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9枚目・告げられた事実③

小説の構成順番を直すために投稿し直しました。

2024年7月15日

服を着た猫

「待たせたな」


居間の扉を開けて、ミルクパウダーの入った瓶と、スティックシュガーを挿したコップ、そしてスプーン5本を入れたコップを持った博士が入ってくる。

その後ろからコーヒーが注がれたカップを載せたトレーを、慎重な足運びで歩きながら泉水が入ってきた。


「わー、コーヒーの良い匂い!」


大樹が歓声を上げる中、泉水がコーヒーを配っていく。


「・・・泉美は?」

「お手洗いに行ってるよ」


泉水の問いに答える大樹の言葉を聞き、博士は眉をひそめた。


「トイレだって!?ここのトイレは書類の山で埋まってて使えないぞ」

「えっ?そうなの?

じゃあ、いつもトイレはどうしてるの?」

「隣のコンビニのトイレを使ってる。

蛍もトイレが使えないって分かって、トイレ探しに行ったとしたら、オレと同じようにコンビニに駆け込んでいると思うが・・・」

「どのタイミングでお手洗いに行ったんだ?」

「お兄ちゃんたちがコーヒーを淹れに出てすぐだよ」


泉水の問いに、三本目のシュガースティックを注ぎながら鈴蘭が答える。

そして、シュガースティックを入れ終わると、今度はミルクパウダーの瓶を持ち、考え込みながらスプーンに山盛りのミルクパウダーをすくいながら言った。


「うーん・・・お兄ちゃんたちがコーヒーを入れてきてくれる間に戻ってくると思ってたんだけど、ちょっと遅すぎるよね?」

「うーん・・・もしかして便―――・・・何でもない」


なにか言いかけた大樹だったが、ジト目で睨みつける鈴蘭の視線に慌てて口をつぐむ。


「もしかしたらお弁当買ってるのかも、お昼過ぎててお腹すいてるし」

「それはないんじゃない?研究所だけど人の家だし、買ってくるとしてもお菓子くらいだと思うよ?

お姉ちゃんのことだから、兄ちゃんと同じでチョコ―――」

【ガチャ】


大樹の言葉を遮るように今の扉が開く音がした。

そして入ってきたのは・・・手に袋一杯にお菓子を持った泉美だった。


「お待たせ~・・・お手洗いに行ったついでにお菓子選んでたら時間がかかっちゃって・・・えっ?何?みんな黙っちゃって?」


笑顔で入ってきた泉美に、大樹と鈴蘭は目を丸くして、博士は苦笑いを浮かべ、泉水は小さくため息をついた。


「買いすぎ・・・チョコか?」

「えっ?ああ・・・うん!ポテチもあるよ!

チョコも見たことないのがあって思わず買っちゃった♡」


そう言うと泉美はテーブルの中央にお菓子をぶちまけ、その中の一つをつかんだ。


「ほらこれ!ラスクにチョコを染み込ませた【チョコ染み染みチョコラスク チョコ150%増】

凄くない!!

