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吸血鬼VS殺人鬼 その1

 吸血姫VS殺人姫みたく捻りたかったけどこいつら姫ってより傲慢不遜な女王キャラだし……。

「勝って殺す……ねぇ……知的なキミらしく()()がある言葉だ。やれ正義だとかやれお前は悪だとか鳴く正義教狂信者(冒険者のアホ共)よりも話への興味がそそられるよ」


 ただの方便で唱えた言葉にやたら饒舌になって乗っかるとは、あまり上司にしたくない人です。

 まあただ会話を綴るのも意義のある時間かもしれないでしょう。


「いえいえ、全く深くはありません。将棋で喩えるなら、王将を詰ませればその時点で勝者が決まるような話です。私が行うはその延長線、負けを認めた孤高の王将の血を頂いて殺す、ということです」


「へえへえ、なるほど分かりやすい。殺すことこそ勝ちとしか標語にしてなかったボクと対極な存在ってアピールしたいのかな? 対局だけに、アハハハハーちょっと滑ったかもしれな……」


 相手の時間を私の手で破ります。

 ジョウナさんが上を向いて笑っている間をチャンスと判断し、音を消して駆け、大剣で下段から斬り上げて攻撃しました。


『せっこ』

『せっっっっっこ。(もちろん安定のRIO様的な意味で)』

『こやつビックリするほどやりおるわww』

『すまん今日のRIO様は理性飛んでたわ』

『RIO様は強いだけじゃない。正しく正気じゃなくなる上に強いのだ』

『だが……駄目ッ……!』


「ええ本当に、血気にはやっても反省点しか得られませんね」


 不意の一撃を食らわせるつもりだったのですが、ジョウナさんは私の剣を見てから一言も喋らず完全に躱し、こちらが近づいた分の間合いを稼ぎ、戦況をリセットさせていました。

 今のは愚断でした。下手をすれば強烈なカウンター一つで敗北してもおかしくはありませんでしからね。


「キミとは敵同士じゃなければ剣を置いてゆっくり話していられたのにな。でもキミはそんなに友人を作らないプレイスタイルだから叶わない妄想なのかぁ」


 不意の一撃を蒸し返す様子や焦る挙動も無しと。

 相手の回避能力と読みの速さをまざまざと見せつけられましたが、これはきっと序の口の序の口でしょう。



 ジョウナさんで最も警戒すべきポイントを選ぶとするなら、一つの街を瓦礫の山に帰す災害規模の威力を備える能力。あの様相となった第五の街という例があります。


 しかも断片的にしか能力の正体を知れていません。手札の数や内容が不明とならば不安ばかりが粘っこく纏わりついてしまいます。

 能力の実態を引き出させ、不安を解消しなければ積極的に戦うことさえままならなくなるので、序盤は下手に攻め込むよりは出方を窺い対策を考えるのが無難でしょうか。


「ふぅ……」


 肺から絞り出すように息を吐き、熱を冷ましました。

 過信や油断は禁物、スロースタート上等。啖呵がペテンになりますが、勝つよりも死なないこと優先とします。


「さてと、再会を祝してお手並み拝見、いざ勝負!」


 来ましたか。

 ジョウナさんが仕掛けたのは踏み込みからのダッシュ、やはり「消えた」と目を欺いてくる俊足です。標的以外を狙いにしないスマートな走りで、真ん前まで距離を詰められました。


