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2枚目・私の名前は春野 泉美、あなたの名前は・・・②

小説の構成順番を直すために投稿し直しました。

2024年7月15日

服を着た猫

やがて石段を登り切った泉美は、手水舎で手を清め、社殿へと向かう。

そこで鈴を鳴らし、お賽銭、お辞儀、二拍手をした。


(学園祭で、演劇の公演がうまくいきますように)


心の中で神様にお願いをすると、泉美は最後に深々と頭を下げた。



その時だった。



【バリッ・・・バリバリバリバリ!!!】


突如として、いくつもの雷の音が重なったような、爆音が真後ろから聞こえてきた。


「な、何!?」


泉美が慌てて振り返ると、そこには月のように黄色く輝く直径2メートルはありそうな巨大な光の玉が浮かんでいた。


「何・・・これ」


明らかに普通ではない光景だったが、不思議と泉美は引き寄せられるように、光に近づいて行った。

そして、光の玉の周りをグルグルと回りながら観察していく。

やがて、社殿を背にして光の前に立つと、右手を近づけ歩み寄っていった。


「すごく光ってるけど、熱くはない・・・かな?」


熱がないことを確認し、後ろに下がろうとそのまま後ろ歩きした。



その時だった!!


【ガッ!】



泉美は石畳の段差にかかとをひっかけ、後ろへひっくり返りそうに!!


「うわわわわ!」


泉美はとっさに前屈みになり、後ろに倒れるのを防ごうとする!!

結果、後ろに倒れることは阻止したが、今度は前に倒れ込んでしまう!!


「ギャー!」


泉美はとっさに何かを掴もうと右腕を前に伸ばす!

だが、こともあろうにその手を光の中に突っ込んでしまった!!


【グニッ】

「えっ?」


泉美は光の中に突っ込んだ手が、何か柔らかいものを掴む感覚を感じた。

手でギリギリ握れる太さの、ゴツゴツしているが若干柔らかい棒のような物、そこまでは判断できた。



次の瞬間。



『うわっ!何だ、これ!?』

「えっ?えっ?」


どこからか叫び声が聞こえる。泉美の脳がその声が、男の子の声だと認識する前に彼女の体がグンと引っ張られてしまう!


「きゃ、キャー!」


叫び声をあげながら、泉美は光の中に引きずり込まれる。

周囲を光で包まれたと思った瞬間、再び薄暗い場所に飛び出る。


「な、なんだ!?」

「えっ?」


また、男の人の声が聞こえる。

反射的に顔を前に向けた瞬間、泉美の顔の前には同い年ぐらいであろう紫色の髪をした男子の顔があった。



2人の顔はそのまま近づき。



【ゴン!!】



思いっきり、おでこ同士をぶつけた。



「いっ!」

「がっ!」


2人は短く叫ぶと、男子はその場に、泉美は勢いよく飛ばされ離れたところに仰向けに倒れてしまった。

そして、そのまま2人は気絶してしまった。



数分後・・・



「う、うぅん。ここは?」


目を覚ました泉美は頭を左右に振りながら起き上がる。

すでに光の玉は消えており、辺りは静寂に包まれていた。

泉美は周囲を見渡し、ここが神社であることを思い出した。


「そうだ、演劇の公演が、うまくいくように祈願したんだ。

それから・・・何があったんだっけ?」


一時的に記憶が混乱しているのか、泉美は自分に何があったか思い出せなかった。

ただ、おでこがものすごく痛いので触ってみると、たんこぶが出来ていて熱を持っていた。


「何かにぶつかった様な気が、何だったかな?」


泉美はおでこをハンカチで押さえながら、考えを巡らせる。と、彼女は日が完全に沈んでいることに気づいた。


「やばっ、真っ暗じゃん!」


泉美は慌てて石段に向かって走り出した。

後ろで仰向けに倒れた男子や、手提げ鞄を落としたことに気づかず。


「ヤバい、ヤバい、ヤバい」


石段を駆け下りた泉美は家への道を急いだ。




数十分後。




「はぁー・・・はぁー・・・着いた。でもちょっと遅すぎだよね」


自宅に到着した泉美は、肩で息をしながらスマホの画面で時間を確認する。

スマホに映し出された時計は門限をとっくに過ぎていることを示していた。


「怒られる~」


泉美は大きくため息をつきながら、どうするか考えをめぐらす。


(そーっと入っていったところで何の解決にもなんないよねぇ~・・・下手したら余計に怒られるし・・・

だったら思い切ってリビングに入って行って速攻土下座?)


