吸血鬼VS殺人鬼 その9
その9まで続いてたのか……
劇場版にでもするつもりかな
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音符の嵐に凶弾の嵐。
どんな九秒間よりも長く思える九秒間で二つの嵐がぶつかり合い、ただでさえ破壊されている街の一角を粉々に破壊し過ぎて行った。
「いたただ……」
MPが底をついたジョウナは体中に鉛玉を受けた状態でありながらも、奇跡的に生存したまま降り立っている。
一方でRIOは、周囲にあらかたの血をぶちまけながら姿を消していたが、武器にした魔装銃と握っている腕だけが地面に転がっていた。
一目瞭然。果たして、破壊の能力による応酬を制したのはジョウナと言えようか。
「それにしてもご無体な事するよ。ポーションは手遅れになる前にさっさと浴びてと、キャハ」
そう笑い、指ですくい取ったRIOの返り血を艶めかしく舐め取ってみる。
――味がしない。
ブレイクマジックによる代償が味覚だと判明した。
人間の身では、一度デスポーンをせねば代償が拭い取れないという多大なリスクがあるが、味覚ならば支障は少ない方だ。
あと一つだけのポーションを使用し、瀕死のHPを残り三割にまで回復した後、何かを念入りに探すように数個の瓦礫を手でどかしていた。
「みつけた」
はみ出ていた頭髪を掴んで引き上げる。
「……」
「うん、キミなら耐えきっているとは信じていたさ」
頭部だけになったRIOであった。
こちらも奇跡的に生きているが、目は虚ろでどことも知れない方向へと見据えており、HP残量は風前の灯火。血が不足しているために、断面からは血がこぼれ落ちてばかりで再生の兆しが無い。
こんなあられもなき姿と化しているのはジョウナの戦略の内。
ジョウナはRIOの頭だけを肉片にした結果、壮烈な恐怖を体感する目に遭った。なのでその逆、音符による散弾を頭以外に集中させたからだ。
「なんかまあ、直視してると胸が痛む。正直言って、キミは無様な負けで終わって欲しくなかったよ」
自分と渡り合えた健闘を称えるように語りかける。普段みたく戯けるような発言じゃなく、本心からの発言だ。
ジョウナにだって、良心は人並みにあるのだ。RIOを雑魚や強敵といった強弱で測らず、好敵手なのだと好き嫌いで測っているからこそ誇り高く散って欲しかったのだ。
RIOは一向に声を出そうとしない。
「アッハハハ、ガン無視だなんて失礼じゃないか。あまりにもショックで返す言葉が見つからないのかな。それとも……喋れなくなってたり?」
ジョウナが眉をひそませて訝しんだ事。それはRIOのブレイクスキルによる代償が声帯である事だ。
思い返してみると、RIOが瓦礫の下敷きになった時から可愛げのある笑い声が聞こえなくなっていた。
当たり前といえば当たり前ではあるが、生命体を逸脱した不死の耐久性能を保有する吸血鬼なら甚大なダメージなど軽傷も同然。
反応してくれないなら致し方ないとして、ジョウナは囁き続ける。
「この勝負、楽しい事やムカつく事もどっちも満遍なくあったけどさ、終わってみればいい思い出になったよ。これでこの世界の未練が無くなったし、BWOを粗大ゴミに出して処分出来る……」
反芻する記憶は、RIOが自らの首を刎ねる衝撃的な敗北を遂げた時。
あの時、まだダメージを受けていないのに敗北を受け入れた雑魚が、今日の勝負では万事休すな状況でも自死を選ばず何度も打開している。こんなドラマ、ジョウナだって感嘆に値するだろう。
「はっ」
ジョウナの本能が警戒を告げる。
その時、ジョウナの後方から、石達がガチャガチャと音を鳴らす。
【おのれ! オレの体力がここまで奪われるとは、やってくれたな!】
瓦礫に身を潜ませていたフラインが勢い良く飛び上がり、ジョウナに突撃して奇襲をかけたのだ。
あの応酬を途中から振り返ってみると、ブレイクスキルで強化されている弾丸の他に紫色の光線が幾分か混ざっていたのだが、ジョウナの目を欺いて召喚したフラインに援護射撃を担当させていたのだと合点がいった。
まさにRIOらしくアドリブの効いた戦術。動ける仲間に隙を伺うため瓦礫に潜ませていたのも命令だろうか。
しかし、相手は仮にもジョウナである。
「一矢報いるって、雑魚がカッコよく輝ける数少ない方法だけどさ」
剣を握る腕を後ろに回し、刺突の連撃を放つ。
「ボクは甘ったるい接待なんてしない」
比較にならない強さ。
食らってしまったフラインの攻撃は指先も届かず、あえなく命を散らす結果となった。
「……あぁマジで怖かった。またRIOが何かしてくるんじゃないかと思ったからヒヤッとしたぁ」
