吸血鬼VS殺人鬼 その10
(11/6)戦利品について追記
『88888888』
『88888888』
『勝った! RIO様は伝説のジョウナをも超えたんだッ!』
『ひぇ~おっかねぇRIO様だったわ』
『RIO様はもう吸血鬼だとかロードとかの上位存在、魔王になったと決めつけていい頃だろう』
『吸血魔王RIO様万歳!』
『RIO様万歳!』
『RIO様万歳!』
『よっしゃ掲示板で祝勝会やるべ!』
『賛成!』
『ワイも誘ってくり〜』
念願叶ってジョウナさんを越えられましたが、完全勝利と呼ぶには幾多ものピンチに追い込まれたこの戦い。
自分でも勝てたのがにわかに信じられません。勝ちに不思議の勝ちありとはこのことですね。
「はぁ、負けちゃったかぁ」
死人にだって口ありです。
死亡扱いとなり、瓦礫を退かした場所で横にしたジョウナさんが話しかけてきました。
「恐れ入ります。今回は私の勝利で、あなたの敗北です。勝負も殺し合いも、勝者と敗者どちらも決まらなければ成立しないのが残酷なところです」
私の聴力は完治しているため、返答は円滑に行えそうです。
「アハ。勝者も敗者も何人いたっていいんだけど、キミもボクもこの街で大量に敗者を出したよねぇ」
「勝利のためでした。あなたに勝利するには、私一人だけの力ではどうしようもなさそうだったので」
「たくさんの人の力を結集した絆無き勝利っ! なぁんて感動的でも何でもないやつかな?」
負けてなお、テンションがまるで変わらないのはつくづく安定していますね。
私も、トッププレイヤーだったジョウナさんへの最大限の真心を表して、向こうがいなくならない限りは先に離れたりはしません。
「ボクは負けるってのは嫌なものだとずっと思ってたんだ。負ける度にボクの力不足がムカつくし、セコい手で負けでもすりゃ相手の方にむかっ腹が立つけど、でも今は負けたのになんか楽しいんだ。不思議な気分さ」
牢獄に転送されれば話も終わってしまうため、ジョウナさんは急ぐように話を変えました。
「ふむ、まさかあなたの口から負けて楽しかったと聞くだなんて、心境の変化ですか」
「何を賭してもゲームはゲーム、どこまで行ってもお遊びだったってことなのかもね、めでたしめでたし。そんでキミはこのボクに勝ったんだから自慢のネタになれる、嫌味でもいいからどんな気分か聞かせて?」
ちょっと大人気なく無邪気に、でも穏やかな口調で訊いてきます。
ですが、心の内をはっきり言ってしまっても良いのでしょうか。気分を口に出せば、好敵手を蔑むような事になるかもしれませんので。
……どうせジョウナさんと話すのは最後になるかもしれないのです。打ち明けたとして気を悪くされても後味は少ないはず。
「私は……落胆した気分です」
「なんだって?」
「あなたがかつて冒険者の序列一位に輝いた方なのは存じ上げてますが、私は最強を倒した気にはなれていないのです。ジョウナさん、現在のあなたはトッププレイヤーではありませんね」
「う、キミの期待を騙したみたいで悪かったよ……」
どうやらジョウナさんも自覚はあったようです。
これまで私の配信を観ていたジョウナさんでしたが、戦後こうやって語らっていると思わず戸惑った様子も見られました。
ジョウナさんは最強のファンです。
「ボクは本当に一年前は誰よりも強かった。でも一年サボってみるとあら不思議、一年前は雑魚だった奴がボクを正面から敗北に追いやるほどにインフレしていたのさ」
「言われなくても分かっていました」
「いや嫌味か!」
「勝利がゴールではないと認めたくなかっただけです……」
少し考えれば気づくはずでしょう。ジョウナさんがトッププレイヤーだったのは一年前、現実の世界では騎馬兵が一年ぽっちで戦闘機になったりはしませんが、MMOとはたった一年経過するだけで環境が見違えるほど変化してもおかしくはないのです。
それでも私と互角以上に渡り合えていたのは、きっと一年前の時点でも時代を先取りした能力だったのでしょう。
「あれは……ジョウナが倒れてるのか……?」
「なーるへそ、どうやらRIOが勝利したらしいな。じゃあアンチ吸血鬼用の装備に換えとけ」
血の臭いによる反応。
遠巻きから集まる冒険者の姿が一人また一人と増えていました。
「さて、もうそろそろ行かなきゃ袋叩きになるよ。ボクは熱が冷めるまではこのゲームを続けることにしたから、またどっかに会えたら嬉しいね。それじゃあ前を向いてごらん、屯してるアリンコ共がうじゃうじゃだ、勝ちまくるといい!」
そう話を終えていましたが、名残惜しさを押し殺しているのが語気からよく伝わります。
現在も築かれつつある冒険者達の包囲と戦うのは私のみです。迷惑な敗者となる前に次のステージに進む背中を押す言葉で締めたのでしょう。
私だって、敗北していれば敗者らしく遠吠えをせずに去っています。実際瓦礫に埋もれた時は万策尽きており、そのまま敗北になっても恥にならないようジョウナさんが油断するまで黙っていましたから。
