とうろうのうた
ガチャガチャの500円するカマキリ見て考えました。
「おとうさん?なんだそりゃ」
「だから。本に載ってたんだ!にいちゃん!」
ぼくは最強の女戦士でもある綺麗なおかあさんがいる、たくさんの兄弟のいる家に生まれました。
おかあさんはとても強く、それでいてからだがとても大きいので戦士としては最強です。
あらゆる敵をその手に握った武器でなぎ倒し、武器が効かない相手がいれば、その手で仕留めるくらいにはとても強いです。
おかあさんがいるおかげでしゅうらくはうるおうので、ぼくらがくらしているおうちはしゅうらくのひとたちのゴコーイでとても大きくなりました。
ぼくがいまおにいちゃんのアグにいちゃんにみせているえほんも、しゅうらくのひとたちがくれたおかねでかったものです。
アグにいちゃんとぼくにはとしがちがい、たくさんいるきょうだいのなかでいちばんさいしょにうまれたこともあり、アグにいちゃんはぼくにほかのおにいちゃんやおねえちゃんにもたよりにしてもらってて、ぼくのじまんのおにいちゃんです。
「母さんに聞いてみろ。俺はいま忙しい。明日の狩りをせにゃならん」
「えー。そんなー」
ぼくはほかのおにいちゃんやおねえちゃんとちがい、まだ戦いに出ることができません。
おにいちゃんやおねえちゃんは最強の女戦士なのでおかあさんがせんせいになって、たたかうわざをおしえているんですけど、ぼくはまだおしえてくれないんです。
おかあさんはいまはたたかいをやめ、おにいちゃんたちが武器のおおがまを持ってえものを狩りに行き、魔物退治しています。
なので、いまはおにいちゃんはそのじゅんびをしているんです。
おかあさんやぼく、ほかのおにいちゃんやおねえちゃんとそっくりなかれはいろのかみにほかのおとなになったおにいちゃんたちとどうようにからだにもようがはいってます。
かおはきれいなおかあさんにそっくりなので、むらでおにいちゃんがすきじゃないおんなのひとはいないかもしれません。
「ラグ。いい子だから、な?今度、弱い魔物を狩りに行こう。にいちゃんが教えるから、お前は最強の戦士になれるぞ」
「ほんと?約束だよ?」
「おう。アグにいちゃんとラグの約束だ」
おにいちゃんがぼくの頭をなでてくれます。
おにいちゃんはとてもつよく、ぼくをかかえながら、魔物を蹴り飛ばしたり、空いた手で魔物を切り飛ばします。
たたかうのをべんきょうするには最強の戦士であるおかあさんやアグにいちゃんからべんきょうできたら、ぼくも最強になれそうな気がします。
かおにちがかかるのはにいちゃん風に言うと、まじかんべんです。
**
ラグは母親のライカの部屋に訪れました。
ラグの母親のライカは枯れ葉色の髪をした色白の女ですが、背が高く、足も長いので負け知らずなのに美貌の女の人でした。
「ラグ。ああ、ラグ」
「おかあさん!」
ライカはラグを抱きしめます。
他の子供達と違い、ラグはまだ幼く、そして亡くなった夫のように笑うのでライカはラグを子供達の中で自分が亡くなった後の先を案じてもいました。
集落にも信頼される長男のアグが他の子供達と連携をとり、様々な魔物たちや対立する部族を倒すものだから、女戦士ライカに並ぶ戦士“団”として有名になっていました。
「ラグ。かわいいラグ。どうかしたの?」
「あのね、おかあさん。おとうさんってしってる?」
「ええ、もちろん。よく知っているわ。けれど、それはいずれ知るものだから、いまは知らなくていいんじゃないかしら?」
抱きついてきた小さな末っ子を優しく抱きしめながら、ライカはラグの髪を触れます。
夫がなく、それでいてたくさんの子供達を抱えたライカでしたが、美貌は色あせることがなかったので求婚されることもありました。
しかし、求婚にきた男はみんなライカとライカの子供達を前にした時は圧倒されてしまい、ライカの命令で子供達の誰かと一騎打ちをし、どの男も倒してしまうのでした。
ライカは言いました。
『もう男はいいわ。いまの幸せはこの子たちの自立』
日に日に衰弱していくライカにはあまり時間がありませんでした、そのために自分の幸せよりも子供と過ごす時間を選んだのです。
「そうかな。でも、ぼくしりたいよ。ね、いいでしょ?もっとまもののフワケのおてつだいするし、いうこともよくきくから。おにいちゃんおねえちゃん、おかあさんのことも」
ライカたち一家は多くの種族の中でも特殊な種族でした。
そう、彼らの親子というのは、母親とたくさんの子供達だけで父親という概念が存在しないのです。
