狙撃戦&肉弾戦
このゲームにおいて不遇はいない。
ただし、上澄みのプレイヤー達から優遇されるかどうかは話が別である。
よってRIOは不遇(暴論)
「ウガアアア!」
「アグウッ!」
垂れた蜘蛛の糸に捕まりたがってるかのように眷属達が我先へとネームドエネミーの真下に群がっています。
主に仇なす敵性と認識してるようですが相手は飛行能力を持つ有翼悪魔、遥か上方で滞空しているためにまるで手出し出来てません。
それどころか鉤爪から放たれる気弾のような長射程の攻撃に眷属達が一体ずつHPをゼロにされて消滅していました。いたずらに離脱者が増すばかりです。
「攻撃力もさることながら、対空攻撃手段を習得していなければ土俵にすら立てませんか。相性が悪い相手ですね」
『RIO様ナイフ投げろ!』
『頑張って跳べ!』
『正々堂々の勝負を申し込め!』
『無茶言うなよ』
どのコメントも妥協案にすらならなさそうですね。
特に唯一の武器である短剣を投擲した所で命中しなければそれで仕舞い、攻撃を捌いて身を守れる獲物を失うだけの悪手です。
空を飛べない種族の定めを恨むしかなく、視聴者様には詰みかと思われる状況ですが。
「ええい鳥獣もどきめ! RIO様に指一本触れるでない!」
ギルドマスターが片手銃を標的に向けて乱射していました。
そうです、私の従者には銃の使い手であるギルドマスターがいましたね。
視聴者様の積極的な情報提供のおかげで彼の参謀としての価値が暴落してましたが、はっきり言ってしまうとこうした不測の事態へ備えるためだけに味方に引き入れたようなものですから。
しかしダメージがほぼ通っていませんね。
まあ小銃の弾丸ごときで終わってしまうならネームドエネミー戦は誰も苦労しません。
もっとも、他に有用そうな銃があれば話は別ですが。
「ギルドマスターさんにお願いがあります。どんな欠陥品でも構いませんので、所持している中で最も火力の高い銃を使わせてくれませんか」
冒険者ギルドから出払う際、コレクターでもある彼が引き出しから様々な銃を荷物にしていたのを目視しましたので。
「銃ですと!? いいえこやつを撃ち落とす位RIO様のお手を煩わせる訳には……」
「聞き逃していたのならもう一度言います。最大火力です。最大火力を誇る銃を貸して頂きたいのです」
「はいっ! 火力のみを最優先とするならこのルナティックガンしかないのですがこれには……わっ!」
萎んだように縮こまっていたギルドマスターから、コンパクトサイズのハンドガンをすぐさま取り上げます。
この銃身なら平均的女子高生の私でも難なく扱えそうですね。
すぐに決行し、月明かりの下にあるディアボロへ肉眼で狙いを定め、まずは練習を兼ねて一回だけルナティックガンの引き金を引いて発射しました。
「ふむ、勿体ぶった割にはごく不自然ではない銃ですね」
最大火力に違わず、爆音に並ぶ凄まじい銃声が響き渡りました。
弾丸は左翼の膜に命中、ハンドボール大の穴が空いています。
それでもHPゲージがあまり削られていない辺り、想定以上の行動で応じねばならないほど並外れた力量を持つエネミーですね。
『RIO様のちいさいおててが……!』
『ルナティックガンとかいう諸刃の剣』
『手マ崩壊』
『吸血鬼でなければ致命的だった』
視聴者様が私の手を労っているようですが、はて。
銃を握る右手へ視線を落としてみれば、それぞれ指と指の間が手首までザックリと裂け、裂け目からは鮮血が滴り落ちてしまっていました。
感覚は殆どなかったのですが、右半身がのけ反ってしまうほどの反動があったような無いような。
五感の一つが遮断されているのも考えものですね。
「RIO様にルナティックガンを使わせてしまった! これでは申し訳が立たぬ!」
「いえ、どこまで欠陥品なのか懸念していましたが、これならデメリットの範疇になりませんね」
どうせ自動再生で治ります。
即座に構え直し、標的が直線上に届くと感じた瞬間に二度三度と連射させます。
その度に反動を受けつづける右手は目も当てられないほど凄惨なまでに崩れますが、握れるだけの形を維持できなくなれば左手に持ち替えて連射するのみ。
度重なる被弾により旋回して躱そうとしていたディアボロでしたが、淡々と撃ち抜いたおかげでようやく両翼へのダメージの蓄積によりバランスを失い大地へと墜落しました。
お互いのHPゲージはそこそこ減っています。
『やったぜ』
『アクティブぅ!』
『この手際の良さである』
『まさかの空中戦に地上から勝利する奴』
『地面にまで引きずり下ろせたな』
『第一段階クリアってとこか?』