「また会いに行くのはあなたの権利です。次も容赦はしませんが……」
これよりの戦闘のため正座から立ち上がりました。
お別れは言いません。
「ごめんちょい待った! ゲームはゲームって言ったけど一人だけ例外がいたのを思い出した」
まだ話したいことがあったそうです。意地悪せず聞きましょう。
「プチ・エリコ、キミのよく知る配信者さ」
「エリコ……!」
まさかジョウナさんの口からあの人の名が飛び出るなんて思いもしなかったので、驚きです。
「ありゃヤバいって、肝の座ったキミですら収益化しないのにこんな閉鎖的なゲームで金稼いでるんだからある意味じゃ最強だよ!」
まるで火急の要件でも伝えるような焦り具合です。
ジョウナさんから見たエリコがそんなに大層な人物なのだとは、私は変な夢でも見始めたのでしょうか。
「エリコ……。もしエリコとも会遇したのなら、有象無象の雑魚と括って勝利するつもりでしたか?」
「アハ、アハハ。急にエリコを心配し出すってよっぽどぞっこんなんだねぇ。まぁお金が関わってるんだし、勝つにしろ手心を加えるつもりではいたさ」
ジョウナさんが無益な殺生を好んでいるのは本人の口から明言されていましたが、損害を生む殺戮には細心の注意を払うとはまたもや驚きです。
気まぐれな趣味で復帰した程度の人がプロの配信者を理不尽に負かすとはどういうことか。金銭の価値をよく理解しているからこそ、エリコを愚弄するにあたる行為は弁えるつもりなのだと読み取れました。
「エリコに勝つですか……」
抑制のタガが外れていそうなジョウナさんですら踏み切れていないのです。
私なんかが、エリコに勝っていい資格を持てるのでしょうか。
何せエリコにとっては、この世界はただのVRゲームではなく職場のような場所なのです。
最愛の人と対峙して心が無事でいられるかが懸念だったのに、エリコとの戦いを避けたくなる理由が増えてしまいました。
「でもまぁキミの才能があれば大丈夫さ。何せこのボクに勝てたキミならエリコには負ける要素無しだろう? それじゃあグッバーイ」
そう言ってからこれ以上喋ることが無くなり、つまり自分からリスポーン地点へと転移したのだと把握しました。
エリコと親しい間柄の私に委ねると身を引いたとすれば、人間関係では案外お節介焼きになる人なのかもしれません。
「エリコに負ける要素……」
ジョウナさんに比べれば勝算が山ほど構築出来る相手なのに、勝った後の想像をするとどうしても胸の辺りに痛みが走るのか。
エリコに勝つ、何故勝つ、勝ったからどうなるのですか。エリコは悲しむ、それで私は喜べるのですか? トップへ前進出来る……エリコの暮らしを奪ってのトップに何の価値が……。
俯いて悩んでも、目の前に向き直せば時は待っててくれないと気づかされます。
包囲に加わる冒険者達の量は増えていたのですから。
「【Sランク序列10位・マイナス流転因果のラプラス】、ジョウナをぶっ倒してくれてありがとさんだ。お前だけなら労力がゼロと比べても変わらないしな」
「【Sランク序列9位・答剣士抜天丸】、貴様の狼藉はもう許せぬ。ジョウナへの勝利が即ち正義の標的になったと知れ!」
質だって増していきます。
ジョウナさんが強敵との勝負を避けているのが共感出来てしまうほどの手強そうな相手が、新たに包囲に加わりました。
トップに近しい冒険者二名、慰めにはなってくれそうですね。
「さて視聴者の皆様、もう満腹で苦痛かもしれませんが、楽しい宴をもう少し共に楽しみましょう」
カメラに向けてそう宣言しましたが、苦痛かもしれないとはとんでもありません。
『あっそうだった。この人冒険者絶対キルするウーマンだった』
『うわああああ第六の街がああああああ!!』
『やめろおおおおおおおおお!』
『いやほんまやめて下さい一生のお願いここで使いますから』
『へっ、ラプラス様と抜天丸様のコンビだぞ? ジョウナ相手に勝るとも劣らなかった二人の実力に疑いがあるとでも?』
『↑フラグウウウウウウウウウウ!! フラグ抜きにRIO様はジョウナぶっ倒してるの忘れないで』
BWO世界で冒険者に所属しているであろう視聴者様からの阿鼻叫喚が絶え間なく迸っていたのですから。
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《レベルが89に上がりました》
《カルマ値が下がりました》
《冒険者ギルドから懸けられた賞金が1億3600万イーリスへと修正されました》
《冒険者ギルドから懸けられた経験値が149,939,445へと修正されました》
《冒険者ギルドから懸けられた称号が『大陸滅亡級の災厄RIOの撃破』へと変更されました》
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第六の街の取り壊し作業は、ジョウナさんから始まり私が完了させました。
本当の本当に終わり。
次回は掲示板回(B)だ!!