泉美は頭の中でシミュレーションしてみたが、土下座した自分に対し、両親2人からのお説教が浴びせられ、こってり絞られる姿しか思い浮かばなかった。


(2人分の説教はキツイなぁ~・・・せめて1人ずつ、出来ればお母さんから・・・)


優しい性格の母のお説教からならまだ耐えられる。

そう結論付けた泉美は母にだけ会う方法を考え始めた。


(お母さんだけに会うためには呼び出すのが手っ取り早いよね。

でも玄関開けて呼んだらお父さんにまで聞こえちゃう。それじゃだめだし・・・・・いっそインターホンを鳴らす?

インターホン鳴らせば、たぶん出るのはお母さんだろうし、そのまま玄関まで出てきてくれるだろうし!

うん、そうしよう!!)


呼び出す方法を決めた泉美は早速インターホンのボタンを押した。


【ピンポーン・・・】


呼出音が鳴って数秒後【ガチャ】という受話器を取る音が鳴り、明るい女性の声がインターホンのスピーカーから聞こえてきた。


『はーい』

「あ、あの・・・ごめ―――」

『今開けますね!』


まずはインターホン越しに謝ろうとする泉美だったが、すぐに母の声にさえぎられた。


(あんまり怒ってないのかなぁ?

まぁいいけど・・・

あれ?・・・なんか引っかかる?・・・なんか変だったような???)


何か引っかかるものを感じ考え込む泉美だったが、すぐに玄関の扉が【ガチャ】という音共に開き、青い髪の見慣れた顔の母である【春野(はるの) アゲハ】が姿を現した。

泉美はその姿を見た瞬間、泉美は素早く謝ろうと話し始めた。


「遅くなって、ごめん―――」


そこまで言った瞬間、彼女は母から信じられないような一言を聞いた。


「えっと・・・どちら様?」

「なさ―――は?」

「ん?」

「えっ?」


しばらくフリーズする2人。

母は聞こえなかったと思ったのか、今度は少しゆっくり話してきた。


「ごめんなさいね。あなた、どちら様?」

「えっ?

いやそんな・・・えっと、今日ってエイプリルフールじゃないよね?」

「えっ?

そうね、エイプリルフールではないわね」

「なのに私のこと解らない?」

「ん?

初めましてよね?」

「は、初め、まして!?」


軽く首を傾げながら話す母の言葉に、泉美は言葉がうまく出てこなかった。

そんな様子に母は不安げな顔を向けてくる。


「どこかで会ったかしら?」

「い、今なんて?」


泉美は少し震える声で聞き返した。

目の前に居るのは確かに彼女の母の【アゲハ】その人のはずなのに、彼女は泉美を、まるで他人のように扱い続ける。

しかもその声はふざけている訳でも、からかっている訳でもなかった。


「近所の人ではないわよね?」

「え、えっと・・・」

「あ、最近引っ越してきた人?

でも、そんな人いたかしら?」

「ふざけてる訳・・・じゃないの?」

「・・・ごめんなさい。ふざけてはいないわ」


念のためにと泉美が聞いた言葉に、不思議そうだった母の顔に警戒心が滲んでいくが分かった。


「ご、ごめんなさい。そ、そんなつもりじゃなくて」


慌てて謝る泉美。

彼女自身、混乱しながらも、この会話を終わらせる訳にはいかない気がしていた。

だが、同時に言い知れぬ恐怖がまとわり付き、彼女の呂律を回らなくさせる。


「ほ、本当に、わ、わた、私のこと、わか、わ、わから、解らないの?」

「だ、大丈夫?

脚震えてるし、顔が真っ青よ!?」

「だ、だい、大丈夫。へ、平気」

「平気には見えないけど・・・あら?

あなた水輝(すいき)の血を引いているのね。その髪の毛、紫紺(しこん)の髪ね」

「そ、それは、そ、そ、そうでしょ?だって―――」

「もしかして、一族の集会の時にご挨拶してもらったのかしら?ほら、私本家の出だから」

「ちが―――」

「ねぇ、あなたお名前は?」

「わ、私の名前?」

「そう、名前。

あなたみたいな綺麗な子、忘れる訳ないと思うから、名前を聞けば思い出すかも」

「な、名前・・・私の名前は、はる―――」

「ただいま」


突然、泉美の言葉を遮るように、男の人の声が聞こえてきた。


「あ、お帰りなさい」

「ん?

