回想 一年前
読まなくてもいいかも。回想ってつまり補足って意味じゃろうし。
(11/1)一部用語の名称変更
デバフの鬼
Sランク序列10位【マイナス流転因果のラプラス】
真実一つ、虚偽は真っ二つ
Sランク序列9位【答剣士・抜天丸】
正義の語り部
Sランク序列8位【トゥルージャスティス】
十二暦月の最高傑作
Sランク序列7位【水無月ルミナス】
掲示板界におけるご意見番
Sランク序列6位【寝られない元帥】
冒険者ギルドの守護神
Sランク序列5位【ジェネシス将軍】
四天之王が一人、全属性の御足
Sランク序列4位【盗塁之王・スライキィング】
四天之王が一人、義憤に燃ゆる暴走頭脳
Sランク序列3位【怒気之王・ドッキング】
四天之王が一人、千騎玩機兵を統率する才腕
Sランク序列2位【錻力之王・ブリキング】
四天之王が一人、事実上のトッププレイヤーにして万物斉同の心臓部
Sランク序列1位【真輝之王・シンキング】
以上がサービス開始三年目時点の冒険者ギルドにおける最高戦力十名、通称トップ・テンである。
序列順も比較的安定し――変動しないように各々が調整していると言った方が厳密である。
この十人の正義の使者は、冒険者ギルドが勢力として独立した時にも八面六臂の活躍を見せていて、大陸全体の支配が確立された時にさえ彼らそれぞれの武威があったからこそ。
因みに彼らの戦闘能力は"ぶっ壊れている"と推し量る意見が圧倒的。
百騎を超える巨竜の群れにすら、彼らにとっては単騎でもゲーム感覚で掃討する事さえ可能だ。
しかし、とある一人にだけは勝てず仕舞いであった。
▼▼▼
【弱きを助け】BWO冒険者専用スレPart3135【強きを挫け】
1:名無しの冒険者
ここはBreak World Onlineの冒険者専用スレです。
最低限のルールを守って自由な書き込みをしましょう。
前スレ:http://**********
>>980 次スレお願いします。
310:睡眠不足元帥
☆★今週のSランク序列トップ10☆★
1位【死揮者】(先週5位)
2位【シン・シャイン】(先週1位)
3位【しゃかりき錻力団長】(先週2位)
4位【怒気怒気エモーショナル】(先週3位)
5位【アトリビュートスライディング】(先週4位)
6位【ジェネシス将軍】(先週6位)
7位【答剣士・抜天丸】(先週8位)
8位【マイナス流転因果のラプラス】(先週9位)
9位【クイーンオブキリング】(先週13位)
10位【シュレディンガ司令官】(先週26位)
11位以下はこちらの序列掲載サイトのURLにて→http://**********
311:シュレディンガ司令官
見てるかお前ら! ワイ初めて10位以内の大台に入ったぞ!!!
いつも10位以内に入りそうで入らないまま苦節二年の永久中間管理職の日々だったがこのパチパチする気分は最高すぎてブラボーブラボーやばいやばいやばいアヒャホホハヘハヒホハヘハフハヒヒホハホフホフヘハホハフホホホホホホホホホホwwwwwwwwww
312:デンデンムシ伝令
【悲報】ジョウナ1位www
313:シュレディンガ司令官
あ
今週ジョウナ1位なん?
BWO終わったな
314:ハレヌーヤハレナイヤ
>>313
うわぁ急に冷静になるなぁ
315:スチールドリル
ほんとだあのジョウナが1位に輝いてやんの
毎週毎週2位から5位をうろうろしてたトップファイブの面汚しが1位とか何の冗談だ
316:風雲御茶子斎
これこれみなさん、ちゃんとジョウナ殿を通名で呼んであげぬか
317:ハレヌーヤハレナイヤ
>>316
ジョウナはそのままの癖に殿付けでお前らとは違うアピールすな老獪茶人
そんでおまいらジョウナをやけに貶しているが、ここは素直に褒め称えるのが健全な反応では?