150だよ150!!思わず二度見しちゃったよ!!」


むんずとつかんだチョコ菓子の袋を顔の前に差し出してくる泉美に、泉水は淡々と答えた。


「そりゃ良かったな。

ほら、座れよ。せっかくのコーヒーが冷めちまう」

「そうだね。

ああ・・・コーヒーいい匂い♪

じゃ、さっそくいただくね!」


チョコ菓子の袋を広げながら、泉美は笑顔で椅子に座り、菓子をテーブルに置くとコーヒーカップを掴んだ。その様子を見ながら泉水も彼女の隣に座った。


「うわー!美味しい!!豆の品種は何ですか?」

「モカだ、フルーティな酸味が好きなんでな。嫌いなヤツもいるが口にあってよかった」

「美味しいけど、僕はちょっと酸味が苦手かな」


泉美とは反対に顔をしかめる大樹はミルクパウダーをスプーンですくい入れ、クルクルと混ぜた。


「うーん・・・あたしは酸味とかよく分かんないなぁ」

「そりゃ、あれだけ砂糖とミルク入れれば、酸味なんぞ分かんないだろうよ」

「だって、あたしコーヒー苦手なんだもん」


呆れ声の博士に不満そうに答えると、鈴蘭はチョコレートラスクを口に放り込んだ。


「ん!?これおいひい!!」

「でしょー!!っていうか、口に入れすぎだよ。ラスクだから硬いだろうし、少しずつ食べないと・・・」

「ほーひ」


楽しそうな泉美達のやり取りを横目に、泉水はラスクをかじり、コーヒーを飲んだ。


「ねぇ泉水、美味しい?」

「ああ・・・チョコラスクもコーヒーも美味しい。この組み合わせいいな」


微笑む泉水を見て、泉美は嬉しそうに言った。


「だよねぇ~」


笑顔で言う泉美に微笑むと、泉水はコーヒーを飲んだ。


(分かんねぇ・・・味なんて、分かんねぇよ・・・)


砂糖もミルクも入れないブラックコーヒーの苦みも、大好きなチョコレート菓子の甘い味も、罪悪感に包まれた泉水には何も感じられなかった。




その後、コーヒーを飲み終わったイズミ達は博士に別れを告げた。


「それじゃあ博士、何か進捗あったら連絡してくださいね」

「ああ、しばらく報告するようなことはないと思うが、いい報告があればすぐにしてやる」


博士のぶっきらぼうな答えを聞くと、泉美は微笑み後ろを向いて階段に向かった。

泉美を追って大樹と鈴蘭が背中を向けたことを確認すると、博士はささやくような小声で言った。


「勘づかれるなよ」

「ああ」


博士の言葉に泉水も小声で答える。

2人の会話は耳をそばだてないと聞こえないようなレベルで、案の定先を行く3人には聞こえてはいないようだった。

そして、泉水も何食わぬ顔で3人の後を追った。




雑居ビルを出た4人は当初の予定通り、食事をとるために駅前のファミレスに入店することにした。


「コーヒーとお菓子食べたけど、さすがにそれだけじゃお腹満足しないよぉ~・・・あたしドリアにしよっと!」


鈴蘭はメニュー表を勢いよく閉じながら宣言すると、泉水の方を見た。


「お兄ちゃんは?」

「ん?・・・考え中」

「ふ~ん?」


パラパラとメニュー表をめくりながら、覇気(はき)無く答える泉水に鈴蘭は少し首を傾げた。


「(なんか上の空に見えるけど・・・気のせいかな?)

大樹君は?何食べる?」

「僕はミートソーススパゲティにする。

お姉ちゃんはどうする?」

「私はサンドイッチ」


早々にメニュー表を閉じていた泉美は大樹にそう答えると、隣に座った泉水の方を見た。


「まだ決まらない?みんな決まったよ?」

「あ?ああ・・・じゃあ俺もサンドイッチにするかな」

「OK、じゃあボタン押すね」


ボックス席の奥に座っていた泉美が代表して呼び出しボタンを押した。そんな泉美の斜め向かいに座る鈴蘭は何か言いたそうに泉水を睨みつけていた。


「蛍さんと同じサンドイッチ頼むとか、仲が良いんだね・・・」

「ん?・・・ハァー、そんなんじゃねぇよ」


ため息と共に泉水は鈴蘭の言葉を軽くあしらった。


「たまたま、たまたまだよ。博士のとこでコーヒーとお菓子食いすぎて、食欲ないだけだ」

「ふ~ん・・・」


泉水の言葉に鈴蘭は渋々といった様子で納得した。


しばらくして頼んだ料理が運ばれてくる。

最初にサンドイッチが運ばれてきて、次にスパゲティ、最後にドリアが運ばれてきて4人は料理が揃ったところで食事を始めた。


「ん~♡

やっぱりドリア美味しー♡」

「ミートソーススパゲティも美味しいよ。お腹すいてたから余計においしいのかも」

「だねぇ~、さすが評判のチェーン店なだけあるよ。特に評判のドリア、やっぱり選んでよかったー♡」

「本当にスズさんは美味しそうに食べるねぇ~。このサンドイッチもトマトが新鮮でおいしいけど」


楽しそうに食事をする3人を横目に、泉水はサンドイッチをほおばった。


(やっぱり味なんて・・・・・俺に出来る事・・・泉美のために俺に出来る事・・・)


楽しそうに笑いながらサンドイッチをほおばる泉美を横目でチラッと見ながら、泉水はサンドイッチを水で流し込んだ。


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