10枚目・予想外な事実②
小説の構成順番を直すために投稿し直しました。
2024年7月15日
服を着た猫
クラス中が重い空気に包まれる中、いかにもお調子者と言う感じの男子生徒の声が響いた。
「で、本音は?」
「・・・一教師でしかないワタシが、水輝一族とか強力な一族に盾突くとか、絶対面倒なことになるからイヤ」
軽い口調で話すマリアの言葉に、クラス中の生徒が一瞬あっけにとられ、次の瞬間笑い声があふれた。
「先生、ぶっちゃけすぎ―!!」
「立場弱っ!」
「結局面倒くさいだけじゃん!」
生徒たちは口々に笑いながら、小ばかにして言う。そんな生徒たちに苦笑しながら、マリアは言った。
「きょ、教師とはいえ他人が口出しすることじゃないっていう考えは根本にあるよ。それにプラスして盾突きたくない訳で・・・・・とにかく!この話は終わり終わり!!
それよりも、自己紹介も終わったんだから、蛍さんに席を教えないと!」
早口でまくし立てると、マリアは教室の中央の列の一番後ろの空いている席を指さした。
「あそこがあなたの席ね」
指さされた席を見て、泉美はすぐに「はい」と言って席に向かうかと思われたが、なぜか「ん~」と左手で口元を覆いながら唸った。
「マリア先生、どうしてもあの席じゃなきゃダメですか?」
「えっ?えっと・・・
どうしてもって訳じゃないよ。特段の理由があれば変えられるけど・・・」
「じゃあ、大丈夫ですね」
そう言うと、首を傾げるマリアをそのままに、泉美は入り口近くの列に向かう。そして、最前列に座る男子生徒に向かって話しかけた。
「あなた、目悪くないよね?」
「ん?俺?ああ・・・」
「じゃ、後ろの席でもいいよね?席変わって!」
「へっ?」
さも当たり前のように提案する泉美に、男子生徒は呆気にとられてしまう。
「ま、まぁいいけど・・・何で?」
当然の疑問に、泉美は答える代わりに微笑むと、彼の隣の席へ歩いて行き、座っている生徒の肩に手を置いた。
「瑞希の隣の席に座りたくて」
「「「ええ!!」」」
その発言にクラス中がどよめいた。
「皆倉さんと知り合いなのか!?」
驚きを隠せない男子生徒に、泉美は満面の笑みで言った。
「うん!瑞希は私の親友なの!!」
「「「えーーー!!」」」
再びクラス中がどよめきに包まれた。
「ちょっと、い―――・・・蛍!!
変なこと言って私を巻き込まないで」
「変なことって、本当のことじゃん」
「だからって、こんな大勢の前で言うなんて、頭おかしいんじゃないの!?」
「頭おかしくはないよ。親友を自慢したいだけ♪」
「♪を付けるんじゃない!!
まったく・・・何で親友になりたいなって言っちゃたんだろう私・・・」
げんなりといった様子の瑞希に対し、泉美は満面の笑みをたたえた。
「いや、あのー・・・まだ俺席移動してないんだけど、そもそも先生の許可出てないし・・・」
戸惑いながら男子生徒は、助けを求めるようにマリアを見た。
「親友の隣に座りたいんじゃ、しょうがないねぇ~、OK!特別に許可しちゃおう。
宮下君席移動して!!」
「えー!・・・まあいいっスけど」
笑みを湛えながら明るく指示するマリアの言葉に、男子生徒は面倒くさそうに机の中の荷物を出すと、教室の後ろへ移動していった。
後ろの席へ向かう男子生徒に向けられた視線が、彼が席に着いた途端、泉美へと切り替わった。
そして、獲物に飛び掛かるライオンのように、女子生徒たちが泉美の元へと向かい・・・
「じゃあ、出席を取るねぇ~」
「「「・・・・・」」」
マリアの一言に、女子生徒たちは渋々席にとどまった。
その後、マリアが出席を取り、生徒たちは淡々と答えた。
「村上さん」
「はい」
「うん、今日は欠席なし、と・・・じゃあ、朝礼は以上。みんな頑張って授業受けるんだよ!居眠りしちゃダメだからね!!」
そう言うとマリアは横を向き、教壇を降り始めた。
その途端、ため込んだ力を開放するように、女子生徒たちが泉美の席へ駆け寄った。
「水輝さん!皆倉さんと親友ってどういうこと!!」
「いつ知り合ったの??」
「男子の家に居候って、本当に大丈夫!?」
「ねえ!!春野君、水輝さんを名前で、しかも呼び捨てにしてなかった!?」
「そう言えば蛍さんも、皆倉さんのこと名前で呼んでたよね!それだけ仲が良いってことは、昔から友だちだったの!?」
泉美の周りを囲んだ女子生徒から矢継ぎ早に質問が飛ぶ、そんな状況に最初は苦笑いだった泉美だったが、耐えかねたように叫ぶように言った。
「みんな落ち着いて!!