318:シュレディンガ司令官
だって雑魚専のジョウナだし……
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第十三の街の門前で佇んでいる金髪ストレートヘアの女性に足を運ぶ男が一人。
うだつの上がらなさそうな風貌に中肉中背、やけに凹凸が目立つ厚手のマントが不格好で、本人自体の地味なルックスも合わさり珍妙な外見だと評価せざるを得ない。
「よおジョウナ、お前が序列1位に冠されるとは実にめでたいな」
四徹の瞼をこするSランク322位(先週274位)の睡眠不足元帥は、スレッドを閉じながら心底素っ気なさそうにトップ5と呼ばれる集団の一人、ジョウナを祝していた。
「やぁキミかい。そりゃめでたくて当然だろうね」
祝されたジョウナは、とりあえずは嬉しそうに答えようと考えた。
「苦難の道が報われたよ。キミら風に言い換えると、正義が認めてくれたおかげってところかな?」
「お前が正義を語るか……好意的に言えばいい兆候だ」
そう心境の変化を労う言葉に反して、表情は嫌悪感によって塗りつぶされている。
それを見抜けないジョウナではなかった。
「へぇ、じゃあ悪意的に言うとどうなんだい」
「怪しい、疑わしい、嘘らしい、胡散臭い。そんな得体のしれない奴のためだけに貴重な時間を割いていると考えるだけで虫唾が走るぞこのミソカス」
「アハ、身も蓋もないなぁ」
悪意全開の本性で返されても、ジョウナは皮肉たっぷりな微笑みで答えた。
この睡眠不足元帥という冒険者は、ジョウナとはサービス開始初期から続く旧知の仲だった。
だが、そんな関係は環境の変化だけであっさり冷え切るもの。彼は、普段から正義の一言も口にせず黙々と格下のエネミーを斬るジョウナの素行を白眼視しているのだ。
ジョウナから見た彼だって同じ。睡眠時間欲しさに第一線を退いて以来、順位を落とし続けているのに上から目線の物言いを改めようとしない性悪さをうざがっている。
「どうせ貴様ごときでは一週間後には王座から陥落している。クソの詰まった頭脳でも分かりやすく言うなら、浮かれていられるのも今週までということだ」
「あぁそうなんだ? 未来予知に自信あるなら天気予報士に転職すれば人のためになるのに。キミの頭の中身は空洞っぽいのに、よく語彙が働くよねぇ」
「生憎、俺は整頓が得意なのでな。有用な知識も詰め込められるよう常日頃からキャパは整理してある。まぁお前じゃただの空洞に見えても仕方ないかもな」
「あーボクはアホだから分からないけど空洞には知識ガスでいっぱいってことね。溜まってるなら、後方支援でも有望株の水無月ルナミって子に栓抜いて貰えば〜?」
内包している価値観の差異故に、聞いての通り反りが合わなくなっているのだ。
「……そんじゃ他に言い返す気が無ければ俺は掲示板の管理に戻るぞ。せいぜい天井になった気分を満喫するんだな」
そう吐き捨てると踵を返し、冒険者ギルド本部へと歩みを進める。
「キャハ」
それでもジョウナは、スキップのような歩調で背中を追い、手を後ろに組みながら元帥の行く道に前屈みで立つ。
「気色悪い、胸に付いてる肉団子二つを引きちぎってやろうか」
「まぁまぁ聞いてよ。ボクは気づいたんだ。このままゲームを続けたところでモチベはダダ下がり、一番高価なトロフィーが手に入った後じゃ、やることが無くなってすぐ飽きるだけじゃないかってね」
「飽きるだと? お前に飽きさせない量の特別クエストを発令させる事も出来るが、それがお望みなのか?」
そんな睡眠不足元帥の素朴な疑問をスルーしながら言葉を紡ぐ。
「だから遊び方を変えるのさ。自分としては雑魚に勝ちまくる無双プレイが好きだからさ、もっと別の方面から楽しむことにするんだよ」
