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2枚目・私の名前は春野 泉美、あなたの名前は・・・①

小説の構成順番を直すために投稿し直しました。

2024年7月15日

服を着た猫


「春野さん」

【カッ】

「東さん」

【カッ】

「東さん」

【カッ】


名前を読み上げる女性先生の声と、女子生徒が黒板にチョークで正の字を書く音だけが、空き教室を利用した部室に響き渡っていた。

その様子を泉美は椅子に座りながら、ハラハラと見守っていた。


「春野さん」

【カッ】

「春野さん」

【カッ】

「最後は・・・春野さん」

【カッ】


顧問である、濃いオレンジのスーツに身を包み、金髪ロングヘアーに青い瞳の女性先生は、全ての投票用紙を読み上げた後、生徒たちの顔をしっかりと見て言った。


「以上で投票結果が出ました。

結果、大差をつけてヒロインの【珀(はく)】は春野さんで決まりました。

はい、拍手!」

「えー!!」


部室内がわぁーっと盛り上がるなか、泉美は頭を抱え机に突っ伏した。


「嘘でしょ!?

なんでこんなことに!?」


泣きそうな声を出しながら、泉美はますます頭を抱える。


「じゃあ、これで主人公は神条(かみじょう)さん、ヒロインは春野さんで決定ね」


顧問の言葉に再び部室内は盛り上がり、拍手に包まれた。


「じゃあ、今日はこれで終わり。

はい、解散!」


その言葉で一気に部室内は私語に包まれた。

解散と言われたが、みんな部室に残り、以前もらっていた台本を読み直したり仲間の役同士集まり読み合わせを始めたりする。

一方、泉美はいまだ放心状態で立ち直れずにいた。そんな彼女の元へ、1人の少女が近づいてきた。


「これでひろいん・・・女主人公も決まったな。これからよろしく【(はく)】」

「はぁー・・・よろしくお願いします。主人公の【長二(ちょうじ)】さん」



差し伸べられた手を握り、2人は握手をした。

長二と呼ばれた少女、腰まで伸びた黒髪長髪に黒い瞳が大和撫子感を引き出している、キリッとした顔立ちの美しい美少女。

彼女の名前は【神条(かみじょう) (まい)

桜門高校三年生で、演劇部に入部して、わずか半年で演劇部のスターに上り詰めた少女である。

実家は、この桜門町の中央にそびえる小山の門開山(もんかいさん)の中腹に建つ『桜門神社』で、神社の宮司を代々務める神条家であり、彼女も桜門神社の巫女を務めている。

また武芸も得意で、一応剣道部所属で主将を務めているが、諸事情により演劇部を兼部している。

と本人は言っているが、周りからは演劇部に所属し、剣道部を兼部しているようにしか見られていない。



「それにしても、なぜ頭を抱えているのだ?」

「そりゃ頭も抱えますよ。私この部活に入って、たったの3ヶ月ですよ!?

それなのにいきなりヒロインって!!

みんな頭おかしいんじゃないですか!?」

「頭がおかしいわけではないだろう?

君は美人だし、台詞覚えもいい。

発声練習も誰よりも、皆に追いつこうと必死に練習して、かなり上達した。

この前の練習で行った、小演劇もなかなか堂に入った取り調べの刑事役だったぞ」

「お世辞は良いですよ。全部、舞先輩の方が上だし、美人だし」

「そちらこそお世辞は止せ、私はそんなに美しくない」

「いいえ、舞先輩はカッコよくて美人なんです。だから、みんな舞先輩を主人公に選んだんです。

自覚がないなんてもはや罪です!」


力説しながら顔の前に人差し指で指さす泉美に、舞は苦笑しながら、ほほを人差し指で掻いた。


「罪か・・・なら、その罪は真摯に受け止めなければな。だが、春野君が魅力的なのは事実だろう。

だからみんな君を選んだのだから、何より私の記録など軽く超え最短記録で演劇部の花形になれるかもしれないのだぞ?

誇らしいことじゃないか!」

「それが嫌なんですよ」

「どういうことだ?」

「ただでさえ最近、剣術の稽古が疎かになっているって、お爺様に怒られているのに、ヒロインなんて、ましてや演劇部のスターになって持ち上げられたら、さらに稽古量が減っちゃう」


再び頭を抱える泉美を見て、舞は納得した。


「なるほど。

君は剣術で有名な、水輝(すいき)一族の血を引いているのだったな」

「はい、しかも本家がこの町にあるから、プレッシャーが・・・」

「ぷれっしゃー・・・圧力か」

「圧力・・・ああ、舞先輩ってカタカナ語が・・・」

「ああ、苦手だ。厳格な祖父母に育てられたためか、この年で恥ずかしい限りなのだが・・・

それより稽古不足か・・・」


舞は右手を頬に添え、その場でクルクルと回りながら思案を始めた。


「では、どうだろう?