この子誰?」


振り向くと泉美の後ろに居たのは彼女と同じ、桜門高校の男子制服、紺色の布を主体にしたブレザーに灰色のパンツに身を包んだ、紫の髪を持つ男子だった。


「この子、うちを訪ねてきたみたいなんだけど、あなたの知り合い?」

「いや、知らない。

それより帰りが遅くなってごめん。

桜門神社で祈願していたんだけど、なぜか気絶してたみたいで」

「気絶って、大丈夫?」

「うん、大丈夫。

なぜか、おでこにたんこぶ出来てメッチャ痛いけど」


母の会話が謎の男によって中断され、別の意味で混乱し始めた泉美だが、不幸中の幸いか、先ほどまでの言い知れぬ恐怖は消えていた。


「あなた一体・・・ってその鞄!私の!」


彼の両手にはなぜか2つの鞄があり、その1つには昔、瑞希に無理やり貼らされたキモキャラのシールが貼られていた。


「ああ、これか?

神社の境内に落ちてたんだ。学校指定の鞄だから、学校に届けようと思ってたんだけど。

ほら、もう落とすなよ」

「あ、ありがとう」


ぶっきらぼうに差し出された鞄を受け取ると、それをじっと見つめながら彼女はあることを考えていた。

そして、その疑問をぶつけることにした。


「ねぇ、あなた、誰?」


母と妙に親しい会話をしていた彼が誰なのか、泉美にはさっぱり見当がつかなかった。

ただ、彼の髪色が紫紺色だったことから、彼が水輝の血を引いていることはすぐに分かったが、この辺りで水輝の血を引いていて、紫紺の髪を持つ者など居なかったはずである。

ましてや、こんなに母と親しく話す男子など全く記憶がなかった。


「俺か?俺は・・・」


泉美はゴクリと唾を飲み込んだ。

嫌な予感が、大変なことが・・・とんでもないことが始まる予感がしたためだった。



そして、その予感は当たった。



春野(はるの) 泉水(いずみ)。この家の長男だ」

「・・・は?」

「聞こえなかったか?

俺の名前は春野 泉水、この家の長男だって」

「あ、あなたが、い、イズミ???

この家の長男???」


先ほどの騒動で消えていた、言い知れぬ恐怖が、再び泉美の口調を狂わせていく。


「ああ、正確にはイを強く読んで、()ずみ()だから、水の湧く泉の言い方とはアクセントが違うけどな」

「あなたがこの家の子供なら、じゃ、じゃあ、私は、だ、誰?」

「だ、大丈夫か?顔、真っ青だぞ?」

「そうだった、この子、具合悪そうで、今にも倒れそうだったんだわ!」

「マジかよ!?

大丈夫か?ウチで休むか?」


泉水は目の前の彼女を支えようと、彼女の肩に手を触れようとした。


【バシッ!!】

「触らないで!!」


まるで汚物を払うように、必死の形相で彼女は泉水の手を払いうつむいてしまった。


「ご、ごめん」


必死の形相で手を撥ね退けられた泉水は思わず謝る。それでも何かできないかと彼は、ブルブルと震える少女の顔を覗き込んだ。

その顔は先ほどよりも真っ青で、恐怖に支配されているのが一目で分かった。

そして、その目が自分と合った瞬間、彼女の恐怖が爆発しパニックを起こしたことが分かった。


「あなたがイズミ!?

じゃあ、私は一体誰!?」

「お、落ち着け!」


冷静になるように言い聞かせるが、逆に彼女は泣きながら叫び続ける。


「私は春野(はるの) 泉美(いずみ)

この家に産まれた、この家の次女!

そのはずなのに!

なのに!お母さんは私を知らない!

そのうえ、知らない男がイズミを名乗って、お母さんと親しく話してる。

じゃあ、私は誰!?

私は泉美じゃないの!?

なんで私を知らないの!?

私は!・・・私は・・・私・・・わた、し、は」


叫び続けた泉美は、ふらふらと揺れだし糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。


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