キリリとした甲高い金属音。
ジョウナは刃渡り五尺の細剣を抜いていた。
比較的平和な街中なのに、エネミーや悪人が襲ってきた訳でないのにも関わらずであり、しかも切っ先は睡眠不足元帥の首に向いている。
「おいジョウナ、いくらお前でもその先は冗談じゃ済まされないぞ。やめろ」
ただならぬ殺気を肌で感じ取り、顔色を変えてすぐさま説得の姿勢に入る。
「どうかしてるのか、ふざけてないでその剣インベントリにしまえ」
しかし、ジョウナの心に棲む悪魔は今まさに檻から出ようとしている最中。剣を向けたまま緩慢な動きで一歩ずつ迫る。
「あれれぇ? どうしたのかなぁ? キミだって場数を踏み踏みした冒険者なのに、ちょっと剣を見ただけでこんなに怯えるものなのかい?」
モデルのような美貌も、揺らめく髪も、全てが黒みがかった異形の生物のように視えてしまう。
だから我慢ならなかった。こんな狂犬が今日までギルドの一員だったことが。
「チッ、無性に仲間な気がしなかった奴だが、マジで反逆するつもりだったとはな。貴様は悪だ!」
「じゃあ悪の反対は雑魚だ。キミのことさ、アンダスタン? だからさぁ、キミに勝負を申し込んでもいいかなぁ、いいよねぇ?」
「勝負とはジョウナ、悪への教育のことを指すならキツイ体罰を食らう事になるぞ――俺の逆鱗に触れた覚悟は出来てるんだろうな!!」
そう啖呵を切って首元の紐を引っ張ると、凹凸だらけのマントの正体が露になった。
束ねられていた百丁のマスケット銃が紐の縛りから解放され、手で掴んだ二丁以外が魔力で浮かび上がり元帥の背後で広大な陣を展開する。
それを見たジョウナはニヤリと口角を歪ませ、大地を力強く踏みしめた。
「鳥獣未満の性根、叩き直してくれる!」
「人類全員強制参加の大イベント、記念すべき第一犠牲者はキミだっ!」
元帥はマスケット銃の引き金を連動させて一斉砲火。
対するジョウナは《縮地》で弾丸の間を駆け抜ける。
刹那の合間。いきなり決着がついてしまった。
「ぐッッッッッ! 速い……剣聖を超えた抜天丸以上にィッ……!」
力及ばず、睡眠不足元帥は首を刎ねられ敗死。
そう、冒険者が冒険者を殺したのだ。
ジョウナから通名と序列1位の称号が剥奪された瞬間であり、稀代の快楽殺人鬼の胎動が始まった瞬間でもあった。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! 冒険者ってこんな簡単に勝てるんだぁ! あっけないほどアホすぎ!」
初めての殺人行為を完遂した事に心が歓喜し、猟奇的な笑い声を盛大にあげる。
動物型エネミーとはまるっきり違う人肉を斬った感触に脳汁が溢れ、顔に浴びせられる返り血もまた心地良い。
尚この時点で、ジョウナの首には1億イーリスが懸けられている。
「あっちだ! 妙な血の臭いがしたぞ」
「ジョウナ……? さては血迷ったか! 行くぞお前ら!」
近くに居た冒険者達が駆けつける。
呆気にとられず即座に状況を理解したのは流石だと言いたいが、相手は悪く、最悪にして極悪だ。
「……ざっと20人は下らないかな、カルマ値がもうマイナスになってるしね。でもなんだか心が潤ってくるよ、アハッ」
自分で生んだ亡骸の数を、指を使って数えたジョウナ。
冒険者達は全員纏めて《第一楽章》によって壊滅してしまったのだ。
「やっぱりボクは最強になったんだ! そうか、ボクがこの壊れゲーを続けてきた理由こそ最強になるため、最強になった理由こそ……片っぱしから自由に勝負を挑んで全勝するため!!」
この日、この時、冒険者達はジョウナを見下してはいけないプレイヤーだと知らしめられる。
ジョウナは正義の糾弾に耳を貸さない。