ライカは自分と床を共にした男のことはもちろん覚えていますが、ライカの子供達は父親が存在しないことに疑問を持ちません。
彼らにとっては知る必要がないことを本能的に知っていたからです。しかし、ラグは違いました。
ラグは集落の人々からもらった絵本で父親というものを知ったからです。
「そう。なら、その目で確かめてきなさい。貴方がもしもおとうさんに似ている子であれば、おかあさんが何を言っても諦めないでしょう。おにいちゃんやおねえちゃんとちがって、貴方はまだ幼いからね」
そう言うと、ライカは首からかけていた薄汚れたネックレスをラグの首にかけてあげます。
ライカはラグの目の奥に子供達の父であり、ライカが唯一身体を許した男の笑顔が浮かんでいました。
ーー『お前ほどの女と交わり、俺の子を残す。お前に似たのであれば、きっと皆美しいのだろう』
快活に笑う、同じ部族の男は優秀な戦士でした。
ライカに匹敵、あるいはそれ以上の力を持つ男で魔王軍に魔王自らが直接、勧誘したほどの男なのです。
自らが種族のさだめで死ぬ間際もライカを美しいと言い、自らの子を身篭った妻に満足そうに笑う様子はライカの心に刻まれました。
ライカは死してなお、死の恐怖を吹き飛ばすように笑った男に今でも恋い焦がれています。
「行きなさい、ラグ。そして、知りなさい。私たち、ナンティス族の愛を。ーーおとうさんの、あの人のネックレスが連れて行ってくれるわ」
「おかあさん?」
ライカの言葉がラグにはわかりませんでした。
しかし、ネックレスが光り輝いたかと思うと、ラグを包み込んでその場から消えてしまいました!
「ロクスレイ……」
ライカは1人残された部屋で1人つぶやきました。
アグ以外の他の兄弟たちが末の弟の父を追う旅に気づくことはありません、彼らはいま魔物を狩りに向かったからです。
**
「身体も小せえお前がぁ?ふざけんじゃねえよ」
ラグが気がつくと、そこは同じような格好をした少年が兄のアグ以上に年を取った男が見晴らしの良い場所で殴られていました。
そして、今まさにアグやライカが武器で持っている鎌を振り下ろそうとするのを見て慌てて駆け寄りました。
「あ、だ、だめだよ!おじさん!アグにいちゃんを殴らないで!」
「はぁ?んだ、このガキ。身の程しらねぇ野郎に教育してやろうと思ったが、やめだ。ンなガキが入ってくんじゃねぇよ。命拾いしたな、ロクスレイ。もう二度と、テメェの血を残そうなんていわねぇこったな」
男はラグを見ると、露骨に嫌そうな顔をして毒を吐いて去っていきました。
「お前、スゲェな。あのカレルの奴に声かけるなんてよ」
背格好の似た少年が顔を上げると、確かに自分や他の兄弟たち、特にアグにそっくりでした。
どうしてアグに似ているのかと思ったのか、幼いラグにはわかりませんでした。
少年はカレルが呼んだようにロクスレイと名乗りました。
兄弟や親もなく、身体が小さくて力が強いわけでもないロクスレイは狩猟の成果をあげたり、対立する種族と戦えなかったりと散々だったので今のようにいじめられることも少なくなかったといいます。
「おにいちゃんに似てたんだ、ロクスレイが。ぼくはラグ。アグにいちゃんの弟でおかあさんのこども」
「へぇ。良い名乗りすんじゃん。気に入ったぜ、ラグ。けど、どこの集落かわかんねえが、もう帰んな。ここじゃガキだろうと構わず殴るクソッタレばかりいやがる。じゃあな、また生きてたら会おうぜ?」
ロクスレイはラグの自己紹介を気に入ってくれました。
しかし、ロクスレイはこのラグという男の子がどうも他人には思えず、いま自分といるところを大人たちに見られると危ないことになると心配し、今日は見なかったことにしてやると言って別れました。
そのあと、ラグのネックレスが輝きます。
*
「おう、ラグじゃねえか!?お前、相変わらず小せえなぁ?聞いてくれよ、カレルの野郎覚えてるか?俺をブン殴った野郎だ。野郎、この前の狩りでついに狩猟部隊を引退するって隊長に言ってやがった。あのとき助けてくれてありがとよ、ラグ。お前がいなかったら、俺は野郎に殺されちまってたぜ!」
輝きがおさまり、ラグがネックレスに導かれて訪れたのは集落のガラの悪い男たちのいる場所でした。
見慣れぬ子供とネックレスに彼らが絡み、ネックレスを離さないラグがいままさに殴られようとするタイミングで助けに来たのはロクスレイでした。
