難関のAランク最上位&一人また一人
RIOに殺された猫
(2021.9.12)第95部にどうでもいい話追加
『おーっと! RIO様お得意の残酷斬りで開戦のコングが鳴ったーッ!』
『無言で急に走って急に攻撃するコミュ障ムーブも、やる人次第でこの怖さ』
『ジョウナ戦控えてるだけあって気合十分』
『でも出合い頭の時だけは対話してただけ理性ある方ゾ』
『なんだ、いつものRIO様か()』
『おもしれー過ぎる女』
たとえエリコをダシにしようとも私が冒険者ギルドなんかに降伏するなどありえません。
認められないならば、徹底抗戦あるのみです。
「なによ……なんなのよコイツ……」
「いやああっ! ねこちゃんが! ねこちゃんがぁぁ!」
「う、うろたえてんじゃねェ! RIOが相手じゃ誰か一人は必ず沈むって腹括っただろ!」
仲間のあっけない死により、冒険者達は先程までの強腰な態度を忘れて狼狽しています。
やってみれば飼い猫並みに温い序列五位の冒険者でした。こんなにも簡単に斬殺出来るのなら、相手の仰る通り侮りたくもなるでしょう。
「一人は必ず沈むとは、まだ勝てるつもりでいるのですか? 全員纏めて死ぬのですよ」
「良くない風向き。ここは私が先陣を切るしかない!」
二人目を誰にするか決めようとしていたら、即座に動揺を立て直した冒険者が一人、トンファーを構えて駆けてきました。
「逃げずに向かって来ますか。では二人目はあなたになるしかありませんね」
射程距離に入る直前で大剣で喉笛を刺突して仕留めましょう。
としましたが、突き刺す寸前に目を塞ぎたくなる強烈な暴風が吹き、攻撃対象の姿が溶け込むように消えていたのです。
「風は不可視。今こそ一体となりて、この血染めの地にて吹き荒ぶ!」
声が右から聴こえたため右に剣を振りましたが、人体に命中した感覚がありません。
「鈍い。ねこねこを殺せて侮ったようだけど、次に侮るのは私達のようね」
「むっ」
確実に居るはずなのに、声が聴こえた方向へと剣を振っても中々当たらず、うっすらとした姿は必ず死角から現れます。
彼女は回避盾らしき役割でしたか。右へ向けば左に、左に向けば右へと舞い踊るように移動し、トンファーキックやかまいたち現象を織り交ぜ継続的なダメージを与えてくると、ストレスが溜まりそうな戦法で仕掛けてきます。
「あーらよっと! 《縛り針糸》!」
手こずっている間に一人動揺から覚めていました。
九本の細い糸が編み縄のような形となって暴風の中降ろうとしてきたため、一時攻撃対象を糸に変えてはたき落とします。
「ウッシャア! 一本右腕に命中!」
「これは計算の内でしたか」
彼女の糸をよく見れば指先からそれぞれ一本ずつ伸びており、その内小指の一本だけはこちらの視線を掻い潜る複雑な軌道を描き骨ごと貫通していました。
十本中九本をデコイにするとは、見かけによらない武器から見かけ通りの思い切った戦法です。
特に厄介なポイントが、ただ刺されただけの右腕が雁字搦めに拘束されたかのように固定されている所に尽きます。
「この場に留めておくつもりなら、一秒の時間稼ぎにもなりませんね」
刺突力は高くとも強度はただの糸相応そうなので、直接掴んで千切り捨てました。
「チッ、これだから人間じゃない生き物相手はちょっとばかしやり辛いねェ。次いけ次!」
「《ピピッとスキル封印の矢》! 頼んだわよ辻風!」
「任せて!」
おやこれは。風向きが変則的になったかと思えば今度は肩に一本の矢が命中していました。
動揺から覚めたAランク四位さんは弓矢が武器なのは予測していましたが、現在も巻き起こっている暴風が矢の軌道を自在に操るため回避が困難でした。
状態異常欄には《全スキル封印》の文字が。都合の悪いことにブレイクスキルとて例外ではありません。
「効いたわ! RIOはLUK値がまだまだ低い、状態異常は有効よ!」
「よォーーーしお手柄だぜピピットよォ。そんなら次の糸には壊死毒でも塗りたくってやろうかァ」
そう冒険者達が顔を見合わせない些細な会話をしている間にも次の矢が引き絞られ、糸は重力を無視して生き物のように泳ぎ、竜巻の殺傷性も段階的に増しつつあります。