冷や汗がどっと溢れ、内心で胸を撫で下ろす。
死者続出の幽霊屋敷に匹敵する恐怖を刷り込まれているため、物音一つにも動じてしまう状態のジョウナだ。
ともあれ、これで恐怖は断った。
「さぁてRIO、万策尽きたところでやっとさようならだ。でもキミの配信はキミが辞めるまで楽しく観続けるけどね。そぉぉぉいっ!!」
掛け声と共に、剣を振り上げる。
RIOの頭は揺れ、傾く。
「かあっ!」
その瞬間を、RIOは無心の精神で待っていた。
「わ゛! ほんとに何かしてきた!」
RIOはブランコの要領で髪で頭を持ち上げ、ジョウナの肩口に噛み付いたのだ。
しかも、吸血を発動している。その上ただ血を吸っているだけというよりも、その種を食い殺せとばかりに肉を噛み千切りかねない咬合力で吸血しているのである。
「ピラニアは水の外でも急に暴れ出すんだねぇ!」
「口はエリコにだけと取っておいたのですが、あなたほど拘りを捨てていいと思える方はいませんでした」
「喋った。喋れたのかい!?」
代償が声帯だとの推測が外れ、一気に動転。
RIOの底知れぬ腹黒さは、勝利する寸前にも牙を剥いてくるのだと思い知らされた。
「どうせ頭だけじゃ何を出来るわけでも……ゔっ、あっ!」
剣で刺突してトドメを刺そうとすると、再生した左腕に手首を掴まれる。
握り締められながら拗られる激痛によって、攻撃の要である剣を手から放してしまう。
「ヴァンパとフラインの尊い犠牲がなければ私はどうなっていたか。ですが二名とも私が助けさえもせず死なせてしまったのは采配ミスでした」
「そういやブツブツとなんなん! いい加減死んでくれ、のっ!? ひィィ!」
左の拳で殴りかかろうとすれば、ニョキリと生えて伸びてきた右腕によって止められる。
また、再生した脚によってジョウナの足は踏みつけられてその場に固定されたため、どこへも逃げられなくされる。
最早ジョウナの血は、RIOの体が完全に再生するまでに奪われていた。
「そんな、ここで負けるのか? いやボクも諦めちゃいけない。ハハ、これならいけるかも……」
一度目線を落としてみると、RIOの左膝に力が込もっていないように見えた。
巧妙に隠しているつもりらしいが、なるほど、ブレイクスキルの代償は丸わかりだ。隠すということは、隠さなければならない理由があるはず。
片足立ち状態のRIOを転ばせるのは造作もない。倒れる勢いで牙の拘束を解こうと、足払いをかける。
「目の前にいる仲間の命を救う事さえままならない厳しい戦いでした。非情にならなければトップに近づけないのは自分が一番分かっていましたが……」
「は!?」
しかし、跳んだ。
ジョウナの足払いを手に取るように読み、両脚を曲げて地面を踏んでジョウナを拘束したまま低く跳んだのだ。
払うべき足が地面から離れていれば、もはや足払いではなくスローな横蹴りだ。
「いや、は!?」
――代償は脚でも無い。
反射的にもう一度同じ一文字を口に出すほどに意味不明な事実でしかなかった。
ことごとく推測が外れ、混迷を極め、RIOが上でジョウナが下の押し倒される体勢にされる。
「離れないかい! 死ぬほど往生際悪い!」
「この長期戦にて得られた戦闘経験は、私の宝物にさせて頂きます」
「人の話くらい聞いて……ちょ、キミ、やっぱり、話を……聞けていなかったのかっ……!」
ジョウナは瞬時に推測を立て、瞬時に真実へと導き出してみせた。
ブレイクスキルの代償は、左耳の聴覚だったのだ。
既に一度目の代償で右の聴力を失い、こうして失聴状態になり発言が聞こえなければ、答えようがないのは当然だった。
「アホがああああああああああああッ!!」
「とどめっ!」
もうRIOには何も聞こえない。
悲痛な叫び声だろうと、懇願の言葉だろうと、心揺さぶられたジョウナの音色だろうと、何もかも届かない。
耳に届くもの全てを拒み、後は届かせるだけ。
「ふうっ!」
最後にRIOが届かせたのは、不死の執念を込めた牙であった。
「ま…………け…………か…………」
質より量、殺しの健啖家、ギリギリで手にした一勝よりも剣を一振りすれば百人が同時に死ぬような爽快感。
そんなジョウナは吸血箇所を噛み千切られたダメージでHPが0となり、完全敗北を喫した。
一時間半にも及ぶジョウナとの死闘を見守っていた視聴者達は世界が救われたかのような日の差す気分になり、皆が皆、信じられる悪役RIOの勝利を盛大に祝福するコメントをひっきりなしに送っていた。
◆◆◆
良かった良かった。これでこの章は終いです。
まだまだ続くのは本当です。
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