意地の汚い一人&Aランク一位 襲来
思ったよりも執筆期間伸びてしまった。
これからも伸びるかもしれない。
『もう五人やったった』
『強過ぎィ!』
『この戦闘民族、汗一つかいてねえ……』
『流石は俺達の希望』
『あいつらの無敗伝説をこの一戦で途絶えさせたRIO様よ』
『マジでか、マジで勝てちゃったのか。ガクブル』
『いやまだ一人生きてる。こういう奴ほど最後っ屁に何しでかしてくるか分からんゾ』
彼こそが、終わりの始まりでした。
良く言えばパーティの縁の下なのに、最初不意討ちを仕掛けるチャンスを自分で潰してはわざわざ先手を譲り、仲間が力尽きても傍観しては怠けると愚断の連続。
よって彼以外全員が犬死にという最期を迎えたのです。スキル封印状態は解け、糸も全て消滅し、HPを減らされた分は冷たくなっている血を得て満タンの二倍まで戻しています。
しかし彼とて序列七位、窮鼠猫を噛むことがあるかもしれないため、コメントから頂いたアドバイスの通り油断なりません。
「どうしてあなたがここまで何もしていないのかを当ててみましょうか。口ばかり達者なだけで戦闘能力はからっきし、私に一撃だけでも食らわせる力が無いからですかね?」
「クソッタレめが。【Aランク序列七位・コニーバット】」
「その通名宣言はもう耳にしました。図星をつかれて動転している証拠ということにしときましょう」
「あっ! クソクソクソクソ!」
探りを入れて質問してみた結果、すぐに口を滑らせてくれました。強さを隠しているとかではなく、彼だけ本当に弱いそうです。
これ以上語る言葉は無いのでサクッと始末して先に進みましょう。
それにしても、戦闘中何もしないような冒険者が序列七位にまで上り詰められるものでしょうか? いえ、彼への考察は無駄なので止めると決めたばかりです。
「……やった、やったぞ。ヘッヘッヘ、へへへへへッ。へーッヘッヘッヘッ!」
「む?」
突然、この序列七位さんが狂ったような笑いの三段活用を放っていました。
こちらを揺さぶり返そうとするならあまりにもお粗末で、恐怖で精神が壊れたにしても表情には驕りの色があるのが非常に不審な点です。
「残念だったな、お前はもうおしまいだ。なんせAランクの序列一位【アノカタ様】が、オレのところに急行しているって連絡がやっと入ったからよぉ!」
その顔は、まさに勝利を確信し酷薄に歪んでいました。
Aランクの序列一位の冒険者……Aランク内の上位でパーティを組んでいるのに何故かいない不自然さが解消されました。
思えば彼は戦闘開始時点から仲間の方へ口出しや見向きすらもせずにいましたが、本当に戦う気がサラサラ無かったわけですか。仲間達が死力を尽くしている裏で、自分は連絡係……にしては誰も序列一位の援軍の存在を仄めかす発言をしていないような……。
「アノカタ様は、まさにチートもかくやな出どころ不明の強さを誇る。お前なんか相手じゃ、道端のゴミと一緒でしかねぇと思うがなぁ」
「そうやって大言壮語を吐いた冒険者ほど、私の前で倒れ果てましたが」
「言っとけ言っとけ、アノカタ様が到着なさりゃそんな口叩けなくなる。しかしまぁ、あいつらがあんま粘ってくれなかった時は焦ったが、これで落着だ。圧倒的な強さは何者にも勝る安心感があるからなぁ」
ええ確かに、身の安全やそれなりの地位を保証してくれる強者の庇護下に入れば安心感を得られますが、ならば先に散ったこの人の仲間達はどうなるのですか。
この人の言い草、あの彼女ら五人をまるで他人事にするかのようです。
「一応聞いてみますが、まさか援軍の件を仲間達に話していなかったりしたのですか」
「じゃあ死ぬ前に教えといてやる。もし話したとして、粘るためにオレを犠牲に捧げる立ち回りしてくりゃ、オレがナンバー2のポジションに来れなくなるだろぉ?」
「と、言いますと」
「一番強い奴だけが生涯の友、尊敬に値する屈指の正義だ。そうとも、オレにとって自分の命を投げ捨てられるのは、粗悪品のハーレムじゃなく硬い友情で結ばれたアノカタ様だけだからなァ!」
嗚呼、段々とこの人の本質が判明してきました。虎たちの威を借ってばかりな他力本願の権化だと。
しかも武功を立てているのは仲間達の方なのに、その戦場に立っているだけの自身も強いと勘違いする類の人間。そしておべっかを使い強い者へととっかえひっかえしてゆくコウモリ気質。
こんなのが総勢三千人以上を内包するAランクの七位に在籍する辺り、序列の指標が謎に包まれてますね。
『ということはわたし達には命がけにならないってこと!? わたし、勇気を出してがんばったのに!?』
『お前さん言ったよな、誰かが沈んでも生きてる奴が思いを引き継ぐってよォ。ありャただのフリだったわけか』
