安いもの。


 それでRIOが泣く泣くトップを諦めてくれたなら、私はすぐに冒険者でも配信者でも全部やめて莉緒と同じになる。同じ地獄まで落っこちる。

 一番頑張った私が一番損をするビターエンドかもしれないけど、お金や称賛とかの見返り欲しさで正義の味方をやるのは間違っているから。

 そうしたビジネスで生活するのは、正義然り悪然りじゃなくても出来ること。


 ()()()()! 趣味の範囲から逸脱しないアマチュア程度の立場と、決して妥協を許したらダメなプロ精神! 二つとも伴えてやっとスタート地点に進められる心得なんだって、ずっと前に教わったんだ。



 だけどね、罪を憎んで人を憎まず、莉緒が私のことを嫌いになったとしても、私はずっと好きでいつづけるよ。


 もし莉緒がファンから見限られて、リスナーがたった一人だけになったとしたら、その一人は絶対に私。



 どんな変態も目じゃない愛の深さ、なめたらオシオキだからね。



▼▼▼



 嗚呼、私がこちらの世界でも吸血鬼なら、あなたという太陽に照らされて灰になってしまいたいです。



「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 私は、最低です。


 本当の気持ちを隠すため、私の命より大切な恵理子に向かってあんな酷過ぎる言い分を口走ってしまうなんて、悪辣の所業です。


 あなたをこんなに愛しているのに……これからあなたの居場所を奪ってしまうのが苦しくて、胸が締めつけられる思いなのです。あなた自身は奪えないのに。


 私なんかよりも、恵理子の方が背負う物の意味が重大なのに、どうしてこうも世に並居る悪役とは恥知らずなのか。悪役とは無論ながら私しか該当者がありません。


 帰路に着いて、我が家へと戻っても涙が溢れて止まりませんでした。


「どうして……ああなってしまったのですか……」


 一ヶ月近く前の私なら、恵理子から何を非難されようと弱肉強食の摂理として説教するつもりでした。


 一体どこで間違えてしまったのか。


 最短効率でトップへの道を目指せば良かったのに、道草を食ったせいで、エリコと相まみえる前に初恋に気づいてしまったから。

 愛されたいと望んでしまったから、いけなかったのです。


 悪事も何もかも全部私のせいにすれば平気だなんて、甚だ甘い考えでした。

 向こうの世界のあなたを貶めた末に恨まれ、いつものあなたから絶交を申し出されてしまえば、私は生きる意味を失ってしまうのです。


「嫌ぁ……恵理子……離れたくありません……」


 口を利いてくれるのも今日で最後だったのかもしれないのに、最後には喧嘩別れになってしまいました。


「……ぐ」


 恵理子のいるあの場から走って帰宅してしまったため、残された会話の手段は通話かメッセージアプリのみ。

 通話は拒否されたため、メッセージアプリを開いてみれば、一向に返事をよこさない私の様子をひたすら心配する文面ばかりが縦並びになっています。


 履歴を今朝まで遡ってみれば『第六の街で待ってるからね』との文字が目に写りました。


「そこが、エリコとの決戦の場ですか」


 正義と悪役が雌雄を決する場としては、住民の被害の出ようがない正義側有利な環境ですが是非とも乗りましょう。


 先程までは、メッセージを返そうにも最悪な未来に拒まれ返信出来なかったのですが、遅ればせながら『了解しました』とリプライを送りました。


「停滞は後退、迷いは不正解。ええ、落ち込んでる場合ではありません。どうせ前進するしか無かったのです」


 そう自分に言い聞かせたので、義理を果たしに行くべく早くBWOにダイブしましょう。話はそれからです。

 腹痛が再発して指が……。


 早いですが次回は掲示板回です。

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[良い点] あぁ・・・わかるわかるよぉ・・・気持ちが制御できなくて引き返せないRIOの心情・・・ ただ辛い!辛いですね!どんなエンドが来るか分かりませんが! 二人のイチャイチャで回復させてくれる日を願…
[良い点] 初コメです。 確かにRIOの狂気的な顔で人を殺ってる顔めちゃくちゃ見たいし書籍化して欲しい……。 それに面白いから伸びて欲しい。 なんかこの展開嫌な予感が。鬱百合来ない……よね? [一言…
[良い点] 今回もめちゃくちゃよかったです! 二人またとも愛が重すぎる… イイネ! [一言] 自分もこの作品みたいな面白い作品を書いてみたいのですが注意点とかアドバイスとかあったら欲しいです
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