この戦況を文字にするなら『選択肢は有り余るほど多いが、"最善の選択"が仲の良い波状攻撃によってかき消されている』と言った感じです。
「なんだ、楽勝そうじゃんか」
それにしても、あそこにいる序列七位さんは未だに直接戦闘に加わらないままで一体何をしているのかが見当もつきません。
腕を組んでいるだけとは裏腹に作戦の下準備をしているようでもあり、本当に何もしないでいるようでもある。そのせいで序列三位さんが実質的な司令塔になっています。
「いッたれ武女子! 今ならメタクソにのしてやれるぜ!」
「はいっお姐さま! ちぇすとおおおお!」
これはしたり、あのリーダーぶった置物を考察してるあまり敵の接近を許すまでに惚けていました。
のっしのっしと大地が響いたかと思えば、序列二位さんが走りながらハンマーを上段に構えていました。
しかしハンマーの振り下ろしは赤子でも躱せそうな鈍さでしかないため、スライドして躱しましょう。
実際DEXが低過ぎるみたいなため、鈍重なハンマーは全く軌道変更出来ず地面へ激突していました。
「っ、なんですかこの威力。きいっ」
耳がつんざかれる轟音と肌さえ持ち上がりそうなほどの風圧。
完全に躱したはずなのにHPが多く削られる衝撃波を受け、体は宙へと高く放り出されていました。
「ひぃぃん! すみませんすみません! わたし、STR評価が『SSS』だから制御出来ないんですうぅぅ」
流石にAランクでも序列二位。別格の中の別格なSTR評価ならば、この隕石衝突クラスの威力も納得というものです。
てすけど、当然の責務を全うしていてどこも悪いところなんてないのにどうして敵である私に対して謝るのか。こうした人間ほど痴漢のターゲットにされやすいのです。
ともあれ、吹っ飛ばされてくれたおかげで戦況はかなり好転したと見て良いでしょう。
ここにはちょっとやそっとでは折れない大木が立ち並ぶ森林地帯であるため、ヴァンパイアロードの脚力を抑えずに利用可能です。
「さて、闘いはこれからが本番です」
吹き飛ばされた先にあった木に爪を立てて掴まり、そこから蹴って手頃な木へと掴まります。
「ふっ。はっ」
武器変形の待機時間を稼ぎつつ、また別の木に飛び移り、それをひたすら繰り返して加速します。
「コイツ豹かよッ!」
「まだまだ、もっと速くなくてはなりません」
なるべく加速し、なるべく立体機動的な動きを心がけ、足が何かに触れた瞬間に蹴り、冒険者達との距離を引き剥がしながら森の中を跳び回ります。
「やばいわね……こんなに速くちゃ狙いが定まらない」
「速いのは配信動画で重々承知だったけど、まさかこんなにも速くなるだなんて……!」
やりました。そろそろ相手側は目で追えなくなってきています。
それに纏わりついて離れない暴風との距離が大分遠のいたため、序列六位さんの半透明な姿がどこにいるかが一目で把握出来ます。
一息の内に接近し仕留められるチャンスの到来です。横の移動から直線の移動に変えましょう。
「うぐ……!」
「風を捕まえました」
暴風を上回る勢いをつけて突っ切り、序列六位さんの首を握り締められました。
酸欠の魚のように口をパクパクして能力を使う余裕が無くなったらしいため、舞い上がる草葉や煩わしい風の音も止んでいます。
「生憎ながら吸血スキルが使えないので、その首から流れ出る血は溢すしかありませんね」
何だか自分でも何を言っているか理解出来ない事を言った後、掴む手はそのまま爪で肌を大きく裂いて血が溢れるようにします。
「は……早く助けて……!」
「《乱れ毒死糸》!」
「《ピピッと両腕封印の矢》!」
悠長に苦しめている場合ではありませんでしたね。
状態異常の抵抗力がほぼ無いので、躱せる状態異常付与の攻撃はできるだけ早く躱すが吉です。
「おい辻風!? バッキャロォーー!!」
すぐ頸動脈を極めて殺した序列六位さんの死体を封印の矢に投げて盾とさせ、毒々しく光る糸には変形済の槍を回転させて全部弾きます。
風さえ落ち着いてしまえば、予測しやすく躱しやすい軌道でした。
「つーちゃんがぁ! どうしよどうしよおぉ……」