冒険者の常套手段である実力行使を用いても、誰一人として止められそうな者はいない。
何故なら冒険者ギルド自身が、ジョウナを最強のプレイヤーにまで鍛え上げてしまったのだから。
「アハハ、アハハ、アハハハハハハ、アッハハハハハハハハハハハハハハ」
ジョウナの殺戮は、三日三晩昼夜関係なく続行された。
殲滅力に優れた技構成で多くを占める楽章術は、格上の相手にとってはいまいち火力不足なのかもしれない。だがジョウナは、自分よりも同格以上のプレイヤーが存在しなくなるタイミングを我慢強く見計らっていたのだ。
反逆の狼煙をあげた地点から遡るルートで人間を無差別に殺して回り、攻撃の余波だけで街は跡形も残らずに滅ぼされた。
王都を囲むように五つ配置されていた第六の街に至っては、ドルナードだけを残し四つが終焉を迎えた。
途轍もないペースでの侵攻だ。
平和ボケしていた冒険者達は震撼し、ジョウナがただの快楽目的で離反した事実に慄く声が続出。
なまじ連絡手段としても機能している冒険者専用掲示板は一日に1000近くものスレが消費される羽目になり、瞬間最大風速を二倍も更新するほどである。
尚ドルナードは最後に狙われたために、名だたる冒険者達が揃い踏みで迎撃へと出陣出来たが、それを見越していたジョウナはあえて掲示板に予告し、第六の街に冒険者をありったけ呼び寄せてから矛先を転換。
正義の総本山、『冒険者ギルド本部』へと襲撃をかけたのだ。
防備が手薄になった隙を突かれ、あと一歩で陥落の危機に陥ったのだが、ジョウナはそこで「飽きた」とだけ言い残して撤収、ログアウトしたのであった。
撃退されたわけでも無い、いつかは過ぎ去る人型の台風が自ら仮想世界から離れただけのこと。なのにとある冒険者は。
「稀代の快楽殺人鬼ジョウナは涙目敗走した! 我々冒険者の勝利だ!」
と、正義執行の意識を強調した捏造内容を喧伝したという。
被害者も一秒後には加害者になるのがこの組織であった。
収束後、四人となったトップ5は『四天之王』へと名称を変更。冒険者ギルド本部は人の足で辿り着くのが困難な土地へと移転し、世紀を揺るがす大事件に対して序列の指標を改善するに動き出した。
完全なる実力主義だったのを見直した結果、ギルドへの忠誠心やカルマ値も試されるようになり、ただレベリングに励んでいれば誰でも上位に通名を連ねられた制度は昔の話となった。これをプレイヤー達は『冒険者ギルドの二周年記念アップデート』と呼称している。
その結果、一定の強みが無くとも正義に殉ずることへの躊躇いが無い忠犬が大幅に順位を伸ばしたが、たとえレベルが高く成果をあげようとも腹の底が窺い知れない狂犬は差別の対象となり、肩身の狭い状況を強いられる事となった。
著名な冒険者を例に出せば、前者は睡眠不足元帥(後に寝られない元帥と改名)、後者はアイスメカニックリーム(PNパニラ)が該当する。
一人のプレイヤーによって引き起こされた史上最悪の事件。その影響で冒険者ギルドの支配体制はますます苛烈になり、各地で住民から悲惨な声が相次いだという。
BWOプレイヤー誰もが、災厄の歴史を超える日は訪れないと思っていた。
恐怖のどん底を味わったのだから、耐え抜いた自分達はどんな脅威が襲って来ようが無敵なのだと信じきっていた。
一年後、それ以上の巨悪がプチ・エリコの手引でやって来るまでは。
この章はここまでです。
次章の準備に取り掛かりたいので暫く休みたいと思います。
結局変な人ばっかになってしまった。おぉこわ、扱いが難しくて悩む。お腹痛い。
リアル関係もトラブル続きで疲れました。
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