「キャッホウ!」


 そのまま至近距離から剣技が放たれようとします。ですが初見の時とは違い、その場から一歩も動かずにいれば見切れる速度。


 これならば、ただ躱すよりも難しい事が出来そうです。


「……これで私の手並みは把握しましたか」


「へぇ、無駄に洗練されてるね」


 剣の切っ先をつまんで、横斬りを止めてみせました。


『やった! あのジョウナの剣を……指先で止めただと!? しかも刃に触れずノーダメージで!』

『すげぇ』

『動体視力覚醒してる』

『よし、ステータス差は縮まってる証拠だ』

『それに見ろ、同時接続人数もあり得ない勢いで伸びてるぞ』


 これで視聴者様にも力量差を見せられたでしょうか。

 こうやって観察に努めてさえいれば、ジョウナさんからの普通の攻撃は恐ろしくも何ともありません。


「ハハ、力が強い。離してくれないのかな」


 攻撃を止められてなお、目を見開いた笑顔とフレンドリーな態度を保つ。殺戮において右に出る者無しの大物らしさ満載です。


 とはいえ、抵抗しようと腕の力を無理に込めているのがよく伝わります。つまり力比べはこちらが上の可能性が高そうです。


「ならば、離してあげましょうか」


「おお? お」


 離すとしても、指先で剣をジョウナさんごと上へと持ち上げて離すのですがね。


 空を飛べない人間では宙に打ち上げられるだけで行動は大きく制限されるでしょう。さて、どう対処してきますか。


「ほいっと」


 飛んでいった方向に目を向けてみれば、蹴る場所もないはずなのに方向転換をし、こちらに斬る体勢へと入っていました。


 あの程度の不利を覆す手段はあると思いましたが、そこから攻撃に転じる手段もあるのは……ジョウナさんのことなのでこれも予感していました。


「そーれっ!」


 初撃を防ぎ止めつつ地の利を使って躱しましょう。

 剣が迫れば剣で返し、死角から迫れば剣の横腹を蹴ることではじき返します。


「いいねいいね、もう少し攻めてやれば崩れそうな絶妙にギリギリなガード具合。ほぉら重心がブレてきてる」


「きっ」


 ジョウナさんの剣、見かけ以上の重量が秘められているのが面倒です。

 第一撃目よりも重い、一つ受け止める毎に短い時間硬直してしまう威力と衝撃。


「……体を温めるにはうってつけの斬り合いですね」


 この程度、死に至らしめるにはいささか弱いです。


 攻撃の重みを増すならば、その都度力を少しずつ増して捌くのみなので。

 重心のブレについても足裏の踏みしめる面積を整えることで改善させたため、捌きながらも反撃する余裕が生まれました。


「内気なプレイだったのに順応してきてるね。それなりに褒めてあげよう」


「隙が丸見えです。そこっ」


「あ、かすり傷食らっちゃったっぽい」


 ダメージを与えられそうなら、欲張らず少しずつ着実に稼ぎましょう。


「よし、ここまでにしとこ」


 すると、まるで飽きたかのように攻撃が止み、ジョウナさんは再び間合いを取って元いた場所に走り戻りました。


 捌かれるならば徒労と解ったのか何だか、まさか勝負自体に飽きたのか、追撃をかけない様子が釈然としません。


 変化点といえば私の方にあり、右肩に液体の感覚が乗っていました。


「私の肩、完全には捌ききれませんか」


 痛覚が遮断されていると傷跡を見なければ気付けなくなるもので、浅くとも肩には切り傷が走っていたのです。

 ほぼすぐに治る軽症なのでいいとして、ところかわってジョウナさんの方へと目を向けてみれば。


「キャハ」


 剣に付着していた私の血に舌先で舐めとり。


「キミの真似」


 と、こちらに届く声量で呟いてました。


『?』

『?』

『キッショ』

『一体何をやっているんだ』

『猟奇殺人鬼ムーブか?』

『プッ(笑)お前なんぞがRIO様を真似るには百年早いわい』

『RIO様以上にわからんやつだった』

『何を今更』


 ……意図が解ったのは私だけかもしれません。


 これは挑発行為でしょう。それも明哲な人にしか通じない類の高度な挑発。

 「お前は手や武器に付着した血を樹液に群がるカブトムシみたく啜る低俗な吸血鬼なのだ」と言いたげで、ジョウナさんは煽り合いにさえ精通している一端が垣間見えました。


「お腹壊しますよ。私の青筋を立てたいなら演技力を磨いて出直して下さい」


 測り違いがあるなら、私が馬鹿とも賢人とも言えない平均的女子高生であり、小手先の口撃なんてどこ吹く風だと思えるプレイヤーだということです。


「なぁんかつれない反応。キミって配信者してる割にはノリが悪いというか質実剛健っていうのかな? な性格だよねぇ」


 そんな評価を下しながら、舌についている少量の血を苦そうにぺっぺと吐き、その後は無地のハンカチで剣を拭いていました。

 これを見ると、シリアルキラーぶった表面に反した常識的な人間性を窺えます。


「ああそっか、ギャップ萌えの支度か。あの唐突なメスガキとか観ていて腹筋崩壊したしさ、ああしたオタク向けのギャップ萌えは狙ってやらなきゃ恥ずかしくて出来っこない」


 ……さてこのジョウナさん、死神とか殺人鬼だとかの第一印象からかけ離れてゆく行動の目白押しで、どうにも親しみが湧いてしまいやすい人柄です。

 まるでG(ジェノサイド)ルートの先駆者から手ほどきを受けている気分になります。


 だからこそ、勝って殺して踏み超えて、永遠に隠居願いたいものですがね。

 実はネット小説大賞に応募したけど二次どころか一次に落ちていたんです。

 自分の実力に疑いを持ち始めている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しんでるよ此方は? まぁ審査した人が嗜好合わなかったのでしょう。 くらいに思ってないとやってられませんぜ。
[良い点] 最新話ありがとうございます! でもちょっと遅れた!すみません! [一言] 少なくとも自分は書籍化したら買うくらいには好きです!自信を持ってもいいと思いますよ!少なくともここに一人、あなたの…
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