吸血鬼VS殺人鬼 その6
三つ巴なのにパワーバランスガタガタなのはよくあるよね。
『やべやべぇ! テラやべぇですわ!』
『シンプルにして最悪規模、ふざけんなよなぁあ〜!』
『ジョウナの技のレパートリーはマップ兵器系ばっか。しかも今回はなまじ形として見えるからグチャッて音の鳴る死に方が想像出来てしまう。俺なら自分の首をちょん切って先に死ぬわ』
『見た感じ、発動中こそ柄まで武器が変質して丸腰になってるみたいだが、だから遠距離から発動したんだな。うむうむ』
『あわぁどうするよこれぇ。ダークボールで破壊するんじゃ圧倒的火力不足だし……、バリアを張って凌ぐのは……RIO様防御技無いし……』
『逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて』
影が濃くなり徐々に迫っている巨大な剣を目にするだけで匙を投げたくなりますこれは。
如何せん闇雲に距離を取りすぎたのが裏目に出てしまい、踵を返して本体を狙おうにも肉餅と化すのが間違いなく早いです。
「混沌としてきた勝負場に、全滅の秩序を! アーハッハッハーッ!」
高層ビルの下敷きなんて想像、一度はした覚えがありますがそれ以上の仮想現実が間近に迫ると――却って胸が踊る気分です。
このような脅威、越える度にトップへと近づけると考えれば、とても刺激的なイベントとも取れます。
「ふふ……冒険者達に命じます、脳や肉体ごと全身複雑骨折の体験が嫌ならば、ジョウナさんを止めてみることです」
「あぁぁぁれぇぇぇ!」
「だからって投げなくて良いだろおおお!」
これで少なくとも余計な邪魔は入りません。
まずは無難に横へ前へ、圧死の範囲外を目指して走り抜けて退避――無駄そうでした。あくまで私目掛けて倒れているため、独りでに落下地点がずれているからです。
「やむを得ない、ギリギリのライン。ジョウナさんは苦渋の判断を何度味わわせてくれますか。それでしたらこちらも全身全霊で立ち向かいます」
第二の手段、つまり最終手段を執り行います。
まず武器は攻撃力最高値の魔装槌に選択。
「タイミングは一秒後……」
無茶か無謀だと思われそうですが、あの巨大な鉄剣を打撃で破壊するために、打ち振います。
自分では自棄でも何もしないよりは遥かに良案だとは思いますが、机上の空論であるとは否めません。
結局、火事場の力に賭けるなんて、平均的女子高生では軍師になれないようです。
「失敗しても後悔が残らないよう……スイングです」
足腰の力を入れやすいよう大股になり、今!
「はああああああああ……!」
むむ、硬い上に途轍もない重量。つばぜり合い慣れしていない身としては目が回りそうです。
でしたが思いの外拮抗出来ているかもしれません。剣に少しばかりビビが入る程度には健闘してはいます。
「う、重量が本当に見かけ通りで苦しい……」
しかしいけませんでした。最初から押し上げる力を込めすぎてこれ以上の出力が引きずり出せないのです。
ヒビ割れた箇所から血が流れ出るのはむしろ私の体の方でした。
押し負けないため、出力を最大限上げるためにはブレイクスキルでしょう。
「終われっ! キミの素の腕力じゃどう粘ってもペシャンコさ!」
いえ、もしやジョウナさんの狙いはブレイクスキルの発動だとすれば?