放課後、練習が終わったら、私と手合わせをするのは?」

「舞先輩と?」

「うむ、君を剣道部との兼部で、演劇部に在籍するようにと誘ったのは私だからな。

私も剣道部の主将を兼部しているものとして、少々腕が鈍ってしまって困っていた所だ。

これぞ一石二鳥。

共に剣道部で相手が居なくて困っていた同士だ。

良い考えだとは思ないか?」

「確かにいい考えですけど、帰りが遅くなっちゃう。両親に許可を取ってからでいいですか?」

「無論だ」

「ナニナニ、楽しそうね」



黒板に書かれた正の字の投票結果を拭き終わり、2人に近づいてきた彼女は、この演劇部の顧問。

先ほど開票作業で、投票用紙を読んでいた金髪ロングヘアーに青い瞳の女性であり、その右手人差し指には金色の指輪が光っている。

ちなみに、泉美の在籍する二年B組の担任でもある。

名前は【神野原(かみのはら) マリア】

歳は見た目30代くらい(詳しいことは教えてくれない)

その名の通りハーフでちょっと天然ボケ。

少々強引な面もあるが、今回の演劇【天女物語】を桜門神社に伝わる【天女物語】と【十二石像伝】という二つの短い伝承を組み合わせて、舞台脚本を書き起こすなど、やる時はやる先生である。



「これは先生。

なに、大した問題ではないのですが、私が剣道部だけに在籍していた時に、先生が『暇なら、演劇部と兼部しない?』と誘ってきたことがきっかけで、剣道部の主力である2人が引き抜かれた、剣道部が可哀そうだという話を」

「えっ・・・ワタシそんな悪いことしたの!?

だったら剣道部のみんなに謝らなきゃ・・・」


険しい顔で答えるマリア先生に、泉美は半笑いで答えた。


「違います違います。私たち先生には感謝してますし、剣道部のみんなも納得してますよ」

「本当?」

「本当です!先輩も先生をからかうのは止めてください!」

「フフフ、すまない、つい魔が差してしまって」

「はぁー、まったく」

「そっか、迷惑かけてないなら良かった」


舞の言葉に呆れ顔になりながら、ちょっと泣きそうな顔で答える先生を、ちょっとカワイイな、と思いながら泉美は話を続けた。


「ええ、稽古不足になって困ったって、話で―――」

「やっぱりワタシのせいで!」

「その解決方法を話し合ってたんです!」


再び泣きそうになる先生に、泉美は再び苦笑いで答えた。


「舞先輩と練習の後、放課後に手合わせをしようって話し合ってたんですよ」

「手合わせ?

ああ、練習試合ね」

「左様です。

お互いに剣道部では強すぎて、相手が居なかった同士、実力は拮抗しております。

ただ互い手の内は知り尽くしているため技を磨くには少々物足りませんが、このまま鈍らせていくよりはましだと思いまして」


舞の答えを聴いたマリア先生はニッコリと笑い、ある提案をしてきた。


「だったらワタシがご両親に話を付けるわ」

「良いのですか?」

「ええ、もちろん

神条さんはお爺様と、お婆様だったわね」

「はい」

「でも、本当にいいんですか?」

「いいのいいの、これも先生の仕事」


マリア先生はパチッとウインクしてみせた。


「別に稽古不足になった責任を取りたいとか、剣道部に迷惑だったんじゃないかとか、考えているわけじゃないからね?」

「あぁ・・・はい」


理由がだだ洩れだと呆れながら、泉美は生返事を返す。


「もちろん体育館の使用許可も取っておくから」

「いや、そこまでは・・・」

「場所さえあれば体育館裏でもよいと、考えていたのですが」


舞がちょっと困った顔で答えると、マリア先生は笑顔で返した。


「どうせ近いうちに演劇の練習で体育館は使用するし、それに剣道って裸足でやるんでしょ?だったら床がないと、ねっ?」


パチッとウインクしてみせるマリア先生に、舞は一瞬ためらった表情をしたが、すぐに小さく息を吐いた。


「・・・分かりました。お気遣い痛み入ります」


深々と頭を下げ、舞は感謝の言葉を言った。


「それで今日から練習していく?」

「いえ、さすがに今すぐには体育館の使用許可は下りないと思うし、両親の許可ももらわないといけないので」

「私も自分の家で、自主練習をすることとします」

「そう。

じゃあ、明日以降の体育館の使用許可取っておくわね」

「お願いします」

「重ね重ねありがとうございます」

「それじゃあ、台本ちゃんと読んでおいてね。

今までは役が決まってなかったから、ざっと読んだくらいだっただろうけど、役が決まったんだからしっかりとセリフは覚えておいてもらわないと、なんたって2人は、ヒロインと主人公なんだから」