泉水も瑞希も小さいころ友達だったってことだよ。自己紹介の時に言ったでしょ?水輝家の集まりで小さいころからアゲハさんに可愛がられてたって、その頃から泉水の家にもちょくちょく行ってて、泉水はもちろん、瑞希ともその時に知り合ったの」
泉美の説明を聞き、女子生徒たちは口々に声を発する。
「じゃあ、幼馴染だから親友ってこと?」
「なるほど」
「だとしてもよくあの皆倉さんと友達でいられるよねぇ~」
「ダメだよ。本人の前でそんなこと言っちゃ」
「皆倉さんと親友ってことは、春野君とも親友なのかな?」
「どうなんだろう?」
「クラスメイトの男子の家に居候なんて、ドラマみたい!」
「ドラマならこのまま2人は恋人に・・・キャー♡」
泉美を中心に思い思いにおしゃべりに興じる女子生徒たち、そんな彼女たちをから離れた泉水のもとにも男子生徒たちが集まっていた。
「で、どうなんだよ!!」
「どうって、何が?」
ドスの利いた声で詰め寄る男子生徒の言葉に、泉水は面倒くさそうに答える。
「何が?じゃねぇよ!!あんな美少女と知り合いなのも許せないのに、同居してるとか、うらやまし過ぎるんだよテメェ!!!」
「一緒の家で寝て、朝飯喰って、一緒に登校・・・リア充だな、リア充の鏡だな!
心から言ってやる、心の底から言ってやる!
リア充爆発しろ!!!」
「小さいころから友人ってことは、幼馴染ってことだろ。
幼馴染と久々に会って、同居して、互いに意識し合い、やがて2人は一線を越える、エロゲーか!?
このリアルエロゲー主人公野郎!!そのポジション俺に譲れ!!!」
「美少女の幼馴染が居るけど、性格悪いから羨ましくなかったっていうのに、あんな性格良さそうな美少女まで幼馴染とか、途端に羨ましく―――」
「うっせー!!」
面倒くさそうにうつむいていた泉水は、急に怒鳴ると周りを取り囲む男子生徒を睨みつけた。
「美少女の幼馴染が羨ましいとか、リア充爆発しろとか、エロゲー主人公とか、好きかって言いやがって!!
だけど、それだけだったらいい・・・美少女だけど性格が悪い幼馴染って瑞希のことだろ!?