吸血鬼にとって長期戦に有利になる街内を戦場にしましたが、ブレイクスキルは発動するほど機能不全の部位が増え、得意のはずの長期戦が不利になる。そのため気軽に使って良い代物ではないのです。
しかし発動しなければそれこそ抱え落ちの憂き目に逢ってしまいます。
楽な道へ進むか、ここで停滞するか。
「うぶっ…………」
懊悩している間に両腕が人間であれば故障の域に突入し、脚が良からぬ方向へと曲がり始めてしまいました。
ええ、支えきれそうにありません。敗因はSTR不足です。
力で道を切り拓いて良いのは脳筋な人だけの特権だそうです。
嗚呼、後悔を残さないようにと覚悟を決めたのに、ここで終わるとなると不完全燃焼になりそうで……後味が悪めの最期は御免です。
「かくなる上、これを真の最終手段にします」
一瞬で全ての工程をこなさなければならない作業ですが、現状これ以外に思いつく案がありませんし思考が間に合いません。
さて魔装槌は私の身長とほぼ同サイズ。なので剣の重量に耐えながら魔装槌を慎重に垂直にし、柄尻を地面に置き、建物を支える柱のようにします。
ですが何秒も持たないでしょう。
厳密には置いた直後からバランスを崩していると全然持たなかったため、僅かとなった隙間を駆け抜けます。
「くっ。頼みます」
しかし希望は潰えていません。巨大化した剣でも横幅はそこまでではないはずですから脱出は叶うはずです。
体勢を低くして走り、とどめに飛び込みです。
「はあ……っ!」
間に合うか合わないかの瀬戸際だと祈るような気持ちになりますね。祈る対象なんて恐らく敵対しているのに。
「……………………嫌なスリルでした」
軟な建物なら一瞬で倒壊する地響きが巻き起こりましたが、風圧によって自分の体が浮かんだ感覚が伝わったため、足は挟まらず危機を脱す目的は果たせた模様です。まずは一安心でしょう。
後は、減りすぎたHPを回帰させます。
「うひょえええっ! なんちゅう惨状……おいそこの者、大じょ……ぐえ!」
瀕死の重症を装い、近寄ってきた野次馬から吸血。
「お、俺はじきに死ぬだろうが最後に一つ……ぐふっ!」
辛うじて生きのある者もどうせ間もなく死ぬので吸血。
また、インベントリにしまい込んだ物を空中に放り出し、吸血。
最短効率で吸血及び吸血です。
「いやー、とびっきり派手な技をぶっ放すって溜まってた色々が発散されるね。何人くらいに勝てたかなぁ? RIOは何かアホやらかしてたから流石に勝ててるとして……」
そして、ジョウナさんは元に戻った剣を握りながら歩き寄っていました。
剣が地面に倒れた際、辺り一面を埋め尽くす砂塵が舞いましたからね。私がこうして立てている事に気づかなくても無理はありません。
「どうしましたかジョウナさん、これで終わりですか?」
「オイオイオイオイッ! どうした事かRIOがピンピンしてるよ。えぇ……」
ジョウナさんの精神を揺さぶれるならばと、強がる言葉で対応しました。
やはり戦場を街に移して正解でした。多くの人々から否応なしに頂戴した血液で傷跡は治り、万全の状態にまで回帰したのですから。
武器の回収は剣の巨大化が解除された時に済ましています。
「……というかアレに耐えきれたんだ、じゃじゃ馬娘」
「あなたほどのおてんば娘では無いつもりですが?」
「へぇ〜。往生際の悪さと口の達者さは比例するって新発見だよ。じゃあさ……」
そう言葉とは裏腹にどこも変わらない表情で答えたジョウナさんは、楽章術か何かの発動の準備に入りました。
数分前の私なら、どう防ぎきるかと消極的思考になっていたでしょうが。
「休ませはさせません」
「げっ!? この吸血鬼、物凄くパワーアップしてる!」
現在、血の力でレベル80を越すまでに強化を果たした私でなら、積極性を尊び、速攻で攻撃を選べる事が出来ます。
「楽しもうとし過ぎたせいかも……? かもじゃない当たり前だアホか」
双剣を駆使して、相手に防御以外の行動を取らす暇を与えず間断なく攻め続けられるのです。
「無駄っ」
「やっば。はっっっや」
これは……ジョウナさんから『喜』以外の表情の一つ、驚きの表情を初めて拝見出来ました。
『よしっ!』
『よし! よくやった! RIO様のにわか仕込みの剣技でも、血液ブーストの乗った上達具合ならジョウナに悲鳴をあげさせられるはず!』
『RIO様は文字通りだましだましで一時しのぎを繰り返してきていたが、力で圧倒するってのはカタルシス半端ねぇぜええええ!』
『感激して汗出まくってるぞワイ』
『良ぉ〜〜〜〜しよしよしよしよし大した奴だ(力いっぱい撫でながら)』
『↑イエスRIO様ノータッチだこのRIOコン』
『すっごい。負けイベしながらレベリングをすれば勝てるんだな』
『↑負けイベしながらレベリング。パワーワードやめんかww』
もうジョウナさんと距離を置かなくとも戦えます。いよいよ勝ちに行けます。
果てしなく高い壁だと思っていた人物に、手が届く見込みが現れ始めたのです。
「月光というスポットライトの下、積み上がった屍達の上で、人の子の技が奏でる音色に合わせて吸血鬼が主役となって優雅に踊る。うふふふふっ……こんなにも私に相応しい決戦の場所があったでしょうか?」
「キミの事、ますます嫌いになった」
嗚呼、手鏡があれば恍惚となっている表情の私がすぐさま確認出来るというのに。録画から確認しましょう。
……さて、ジョウナさんと私は対等。
トップだったプレイヤーと対等、ずっと追い求めていただけあって、なんという甘美な味わいでしょうか。
次は、越える番です。
あやうくRIO猫バーガーENDになりそうだった。