「はい」

「了解しました」

「うん、よろしい」


2人の返事を聴いたマリア先生はニッコリと笑い、用事があるからと言って部室を出ていった。


「我々もそろそろ行くか?」

「そうですね」



部室を見渡すと、すでに部員はまばらになっていた。

2人は学校を出て帰路に就くことにして、途中まで同じ道を通る2人は、校門で待ち合わせ一緒に帰宅することにした。



しばらく歩いたところで、舞はあることに気づいた。



「春野君、君の家は先ほどの道を、左ではなかったか?」

「はい、でも帰る前に桜門神社で、学園祭で演劇の公演がうまくいきますように、って祈願しておこうと思いまして」

「我が神社の神は、縁結びや厄除けの御利益が主なのだが・・・まぁ、神に祈ることは悪いことではないからな」




それから、しばらく2人はそれぞれの役に付いて語り合った。




舞台【天女物語】は桜門神社に伝わる伝承【天女物語】に出てくる百姓の男を【十二石像伝】に出てくる侍に置き換えた物語。

つまり2つの物語を組み合わせて創作された物語である。


桜門神社に伝わる【天女物語】とは・・・。


昔々、百姓の長二(ちょうじ)という男が門開山でまき拾いをしていた時、中腹に天から美しい女性が舞い降りた。

彼女は(ハク)と名乗り、自分は天女で天界から落ちてしまい帰る手段を失ってしまったという。

不憫(ふびん)に思った長二は拍をしばらく自分の家に置くことに、そうして2人はしばらく暮らすことに、やがて2人はどちらかともなく惹かれあうようになった。

だが、そんな2人の前に3人の天女が現れ、拍を迎えに来たという。

初めは納得いかないと抵抗した長二だったが、拍は今すぐにでも天界へ帰らなければ罰せられてしまうという。

長二は泣く泣く納得し、2人は涙を流しながら別れをした。

その後、長二は拍と出会った地に小さな祠と鳥居を立て、天界に居る拍に届くようにと毎日その地を訪れ祈ったという。


このように伝わる桜門神社創建にまつわる伝説、それが【天女物語】である。



そして同じく桜門神社に伝わる物語【十二石像伝】とは・・・。

桜門神社に伝わる、桜門町の周りをグルッと囲むように建っている十二支の石像にまつわる昔ばなし。


昔々、突如としてこの地に人食いの鬼たちが押し寄せてきた。

人々は次々と鬼に食われ、さながら地獄絵図であった。

「もう駄目だ」皆がそう思った時、1人の陰陽師と彼の従者である侍が現れた。

陰陽師は村中に十二支の姿をした、十二体の式神を飛ばし従者の侍と共に鬼たちを封印するように命じる。

その命に従い、侍が鬼を切り伏せ、式神たちが鬼を次々と封印していった。

そして式神は最後に村を囲むように広がり自ら石像となり、村全体を包む結界の要石となった。

人々がお礼を言うと、陰陽師は「石像になった式神たちを決して、傷つけたり、動かしてはならない。

約束を違えれば、たちまち鬼たちは解き放たれ、この地は再び地獄と化すだろう」と村人にきつく言い聞かせ、従者であった侍に神社の宮司と共に、この地を守るように言いつけ去っていった。


このように伝えられる、十二支の姿をした、十二体の石像にまつわる伝説、それが【十二石像伝】である。




「おっと、もうこんな所まで来てしまったか」


気が付くと2人は、神社へ続く石段の前まで来ていた。


「では、私はここで失礼する。

境内までは遠いから、暗くならないうちに帰るように」

「はい、明日からよろしくお願いします。

それじゃあ、さよなら」

「ああ、さようなら」


舞の家は神社の敷地内にはあるが、境内にはない。神社に続く石段の横、そこに建っている門がある日本家屋、それが舞の実家である。


「ただいま戻りました」


舞の帰宅の声を聴きながら、泉美は急いで石段を登り始めた。


「急がないと、本当に真っ暗になっちゃう」


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