あの日、アグに似た少年はアグと見違えるほどに逞しく育ち、複数の男たちをたちまち骨折させてしまいました。
ロクスレイが言うには、集落の女たちにちょっかいを加えたり、噂では暴行を加えているとのことだったが、決定的な瞬間をおさめられず、彼ら以上の実力をつけていたロクスレイでも彼らに手出しができなかったのです。
そこでラグに絡んでいた彼らが殴ろうとした寸前にロクスレイがたちまち彼らを一瞬で蹴散らしてしまいました。
そして、ロクスレイはラグにぶどう酒を振舞ってくれました。
ロクスレイのする話に出てきた、戦場で見かけた枯れ葉色の髪に大柄な女戦士の話以上にラグはネックレスの力が気がかりでした。
ネックレスが光ったかと思うと、自分は変わらないまま、ロクスレイが大きくなっていたのですから。
上の空のラグに声をロクスレイがかけて理由を聞くと、ラグはロクスレイに話しました。
「そんなことあるのか。まぁ、だったら余計に大事なもんだろ。もし嫁もらえた俺に会ったら、確かめてくれないか?俺の嫁がすごい美人で俺の子が皆かわいいかどうかってのな」
「うん。ロクスレイのお嫁さん、こどももみるよ。やくそく」
ロクスレイは全くわかってなかったようですが、頼みがあると伝えた内容にロクスレイらしさを感じられ、ラグはなんだか嬉しくなりました。
「お前はまだ知らねえかもしれねえが、俺たちは嫁さんが全ての子供に名前をつける」
「はなしあわない?」
「それが伝統なんだとよ。カーッ、腑に落ちねえよな。俺も決めてえから、そうだなぁ」
それから、考えることが苦手らしいロクスレイは少し考えたあとにポツリとつぶやきます。
「ラグのようにすぐに身体が動くようにあって欲しいから、アグと最初につける。で、末っ子はラグだ。がーはっはっはっ」
ロクスレイやラグたちは女性が吐き出した卵袋と呼ばれるものが肥大化し、弾けると子供が生まれます。
人間の双子や五つ子のような人数ではなく、一気に50人生まれることがあり、アグとラグの他の兄弟が41人いて合わせて43人が一緒に同じ卵袋から生まれるには珍しくありません。
そして、出生順は卵袋から飛び出てきた順番からになり、母親に生きる術を教わりながら成長していきます。
ラグは確信に近いものを感じました。
幼いながらも、たくさんの絵本を読んでいるラグは気づきます。
ロクスレイだけが大きくなったのではなく、ラグがロクスレイが成長した世界に来ているのであると。
「さて、そろそろ帰んな。小せえ恩人よ。そして、俺のように強い男になるんだ。んで、ライカみてぇに強くておっかねぇが、綺麗な女とめおとになりやがれ?」
集落の入り口にこっそりとロクスレイは送ってくれました。
日が沈む前にダッシュで帰れば、まだ夏だから間に合うのだと言ってくれましたが、ライカと母親の名前を聞いて手をひらひらさせて立ち去る背中にラグは叫びます。
「ま、待って。おとうさんっーー!」
三度目、ネックレスが光り輝いてラグはその力に導かれます。
*
「よう。しっかし、不思議なモンだよなぁ?」
三度目の発光が終わると、そこはカレルにロクスレイが暴行を受けていた見晴らし台でした。
ロクスレイとラグの他には誰もいません。
「ロクスレイ。もしかして、おとうさんなの?」
「そうだ。俺がおとうさんだぜ?息子よ。アレから、いろいろあったんだ」
ロクスレイは変わっていません。
貫禄もありましたが、しかし、アグよりは年をとっているようにも見えます。
「お前のような奴はどこの集落に行ってもいねえし、ババァ共も知りやしねぇ。んで気づいた。遠いいつかに会うのであれば、それは仕方ねえとな。生まれてねえんじゃ仕方ねぇ。聞け、息子よ。あのライカと俺はめおとになる。ーーそして、死ぬ」
ロクスレイは隣に息子を呼びました。
ロクスレイは両親も兄弟も知りません、なのでどんな導きで自分の元にやってきたいずれ生まれるであろう子供が隣に座っていることは奇妙な感じでした。
そして、ロクスレイとラグの種族ーーナンティス族は父親は子供に出会えない。
子孫を残すため、膨大なエネルギーを要するナンティス族の女はめおとになったナンティスの男をエネルギーとして取り込みます。
もちろん、ナンティスの男はそれで命を落とす。
自らの子供に触れ合うこともなく、男と女は一つになるので、ナンティスは本能から父親というものを削除していました。
「こわくないの?」
ラグは恐る恐る聞きます。
しかし、ラグの父であるライカの夫は笑います。