序列二位さんは意志薄弱な一発屋みたいなのであれから動かないまま。ならば三人目に選ぶ冒険者は……。
「ちょっと! あんたさっきからなに間抜けみたいにぼーっとしてるのよ! 殴るだけでもいいからさっさと手伝いなさいって!」
うん? 序列四位さんは弓を引く手を止めてリーダー(仮)さんにキツく物申しているようです。
「う、うるせぇ! オレは後ろから手伝ってるからお前らだけでやれって!」
「辻風までやられたのが見えてるの!? だから今からプランBに変更よ変更! さっさと行きなさいってば!」
「は!? こ、このオレに死ねって言いたいのかよ!?」
愁傷なことにどうやら言い争いが白熱してしまっているようです。これはもうまたとない絶好のチャンスと見て良いでしょう。
「そういう空気読まないところが嫌いってみんな言ってるのよ! あたしの方が序列上なんだから緊急事態時の指揮権はあたしにあるんだからね! ガッ……!」
「三人目」
走る勢いを相乗した槍を投擲し、序列四位さんの顔面を貫いて刺し殺しました。
あと半数です。この調子で全滅させるため槍を引き抜きます。
「し、死んでる……」
「どいてろ大将! 大技の準備はたった今済んだばっかりだぜェ。全ての糸をこの手に《縛り針千本糸・完全全方位Ver》!」
すると早速新たな動きを見せた序列三位の人が、かき集めた何百もの糸を広範囲に展開し、四方八方から降らせたのです。
「この密度では到底躱せるはずがありません。だとすれば……」
逃げ場なく取り囲まれ、木々の景色が塞がれる量の糸には槍をどう回転させようが全部防ぐのは不可能。だったら防ぐのは大人しく諦めます。
「全部位にヒット! RIOはもう磔の案山子だ!」
握る力を失い槍は一回転して地面に突き刺さり、私の全身は貫かれ束縛されてしまいました。
その上、後ろから地響きの鳴る足音が近くまで迫っています。
「今だ! 殺れッ武女子!」
「はいです! てえええええええええ!」
……始め、彼女らが耐久戦で挑むかと予想していました。しかし、実際はむしろ短期決戦こそが狙いであるパーティ編成だったのです。
振り抜きが遅かろうとも命中率が悪かろうとも、動かない的になってしまえば関係なくなってしまいます。ヴァンパイアロードの攻撃力を遥かに超えるあの一撃必殺の技を食らってしまえば昇天です。
ですがあと少しだけ、ほんの少しだけこのままで待ちます。布石はもう打っているので。
「いやヤバい、何かがヤバいぜ武女子! すぐ戻れ!」
全身を糸に貫かれる寸前に私がとった行動、それは槍で右腕を切断し、全部位に命中したかのように偽装したのです。
全部位に命中したという言葉の意味は間違いでこそないのですがね。
「あ、あれ? 腕が二つ……じゃない。こっちの腕に糸が刺さってない!?」
よって新たに生えた右腕は何不自由なく動かせ、地面に刺しておいた槍を掴めます。
「四人目」
「へぶっ……!」
真後ろで攻撃モーションに入っているであろう序列二位さんに突きの一閃を放てました。
稀有で明確な長所こそあれ、折角策に気付けても逃げ足が遅いほどステータスが偏った冒険者でした。
それに右腕だけで序列三位さんは葬れます。
「ブジョシッ! お、おわわわわ!?」
突きささっている糸を纏めて手で掬い、引っ張り上げて一本釣り。
彼女は糸を操作するために指先と繋げているのでいとも簡単に空中に打ち上げることが出来、回避や抵抗をする術を封じさせたまま間合いに引きずり込めます。
「五人目」
「みんなッ! すまねェ……!」
本当にまともな行動の取れなくなった方はどちらか。槍を持ち直して急所をよく狙い澄まし、串刺しにして終了としました。
彼女らは、ランクや序列の尺度では決して測れない難敵でした。個々の特殊な能力や仲間意識の高さからくる卓越したコンビネーションは羨ましさすら感じます。
そこにいる残り物を除いてですが。
「ひえええええ……。どうしてこんなことになるんだ……」
「あと一人、無能の一人です。最寄りの街かギルド本部か、時間をかけずパーティメンバー達の待つ場所へと送ってあげましょう」
百話超えました
お腹いててです