誰だ!前出ろ!!ぶっ飛ばして―――」
「いいわよ、私が性格悪いのは自覚してるし」
その声に男子生徒は一斉に声のする方を見た。
そこには仏頂面で彼らを睨む、瑞希の姿があった。
その姿を見た彼らは一斉に後ずさりし、まるで海が割れるように泉水へ道を開けた。
「私はモーゼか・・・まぁいいわ。
あんた達おしゃべりは終わり、もうすぐ授業が始まるから席に戻りなさい」
命令口調で言う瑞希に、男子生徒たちは戸惑う。
「なんでお前のいうことなんか―――」
「何・・・言いたいことがあればはっきり言えば?」
小声で文句を言う男子生徒を、的確に射抜くような鋭い視線で睨みつける瑞希に、睨まれた男子生徒はもちろん、他の男子生徒も蜘蛛の子を散らすように席へと戻っていった。
「助かったよ、正直面倒で仕方なかったんだ。
だけど・・・何でこっちに来てるんだよ?いず―――・・・あいつを加勢してやらなくていいのかよ?」
「みんな転校生のあの子に興味があるの、私のことなんてどうでもいいのよ。むしろ邪魔くらいに思っているでしょうね。
だから少し離れてたんだけど、泉水の怒鳴り声が聞こえたから様子を見に来たって訳」
「わりぃ・・・」
「何でアナタが謝るの?」
「あいつらの代わりだよ。
あいつら俺に嫉妬するだけならまだいいけど、ここぞとばかりに瑞希のことまでバカにしやがって!」
「本当のことなんだから別にいいじゃない。
むしろそんなことでクラスメイトとケンカして、評判下げるようなことするなんて、アンタの方がよっぽどバカじゃない」
「そんなことなんて言うなよ!!
親友だろ・・・」
悲しげにうつむきながら言う泉水に、瑞希は小さくため息をついて言った。
「・・・そんな親友にも言えないことがあるんだ?」
「何のことだよ?」
「あの子・・・泉美のことで悩んでるんでしょ?」
「な、何を・・・何を根拠にそんなこと言ってるんだ?」
「根拠?
根拠は今動揺したことで十分だと思うけど・・・強いて言うなら、勘・・・ね」
「勘って・・・」
「それで十分よ。何年あなたと腐れ縁していると思っているの?
今朝のあなたを見ていてすぐに気が付いたわ。泉美に何かを隠している・・・いえ、言えないでいる」
その言葉に泉水は動揺を隠せずに答える。
「そ、そんなに顔に出てたか?演技力をフル活用したつもりだったんだが・・・」
「安心しなさい、私ぐらいじゃないと気が付かないレベルだったから・・・でもその様子じゃ、私にも言えないって感じ?」
ジッと見つめてくる瑞希に、泉水はバツが悪そうに視線を逸らし、しばらく押し黙った。
やがて消え入りそうな声で泉水は答えた。
「今は言えない」
「親友の私にも?」
「ああ、俺の・・・俺たちの親友である瑞希だからこそ言えない」
「・・・そう、別にいいけど」
「ごめん・・・」
「謝らないでよ・・・
じゃあ、私も何も気づいてないふりするから、言いたくなったらいつでも言って」
「ああ・・・分かった」
【キーンコーンカーンコーン・・・】
泉水が答えると同時に、呼鈴のチャイムが鳴り響く、それを聞いた瑞希はニヒルに笑いながら言った。
「その時は『そんなしょうもないことで悩んでたの?』って思いっきりバカにしてやるわ」
泉水を気遣っての精一杯の茶目っ気だったのだろう。瑞希は背を向けて自分の席へ戻って行く。
その後ろ姿を見ながら泉水はポツリと言った。
「言えねぇよ・・・泉美の余命が6ヶ月もないなんて」
瑞希が自分の席に戻ると、女子生徒たちが名残惜しそうに、泉美の周りから離れていく途中だった。
彼女たちを避けながら、瑞希は席に座ると机の上に教科書とノートを出した。
「ねぇ、次の授業は何かな?」
席に座った瑞希に、隣の席から声が聞こえてくる、もちろん泉美である。
「数学よ」
「数学かぁ~、数学苦手なんだよねぇ~」
愚痴をこぼしながら泉美は鞄からノートと筆箱を取り出した。
そして、さも当たり前のように机を瑞希の机にくっつけた。
「・・・何しているの?」
「教科書無いから、教科書見せて♪」