遠距離攻撃の命中率に影響を及ぼすDEXが高評価な吸血鬼は、銃の扱いでさえ造作もないようです。
それまで肉壁となってくれた眷属達の部隊は壊滅的な被害となりましたが、一刻一秒を争うこのネームドエネミー戦では弔っている場合ではありません。
ある程度両手が回復した後に短剣へと持ち替え、ニヤリと口角をつり上げたディアボロへと単身切り込みます。
「ここからは私のみに任せて下さい。はっ」
眷属達を退かせ、相手の攻撃手段を奪うため脇腹から肩にかけて袈裟に振るいました。
「硬い」
ところが、ディアボロの強靭な肉体へはまるで刃が通りません。
見かけによらず案外防御寄りのステータスのようですね。
なお体格差では半メートル強ほどディアボロが勝っていたため、なるべく小回りを活かした戦法を是としたいです。
「む」
攻撃の手を緩めた途端、気弾のカウンターによりみぞおちに風穴が空きました。
女性のお腹を狙うのは癪ですが、どちらにせよ治るので些細な問題です。
次は踏み込みと両手の力を込めて斬り上げます。
片手の筋力で駄目なら全身の力を一つにして行使するのみです。
「ふむ、これも効果が薄いですか」
膂力を集約させようとも部位破損は厳しいようでした。
それよりかは、初心者用の短剣では上級エネミーに歯が立たないのは然りでしたね。
次の一手へ繋げる案を頭に巡らせている間に、今度は胸部に強烈な引っ掻きの一撃を貰っていました。
『ぎゃああRIO様のパイ乙がああ』
『↑へんたいあらわる』
『お前らちゃんとRIO様を応援しろ』
はぁ、エリコはこんな欲求不満なる方々に配信しているのでしょうか。
不思議なことに、このBWOは衣服の腹部や脚部はまだしも大事な部分だけは裂かれようが頑なに露出しないようです。
「刃が届かないならば、肉弾戦に切り替えましょう」
握っていた短剣の柄を牙に食い込ませて口枷のように咥え、無事両手が自由になってから眼球への殴打、脛への膝蹴りなど手法を巧みに切り替えて着々とHPを削いでいきます。
自分の身を顧みるような思考はもう捨てましょう。
「ふぅ、まだ終わってくれませんか」
やはり格上なだけあって途方も無い耐久力ですね。
ディアボロの攻撃パターンは鉤爪から放たれる気弾か格闘術を中心とした物理攻撃の二つ。
向こうも負けじと私の腿を横蹴りで粉砕し、自動再生するより先に眩い閃光の迸った気弾が頬を掠め取りました。
格闘の応酬をとり行う両者に防御の選択無し。
ディアボロの防御力に綻びが顕れるのが先か、こちらの再生体質が機能しなくなるのが先か、互いが感じとった厄介な能力の奪い合いへと戦法が固定されていきました。
「っと。よもや平均的女子高生の私が血溜まりに足を取られかけるなんて、情けないです」
こんなケアレスミス、視聴者様への格好の笑い種となってしまうでしょうか。
『なんかRIO様だんだん再生力落ちてってね』
『体抉れまくりでよく動けるわ』
『もうズタボロだぞ』
『まっかっか』
『思考停止の殴り合いだぁ』
『流石に焦って……ないなRIO様』
これはこれは、戦闘に没頭するあまり衣服が自分の流血によりずぶ濡れになっていたことに気づきませんでした。
ですが視聴者様に心配されるほど激的な危機ではありませんよ。
確かにこの現状だけ見れば敗色濃厚かもしれませんが、仮に力及ばず倒されたとしても別の場所から再スタートできるのですから。
『でもなんかかっこいいよ』
『本当にすげぇよな。劣勢なのに堂々としすぎて優勢だって思える』
『血化粧が似合う女No1』
『傷ついて欠損する度に映えてゆく素敵な御方だ……』
『表情がテコでも変わってないからもう惚れそう』
『ちょいちょい性癖の扉開くなや』
『こんな人なら悪役ロールプレイでも着いていける』
『むしろ着いていきたい』
『配信初日だよなこれ、もう視聴者を虜にしてるぞこの人』
これはめでたいです。一瞬だけカメラへと目を向けてみれば、同時接続数が4桁にまで膨れ上がっているではありませんか。
ですけど、敗けたって良いではないですか。
これは現実の体には何ら影響を及ぼさないゲームなのです。
たった一回の敗北で多くの視聴者様が離れたとしても、根強く残ったファンを厳選出来る機会にもなります。
デスペナルティの経験値減少により最終目標であるトップへの道が遠のいてしまいますが、別にタイムアタックを志しているわけではないのでその時はその時です。
コメントに表情の抑揚が無いだの焦ってないだのと指摘されていましたが、仮想世界の私にとっては「敗北や死なんてどうでもいい」が最大の理由として答えられますね。
もっとも、それと勝利を諦めているかとは完全に別ですが。
まだまだ更新