「怖いさ。だが、俺は素晴らしい贈り物をライカにもらえる。それは子供だ。俺は親も兄弟も他の種族に殺されてしまったが、俺だけ生き残った。そして、何も残せず、何にもなれずに殺されそうになった俺をお前がたすけてくれた」
「ぼくは、ただ」
「みなまで言うな。お前はとんでもない親孝行ものだ、ラグ。生まれる前に親父を助けたんだ。お前やお前の兄弟を子供達に持てることは素晴らしい。だから、俺はライカに取り込まれることを恐れない。俺なりに惚れた女に渡せる、究極の贈り物だ」
けど、もっとおとうさんとはなしたい。
おかあさんやおにいちゃんおねえちゃんといっしょにくらしたい。
泣きじゃくるラグをロクスレイは慰めた。
「ライカはお前たち兄弟を育てたら、死んじまう。それがナンティスの両親だ。だから、お前は兄弟の言うことを聞き、しっかり生きろ。ロクスレイとライカの息子であることを誇りに思え」
ロクスレイは首からかけている薄汚れたネックレスを見せて笑うと、ラグのものが光り輝いてラグは光に包まれる。
「おとうさん、おとうさん、おとうさん!」
「悪くねぇ響きだなァ。ーーお前たちが無事に産まれてこられるように」
ーー天に祈りを捧げてやるぜ。
優しい笑顔がラグには見えた気がした。
*
ラグはライカの部屋に戻ってきました。
ラグの兄弟たちはベッドに横になっている母親を囲み、ライカは一人一人の名前を呼びます。
「アグ、ラヴァーン、ローヴェ、シェンフィン、サーバッド、ゴルドン、シルヴァン、カパン、ソルヴァー、コンストラッタ」
「シャーヴェール、レンシェンク、セルゴ、ジャリー、ジャード、トンス、ヴェルナ、ヘリオン、カシオン、ソージュ」
「ゴルナキ、ジャナン、サンスロ、バンジー、エンジュ、アステル、バーサ、ナミリ、ガンボッド、ジェン」
「トーヴェ、ジャンカ、リカルヤ、バンズガ、ヤラン、ロギョウ、ヘウンデ、コウズ、ジェンド、ヴェンスタン」
43の兄妹のうち、40人を呼んだライカ。
「ラサス、ガイン。そして、ーーラグ」
他の子供達は真剣な表情でライカを見守り、名前を呼ばれた末の弟をツノを生やした鱗を持つ女のヤランが母親の元に連れて行きます。
最後に生まれた末っ子は涙を流しています、それはあの笑顔の似合う父親と同じ雰囲気を感じたから。
「おとうさんはどうだった?」
「すごかった。どんなことも、こわがらなくて。ぼくらのおやとなれることがうれしいって」
「それがおとうさんなの。ロクスレイはあなた達を生むためにわたしのエネルギーとなった。そして、すべてを知ったラグはもう立派になった」
「でも、ぼくは」
ライカはラグの頭を撫で、他の子供達も呼んで子供達を育てるときに変身する姿となりました。
昆虫を思わせるような姿は外敵から子供達を守り、たくさんの子供達を抱きしめるのに十分な腕を伸ばして抱きしめます。
「これからはおにいちゃんやおねえちゃんの言うことを聞きなさい。そして、あなたもきっとわたしやおとうさんのいうことがわかる。愛してるわ、子供達」
そう言うと、ライカは昆虫の姿のまま、複眼に子供達の顔を映します。
そして、その姿は光となって粒子と化すると子供達の中に入って行きました。
「鎌のように手を折り曲げて、祈りましょう。健やかにロクスレイとライカの愛し子たちが命をつなげますように」
*
さて、この後の話ですが、彼らは大きな勢力として成長しました。
ナンティス族の中でもとりわけチームワークに優れた、ナンティスの兄弟ハンターと呼ばれる彼らの中で長男のアグをはじめ、優秀な戦士がいます。
その中で末っ子でありながらも、アグによく似たラグというナンティス族の男はロクスレイによく似ていました。
今日もナンティスの兄弟ハンターは獲物を狩り、敵対者を殺していることでしょう。
それがロクスレイとライカの望んだ、ナンティス族の幸せなのですから。
「よう、悩み事か?坊主」
「うん。ぼく、こわがりだってばかにされて」
とある集落にやってきたナンティスの兄弟ハンター。
そこでロクスレイの面影を残したラグは幼い自分を思わせる少年の隣にどかんと座ります。
そして、あの日のロクスレイのような口調で話始めます。
「そうだな。これは、兄ちゃんが聞いた話なんだがーー」
ツイッターでハーメルンの作者さんと話しているときに生まれました。
ナンティス族はカマキリをモチーフにしています。
そして、そのカマキリのオスが何を考えてツガイに食われてるのかもイメージしました。