ジト目で睨んでくる瑞希に、泉美は笑顔で言った。
そんな彼女に瑞希は小さくため息をつくと小声で言った。
「あっちの世界で使った教科書あるんじゃないの?」
「ほとんどないよ」
「何で!?」
「引っ越したわけじゃないもん、鞄に入ってた少しの教科書とノートとか筆箱くらいしか使える物なかったんだよ。
だからしばらくは教科書見せて♪」
満面の笑みでお願いしてくる泉美に、瑞希は深いため息をついて机の真ん中に教科書を広げた。
時間は少しだけ戻る。
時はマリアが朝礼を終え、教壇を降り始めた時。
「水輝さん!皆倉さんと親友ってどういうこと!!」
女子生徒の驚きを含んだ声が、マリアの耳にも届いていた。
声のする方へ視線を向けると、そこには女子生徒が群がっており、質問されたであろう彼女の姿はもはや見えなかった。
そんな様子に、マリアは少し呆れながら教室を出た。
「マリア先生、おはようございます」
「はい、おはようございます」
教室を出てすぐに足早に歩きながら挨拶をしてくる女子生徒とすれ違った。
同じように歩いて行く生徒たち、移動教室へ行く同じクラスメイトなのだろう、彼らは口々にあいさつをしてマリアとすれ違って行く。
そんな生徒たちに笑顔であいさつをしながら、マリアは職員室の方へと歩みを進めた。
笑みを湛えながら、生徒たちにあいさつをして歩くマリア。
だが・・・すれ違う生徒たちが居なくなった途端
マリアの顔から笑顔が消えた。
周りに誰もいないことを確認すると、マリアは立ち止まりスーツのポケットからスマホを取り出した。
そして、素早く操作すると耳に当てた。
【プルルル・・・プルルル・・・】
電話の呼び出し音が、マリアの耳に響く。
しばらくして、呼出音が【プツッ】と途切れた。
それを確認した瞬間、マリアは食い気味に話し始めた。
「M2・・・最悪で最善の予想が当たったわ・・・・・」
「あの子を見つけた」
≪人物紹介≫
クラス担任で演劇部顧問
「神野原 マリア」その③
イズミ達のクラスの担任で、演劇部の顧問。
学園祭で演じる演劇の台本を書いて周囲を驚かせた、金髪に青い瞳のハーフの女性。
だが、彼女には周囲の知らない裏の顔があるらしい。
謎の存在M2と連絡を取り、泉美の何かを知っているような言動をしていた。
彼女が何者なのか、イズミ達にとっての敵なのか、味方なのか、今は何も分からない・・・
≪登場用語説明≫
泉美が通うことになるクラス
分類:学校
泉美が転校生として高校に通うにあたり、色々と裏工作をしてくれた、水輝家当主の竜水だったが、徹底して根回しをしたようで泉美が通うクラス決めにまで口を出したらしく、泉水と瑞希が通う、二年B組を指定したらしい。
このことはイズミ達には伝えておらず、当日泉美はもちろん泉水や、瑞希も心底驚いてしまった。
水輝 蛍 その②
分類:偽名
泉美は高校に通うにあたり、お爺様である竜水から名乗るように言われた、水輝 蛍のプロフィールを入念に決めていた。
両親と3人暮らしをしていたが、両親の仕事の関係で海外へ行く話が持ち上がる。
だが、蛍は日本に残る意志が強く、両親は水輝家の本家に相談し、蛍は水輝家の本家でお世話になることになる。
ところが、その話を聞いた本家の娘のアゲハが、蛍を預かりたいと申し出る。
幼いころから顔なじみで、自分の子供のようにかわいがっていた蛍を是非ともお世話したいという願いからだった。
本家当主と、蛍の両親はそれを了解し、蛍はアゲハの嫁いだ春野家に同居することになった。
ちなみに、春野家の長男、泉水やお隣の瑞希とは幼いころから顔なじみで、親友と呼べる仲である。
という大部分の虚偽とほんの少しの真実が入り混じったプロフィールを作成、転校生として通う桜門高校に伝えている。
M2
分類:不明
イズミ達の担任のマリアが、秘密裏に連絡を取った相手。
その名前が施設名なのか、組織名なのか、コードネームなのか、一切不明。
このM2という存在がイズミ達にとって、敵になる存在なのか、味方になる存在なのか、現在のところ一切が不明。