『ほんっと最悪。こんな寄生虫の口八丁に騙されてたアタシが馬鹿みたい』
『心底見損なった。地獄に落ちてしまえばいい』
『しねにゃ』
何故でしょうか、先に散った冒険者達の怨嗟の声がコメントを通じて届いたような気がします。
絆や奮闘を全否定するような発言をされては同感しますが。
こんな不幸をばら撒く生物は、生き恥を配信されるより速く、血液を一滴残らず吸って絞りカスのカスのカスにしましょう。
「おっと待て、このオレを殺したところで何の解決にもならん。却ってアノカタ様を怒らせる材料になるだけだと忠告するぜぇ」
はぁ、本人もそう言ってるようなので解決ではなく憂さ晴らしで始末します。
同時に序列一位の人の襲来に備えて《血臭探知》で周囲をくまなく索敵もしましょう。
近くとも第六の街の門から反応、高速で接近している者が一人。
「……っ! この血臭は……!」
反応した先をより深く嗅ぎ分けてみれば、レベルがカンストの域までたどり着いている事が、遠距離からでも正確に分かりました。
「おっ、気づいたか、気づいたなぁ。そういやお前には探知系のスキルがあったな。やばい冒険者が刻一刻と向かって来ているのが感知しちまうなんて、可哀想になぁ」
記憶へ鮮烈に残ったこの血臭、一度嗅いだら二度と忘れるはずがありません。
思わず彼から瞬時に距離を取ってしまい、鼻元を手で覆う程の衝撃。
あまりにも強烈なあまり、鼻呼吸も一旦止まってしまった程の殺戮者たる血の臭い。
「足音を聞いただけでブルっちまって、カッコ悪いぞヴァンパイア」
すぐそこまで迫れば、改めて判るものです。
彼女こそが、そんじょそこらの正義の冒険者達とは強さとしての次元が違うことを。
「ほれほれどぉしたゴミナス、しょげってないで減らず口で言い返してみろよ。アノカタ様に面と向かってな!」
「その人ってさぁ、ひょっとしてこれのことだったりするかい」
「お、えっ?」
襲来した者の手が持っている物は、規制によって大部分が黒く塗りつぶされている生首。
それをゴミ箱に入れるような軽さで放り投げられていました。
『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ』
『ド ド ド ド ド』
『来た来た来たァーっ! あいつがキターッ!』
『BWO界の生ける災厄、降臨』
『俺達の絶望』
『まっずい、先手取り損ねたか』
『あ、A1位アノカタ様の頭がコロコロと……』
生首からの血臭で入手した情報では、Aランク序列一位さんは決して弱くは無いことが窺い知れました。それでも、この相手には無傷で斬り殺せる雑魚でしか無かったのが一目で想像に難くありません。
「ア、アノカタ様? え、なんで首だけになってんの? てか、ジョウナは追い払ったんじゃ……」
「ショウッ!」
「アノカタさああああああああああ!!」
短い掛け声とたった一振りの剣技で、序列七位さんは八つ裂きにされてしまいました。
犬死にの屍が一つ増えた代わりに、この場で立てているプレイヤーが二人きりになったところで、先日辛酸を舐めさせられた宿敵、ジョウナさんは私の方へと振り向きました。
「ねぇ、もしかしてこれキミの獲物だった? 横取りしてごめんねー」
「私の獲物であっても私の所有物ではないので気にしません。ですが、こんばんは、やっと会えましたね」
「こりゃご丁寧に、ごきげんよう。やっともなんとも、キミに勝ちたくて仕方なかったから会いに来たんだぁ」
あの日とどこも変わらない態度に格好。表向きの変化は無いようで懸念感は少なくなりそうです。
何せこちらは、あなたと渡り合うための実戦を短時間ながら積んで進化を果たしたので、対面してみれば不思議と恐れが消えて無くなっていました。
もし私に憂いがあるとするなら、この一戦が終われば再戦の機会が二度と訪れなくなるだろうという点に尽きます。
負けっぱなしは避けるべき事項。挑んで勝つことが叶う時は今日だけだからです。
「あの時なんか死んでも逃げるしか頭にないひよっこだったのに、今のキミはひと皮むけたって目つきになってるよ。でも二度も逃がさないけど」
「二度も逃げるつもりは毛頭ありません。"そちらの方が逃げ出したくなるほど存分に相手をして勝つ"だけが頭の中にあるので」
「そうそれ、神も魔王も主人公も殺せそうなその目つき、アッハハ、堪らない……。ま、そんなになって死ぬまで戦う気があるなら――」
勝利を渇望する目つきで呟き続けるジョウナさんの剣の切っ先が、ついにこちらへ向けられました。
「殺して勝つ」
「勝って殺します」
大剣に変形、正眼の構えで揚々と宣戦しました。
時刻は0時。サービス開始三周年の今夜、どちらがこの世界の脅威になるかが決まる戦いを、全力で盛り上げましょう。
こんな時でもお腹痛い